【R18】自称作家の無職ですが、なんとか生き延びています

朝日みらい

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文学の少女はいつも胸の中にいます

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彼女は時折、声を詰まらせながらも、かすかに笑みをこぼす。
しばらく楓の気持ちが落ち着いてから、
「何しろ、今日は帰ったら」と、圭吾は楓の肩を軽く押しながら、立ちあがった。
駅のロータリー方面に行こうとすると、
楓は急にくるりと足の向きを変えた。
「どうしたの」
圭吾はとまどいながら、足早に歩き出した楓の背中を追いかける。
「圭吾の書いてる弁当屋さんのモデルに なった人を見てみたくて。ついでに」
「でも、見たって、仕方ないだろ」
「だったら、わたしの家に来て」
圭吾は一瞬とまどったが、楓の執拗な誘いに根負けした。
「分かったよ」
「ありがとう」
二人はロータリーを抜けて、高架の駅へ向かう階段を上がり、改札口を抜けた。
東京方面への乗客は、まだ空いている。
午後五時をまわるころには、車窓はすっかりと闇に包まれ、家々の光が走馬灯のように走り抜けていった。
座席は埋まっており、ふたりは降車ドアとの間の中間あたりに並んで立っていた。
「降りるから」
乗車する客と逆行するように、楓は圭吾の腕をつかむと、ごった返す中継駅で下車した。
そのまま、他線に乗り換えて二駅で下車した駅は、周囲を緑の木立が並ぶ戸建ての密集した高級住宅地エリアである。
銀杏並木の目抜き通りを数分歩いた先に、五階建ての新築マンションがあった。
エントランスの電子鍵に、楓は慣れない手つきで暗証番号を入力した。
カチリと、シリンダーの起動でドアが開き、三階までエレベーターに乗車する。
楓は、沈鬱な表情で押し黙ったままだ。
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