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文才のない、無職です
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まだ一月初めだというのに、東京に綿雪が舞っていた。
さえないオーバーコートを着た二十代半ばの男が肩をすぼめながら、駅の改札を抜けて、歩道橋を降りていく。
名前は川北圭吾という。自称、小説家であるが、印税はごくわずかで飯が食えたためしがない。
二年前にウェブで投稿していたライトノベルの新人文学賞で佳作に入賞して、電子書籍になった。
印税は月に二万円程度であったのだが、
(俺には才能がある)
と圭吾は過信して、翌月早々には勤め先の予備校の講師を辞めていた。
退路を断ち、小説家で食っていくと腹を決めて執筆に勤しむとしたものの、むろん現実はそう甘くない。
そもそも、彼は性分怠け者である。
朝は昼過ぎに起き出し、食事は近所の弁当屋の三百六十円で昼、夜二食を買いだめしている。
食後はあっさりと眠気に負けていまい、一、二時間は昼寝をして、さあ、書き始めようと卓上のパソコンに向かうのは、夕方四時を回った頃である。
八時頃には腹が減ってきて、残りの弁当を食べ、またふらふらと布団に入る。
そして一日が終わる。
それでも、一ヶ月に五十枚の原稿を仕上げて編集部に郵送していたが、いつも回答に半年以上かかるうえに、その講評もかんばしいものではなかった。
あの佳作だけでは読者数が伸びず印税は減り続け、貯金も現在残り五万円しかない。
とうとう、圭吾は書きためた原稿をショルダーバッグに押し込み、電子書籍を出してくれた神田駅近くの出版社の編集部に、アポなしで乗り込んだ。
だが、漫画の持ち込みならともかく、原稿を持っていったとして、編集部が受け取るはずはなかった。
彼は窓口の警備員に制止され、そのまま路上に突き出されたのだった。
さえないオーバーコートを着た二十代半ばの男が肩をすぼめながら、駅の改札を抜けて、歩道橋を降りていく。
名前は川北圭吾という。自称、小説家であるが、印税はごくわずかで飯が食えたためしがない。
二年前にウェブで投稿していたライトノベルの新人文学賞で佳作に入賞して、電子書籍になった。
印税は月に二万円程度であったのだが、
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と圭吾は過信して、翌月早々には勤め先の予備校の講師を辞めていた。
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そもそも、彼は性分怠け者である。
朝は昼過ぎに起き出し、食事は近所の弁当屋の三百六十円で昼、夜二食を買いだめしている。
食後はあっさりと眠気に負けていまい、一、二時間は昼寝をして、さあ、書き始めようと卓上のパソコンに向かうのは、夕方四時を回った頃である。
八時頃には腹が減ってきて、残りの弁当を食べ、またふらふらと布団に入る。
そして一日が終わる。
それでも、一ヶ月に五十枚の原稿を仕上げて編集部に郵送していたが、いつも回答に半年以上かかるうえに、その講評もかんばしいものではなかった。
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だが、漫画の持ち込みならともかく、原稿を持っていったとして、編集部が受け取るはずはなかった。
彼は窓口の警備員に制止され、そのまま路上に突き出されたのだった。
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