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「ありがとうございます」

 エドナはお礼を言って頭を下げる。

 すると彼はふと思い出したかのように言った。

「そういえば、エドナ嬢は好きな男性はいないのか?」

(えっ?!)

 まるで不意打ちのような質問だった。

 心臓が口から飛び出しそうなほど鼓動しているのがわかる。

 同時に顔が熱くなり始めた。

(もしかしてバレてるの?)

 自分の恋心を見透かされているような気がした。

(まさか……そんなわけないわよね)

 きっと彼は単に世間話のつもりなのだろう。

 だから平静を装って返事をすることにした。

「いえ……おりませんわ」

(嘘だけど)

「そうか……。だが、誰か気になる男性はいないか? 例えば、騎士団の奴でもいいんだが……」

(もしかしてウィリアム様はわたしに恋して欲しいのかしら?)

 そんなはずはないと思いながらも、淡い期待を抱いてしまう自分がいる。

 それでもエドナは自分の気持ちを悟られないように、精一杯冷静を装って言った。

「いえ、特には……」

(本当はいます。あなただけど……)

 そう心の中で付け加えた。

 ウィリアムは何か言いたそうな様子だったが、それ以上は何も追及しなかった。

「それならいいのだが」

 彼はそれだけ言うと立ち上がった。

 そろそろ帰る時間らしい。

「今日はここまでにするか……」

(もう終わり…なのね)

 もう少し一緒にいたかった気もするが、仕方がないだろうと思い直すことにした。


☆☆☆☆


 それから数日後のこと、いつものように野営地へ行くとウィリアムの姿を見つけた。

 しかし、なんだか様子がおかしいような気がする。

 ぼんやりとしていて心ここにあらずといった感じだ。

(どうしたんだろう……)

 心配になって声をかけると、彼はハッとした様子でこちらを見た。

「エドナか……」

(やっぱりおかしいわ……)

 いつもと明らかに様子が違う。

 何かあったのだろうか。

 エドナは不安になったが、彼は何も言わなかった。

 しばらく沈黙が続いたあと、口を開いたのは彼の方だった。

「実は1週間後に、騎士団長就任の祝いがある。王宮の国王主催の夜会に招かれているのだ。宮廷で行われる華やかな舞踏会などには苦手でね。慣れていない。できれば、パートナーとして同行してもらえないだろうか?」
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