55 / 124
番外編 Side:志野谷依子
3 企み
しおりを挟む
それから具体的に、瀬戸くんが婚約者と別れる方法を、考えて決め始めた。
まずは瀬戸くんを人目のない場所へ連れて行って、誰かにキスしているみたいに見える写真を撮影してもらう。
その写真をパソコンでプリントアウトして大学の婚約者に届ける。
止めに婚約者に電話をかけて、瀬戸くんと別れてくださいって、お願いしてみよう。写真を見たら、考えてくれる可能性が高いはずだ。
美苑大学付属内の名簿には、初等部から大学までの学生の情報が載っている。婚約者の大学の学部と電話番号は掲載されているだろう。
「ええっと……『虹川月乃』と。……文学部、三年生か」
前に瀬戸くんが私のノートに書いた名前を頼りに、探してみた。
次は写真を撮影してくれる協力者探しだ。
♦ ♦ ♦
「ねえ、山井さん」
私は隣の席でゲームをしている山井さんに、話しかけた。
「ん、ちょっと待って……。何?」
山井さんはゲームを中断して私を見た。
早速声を潜めて、計画を話してみた。
「え……そんなこと、出来ない、よ……」
案の定、弱々しく断られる。でも私は隣の席だから知っている。
「お礼に今度発売されるっていう、有名メーカーの乙女ゲーム買ってあげる。私の家の近くの店で。限定版。店舗特典付き」
「え……」
彼女はいつも、黙々と乙女ゲームをやっている。新作が出るたび買っているようだ。そこをついてみると、僅かに反応が返ってきた。
「限定版……? 店舗特典……?」
反応に気を良くして、更に畳みかける。
「そうだよ。限定版で店舗特典付きで。受けてくれるなら予約もして、予約特典ももらってきてあげるよ」
「……今度の新作は、予約特典、魅力、ある……」
食いついてきた!
「ね、いいでしょ? 私達、友達でしょ? お願い!」
山井さんは、それでも若干躊躇っている。しかし小さな声で言った。
「……メーカー情報が載っている、ゲーム雑誌もいい……?」
「勿論! これで商談成立だね」
♦ ♦ ♦
今度は瀬戸くんに、話を持ちかけた。
「え? 高等部の池へ案内してくれ?」
「うん。明日の昼休みどう? 私、入学してから、綺麗っていう噂の池を見たことがないから」
「まあ……いいけど」
瀬戸くんの優しさに付け込む。ついでにとメモ帳を出した。
「ここに『瀬戸征士』って書いてくれないかな?」
♦ ♦ ♦
計画通り池に案内してもらい、顔を寄せたところを山井さんに撮影してもらった。何枚か連写してあるのを確かめ、一番キスしているように見える写真を選ぶ。
私は家に帰って、写真をプリントアウトした。
次に白い封筒に、瀬戸くんがノートに書いた『虹川月乃』様、と字を真似して宛名を書く。『様』はちょっと自信がないけど、大丈夫だろう。裏には書いてもらった『瀬戸征士』を書き写した。これで瀬戸くんが、婚約者にキスの写真を送り付けた体裁になる。封筒に写真を入れ、更に怨念を込めて、瀬戸くんと婚約者の写真をびりびりに破いて入れた。
♦ ♦ ♦
次の日、金曜日の朝一番。
大学前で、門へ入っていく男子大学生を捕まえた。
「すみません。文学部三年の人に手紙を渡して欲しいんです」
「……俺、国際学部の三年なんだけど」
「お友達とかに頼んで、渡してもらえませんか?」
「まあ……、他の学部に友達いるから、頼んでもいいけどさ」
気のいい人だったらしく、封筒を受け取ってくれた。
念の為に、私は笑顔で言った。
「それ、ラブレターなんです。友達が書いたんですけど、渡すのを躊躇っていて。私が見かねて、黙って持ってきたんです。だからラブレターってことと、私が持ってきたこと、内緒で渡してくださいね。きっと恥ずかしがるから」
嘘八百を並べ立てる。気のいい人はそれを聞くと、笑って頷いた。
「色々内緒なんだな。ラブレターなんて、恥ずかしいもんな」
「そうなんですよ。恥ずかしがりやで。なので、色々秘密でお願いします」
男子大学生は、それなら、と言った。
「そういう事情なら、早目に手紙を渡さなきゃな。出来たら、今日中に渡してみるように努力するよ。……ええと、『虹川月乃』さん宛てね。友達に色々当たってみる。同じ三年なら、見つかると思うよ」
「是非、お願いします! ありがとうございます!」
すごく、ラッキー!
♦ ♦ ♦
放課後、帰り支度をしている瀬戸くんに話しかけた。
「瀬戸くん、あのさ。私、担任の先生に、このプリントをクラス人数分コピーして、それぞれ纏めてくれって頼まれたの。今日中に先生に渡さなきゃいけないんだけど、私急用が入っちゃってさ。瀬戸くんに、お願い出来ないかなあ?」
前々から先生に頼まれていたプリントを押し付ける。
「え……? 僕も、用事があるんだけど」
「そこを何とか! 私、重要な用事なの。お願い!」
両手を合わせて頼み込んだ。瀬戸くんは考え込んだ。
「まあ……女子には優しくしろって言われているし。僕の方の用事は何とかしてみるよ。志野谷は重要な用事なんだろ?」
「うん、とっても重要な用事なの」
「そこまで言うなら……」
瀬戸くんはプリントを受け取ってくれた。帰り支度をやめて携帯を手にする。用事を断ってくれるらしい。
「ありがとう! ごめんね」
プリントは枚数が多いから、多分なかなか終わらないだろう。これで今日は、もし瀬戸くんが婚約者と約束していても会えないはずだ。
私は急いで、婚約者に電話する為に家へ帰った。
まずは瀬戸くんを人目のない場所へ連れて行って、誰かにキスしているみたいに見える写真を撮影してもらう。
その写真をパソコンでプリントアウトして大学の婚約者に届ける。
止めに婚約者に電話をかけて、瀬戸くんと別れてくださいって、お願いしてみよう。写真を見たら、考えてくれる可能性が高いはずだ。
美苑大学付属内の名簿には、初等部から大学までの学生の情報が載っている。婚約者の大学の学部と電話番号は掲載されているだろう。
「ええっと……『虹川月乃』と。……文学部、三年生か」
前に瀬戸くんが私のノートに書いた名前を頼りに、探してみた。
次は写真を撮影してくれる協力者探しだ。
♦ ♦ ♦
「ねえ、山井さん」
私は隣の席でゲームをしている山井さんに、話しかけた。
「ん、ちょっと待って……。何?」
山井さんはゲームを中断して私を見た。
早速声を潜めて、計画を話してみた。
「え……そんなこと、出来ない、よ……」
案の定、弱々しく断られる。でも私は隣の席だから知っている。
「お礼に今度発売されるっていう、有名メーカーの乙女ゲーム買ってあげる。私の家の近くの店で。限定版。店舗特典付き」
「え……」
彼女はいつも、黙々と乙女ゲームをやっている。新作が出るたび買っているようだ。そこをついてみると、僅かに反応が返ってきた。
「限定版……? 店舗特典……?」
反応に気を良くして、更に畳みかける。
「そうだよ。限定版で店舗特典付きで。受けてくれるなら予約もして、予約特典ももらってきてあげるよ」
「……今度の新作は、予約特典、魅力、ある……」
食いついてきた!
「ね、いいでしょ? 私達、友達でしょ? お願い!」
山井さんは、それでも若干躊躇っている。しかし小さな声で言った。
「……メーカー情報が載っている、ゲーム雑誌もいい……?」
「勿論! これで商談成立だね」
♦ ♦ ♦
今度は瀬戸くんに、話を持ちかけた。
「え? 高等部の池へ案内してくれ?」
「うん。明日の昼休みどう? 私、入学してから、綺麗っていう噂の池を見たことがないから」
「まあ……いいけど」
瀬戸くんの優しさに付け込む。ついでにとメモ帳を出した。
「ここに『瀬戸征士』って書いてくれないかな?」
♦ ♦ ♦
計画通り池に案内してもらい、顔を寄せたところを山井さんに撮影してもらった。何枚か連写してあるのを確かめ、一番キスしているように見える写真を選ぶ。
私は家に帰って、写真をプリントアウトした。
次に白い封筒に、瀬戸くんがノートに書いた『虹川月乃』様、と字を真似して宛名を書く。『様』はちょっと自信がないけど、大丈夫だろう。裏には書いてもらった『瀬戸征士』を書き写した。これで瀬戸くんが、婚約者にキスの写真を送り付けた体裁になる。封筒に写真を入れ、更に怨念を込めて、瀬戸くんと婚約者の写真をびりびりに破いて入れた。
♦ ♦ ♦
次の日、金曜日の朝一番。
大学前で、門へ入っていく男子大学生を捕まえた。
「すみません。文学部三年の人に手紙を渡して欲しいんです」
「……俺、国際学部の三年なんだけど」
「お友達とかに頼んで、渡してもらえませんか?」
「まあ……、他の学部に友達いるから、頼んでもいいけどさ」
気のいい人だったらしく、封筒を受け取ってくれた。
念の為に、私は笑顔で言った。
「それ、ラブレターなんです。友達が書いたんですけど、渡すのを躊躇っていて。私が見かねて、黙って持ってきたんです。だからラブレターってことと、私が持ってきたこと、内緒で渡してくださいね。きっと恥ずかしがるから」
嘘八百を並べ立てる。気のいい人はそれを聞くと、笑って頷いた。
「色々内緒なんだな。ラブレターなんて、恥ずかしいもんな」
「そうなんですよ。恥ずかしがりやで。なので、色々秘密でお願いします」
男子大学生は、それなら、と言った。
「そういう事情なら、早目に手紙を渡さなきゃな。出来たら、今日中に渡してみるように努力するよ。……ええと、『虹川月乃』さん宛てね。友達に色々当たってみる。同じ三年なら、見つかると思うよ」
「是非、お願いします! ありがとうございます!」
すごく、ラッキー!
♦ ♦ ♦
放課後、帰り支度をしている瀬戸くんに話しかけた。
「瀬戸くん、あのさ。私、担任の先生に、このプリントをクラス人数分コピーして、それぞれ纏めてくれって頼まれたの。今日中に先生に渡さなきゃいけないんだけど、私急用が入っちゃってさ。瀬戸くんに、お願い出来ないかなあ?」
前々から先生に頼まれていたプリントを押し付ける。
「え……? 僕も、用事があるんだけど」
「そこを何とか! 私、重要な用事なの。お願い!」
両手を合わせて頼み込んだ。瀬戸くんは考え込んだ。
「まあ……女子には優しくしろって言われているし。僕の方の用事は何とかしてみるよ。志野谷は重要な用事なんだろ?」
「うん、とっても重要な用事なの」
「そこまで言うなら……」
瀬戸くんはプリントを受け取ってくれた。帰り支度をやめて携帯を手にする。用事を断ってくれるらしい。
「ありがとう! ごめんね」
プリントは枚数が多いから、多分なかなか終わらないだろう。これで今日は、もし瀬戸くんが婚約者と約束していても会えないはずだ。
私は急いで、婚約者に電話する為に家へ帰った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる