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番外編 Side:瀬戸征士
14 『虹川征士』計画
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次の日から早速『虹川征士』計画を実行した。
まず真っ先に、志野谷へ謝った。引っぱたいてごめん、怒ってごめんと謝罪し、仲直りした。
「虹川先輩の、為だし」
全て、月乃さんの為だ。志野谷も謝ってきた。僕と月乃さんのことを応援してくれるらしい。もともと根は素直で、クラスメイトとして好意は持っていた。
志野谷はあんなことをしたけど、応援してくれる気持ちは嬉しい。また仲良くしようと約束した。
今まで気が狂いそうになって、話をしてなかったクラスメイト達にも説明した。
「虹川先輩が僕のこと『大嫌い』と言ったのを撤回してくれて、友達になってくれたんだ。すごく素敵で優しいんだ。友達からまた婚約者を目指そうと思っている」
生活態度や授業態度も、念入りに気を付けた。周囲にも気を配ったし、特に女子には優しくした。
放課後になると真っ先に、月乃さんの大学のテニスサークルへ行った。
前に若竹先輩が、僕にテニスで勝てなかったのを悔しがっていた。また試合してくれと言われていた。若竹先輩の気持ちを利用してみることにした。
「虹川先輩の仲良しの友達のよしみで、テニスサークルへ混ぜてください。僕、また若竹先輩と試合したいです」
若竹先輩の気持ちをつついてみると、あっさりOKしてくれた。これで、月曜、水曜、金曜のサークルの日は月乃さんに会える。僕は笑顔で月乃さんへ言った。
「仲良くしてくださいね、虹川先輩」
次は、虹川会長へ話を持ちかけた。
「虹川先輩の仲良しの友達として、もう一度経営学を教えてください。前に教わったとき、とても興味深かったので、よろしければ何卒お願いします」
勉強を褒められたことがある。それに婿入りしたら、経営についての教養は必須だ。頼んでみると、呆気ない程簡単に色よい返事がもらえた。僕は帰宅した月乃さんへ笑いかけた。
「虹川先輩、僕先輩の家へ来ますけれど、時間の合った折には、お友達として仲良くしてくださいね」
こうして無理矢理月乃さんへ関わりを持ち、一緒にテニスをしたり、折々におしゃべりしたりした。
「ねえ、虹川先輩」
「何? 瀬戸くん」
「ふふ。呼んでみただけです」
なあにそれ、と月乃さんに呆れられてしまった。
「ちょっと言ってみただけです。虹川先輩、何の勉強しているんですか?」
「んーとね。『徒然草』の吉田兼好の恋愛観についての、玲子ちゃんの論文を読んでいるの。障害なく結婚するのは、味気ないそうよ」
「それは少し物申したいですね。障害なく結婚するのが一番だと思います」
♦ ♦ ♦
夏休みも色々頑張ってみた。
月乃さんが苦手だという英語の勉強に付き合って、英文を読んで聞かせた。
でも、月乃さんは何故か顔を赤く染めて、あまりよく聞いていないようだった。
僕の英語の発音、そんなに下手だったかな? あまり役立てなくて残念だ。
テニスも熱心に教えた。
月乃さんが苦手なバックハンドの打ち方を、丁寧に解説してみた。
だけど結果として、月乃さんがバックハンドで打ち返したテニスボールは、明後日の方向へ行ってしまった。
僕の教え方が上手じゃなかったかな? また役立てなかった。
テニスサークルの夏合宿もくっついていった。
突然、月乃さんの後輩の一年生の先輩に、好きだから付き合ってと告白された。
僕は驚いたけれど、当然断った。年上は嫌? と訊かれたので首を振った。むしろ、年上の月乃さんのことが大好きだ。
♦ ♦ ♦
秋の文化祭のクラスでの出し物を決めていると、いきなり志野谷が執事喫茶をやりたいと提案してきた。
執事の格好なんて、何だか恥ずかしい。
戸惑っていると、志野谷は笑いながら言った。
「虹川さん呼んだら、格好良いところ見せられるよ」
月乃さんが僕のこと格好良いと言ってくれるなら。
僕は月乃さんの『専属執事』になった。
僕はついでに皆に宣言した。
「僕、来年のバレンタインは、虹川先輩以外、誰からもチョコレートもらわないから。文化祭実行委員会でも、高等部の実行委員に言っておいて」
月乃さん以外からは一生もらわない。おせんべいなんて、とんでもない。チョコが少ないお菓子もごめんだ。
いくら月乃さんが女子に優しく、と言っても、ここだけは譲れなかった。
文化祭に月乃さんを誘ってみると、神田先輩と一緒に来てくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お嬢様の専属執事の瀬戸です」
僕が教わった通りの台詞を言うと、月乃さんは褒めてくれた。
「綺麗ね……。見違えちゃった。すごく格好良いわよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
『見違えちゃった』! 僕のことを見直してくれた。志野谷の発案に乗って良かった。
何だかやたらと女性客に僕の写真を撮られたけれど、やった甲斐があった。
♦ ♦ ♦
冬の開校記念日前。月乃さんがあしかが大好きだと言っていたので、前に調べたあしかが触れる水族館へ誘ってみた。
あしか好きな月乃さんならば、このデート紛いの誘いを断らないだろう。
「い、行く……。講義は休む!」
「はい。ではその日は、一日空けてくださいね。約束ですよ?」
思惑通りだ。高等部の開校記念の日に、月乃さんは大学の講義を休んでくれるようだ。あしかで誘ったのが功を奏した。これで二人きりで長旅が出来る。
月乃さんは当日、ウエストラインが括れた、温かそうな可愛い真っ白なジャケットを着てきた。月乃さんは何を着ても可愛い。
行きの新幹線で、前から約束していたブラックジャック勝負をした。
月乃さんは思い切りが悪い。手控えて、21以下にしてしまう。それでも何回も僕に勝負を挑んでくる姿は、子どもっぽくて可愛い。僕は勝負に全勝した。途中で少し可哀想になって、わざと負けようかとも思ったけれど、月乃さんの性格では、それは許さないだろう。何しろ正義感が強い。
水族館であしかを観たり、月乃さんがあしかを触った後、僕達は帰りの新幹線に乗った。月乃さんはあしかに触れてご機嫌だった。
まず真っ先に、志野谷へ謝った。引っぱたいてごめん、怒ってごめんと謝罪し、仲直りした。
「虹川先輩の、為だし」
全て、月乃さんの為だ。志野谷も謝ってきた。僕と月乃さんのことを応援してくれるらしい。もともと根は素直で、クラスメイトとして好意は持っていた。
志野谷はあんなことをしたけど、応援してくれる気持ちは嬉しい。また仲良くしようと約束した。
今まで気が狂いそうになって、話をしてなかったクラスメイト達にも説明した。
「虹川先輩が僕のこと『大嫌い』と言ったのを撤回してくれて、友達になってくれたんだ。すごく素敵で優しいんだ。友達からまた婚約者を目指そうと思っている」
生活態度や授業態度も、念入りに気を付けた。周囲にも気を配ったし、特に女子には優しくした。
放課後になると真っ先に、月乃さんの大学のテニスサークルへ行った。
前に若竹先輩が、僕にテニスで勝てなかったのを悔しがっていた。また試合してくれと言われていた。若竹先輩の気持ちを利用してみることにした。
「虹川先輩の仲良しの友達のよしみで、テニスサークルへ混ぜてください。僕、また若竹先輩と試合したいです」
若竹先輩の気持ちをつついてみると、あっさりOKしてくれた。これで、月曜、水曜、金曜のサークルの日は月乃さんに会える。僕は笑顔で月乃さんへ言った。
「仲良くしてくださいね、虹川先輩」
次は、虹川会長へ話を持ちかけた。
「虹川先輩の仲良しの友達として、もう一度経営学を教えてください。前に教わったとき、とても興味深かったので、よろしければ何卒お願いします」
勉強を褒められたことがある。それに婿入りしたら、経営についての教養は必須だ。頼んでみると、呆気ない程簡単に色よい返事がもらえた。僕は帰宅した月乃さんへ笑いかけた。
「虹川先輩、僕先輩の家へ来ますけれど、時間の合った折には、お友達として仲良くしてくださいね」
こうして無理矢理月乃さんへ関わりを持ち、一緒にテニスをしたり、折々におしゃべりしたりした。
「ねえ、虹川先輩」
「何? 瀬戸くん」
「ふふ。呼んでみただけです」
なあにそれ、と月乃さんに呆れられてしまった。
「ちょっと言ってみただけです。虹川先輩、何の勉強しているんですか?」
「んーとね。『徒然草』の吉田兼好の恋愛観についての、玲子ちゃんの論文を読んでいるの。障害なく結婚するのは、味気ないそうよ」
「それは少し物申したいですね。障害なく結婚するのが一番だと思います」
♦ ♦ ♦
夏休みも色々頑張ってみた。
月乃さんが苦手だという英語の勉強に付き合って、英文を読んで聞かせた。
でも、月乃さんは何故か顔を赤く染めて、あまりよく聞いていないようだった。
僕の英語の発音、そんなに下手だったかな? あまり役立てなくて残念だ。
テニスも熱心に教えた。
月乃さんが苦手なバックハンドの打ち方を、丁寧に解説してみた。
だけど結果として、月乃さんがバックハンドで打ち返したテニスボールは、明後日の方向へ行ってしまった。
僕の教え方が上手じゃなかったかな? また役立てなかった。
テニスサークルの夏合宿もくっついていった。
突然、月乃さんの後輩の一年生の先輩に、好きだから付き合ってと告白された。
僕は驚いたけれど、当然断った。年上は嫌? と訊かれたので首を振った。むしろ、年上の月乃さんのことが大好きだ。
♦ ♦ ♦
秋の文化祭のクラスでの出し物を決めていると、いきなり志野谷が執事喫茶をやりたいと提案してきた。
執事の格好なんて、何だか恥ずかしい。
戸惑っていると、志野谷は笑いながら言った。
「虹川さん呼んだら、格好良いところ見せられるよ」
月乃さんが僕のこと格好良いと言ってくれるなら。
僕は月乃さんの『専属執事』になった。
僕はついでに皆に宣言した。
「僕、来年のバレンタインは、虹川先輩以外、誰からもチョコレートもらわないから。文化祭実行委員会でも、高等部の実行委員に言っておいて」
月乃さん以外からは一生もらわない。おせんべいなんて、とんでもない。チョコが少ないお菓子もごめんだ。
いくら月乃さんが女子に優しく、と言っても、ここだけは譲れなかった。
文化祭に月乃さんを誘ってみると、神田先輩と一緒に来てくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お嬢様の専属執事の瀬戸です」
僕が教わった通りの台詞を言うと、月乃さんは褒めてくれた。
「綺麗ね……。見違えちゃった。すごく格好良いわよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
『見違えちゃった』! 僕のことを見直してくれた。志野谷の発案に乗って良かった。
何だかやたらと女性客に僕の写真を撮られたけれど、やった甲斐があった。
♦ ♦ ♦
冬の開校記念日前。月乃さんがあしかが大好きだと言っていたので、前に調べたあしかが触れる水族館へ誘ってみた。
あしか好きな月乃さんならば、このデート紛いの誘いを断らないだろう。
「い、行く……。講義は休む!」
「はい。ではその日は、一日空けてくださいね。約束ですよ?」
思惑通りだ。高等部の開校記念の日に、月乃さんは大学の講義を休んでくれるようだ。あしかで誘ったのが功を奏した。これで二人きりで長旅が出来る。
月乃さんは当日、ウエストラインが括れた、温かそうな可愛い真っ白なジャケットを着てきた。月乃さんは何を着ても可愛い。
行きの新幹線で、前から約束していたブラックジャック勝負をした。
月乃さんは思い切りが悪い。手控えて、21以下にしてしまう。それでも何回も僕に勝負を挑んでくる姿は、子どもっぽくて可愛い。僕は勝負に全勝した。途中で少し可哀想になって、わざと負けようかとも思ったけれど、月乃さんの性格では、それは許さないだろう。何しろ正義感が強い。
水族館であしかを観たり、月乃さんがあしかを触った後、僕達は帰りの新幹線に乗った。月乃さんはあしかに触れてご機嫌だった。
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