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特別編
月乃さん視点・征士くん視点
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● 月乃さん視点
月が美しい晩に、友達を家に招いてパーティをした。
たくさんの友達を呼んだので、張り切って料理を作り、おめかしした。
「月も綺麗だけれど、月乃ちゃんも綺麗ね」
玲子ちゃんの褒め言葉に、ちょっと照れてしまう。
「ありがとう。玲子ちゃんも可愛いわ」
「そうだね。玲子ちゃんも可愛いけど、月乃ちゃんも可愛いよ」
弥生さんまで褒めてくれた。嬉しくなって私は笑う。
「ありがとうございます。弥生さんも素敵ですよ」
珍しく、若竹くんまで感嘆したように私を眺めてきた。
「いや、今日の虹川の格好は、月と似合っていていいと思うぜ」
今日の服装は、月に合わせて月色ワンピースだ。若竹くんまで褒めてくれるとは思いもしなかった。
そんな風に賑やかに過ごしていると、不意に征士くんが私を引っ張って部屋の外まで連れ出した。ベランダで月を見上げる。
「今日の月乃さんは、月に映えて一段と美しいと思いますが……」
『かつ見れどうとくもあるかな月影のいたらぬ里もあらじと思へば』
(月を美しいと賞美する一方で、うとましいところもありますね。月の光が照らさない里などないのですから)
征士くんが口にした歌に、笑ってしまった。
私を月の美しさにたとえているのだろうか。私には、皆を魅了する月の魔力などはない。
「私はあんなに美しいお月様じゃないわ。私が照らすのは、征士くんだけよ」
私は美しくないけれど、照らすのは愛する征士くんだけだ。
月色ワンピースが風に舞う。そんなワンピースごと征士くんは私を抱きしめ、キスをした。
「月乃さんの輝きは、僕だけのものです」
「あら、私だってそう思っているわよ。征士くんの美しさは私だけのものよ」
誰もいないベランダで、もう一度キスを交わした。
♦ ♦ ♦
● 征士くん視点
僕は、月乃さんの長い黒髪を指に巻きつけた。
何度見ても触っても、美しい長い黒髪。かぐや姫のようだ。
かぐや姫から『竹取物語』のあらすじを思い出す。
「少し月乃さんは、かぐや姫に似ていましたね……」
どんなに迫られても決して誰とも恋愛をしなかったかぐや姫。
あらすじを思い返すと、男達に無理難題を吹っかけていたなあと笑ってしまう。
「かぐや姫……? 似ているかしら」
「そうですね。僕を試していた感じです」
五人の公達に宝物を持ってきて、と頼んだかぐや姫は、男達に自分を諦めようとさせる気持ちだったのだろうが、試しているようにも感じられる。
「でも結局、僕の奥さんになってくれたから、月乃さんはかぐや姫ではないです」
かぐや姫に似ているようで似ていない月乃さん。
もう一度髪に触れる。さらさらの長い髪。
「かぐや姫は、帝のお召しにも応じなかったわね」
「そうですね、頑なでしたね。月の住人だったからでしょうか」
熱烈な公達や帝にも靡かなかったかぐや姫は、月に帰ってしまった。
「天の羽衣を着て全てを忘れてしまったかぐや姫は、思うと少し悲しい人ですね」
地球に未練はなかったのだろうか。月の世界の人のことは、僕にはわからない。
「月乃さんは、僕を忘れて離れていかないでくださいね。何だか月へ行ってしまいそうです」
切実に僕を置き去りにしないで欲しい。月乃さんは笑った。
「忘れるはずないわよ。離れてもいかないわ。ずっと征士くんと一緒よ」
僕の頭を撫でてくれる。
優しい月乃さんが愛しくなり、長い黒髪を手に取り口付けた。
月が美しい晩に、友達を家に招いてパーティをした。
たくさんの友達を呼んだので、張り切って料理を作り、おめかしした。
「月も綺麗だけれど、月乃ちゃんも綺麗ね」
玲子ちゃんの褒め言葉に、ちょっと照れてしまう。
「ありがとう。玲子ちゃんも可愛いわ」
「そうだね。玲子ちゃんも可愛いけど、月乃ちゃんも可愛いよ」
弥生さんまで褒めてくれた。嬉しくなって私は笑う。
「ありがとうございます。弥生さんも素敵ですよ」
珍しく、若竹くんまで感嘆したように私を眺めてきた。
「いや、今日の虹川の格好は、月と似合っていていいと思うぜ」
今日の服装は、月に合わせて月色ワンピースだ。若竹くんまで褒めてくれるとは思いもしなかった。
そんな風に賑やかに過ごしていると、不意に征士くんが私を引っ張って部屋の外まで連れ出した。ベランダで月を見上げる。
「今日の月乃さんは、月に映えて一段と美しいと思いますが……」
『かつ見れどうとくもあるかな月影のいたらぬ里もあらじと思へば』
(月を美しいと賞美する一方で、うとましいところもありますね。月の光が照らさない里などないのですから)
征士くんが口にした歌に、笑ってしまった。
私を月の美しさにたとえているのだろうか。私には、皆を魅了する月の魔力などはない。
「私はあんなに美しいお月様じゃないわ。私が照らすのは、征士くんだけよ」
私は美しくないけれど、照らすのは愛する征士くんだけだ。
月色ワンピースが風に舞う。そんなワンピースごと征士くんは私を抱きしめ、キスをした。
「月乃さんの輝きは、僕だけのものです」
「あら、私だってそう思っているわよ。征士くんの美しさは私だけのものよ」
誰もいないベランダで、もう一度キスを交わした。
♦ ♦ ♦
● 征士くん視点
僕は、月乃さんの長い黒髪を指に巻きつけた。
何度見ても触っても、美しい長い黒髪。かぐや姫のようだ。
かぐや姫から『竹取物語』のあらすじを思い出す。
「少し月乃さんは、かぐや姫に似ていましたね……」
どんなに迫られても決して誰とも恋愛をしなかったかぐや姫。
あらすじを思い返すと、男達に無理難題を吹っかけていたなあと笑ってしまう。
「かぐや姫……? 似ているかしら」
「そうですね。僕を試していた感じです」
五人の公達に宝物を持ってきて、と頼んだかぐや姫は、男達に自分を諦めようとさせる気持ちだったのだろうが、試しているようにも感じられる。
「でも結局、僕の奥さんになってくれたから、月乃さんはかぐや姫ではないです」
かぐや姫に似ているようで似ていない月乃さん。
もう一度髪に触れる。さらさらの長い髪。
「かぐや姫は、帝のお召しにも応じなかったわね」
「そうですね、頑なでしたね。月の住人だったからでしょうか」
熱烈な公達や帝にも靡かなかったかぐや姫は、月に帰ってしまった。
「天の羽衣を着て全てを忘れてしまったかぐや姫は、思うと少し悲しい人ですね」
地球に未練はなかったのだろうか。月の世界の人のことは、僕にはわからない。
「月乃さんは、僕を忘れて離れていかないでくださいね。何だか月へ行ってしまいそうです」
切実に僕を置き去りにしないで欲しい。月乃さんは笑った。
「忘れるはずないわよ。離れてもいかないわ。ずっと征士くんと一緒よ」
僕の頭を撫でてくれる。
優しい月乃さんが愛しくなり、長い黒髪を手に取り口付けた。
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