上 下
24 / 32

(24)

しおりを挟む
 アガーネン卿はウィリアムの姿を見るなり鼻で笑った。

「本当に実力で騎士団長になったのかという話です」

と馬鹿にしたように言ってくる。

「……」

 ウィリアムは、何も言わずに黙っている。

 そんな様子を見て、アガーネン卿は嘲笑うように言った。

「まあ、せいぜい頑張ることです。だが、見殺しにした罪は消えないですがね」

と言い残しその場を去ろうとする。

「待て」

 ウィリアムは彼を呼び止めた。

 そして厳しい表情で言った。

「あなたは、エドナに何を吹き込んだ?」

 その言葉を聞いてアガーネン卿は立ち止まり、振り返って言った。

「それは直接婚約者に確認すればいいだけではないかな?」

 そしてそのまま立ち去って行った。

 残された二人は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 それからしばらくして、ようやく我に返ったウィリアムが言った。

「すまない、嫌な思いをさせた」

と謝る彼にエドナは首を振る。

「大丈夫ですよ。あんな言い方、宰相様が悪いのです」

と笑顔で答える彼女だったが、内心では不安を感じていた。

 そんなことを考えているうちに、馬車へと戻ってきた二人であった。

 そして屋敷へと戻る途中で、彼女は思い切って尋ねてみる。

「あの……そのまま見殺しにしたというお話は本当なのですか」

「君はどう思う?」

「私ですか……」

 エドナは言葉に詰まってしまった。

 正直言って信じたくないという気持ちがある。

 だが、もし本当だったらと思うと怖い。

(もし本当だと言われたらどうしよう……)

と不安になる。

 そんな時だった。

 ウィリアムは優しく微笑むと言った。

「見殺しにしたと言われても、仕方のないことだ」

「えっ……!」

と驚きの声を上げる彼女に向かって彼は言葉を続けた。

「だから、君と結婚する資格は俺にはない。だから、婚約は解消にしよう」

 エドナは一瞬頭が真っ白になった。

(何を言っているの?)

という気持ちで一杯になる。

「どうして? 私のこと、お嫌いになったんですか?」

と涙を浮かべて尋ねてくる彼女に、ウィリアムは首を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑 side story

岡暁舟
恋愛
本編に登場する主人公マリアの婚約相手、王子スミスの物語。スミス視点で生い立ちから描いていきます。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...