【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい

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──もしかして、今、わたくし……。

 セーリーヌは布団を鼻先まで引き上げた。

 やだ……。心臓がドキドキしている。

 顔が火照っているのがわかる。

 でも、それを止める方法がわからなかった。

 アドニス侯爵がセーリーヌの部屋を出て行った後、入れ替わるように今度は侍女が入ってきた。

 彼女はベッドサイドに水差しとグラスを置くと、水を注ぎ足してくれた。

 そして、再び部屋を出て行くのかと思いきや、じっとこちらを見つめている。

 その視線を不思議に思ったセーリーヌは声をかけた。

「どうかしたの?」

 侍女は少し迷ったような素振りを見せた後、意を決したように口を開いた。

「アドニス様は以前から侯爵家のお嬢様方に大変人気がありました」

 唐突にそんなことを言われてセーリーヌは面食らった。

 しかし、侍女は構わず続ける。

「ですが、どのような方にも素っ気ない態度を変えず、まったく興味がおありではないようでした」


──それは初耳だわ……。


 確かに彼は女性に大層人気があるとは、殿下から聞いたことはある。

 貴族令嬢との噂もいくつかあったはずだ。

 しかし、どんな美女でもあっさりと袖にしていたという。

「なのに、今日のアドニス様はどうされました? お嬢様のドレスを贈ったり、頭を撫で撫でしたり……」

 セーリーヌはカッと頬が熱くなるのを感じた。

「なぜ、それを?」
 
「……少し、ドアが開いていたものですから。心配もあり、ちょっと見えてまして……」

 侍女は肩をすくめて、苦笑している。

 セーリーヌは恥ずかしくて、咄嗟に言い訳が口をついて出た。

「ご、誤解ですわ。頭ナデナデは子ども扱いされているだけです! それに……本当はわたくしにドレスを贈った訳でもないでしょう……」

「え?」

 侍女は首を傾げたが、セーリーヌはかまわずに言葉を続けた。

「彼は特別な想いなどではなくて、礼儀としてお見舞いにドレスを差し入れてくださっただけよ。このドレスだって他の御令嬢のお古に違いないわ! 恋とか愛とかそんな感情ではないの。ただの慰めなだけ…
…傷物になった私を憐れんだだけよ」

 セーリーヌがそう言うと、侍女は困ったように眉尻を下げた。

「でも、あのリボンはどう見たって特注ではないですか……ドレスだって新品では?」

「わたくしとアドニス様は子供の頃に出会って遊んだことはあるけど、成人してからはほとんど会話なんてしてないわ。ある意味、初対面だったのよ? そんなわたくしがあんなに大切に扱われるなんておかしいわよ。きっと殿下に見舞いを命じられたのね! 違うなら、エリザベータ様に頼まれたのかの、どちらかだわ!」

 セーリーヌは早口でそう言った。
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