【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい

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 セーリーヌはこの貴族の世界に、殿下の隣に立つためだけに送り込まれた。

 まだ十歳だったあの時、周りの大人から口酸っぱく言われたことは『必ず王妃の座を手に入れろ』ということだった。

 毎日毎日、朝から晩まで、厳しいレッスンの数々。わけも分からないまま毎日を過ごし、十一歳のときに初めてお仕事で用事があった養父
 ──アーマンド伯爵に王宮に連れてこられた。
 
 その後はことあるたびに王宮に連れていかれた。

 王宮に訪れる頻度が高ければ、王太子殿下に会える可能性が上がる。

 でもセリーヌは慣れない宮廷で友達もいないので、ついついホームシックで泣いてしまった。そんなセーリーヌに声を掛けてくれたのは近衛騎士団長の息子のアドニスだった。

 あの頃は、アドニスが(その絶対に射止めなければならない)殿下のおそば近くに仕えるペイジだとは、セーリーヌは想像すらしていなかった。

 ただ、辛くて、生まれ育った家が恋しくて、寂しくて、泣いているときに声を掛けてくれた男の子。それだけだった。


「どうしたの? 悲しいの?」

 王宮の庭園の陰で泣いていたセーリーヌにおずおずと話しかけてきた男の子は、セーリーヌが返事をしないのを見て首をかしげた。

 それから、その大きな手で優しく頭を撫でてくれる。するとなぜか、とても安心できるのだ。

「──ねえ、僕と話でもしようか。少しは気が紛れると思うよ」

 差し出された小さな手にすがりたいと思うほど、セーリーヌは弱っていた。

「……うん」

 セーリーヌの花冠作りになど全く興味がなかったはずなのに、にこにこしながら付き合ってくれた。

「ぼくは王太子様のおそばに仕えるお役目をしていんだ。悪い人からお守りしたりするんだよ。でも、ほとんどはお話し相手だけど」

「ふうん……」

「ねえ。僕、よくここにいるからまた寂しくなったらおいでよ。王太子様に教えてもらった、秘密の場所なんだ」

「うん」

 彼が未来の国王陛下をセーリーヌは紹介してくれて、3人は無邪気に遊んだ。


☆■▽☆■▽


 数ヶ月経過したころだった。

 アーマンド伯爵はセーリーヌが殿下といつの間にか仲良くなっていたことを、とても喜んだ。

 よくやったと屋敷に戻ってからもしきりに褒められた。

 しっかりと勉強して殿下の隣に立つのだと、ただそれだけを言われ続けた。

 それからは辛い王妃候補の教育も、文句一つ言わずにしっかりとこなした。

 頑張ってお勉強もしたし、礼儀作法も完璧だ。初めて会う人は、だれもセーリーヌが田舎の農家の娘だなんて想像しないだろう。

 しかし、セーリーヌは与えられた使命に失敗してしまった。

 きっと、最初から無理だったのだ。

 元は田舎の農家の娘なのに、王妃様になれだなんて、無理がある。
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