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番外編 Side:志野谷依子
7 文化祭の提案
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秋の初め。私達は文化祭の出し物について、クラスで話し合っていた。
「何かやりたいことがある人、手を挙げてください」
クラスの文化祭実行委員がそう言ったので、私は考えてみた。
考えた末に手を挙げた。
「はい」
「志野谷さん、何がやりたいんですか?」
「執事喫茶、なんてどうでしょうか」
すると書記としてボードに字を書いていた瀬戸くんが、驚いたように振り返った。
「執事、喫茶?」
「そう。折角瀬戸くん格好良いし、執事の格好したら、きっとお客さんたくさん来てくれると思うんだ」
女性の間で、執事喫茶が流行っているって時々聞くし、そう考えた。
「多分女のお客さん、いっぱい来るよ」
そう言うと、瀬戸くんは戸惑った顔をした。
「でも執事の格好なんて、何か恥ずかしいし……」
「絶対似合うって! それに虹川さん呼んだら、格好良いところ見せられるよ」
「虹川先輩を、呼んだら……?」
虹川さんの名前に、少し心を動かしたようだ。
「虹川先輩、格好良いって、言ってくれるかな……?」
「言うに決まっている! ね、皆もそう思うでしょう?」
私はクラス中に問いかけた。
クラスの皆は、瀬戸くんが虹川さんに首ったけなのを知っているので頷いた。
「いい案だと思う」
「瀬戸くんが『お帰りなさいませ、お嬢様』なんて言ったら、お客さん途切れないと、私も思う」
「それに必ず、虹川先輩、瀬戸くんのこと見直すよね」
クラスメイトが口々に同意した。
「そう、かな……?」
瀬戸くんはまだ躊躇っているようだ。私はにこにこして言った。
「そうだよ。虹川さんの専属執事さんになればいいじゃない。褒められるよ」
瀬戸くんは少し黙った後、呟くように言った。
「虹川先輩が、僕を褒めてくれるなら……、やるよ」
「本当!? 絶対褒めてくれるよ。決まりだね!」
クラスの出し物は、執事喫茶に決まった。
詳細をボードに書いていた瀬戸くんが、不意に皆の方へ向いた。
「ちょうどいい機会だから、皆に言っておきたいんだ」
クラスメイト達が、その言葉に首を傾げた。
「僕、来年のバレンタインは、虹川先輩以外、誰からもチョコレートもらわないから。文化祭実行委員会でも、高等部の実行委員に言っておいて」
「…………」
さすがに全員、唖然とした。
♦ ♦ ♦
文化祭当日は、考えた通り盛況だった。女性のお客さんが、瀬戸くんに群がって写真を撮っている。
やがて虹川さんが、友達と一緒にやってきた。
深見くんがそれに気付いて、迎え入れる。当然、すぐに『専属執事さん』を呼びに女性客の中へ入っていった。瀬戸くんはすぐに出てきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お嬢様の専属執事の瀬戸です」
瀬戸くんが台詞を言うと、僅かに虹川さんが赤くなった。
「綺麗ね……。見違えちゃった。すごく格好良いわよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
やった! 褒めてもらっている。瀬戸くんは嬉しそうだ。
その後、ガトーショコラを食べている虹川さんに、私と深見くんと山井さんで近寄って、お礼を言った。
「そんな、私はお友達になっただけよ。大したことはしていないわ。全部、瀬戸くんの努力よ」
謙遜している。優しい虹川さんらしい。私は言った。
「せめて、付き合ってあげてください」
『お友達』ではなくて。いつかまた、婚約者になれるように。
♦ ♦ ♦
冬の開校記念日直後、興奮した顔で、瀬戸くんは私に話しかけてきた。
「志野谷! お前のおかげだよ。執事喫茶やったから、虹川先輩が、僕の写真撮っている女の人にちょっと嫉妬しちゃったって言ってくれたんだ。僕のことを少しずつ、好きになってくれているんだ!」
私は心から笑った。
「良かったね。おめでとう!」
その後の学期末試験は、瀬戸くんは学年で一番の成績だった。
「何かやりたいことがある人、手を挙げてください」
クラスの文化祭実行委員がそう言ったので、私は考えてみた。
考えた末に手を挙げた。
「はい」
「志野谷さん、何がやりたいんですか?」
「執事喫茶、なんてどうでしょうか」
すると書記としてボードに字を書いていた瀬戸くんが、驚いたように振り返った。
「執事、喫茶?」
「そう。折角瀬戸くん格好良いし、執事の格好したら、きっとお客さんたくさん来てくれると思うんだ」
女性の間で、執事喫茶が流行っているって時々聞くし、そう考えた。
「多分女のお客さん、いっぱい来るよ」
そう言うと、瀬戸くんは戸惑った顔をした。
「でも執事の格好なんて、何か恥ずかしいし……」
「絶対似合うって! それに虹川さん呼んだら、格好良いところ見せられるよ」
「虹川先輩を、呼んだら……?」
虹川さんの名前に、少し心を動かしたようだ。
「虹川先輩、格好良いって、言ってくれるかな……?」
「言うに決まっている! ね、皆もそう思うでしょう?」
私はクラス中に問いかけた。
クラスの皆は、瀬戸くんが虹川さんに首ったけなのを知っているので頷いた。
「いい案だと思う」
「瀬戸くんが『お帰りなさいませ、お嬢様』なんて言ったら、お客さん途切れないと、私も思う」
「それに必ず、虹川先輩、瀬戸くんのこと見直すよね」
クラスメイトが口々に同意した。
「そう、かな……?」
瀬戸くんはまだ躊躇っているようだ。私はにこにこして言った。
「そうだよ。虹川さんの専属執事さんになればいいじゃない。褒められるよ」
瀬戸くんは少し黙った後、呟くように言った。
「虹川先輩が、僕を褒めてくれるなら……、やるよ」
「本当!? 絶対褒めてくれるよ。決まりだね!」
クラスの出し物は、執事喫茶に決まった。
詳細をボードに書いていた瀬戸くんが、不意に皆の方へ向いた。
「ちょうどいい機会だから、皆に言っておきたいんだ」
クラスメイト達が、その言葉に首を傾げた。
「僕、来年のバレンタインは、虹川先輩以外、誰からもチョコレートもらわないから。文化祭実行委員会でも、高等部の実行委員に言っておいて」
「…………」
さすがに全員、唖然とした。
♦ ♦ ♦
文化祭当日は、考えた通り盛況だった。女性のお客さんが、瀬戸くんに群がって写真を撮っている。
やがて虹川さんが、友達と一緒にやってきた。
深見くんがそれに気付いて、迎え入れる。当然、すぐに『専属執事さん』を呼びに女性客の中へ入っていった。瀬戸くんはすぐに出てきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お嬢様の専属執事の瀬戸です」
瀬戸くんが台詞を言うと、僅かに虹川さんが赤くなった。
「綺麗ね……。見違えちゃった。すごく格好良いわよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
やった! 褒めてもらっている。瀬戸くんは嬉しそうだ。
その後、ガトーショコラを食べている虹川さんに、私と深見くんと山井さんで近寄って、お礼を言った。
「そんな、私はお友達になっただけよ。大したことはしていないわ。全部、瀬戸くんの努力よ」
謙遜している。優しい虹川さんらしい。私は言った。
「せめて、付き合ってあげてください」
『お友達』ではなくて。いつかまた、婚約者になれるように。
♦ ♦ ♦
冬の開校記念日直後、興奮した顔で、瀬戸くんは私に話しかけてきた。
「志野谷! お前のおかげだよ。執事喫茶やったから、虹川先輩が、僕の写真撮っている女の人にちょっと嫉妬しちゃったって言ってくれたんだ。僕のことを少しずつ、好きになってくれているんだ!」
私は心から笑った。
「良かったね。おめでとう!」
その後の学期末試験は、瀬戸くんは学年で一番の成績だった。
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