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 彼は魔術書のバックナンバーを指差した。

『月刊・魔術書』には魔術師が魔物を討伐する様子や、魔法の儀式、そして、魔法の道具などが紹介されている。

「この本によると、魔力とは生命力であり、身体の中にある命の源のことを指していると書かれています。すべての生き物は魔力を体内に宿しています。あなたのように強い魔力を秘めた人間もいる」

「……はあ……」

 アシェリーは曖昧にうなずいた。

「つまり、王太子様はあなたが気に入ったってことですよね?」

「気に入られるかどうかは別として、あなたの将来には期待しています」

 彼はニコリと笑った。

「アシュリー嬢……ぜひ、私と一緒に王宮の魔術訓練所へ参りませんか? 殿下も今頃、魔術の訓練をしているでしょう」

「えっ? 私は……」

 アシェリーが言いよどむと、彼は彼女の手を取った。

「大丈夫です。魔術の訓練は危険を伴うかもしれませんが、王太子妃になるためには避けて通れぬ道なのです」

(そんな……。私、お妃さまになりたいだけで魔術は趣味みたいなものなんだけど……)

 アシェリーの困惑をよそに彼は魔術訓練所へと彼女を連れて行った。

 そこには王太子もいた。その後、王太子は近衛騎士と向き合い、王太子は属性の炎を、近衛騎士は水の属性で応戦していた。

 普段はおだやかな表情の王太子だが、戦いとなると真剣な表情になった。


 アシェリーは呆然としたままその光景を見ていた。訓練が終わり、王太子が彼女を連れていることに気付くと、驚いた顔をした。

 そして、彼女の方に駆け寄ってきた。

「なぜここに?」

 専属魔術師が前に歩み出て、首を垂れる。

「彼女は魔力を持っています。それに、王太子妃候補に選ばれたのは彼女の家格では恐らく彼女だけです。なので、私がお誘いしたのです」

「そうか……」

 フィリップ殿下はしばらく考えていたが、やがて口を開いた。

「感じてはいたんだ。……アシュリー、きみは魔術をすでに使えるだろう?」

「ああ、はい。でも、クッションに結界を張るくらいですけれど?」

「それこそ、大きな力を秘めている印なんだ」

「えっ? 本当ですか?」

 アシェリーは思わず聞き返した。今言われたことが信じられなかったのだ。

「ああ、本当だとも」

 アシェリーは考え込んだ。

(どうしよう……お妃さまになりたいとは思っていたけれど、魔術で何か役に立つことなんてあったんだ…)

 だが、自分が役に立つ機会は王太子の妃になるより他にないだろう。

「……わかりました」

 彼女は小さくうなずいた。
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