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番外編 Side:虹川知乃
最終話 予知姫と王子様
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ストライキを続行してから二か月。
とうとうお祖父様が私に謝ってきた。
「知乃。私が悪かった。予知夢に拘ったあまりにすまないことをした。婚約話を、もう一度本多家へ持っていく。申し訳なかった」
私は飛び上がって喜んだ。
「また、航平くんの婚約者に戻れるんですか? 夢みたい!」
「ああ、弁護士の椎名を本多家へ向かわせる。婚約解消を取り消すように、本多家の皆様に頼んでみよう」
そうして、虹川家顧問弁護士の椎名さんは、航平くんの家へ行った。しばらくしてから帰ってきた。
「お話はまとまりました。虹川知乃さんと本多航平さんは、再び婚約ということで承認いただけました。ご迷惑をおかけしたので、慰謝料はそのまま、本多家の方に収めてもらいました。知乃さん、航平さんは喜んでいましたよ」
椎名さんは穏やかな顔で、そう告げてくれた。
「椎名さん、ありがとうございました! 私も嬉しくて堪らないです」
「いいえ、仕事ですから。それでは、お幸せに」
祝福してくれて、椎名さんは弁護士事務所へ帰っていった。
「お祖父様、ありがとうございます。予知夢の話は皆、するようにします。私も頑張って、新聞や雑誌を読んで、色々な予知をします」
「いや、私も年を取って、あまり人の気持ちが考えられないようになっていたようだ。知乃にも航平くんにも、本当に悪いことをした。この通りだ」
お祖父様は深々と頭を下げた。
「いいえ、また婚約出来たのならば、それでいいのです。昨日の予知夢の話をしましょうか。あのですね……」
こうして私と航平くんはまた婚約者となり、ストライキも解除した。
「ちーちゃん、おめでとう。これでまた婚約出来たわね」
お母様がものすごく綺麗な笑みを浮かべて祝ってくれた。
「お姉様、私も良かったって思うわよ」
「夢ちゃんも頑張ってくれたわよね。ありがとう」
お母様も夢乃も頑張ってくれて、とても優しかった。
また三人で予知夢の話を、お祖父様やお父様にした。
「お祖父様、昨日視た夢はですね、損害保険会社が合併して、今の国内最大手の損害保険会社を押し退けて、最大手になりそうです」
「それは随分有益な予知夢だな。知乃はたくさん勉強しているようだな」
褒められて、私は笑顔になった。
「後はですね、春村先生の新作が、いっぱい重版がかかりそうです!」
「またそれは知乃にとって良い夢だったな。出版会社情報を見てみようか」
♦ ♦ ♦
私は高等部三年になっていた。航平くんは一年生。また一緒の文芸部だ。
「ちーちゃん。このライトノベルの最終巻、いい終わり方だったよ。ただ、主人公の男の子と、ヒロインの子の間が曖昧なままで、それは納得いかなかったんだ」
誰もいない文芸部室。壁一面に並べられた本からインクの香りがする。
「恋愛描写が曖昧なのは嫌ね。恋愛も上手くいったハッピーエンドがいいわ」
春村先生の新作シリーズは、金髪碧眼のお姫様が銀髪の王子様と結ばれた、とてもロマンティックなハッピーエンドだった。
「ちーちゃんは黒髪だけど。俺にとったらあの金髪のお姫様より、ずっとちーちゃんの方が綺麗なお姫様だよ」
航平くんの真新しいブレザーに身を包まれた。
至近距離で見つめ合う。少し吊った、それでも整った瞳。
「そうね。私がお姫様で、航平くんは王子様なの。航平くんは私の素敵な、年下婚約者よ!」
それからインクの香りに包まれて、私達は熱い口付けを交わした。
とうとうお祖父様が私に謝ってきた。
「知乃。私が悪かった。予知夢に拘ったあまりにすまないことをした。婚約話を、もう一度本多家へ持っていく。申し訳なかった」
私は飛び上がって喜んだ。
「また、航平くんの婚約者に戻れるんですか? 夢みたい!」
「ああ、弁護士の椎名を本多家へ向かわせる。婚約解消を取り消すように、本多家の皆様に頼んでみよう」
そうして、虹川家顧問弁護士の椎名さんは、航平くんの家へ行った。しばらくしてから帰ってきた。
「お話はまとまりました。虹川知乃さんと本多航平さんは、再び婚約ということで承認いただけました。ご迷惑をおかけしたので、慰謝料はそのまま、本多家の方に収めてもらいました。知乃さん、航平さんは喜んでいましたよ」
椎名さんは穏やかな顔で、そう告げてくれた。
「椎名さん、ありがとうございました! 私も嬉しくて堪らないです」
「いいえ、仕事ですから。それでは、お幸せに」
祝福してくれて、椎名さんは弁護士事務所へ帰っていった。
「お祖父様、ありがとうございます。予知夢の話は皆、するようにします。私も頑張って、新聞や雑誌を読んで、色々な予知をします」
「いや、私も年を取って、あまり人の気持ちが考えられないようになっていたようだ。知乃にも航平くんにも、本当に悪いことをした。この通りだ」
お祖父様は深々と頭を下げた。
「いいえ、また婚約出来たのならば、それでいいのです。昨日の予知夢の話をしましょうか。あのですね……」
こうして私と航平くんはまた婚約者となり、ストライキも解除した。
「ちーちゃん、おめでとう。これでまた婚約出来たわね」
お母様がものすごく綺麗な笑みを浮かべて祝ってくれた。
「お姉様、私も良かったって思うわよ」
「夢ちゃんも頑張ってくれたわよね。ありがとう」
お母様も夢乃も頑張ってくれて、とても優しかった。
また三人で予知夢の話を、お祖父様やお父様にした。
「お祖父様、昨日視た夢はですね、損害保険会社が合併して、今の国内最大手の損害保険会社を押し退けて、最大手になりそうです」
「それは随分有益な予知夢だな。知乃はたくさん勉強しているようだな」
褒められて、私は笑顔になった。
「後はですね、春村先生の新作が、いっぱい重版がかかりそうです!」
「またそれは知乃にとって良い夢だったな。出版会社情報を見てみようか」
♦ ♦ ♦
私は高等部三年になっていた。航平くんは一年生。また一緒の文芸部だ。
「ちーちゃん。このライトノベルの最終巻、いい終わり方だったよ。ただ、主人公の男の子と、ヒロインの子の間が曖昧なままで、それは納得いかなかったんだ」
誰もいない文芸部室。壁一面に並べられた本からインクの香りがする。
「恋愛描写が曖昧なのは嫌ね。恋愛も上手くいったハッピーエンドがいいわ」
春村先生の新作シリーズは、金髪碧眼のお姫様が銀髪の王子様と結ばれた、とてもロマンティックなハッピーエンドだった。
「ちーちゃんは黒髪だけど。俺にとったらあの金髪のお姫様より、ずっとちーちゃんの方が綺麗なお姫様だよ」
航平くんの真新しいブレザーに身を包まれた。
至近距離で見つめ合う。少し吊った、それでも整った瞳。
「そうね。私がお姫様で、航平くんは王子様なの。航平くんは私の素敵な、年下婚約者よ!」
それからインクの香りに包まれて、私達は熱い口付けを交わした。
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