予知姫と年下婚約者

チャーコ

文字の大きさ
上 下
113 / 124
特別編

月乃さん視点・征士くん視点

しおりを挟む
● 月乃さん視点

 征士くんが、二枚のチケットを見せた。

「もらいものなんですけど。プラネタリウムのチケットです」
「プラネタリウム?」
「はい。一緒に行きませんか?」

 私はチケットを受け取って見てみた。

「八月の星空……」

 プラネタリウムは学生の頃行ったきりだ。
 チケットがあるならば、行きたい。
 征士くんと二人でプラネタリウムへ出かけた。

「ここの席は、とても良い席ですよ」

 案内の女性が微笑んで説明してくれる。
 どうも特等席のようだ。真正面で堪能出来るらしい。
 リクライニングシートの背もたれを倒し、上を見上げた。

『この投影時間は音楽も流れますので、皆様眠くなるかもしれませんが、周りのご迷惑なので寝息にお気を付けください』

 アナウンスに征士くんと笑う。
 やがて投影が始まり、目にいっぱいの星が飛び込んできた。
 実に立体的で驚いてしまう。以前見たプラネタリウムと大違いだ。

「すごいわね……」

 夏の大三角の素晴らしさに呟いたら、隣の征士くんに手を握られた。

「そうですね。月乃さんが喜んでくれて、僕は嬉しいです」

 私も征士くんの手を握り返す。
 ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』が星座を彩った。

「お客様。申し訳ありませんが、寝息をお控えください」

 案内の女性の囁きが聞こえて思わず振り返ると、若竹くんが眠り込んでいた。

「若竹くん……」

 何という偶然だろう。しかも揺り動かされても全く起きない。征士くんが呆れたように言った。

「このチケット、若竹先輩からもらったんですよね」
「……なるほど」

 投影が終わったら、若竹くんを起こして一緒にお茶でもしようか。
 若竹くんの奥さんが必死に起こそうとしているのを見ながら、そう考えた。

 ♦ ♦ ♦

● 征士くん視点

 学生時代に月乃さんとお化け屋敷に行ったけど、彼女は全然怖がらなかった。
 それを少し不満に思っていた僕は、夏ならではの怪談話を月乃さんにしてみることにした。

「月乃さん、お話を聞いてください」

 部屋を薄暗くして潜めた声で話しかけると、月乃さんは首を傾げた。

「何のお話かしら?」
「ちょっとした怪談話です」

 学生のときに深見に聞いた美苑の怪談を話し始める。

「美苑の男子学生が、幽霊に取り憑かれたのです……」

 低いトーンで語り始めると、月乃さんが息を呑んだのがわかった。
 気を良くして「美苑の怪談話」を続ける。

「……そうして美女の霊に取り憑かれたまま、男子学生は美苑校内で」
「やめて!!」

 話の途中で、月乃さんが大声を上げた。
 驚いて彼女を見ると、涙目になっている。

「怪談話はイヤ……! 美苑が怖くなっちゃうじゃない」

 うるんだ瞳が愛らしい。月乃さんの腰に手を回した。

「そうですか……。やめますけど、いいこと発見しましたね」

 まさか月乃さんが怪談話に弱いとは思わなかった。僕はにやりと笑った。

「また今度、もうちょっと怖くない話をしましょうね」

 月乃さんは僕に縋り付いてくる。

「もう怖い話はしないで!」
「いいえ。そういう訳にはいきません」

 こんな可愛い月乃さんは滅多に見られない。
 次はどんな怪談話をしようか思案しつつ、月乃さんの涙を拭ってあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...