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番外編 Side:虹川夢乃
1 夢占い
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私は非常に困っていた。
断れる理由がない。どうしよう。
「虹川さん……。付き合ってもらえませんか?」
目の前には、隣のクラスの男子生徒。割とイケメンで有名だ。でも……私は、恋愛感情に疎い。誰かを好きになったことがない。
悩んだ末、出まかせを言ってしまった。
「ごめんなさい。他に好きな人がいるので……」
自分で自分に突っ込む。誰? 私の好きな人。
男子生徒がいなくなった後、私は自分の三年C組を見渡してみた。ほとんどの人と目が合った。クラスメイトの男子は、何かを期待するような目で見返してくる。
──唯一人、目の合わなかった男子生徒がいた。というか、真後ろの席の彼は眠っていた。色素の薄い髪の毛のみが見える。
日高楽くん。起きているときは、男の子ながら、ビスクドールのような綺麗な顔立ち。でも彼には、あまり誰も近寄らない。本人も他人との関わりを疎ましがっている。
日高くんには嫌な二つ名がある。『日高厄』くん。どうしてか日高くんには、いつも厄災が降りかかる。火の粉を恐れて、誰も友達になろうとしない。
じっと髪の毛を見つめていると、日高くんがむくりと起き上がった。ぱっちりした、不思議な虹彩の瞳を擦っている。
「……何か用? あんまり俺のこと、見ないでくれる?」
じろじろ見すぎていたせいで、彼を起こしてしまったようだ。彼の色白の顔を眺めて、ふと昨日の夢を思い出した。
「日高くん。今日の帰りは、いつもと違う道を通った方がいいわよ」
「あ?」
昨日視た夢では、日高くんが下校途中で犬に襲われていた。
「何だ、虹川? また、お得意の夢占いか?」
「そうよ、夢占い。信じた方がいいわよ」
「馬鹿馬鹿しい」
日高くんは、また眠ってしまった。
♦ ♦ ♦
また日高くんの夢を視た。今日の夢はテストの採点を間違えられる夢。随分ひどい点数になってしまっている。
登校したら、日高くんが左手の甲にガーゼを貼っていた。
「日高くん。昨日の帰り道は、別の道を通らなかったの?」
彼は日本人離れした、端整な顔をしかめた。
「いちいち、お前の夢占いなんかに従っていられるかよ。いつもの道で犬に襲われたんだ。言っておくが、お前の占いなんか信用していないからな」
私は溜息をついた。日高くんは何故かいつも不幸に見舞われる。助けてあげようと思っても、あまり本人が言うことを聞いてくれない。『日高厄』くん。厄災から守ってあげたいのだけれど。
「ねえ、日高くん。明日返却されるテストの答え合わせは、きちんと確かめた方がいいわよ」
「……また、夢占いか」
「そうよ」
翌日、テストが返ってきた。私は自分の分は放り出して、日高くんのテストの答え合わせを一緒にした。
やっぱりひどい採点間違い。日高くんはテストを持って教師の所へ行った。
「……何だかお前の夢占い、いつも当たっているんだけど」
「そうね。特技」
「虹川夢乃の夢占いか。占い師でもやったら繁盛するんじゃないか?」
「…………」
私はあまり夢の内容を話さない。日高くんにだけ。彼がいつも不幸になるのを見過ごせない。ただの自己満足だって、わかっている。でも、何でだろう。彼にだけは、未来を教えたくなる。
私は美苑大学付属高等部の三年生だ。先だって、姉の虹川知乃が婚約者と結婚し、早々に女の子が生まれた。私はお祖父様に言われた。
「夢乃。お前はもう自由恋愛を楽しんでいい。跡継ぎは生まれたからな。お前が虹川の家を離れて『資質』のない男性を選べば、もし女の子が生まれても予知夢の能力は遺伝しない」
勝手な話だ。私も姉のように婚約者が出来ると思っていた。だから、今まで恋愛なんて考えもしなかった。
虹川家直系女子に伝わる、未来予知が出来る夢──予知夢の能力。ただし、自分の予知は出来ない。出来ていたら、恋愛に悩む必要もなかっただろう。
誰かに言い寄られても、もう断りの文句が見つからない。どうしようか。
♦ ♦ ♦
「虹川さん。やっぱり、付き合ってください!」
隣のクラスの男子生徒に、また告白された。
「だって虹川さん、誰とも付き合っている様子がないし。虹川さんだったら誰でもよりどりみどりでしょう?」
自分で自慢したくないが、父親譲りの美形なのは自覚している。父は私が高等部三年になっても、美貌が色褪せない。
再び困っていると、日高くんが通りかかった。私は日高くんを見て、つい言ってしまった。
「ごめんなさい。私……、あそこにいる日高くんが好きなんです」
隣のクラスの男子も、日高くんも、唖然としていた。
♦ ♦ ♦
「虹川。断るにしても、何も俺をダシにすることないだろ」
教室で日高くんが抗議してきた。
「ごめんってば。他に思い浮かばなかったんだもの」
「それにしたって……。もう、クラス中の評判になっているぞ。美少女・虹川夢乃が日高厄に片思いってな」
確かにクラス中から視線を感じる。
「ごめんなさい、日高くん。お詫びにまた夢占いしてあげるから」
「そう言って、俺をいいように利用するだけだろ」
日高くんは迷惑そうに首を振った。
断れる理由がない。どうしよう。
「虹川さん……。付き合ってもらえませんか?」
目の前には、隣のクラスの男子生徒。割とイケメンで有名だ。でも……私は、恋愛感情に疎い。誰かを好きになったことがない。
悩んだ末、出まかせを言ってしまった。
「ごめんなさい。他に好きな人がいるので……」
自分で自分に突っ込む。誰? 私の好きな人。
男子生徒がいなくなった後、私は自分の三年C組を見渡してみた。ほとんどの人と目が合った。クラスメイトの男子は、何かを期待するような目で見返してくる。
──唯一人、目の合わなかった男子生徒がいた。というか、真後ろの席の彼は眠っていた。色素の薄い髪の毛のみが見える。
日高楽くん。起きているときは、男の子ながら、ビスクドールのような綺麗な顔立ち。でも彼には、あまり誰も近寄らない。本人も他人との関わりを疎ましがっている。
日高くんには嫌な二つ名がある。『日高厄』くん。どうしてか日高くんには、いつも厄災が降りかかる。火の粉を恐れて、誰も友達になろうとしない。
じっと髪の毛を見つめていると、日高くんがむくりと起き上がった。ぱっちりした、不思議な虹彩の瞳を擦っている。
「……何か用? あんまり俺のこと、見ないでくれる?」
じろじろ見すぎていたせいで、彼を起こしてしまったようだ。彼の色白の顔を眺めて、ふと昨日の夢を思い出した。
「日高くん。今日の帰りは、いつもと違う道を通った方がいいわよ」
「あ?」
昨日視た夢では、日高くんが下校途中で犬に襲われていた。
「何だ、虹川? また、お得意の夢占いか?」
「そうよ、夢占い。信じた方がいいわよ」
「馬鹿馬鹿しい」
日高くんは、また眠ってしまった。
♦ ♦ ♦
また日高くんの夢を視た。今日の夢はテストの採点を間違えられる夢。随分ひどい点数になってしまっている。
登校したら、日高くんが左手の甲にガーゼを貼っていた。
「日高くん。昨日の帰り道は、別の道を通らなかったの?」
彼は日本人離れした、端整な顔をしかめた。
「いちいち、お前の夢占いなんかに従っていられるかよ。いつもの道で犬に襲われたんだ。言っておくが、お前の占いなんか信用していないからな」
私は溜息をついた。日高くんは何故かいつも不幸に見舞われる。助けてあげようと思っても、あまり本人が言うことを聞いてくれない。『日高厄』くん。厄災から守ってあげたいのだけれど。
「ねえ、日高くん。明日返却されるテストの答え合わせは、きちんと確かめた方がいいわよ」
「……また、夢占いか」
「そうよ」
翌日、テストが返ってきた。私は自分の分は放り出して、日高くんのテストの答え合わせを一緒にした。
やっぱりひどい採点間違い。日高くんはテストを持って教師の所へ行った。
「……何だかお前の夢占い、いつも当たっているんだけど」
「そうね。特技」
「虹川夢乃の夢占いか。占い師でもやったら繁盛するんじゃないか?」
「…………」
私はあまり夢の内容を話さない。日高くんにだけ。彼がいつも不幸になるのを見過ごせない。ただの自己満足だって、わかっている。でも、何でだろう。彼にだけは、未来を教えたくなる。
私は美苑大学付属高等部の三年生だ。先だって、姉の虹川知乃が婚約者と結婚し、早々に女の子が生まれた。私はお祖父様に言われた。
「夢乃。お前はもう自由恋愛を楽しんでいい。跡継ぎは生まれたからな。お前が虹川の家を離れて『資質』のない男性を選べば、もし女の子が生まれても予知夢の能力は遺伝しない」
勝手な話だ。私も姉のように婚約者が出来ると思っていた。だから、今まで恋愛なんて考えもしなかった。
虹川家直系女子に伝わる、未来予知が出来る夢──予知夢の能力。ただし、自分の予知は出来ない。出来ていたら、恋愛に悩む必要もなかっただろう。
誰かに言い寄られても、もう断りの文句が見つからない。どうしようか。
♦ ♦ ♦
「虹川さん。やっぱり、付き合ってください!」
隣のクラスの男子生徒に、また告白された。
「だって虹川さん、誰とも付き合っている様子がないし。虹川さんだったら誰でもよりどりみどりでしょう?」
自分で自慢したくないが、父親譲りの美形なのは自覚している。父は私が高等部三年になっても、美貌が色褪せない。
再び困っていると、日高くんが通りかかった。私は日高くんを見て、つい言ってしまった。
「ごめんなさい。私……、あそこにいる日高くんが好きなんです」
隣のクラスの男子も、日高くんも、唖然としていた。
♦ ♦ ♦
「虹川。断るにしても、何も俺をダシにすることないだろ」
教室で日高くんが抗議してきた。
「ごめんってば。他に思い浮かばなかったんだもの」
「それにしたって……。もう、クラス中の評判になっているぞ。美少女・虹川夢乃が日高厄に片思いってな」
確かにクラス中から視線を感じる。
「ごめんなさい、日高くん。お詫びにまた夢占いしてあげるから」
「そう言って、俺をいいように利用するだけだろ」
日高くんは迷惑そうに首を振った。
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