【完結】伯爵令嬢はハンサム公爵の騎士団長に恋をする

朝日みらい

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「アガーネン卿は俺の上司でもあるし、文官として一流だよ」

とウィリアムは言う。

「だが彼とは前々から反りが合わなくてね……。軍人と文官とは思想が違うのだろう」

 ウィリアムが苦笑しながら言う。

 彼の話によると、アガーネン宰相は国王の信望も厚いだけでなく外交能力も優れ、隣国の有力者とも知り合いが多いらしい。

「シリウス子爵の侵攻を、アガーネン卿はできるだけ両国の紛争にならないように穏便に済ませようとしている。だが、あれだけ我が国の領地を荒らし、隊長はじめ仲間たちの半数を死なせておきながら、なぜもっと厳しい対応をしないのだろう…。おれには全く理解できない」

 ウィリアムの表情が、怒りに染まり始めていた。

(ウィリアム様、大丈夫ですよ)

 心の中でそう囁いた後、彼女はそっと彼に近づいてその手を握った。

 すると彼は安心したように微笑むと口を開く。

「すまない。そんなつまらない話はよそう。今夜はもう遅い。よかったら、今晩は都近くのおれの私邸に泊まっていかないか?」

と尋ねられたので、

「はい」とエドナは頷いた。

 彼と一緒にいられることが嬉しかった。


 馬車は、都から少し離れた場所にある屋敷へと到着した。

 ここはウィリアムの実家のようだ。

 家族はいないが、使用人たちが住み込みで働いている。

 いかにも公爵家の屋敷といった感じで豪華絢爛だった。

 エドナは圧倒されつつも中に入る。

「さあ、こちらへおいで」

 ウィリアムが優しく手を引いてくれるので、彼女は素直についていくことにした。

(ウィリアム様と一緒なら怖くないわ)

 心の中で自分に言い聞かせながら……。

 客間に入るとソファに座るよう促される。

 エドナが座ると、彼も隣に腰掛けてきた。

 距離が近いことが嬉しい反面、緊張してしまう。

 鼓動が速くなっていることに気づいたのだろうか?

 ウィリアムは彼女を見つめながら微笑んでいる。

(この人は私のことをどう思っているんだろう?)

 エドナは心の中で疑問を抱いた。

 だが、直接聞く勇気はなかった。

(私はこの人のことが好き……それだけは間違いない。だけど、それで満足できるの?)

 ウィリアムが何を求めているのか、それが分からないことが不安になる。

 エドナは、自分の気持ちを上手く伝えることができないのが悲しかった。
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