予知姫と年下婚約者

チャーコ

文字の大きさ
上 下
59 / 124
番外編 Side:志野谷依子

7 文化祭の提案

しおりを挟む
 秋の初め。私達は文化祭の出し物について、クラスで話し合っていた。

「何かやりたいことがある人、手を挙げてください」

 クラスの文化祭実行委員がそう言ったので、私は考えてみた。
 考えた末に手を挙げた。

「はい」
「志野谷さん、何がやりたいんですか?」
「執事喫茶、なんてどうでしょうか」

 すると書記としてボードに字を書いていた瀬戸くんが、驚いたように振り返った。

「執事、喫茶?」
「そう。折角瀬戸くん格好良いし、執事の格好したら、きっとお客さんたくさん来てくれると思うんだ」

 女性の間で、執事喫茶が流行っているって時々聞くし、そう考えた。

「多分女のお客さん、いっぱい来るよ」

 そう言うと、瀬戸くんは戸惑った顔をした。

「でも執事の格好なんて、何か恥ずかしいし……」
「絶対似合うって! それに虹川さん呼んだら、格好良いところ見せられるよ」
「虹川先輩を、呼んだら……?」

 虹川さんの名前に、少し心を動かしたようだ。

「虹川先輩、格好良いって、言ってくれるかな……?」
「言うに決まっている! ね、皆もそう思うでしょう?」

 私はクラス中に問いかけた。
 クラスの皆は、瀬戸くんが虹川さんに首ったけなのを知っているので頷いた。

「いい案だと思う」
「瀬戸くんが『お帰りなさいませ、お嬢様』なんて言ったら、お客さん途切れないと、私も思う」
「それに必ず、虹川先輩、瀬戸くんのこと見直すよね」

 クラスメイトが口々に同意した。

「そう、かな……?」

 瀬戸くんはまだ躊躇っているようだ。私はにこにこして言った。

「そうだよ。虹川さんの専属執事さんになればいいじゃない。褒められるよ」

 瀬戸くんは少し黙った後、呟くように言った。

「虹川先輩が、僕を褒めてくれるなら……、やるよ」
「本当!? 絶対褒めてくれるよ。決まりだね!」

 クラスの出し物は、執事喫茶に決まった。
 詳細をボードに書いていた瀬戸くんが、不意に皆の方へ向いた。

「ちょうどいい機会だから、皆に言っておきたいんだ」

 クラスメイト達が、その言葉に首を傾げた。

「僕、来年のバレンタインは、虹川先輩以外、誰からもチョコレートもらわないから。文化祭実行委員会でも、高等部の実行委員に言っておいて」
「…………」

 さすがに全員、唖然とした。

 ♦ ♦ ♦

 文化祭当日は、考えた通り盛況だった。女性のお客さんが、瀬戸くんに群がって写真を撮っている。
 やがて虹川さんが、友達と一緒にやってきた。
 深見くんがそれに気付いて、迎え入れる。当然、すぐに『専属執事さん』を呼びに女性客の中へ入っていった。瀬戸くんはすぐに出てきた。

「お帰りなさいませ、お嬢様。お嬢様の専属執事の瀬戸です」

 瀬戸くんが台詞を言うと、僅かに虹川さんが赤くなった。

「綺麗ね……。見違えちゃった。すごく格好良いわよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」

 やった! 褒めてもらっている。瀬戸くんは嬉しそうだ。
 その後、ガトーショコラを食べている虹川さんに、私と深見くんと山井さんで近寄って、お礼を言った。

「そんな、私はお友達になっただけよ。大したことはしていないわ。全部、瀬戸くんの努力よ」

 謙遜している。優しい虹川さんらしい。私は言った。

「せめて、付き合ってあげてください」

『お友達』ではなくて。いつかまた、婚約者になれるように。

 ♦ ♦ ♦

 冬の開校記念日直後、興奮した顔で、瀬戸くんは私に話しかけてきた。

「志野谷! お前のおかげだよ。執事喫茶やったから、虹川先輩が、僕の写真撮っている女の人にちょっと嫉妬しちゃったって言ってくれたんだ。僕のことを少しずつ、好きになってくれているんだ!」

 私は心から笑った。

「良かったね。おめでとう!」

 その後の学期末試験は、瀬戸くんは学年で一番の成績だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...