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「ホールデン男爵の令嬢リリアーヌ、前に立ちなさい」
ここは窓もない、うす暗いザトビア国王直轄の裁判所です。わたしは、中央の証言台に向かい、最後の判決を受けます。
「被告人は秋の王立絵画展覧会で、王家の象徴であるタカを、あろうことかペットのインコの顔にして絵画展に出品した。それは国家の威信を汚した。その罪は重い。よって、流刑に処する。以上だ」
(そんな、めちゃくちゃな……)
法廷内は、シーンと静まりかえりました。傍聴席のお父上はうつむいてしまい、お母上は泣きじゃくるばかりです。
ふたりの刑務官がわたしの両脇をおさえこみ、独房へと連行しようとします。
わたしはありったけの声で、
「……判事様! やっぱり、ちょ、ちょっとお待ちください。わたくしはただペットの小鳥を描いただけなんです。さらさら、王家を汚すつもりなんて……!」
と懇願しました。
「自白しておいて、いまさら……」
判事の目は冷徹で素知らぬ顔で背中を向けてしまいました。
固いベッド、椅子、トイレだけの狭いうす暗い独房に放りこまれて、わたしは力なく椅子に腰かけました。
粗末な麻布の囚人服に、かた足首には重い鉄のおもりをはめられて、歩くこともままなりません。
(侯爵家のアベル様に気に入られたのが、アドレス子爵の気に障ったのだわ)
18才の新人画家は、ある画廊で侯爵家のアベル様と出会いました。展示していた絵を気に入ってくださり、それから誘われて美術館に出かけたり、スケッチをかねた小旅行にも出かけたのです。
けれど、行動は浅はかでした。アベル様にはすでに有力者で司法長官アドレス子爵家のご令嬢ベアトリス嬢と婚約していたのですから。
秋の国王主催の絵画展に出品した作品を、検事長官のアドレス子爵は『国家侮辱罪』だといわれのない罪で逮捕しました。わたしは拘束されてのち半年、国王直轄の裁判として扱われ、弁護人などつけられませんでした。検察官から一方てきに自白を強要されたあげく、とうとうわたしも根をあげたのです。
(アベル様に近づきすぎたから、娘のベアトリス嬢との婚約破棄を危惧して……)
そうつぶやき、固いベッドに横になると、小さな小窓からのぞく曇り空の虚空をながめていました。
***
「早く起きろ」
3日後のまだ陽も明けない早朝、刑務官にどなり起こされました。手錠をはめられて監獄から馬車に乗せられて港に連れていかれます。
蒸気船内には10数名の男女が甲板に乗せられています。これから、孤島の天然の独房、テシ島までいきます。囚人服を着せられて向かい合わせに座った金髪の青年は、わたしをじっと鋭い眼差しを向けていました。その射貫くような蒼い瞳がだれかに似ているのです。
(あっ……瞳がブルーメインに似てる)
自室の寝室の鳥かごに、いつも帰りを待っている、インコのブルーメイン。わたしの顔を見れば青い羽根をばたつかせます。すぐに「ピーピーピーピー」と鳴いて、可愛い舌先で指腹をなめてくれます。
「ブルー……メイン……」
初対面のはずの青年なのに、わたしは思わず涙ぐみました。涙は枯れはてたはずなのに、痩せこけた体の中にまだ雫が残っていたなんて。
「んっ……」
にじんだ瞳の中でぼやけた青年は少しだけ笑ったように思いました。
見張りの刑務官が一瞬目を離した瞬間、
「こい!」と、青年は立ち上がりわたしを押し倒して、並んで海に落ちたのです。
ここは窓もない、うす暗いザトビア国王直轄の裁判所です。わたしは、中央の証言台に向かい、最後の判決を受けます。
「被告人は秋の王立絵画展覧会で、王家の象徴であるタカを、あろうことかペットのインコの顔にして絵画展に出品した。それは国家の威信を汚した。その罪は重い。よって、流刑に処する。以上だ」
(そんな、めちゃくちゃな……)
法廷内は、シーンと静まりかえりました。傍聴席のお父上はうつむいてしまい、お母上は泣きじゃくるばかりです。
ふたりの刑務官がわたしの両脇をおさえこみ、独房へと連行しようとします。
わたしはありったけの声で、
「……判事様! やっぱり、ちょ、ちょっとお待ちください。わたくしはただペットの小鳥を描いただけなんです。さらさら、王家を汚すつもりなんて……!」
と懇願しました。
「自白しておいて、いまさら……」
判事の目は冷徹で素知らぬ顔で背中を向けてしまいました。
固いベッド、椅子、トイレだけの狭いうす暗い独房に放りこまれて、わたしは力なく椅子に腰かけました。
粗末な麻布の囚人服に、かた足首には重い鉄のおもりをはめられて、歩くこともままなりません。
(侯爵家のアベル様に気に入られたのが、アドレス子爵の気に障ったのだわ)
18才の新人画家は、ある画廊で侯爵家のアベル様と出会いました。展示していた絵を気に入ってくださり、それから誘われて美術館に出かけたり、スケッチをかねた小旅行にも出かけたのです。
けれど、行動は浅はかでした。アベル様にはすでに有力者で司法長官アドレス子爵家のご令嬢ベアトリス嬢と婚約していたのですから。
秋の国王主催の絵画展に出品した作品を、検事長官のアドレス子爵は『国家侮辱罪』だといわれのない罪で逮捕しました。わたしは拘束されてのち半年、国王直轄の裁判として扱われ、弁護人などつけられませんでした。検察官から一方てきに自白を強要されたあげく、とうとうわたしも根をあげたのです。
(アベル様に近づきすぎたから、娘のベアトリス嬢との婚約破棄を危惧して……)
そうつぶやき、固いベッドに横になると、小さな小窓からのぞく曇り空の虚空をながめていました。
***
「早く起きろ」
3日後のまだ陽も明けない早朝、刑務官にどなり起こされました。手錠をはめられて監獄から馬車に乗せられて港に連れていかれます。
蒸気船内には10数名の男女が甲板に乗せられています。これから、孤島の天然の独房、テシ島までいきます。囚人服を着せられて向かい合わせに座った金髪の青年は、わたしをじっと鋭い眼差しを向けていました。その射貫くような蒼い瞳がだれかに似ているのです。
(あっ……瞳がブルーメインに似てる)
自室の寝室の鳥かごに、いつも帰りを待っている、インコのブルーメイン。わたしの顔を見れば青い羽根をばたつかせます。すぐに「ピーピーピーピー」と鳴いて、可愛い舌先で指腹をなめてくれます。
「ブルー……メイン……」
初対面のはずの青年なのに、わたしは思わず涙ぐみました。涙は枯れはてたはずなのに、痩せこけた体の中にまだ雫が残っていたなんて。
「んっ……」
にじんだ瞳の中でぼやけた青年は少しだけ笑ったように思いました。
見張りの刑務官が一瞬目を離した瞬間、
「こい!」と、青年は立ち上がりわたしを押し倒して、並んで海に落ちたのです。
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