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 アシェリー・へーボンハスは平凡な令嬢である。

 栗色の髪と茶色の瞳。可愛らしい顔立ちだが、取り立てて人目を惹く程ではない。普段は目立たないが、簡単に磨けば光るというわけでもなく、いつも公爵家の令嬢らしくちゃんと着飾っていて普通に可愛い。

  その辺にいる令嬢の内の1人である。

 デーニッツ第一王太子殿下に密かに憧れているが、会ったのは年末の年越し宴会の席であいさつした程度。王太子妃候補になれるぎりぎりの家格だ。

 本人も素敵な王太子殿下との恋を夢見るだけで、自分の立場はキチンと理解している。

 ヘーボンハス家は公爵家の中でも真ん中ぐらい。アシェリーの父のラルフ公爵は、王宮の文部省の公文書管理部門に勤めている。

 アシェリーは一人娘だが、特に引っかかるような魅力もないためか、ラルフ公爵は、彼女に婿を取って爵位を継がせる気もないらしい。子供が欲しいなら養子を取るなり、使用人の中から後継を選ぶなりすればいい。

 ヘーボンハス家はそんな感じだ。

 つまり、王太子妃候補になりたいなどと言えば鼻で笑われるどころか、可哀想な目で見られて終わりだろう。そもそも殿下に興味を持ってもらえなければお話にならないのだから。

 昨日、国王の使者から、公文書が届き、侍女がアシェリーの部屋に持参した。来週、デーニッツ王太子との『次期王太子妃の婚約選考会』を実施するそうだ。

「お妃さまなんてムリよねぇ」

 アシェリーは自室のソファーに身を投げ出して、クッションを抱きしめた。

「そんなことございませんよう」

 侍女は建前上言っているが、口調は上ずっている。

「そりゃあ、王太子殿下に憧れはあるわよ? 素敵だもの。でも、それだけでなれるものじゃないわ」

 ヘーボンハス家は公爵位を持つ貴族だ。公爵家の令嬢達が王太子妃候補として集められたのだから、家格的には申し分ないのかもしれないが、家柄や才能だけで選ばれるわけではないだろう。

「私なんて特に取り柄ないんだもの」

 だがしかし、アシェリーにはどうしても王太子妃になりたい理由があった。

「だって、お妃になれば王宮にずっといられるじゃない! お城の図書室にある本を読み放題よ!」

 アシェリーは拳を握りしめて力説した。その目は真剣だった。
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