【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい

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──これは一体なに!? このシチュエーションはなんなのかしら!? 

 アドニス侯爵がなぜ自分の頭を撫でているのかわからず、セーリーヌは戸惑いを隠せなかった。

 まるで小さな子供をあやすような仕草だ。

 しかし、彼はけっして子供扱いしているわけではない。

 その証拠に、その瞳にはなんとも言えない切実さが漂っている。

「わたしがあの場にいながら、あなたを危険な目に遭わせてしまい、申し訳ないことをした」

「え……」

「そんな姿を他の者に見られるのはいやだろうと思ってな」

 そう言って彼はセーリーヌの背中から、大きなリボンがあしらわれたドレスを優しく撫でた。

 その仕草に思わず肩が跳ねる。

 しかし、その触れられているところが温かいことに気が付いた。

 それがセーレーヌの体に残った熱なのか、それともアドニス侯爵が与えてくれる温もりなのかはわからなかったが、とても心地よかった。

「……いえ、ありがとうございました」

 セーリーヌは目を伏せた。

 そして、その恥ずかしさを隠すように質問した。

「なぜ、このようなことをしてくださったのですか?」

 アドニス侯爵の黒い瞳がセーリーヌをじっと見つめる。

 彼はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「きみを励ましたかった」

 それはあまりにもストレートな言葉だった。

 セーリーヌは思わずドキリとした。そして、一瞬遅れてそれが自分が言った言葉に対する返事なのだと気が付いた。


──こんなとき、どんな顔をすればいいのかしら。


 セーリーヌは戸惑った。

 とにかくなにか言わなければならない気がして、口が勝手に動く。

「あなたのやさしさに感謝していますわ」

 セーリーヌの言葉に、アドニス侯爵は軽く頷いた。

 そして、またゆっくりと頭を撫でてくれる。

 それがとても心地よかったが、同時にとても恥ずかしくて居たたまれなくなったセーリーヌは話題を変えようと口を開いた。

「……そういえば殿下とエリザベータ様はお元気でしょうか?」

 突然エリザベータの名前を出したことに驚いたのか、アドニス侯爵は少しだけ眉を動かした。

 そして、なにかを思案するようにしばらく黙ったが、やがて口を開いた。

「ああ、お二人とも元気だ。準備ができ次第、式を挙げるとのことだ。数ヶ月後ぐらいだろう」
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