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観念して出ていくしかないと思い立って茂みからそっと出ていくと、エドナは彼の前に立った。
まだ心臓がばくばくと音を立てている。
彼に見つめられると顔から火が出そうだ。
「申し訳ありませんでした!」
エドナは謝るしかなかった。
しかし、彼は無表情のままじっとこちらを見ているだけである。
(わたし……あの青年騎士さんみたいに怒られてしまうかしら?)
彼は何も言わずにこちらを見ているので不安になる。
すると、突然彼が口を開いた。
「きみは、どこの者だ?」
「わたし…ホーランド伯爵家が娘、エドナ・ホーランドと申します」
まさか自分の名前を聞かれるとは思っていなかったので驚いたが、正直に答えた。
「元騎士団長のホーランド伯爵閣下のご令嬢が、こんなところで何している?」
「はい……実は騎士団の訓練を見学していたのです」
「君は令嬢ではないのか? なぜそんな格好を?」
(やっぱり聞かれたっ……!)
エドナはごくりとつばを飲み込む。
「じ、実はわたし乗馬が好きなのです。そのせいか、普段から動きやすい服装が好きでして……」
(ああ……これはどう考えてもわたし、確実に変わった娘と思われた)
噓が苦手なので、自分でもそう思ったものの、素直に白状した。
ウィリアムは意外にも表情は変わらず、それ以上は追及しなかった。
「そうか」
「はい……」
(よかった……)
ほっと胸をなでおろすと、ウィリアムは再び口を開いた。
「ところで、エドナ嬢。どうもきみはその格好からすると、剣術などにも興味がありそうだな? よければ、私が指南するが?」
「本当ですか? ぜひよろしくお願いいたしますわ!」
(やった!)
まさか彼から直接指導してもらえるなんて夢のようだ。
(ああ……なんて幸運な日なんでしょう!)
こうして、エドナは騎士団長直々に剣術の手ほどきをしてもらえることになったのである。
その日から毎日、エドナはウィリアムが訓練をしている野営地へ通うようになった。
彼は忙しいにもかかわらず時間を作ってくれた。
「エドナ嬢は筋がいいな。お父上の血筋かもしれないな」
ある日の訓練後、ウィリアムは感心したように言った。
彼の教え方が上手かったということもあるのだろうが、剣術に関しては素人であるはずなのにどんどん上達していった。
(ちがうわ、ウィリアム様の教え方が上手だからよ)
そう言いたかったが、恥ずかしくて口には出せなかった。
まだ心臓がばくばくと音を立てている。
彼に見つめられると顔から火が出そうだ。
「申し訳ありませんでした!」
エドナは謝るしかなかった。
しかし、彼は無表情のままじっとこちらを見ているだけである。
(わたし……あの青年騎士さんみたいに怒られてしまうかしら?)
彼は何も言わずにこちらを見ているので不安になる。
すると、突然彼が口を開いた。
「きみは、どこの者だ?」
「わたし…ホーランド伯爵家が娘、エドナ・ホーランドと申します」
まさか自分の名前を聞かれるとは思っていなかったので驚いたが、正直に答えた。
「元騎士団長のホーランド伯爵閣下のご令嬢が、こんなところで何している?」
「はい……実は騎士団の訓練を見学していたのです」
「君は令嬢ではないのか? なぜそんな格好を?」
(やっぱり聞かれたっ……!)
エドナはごくりとつばを飲み込む。
「じ、実はわたし乗馬が好きなのです。そのせいか、普段から動きやすい服装が好きでして……」
(ああ……これはどう考えてもわたし、確実に変わった娘と思われた)
噓が苦手なので、自分でもそう思ったものの、素直に白状した。
ウィリアムは意外にも表情は変わらず、それ以上は追及しなかった。
「そうか」
「はい……」
(よかった……)
ほっと胸をなでおろすと、ウィリアムは再び口を開いた。
「ところで、エドナ嬢。どうもきみはその格好からすると、剣術などにも興味がありそうだな? よければ、私が指南するが?」
「本当ですか? ぜひよろしくお願いいたしますわ!」
(やった!)
まさか彼から直接指導してもらえるなんて夢のようだ。
(ああ……なんて幸運な日なんでしょう!)
こうして、エドナは騎士団長直々に剣術の手ほどきをしてもらえることになったのである。
その日から毎日、エドナはウィリアムが訓練をしている野営地へ通うようになった。
彼は忙しいにもかかわらず時間を作ってくれた。
「エドナ嬢は筋がいいな。お父上の血筋かもしれないな」
ある日の訓練後、ウィリアムは感心したように言った。
彼の教え方が上手かったということもあるのだろうが、剣術に関しては素人であるはずなのにどんどん上達していった。
(ちがうわ、ウィリアム様の教え方が上手だからよ)
そう言いたかったが、恥ずかしくて口には出せなかった。
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