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本編
41 薔薇の花束
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就職活動中、征士くんは私の為に、本当によく力になってくれた。
私の希望通りの、外食企業やレストランを探してきてくれて紹介してくれたり、経営見地から面接のアドバイスをしてくれたりした。
ただ、資料を渡してくれるときに手を触ったり、筆記試験の勉強をしているときに身体をくっつけて問題を一緒に見てきたり……、スキンシップが多かった。その度私は赤面してしまった。
ともあれ征士くんのおかげで早々に正社員の内定をもらった。家から近い、比較的大きな洋食レストランだ。調理も担当するがホールウェイトレスもやるらしい。
征士くんの尽力によるところが大きかったので、内定をもらってすぐメールで報告した。すると征士くんは、内定祝いに私の家へ来るとメールを返してきた。
私が了承すると、しばらくして征士くんは家に来た。私の部屋に来てもらう。彼は制服姿で、お祝いなのか、大きい薔薇の花束を持ってきていた。
「内定、おめでとうございます」
「ありがとう。全部、征士くんのおかげよ」
内定先も彼が探して来てくれたところだ。私は花束を受け取ろうとした。
しかし征士くんは花束を渡してこなかった。どうしたのだろうと思っていると、彼は姿勢を正した。
「虹川月乃さん」
改まって、フルネームで呼びかけられた。
「はい」
私も何事かと、改まって返事をする。征士くんは薔薇の花束を差し出してきた。
「僕と、結婚を前提に付き合ってください」
「!」
私は驚きに身を固めた。
「ずっと、ずっと、好きでした。これからも、月乃さんだけが好きです。どうか、付き合ってください」
征士くんは真摯にそう言って、じっと私を見つめた。私は震える手で、花束を受け取った。
「……はい」
私が小声で答えると、征士くんはその大きく綺麗な瞳を見張った。そして次の瞬間、私に抱きついてきた。
「やったー! 僕、頑張りました。今から僕は、月乃さんの恋人です!」
「こ、こら。そんなに抱きつかないで」
「だって僕、恋人ですもん。抱きついたっていいはずです」
唇を尖らせて、征士くんは言った。確かに彼は恋人だ。私の粘り負けだ。
「まあ、恋人にはなったけれど……」
「こうしてはいられません。きちんと虹川会長にご挨拶しなければ。僕が結婚前提の恋人になりましたって。他の婚約者は探さないでくださいって」
征士くんは薔薇の花束をテーブルに置いて、私を引き摺って父の書斎へ行った。
「そうか。瀬戸くんが……いや、もう征士くんだな。月乃の結婚前提の恋人になったか。また婚約する日も近いな」
「はい。そうなりましたので、月乃さんの他の婚約者は探さないでください」
「そうだな。元々『資質』は征士くんが一番だからな。他を探す理由がない」
父も私と征士くんが相思相愛になったことが嬉しそうだ。大体からして『資質』が一番素晴らしい征士くんだ。反対される謂れがない。
「二人が好き合っているならば、それ以上言うことはない。征士くん、私の後継者として、今まで以上に経営学を学んでくれ」
「わかりました。必ず僕が月乃さんを幸せにします。経営学も、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます」
♦ ♦ ♦
征士くんは、クラスの皆にも私と恋人になったことを言ったらしい。テニスサークルにも来て、わざわざ報告した。
「瀬戸くんの好きな人って、月乃だったの!?」
他のサークルメンバーも驚いたが、玲子ちゃん以外の同期生が一番驚いていた。
「確かに虹川の仲良しの友達のよしみで、サークルへ入れてくれって言っていたもんなあ」
若竹くんは目を真ん丸にしていた。
「確かに、あの石田さんと瀬戸くんとの試合を、間近で月乃は観ていたよね」
「あれを観ていたら、好きになっちゃうよね」
「でも、相手が高等部生かあ~。月乃、やるね!」
玲子ちゃんはころころ可愛らしく笑った。
「良かったね、瀬戸くん。瀬戸くんの粘り勝ちだね。私はずっと応援していたよ」
「はい。神田先輩にはずっとお世話になりました。これからも、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。月乃ちゃんの友達としてお願いします。彼女を大事にしてあげてね」
今日も征士くんは若竹くんと試合をしていた。1ポイントも取らせずに勝った。
「お前、虹川にいいところ見せようって、張り切りすぎ……」
「若竹先輩、もっと強くなってくださいよ。これでは、月乃さんへテニスでアピール出来ません」
「瀬戸、お前、先輩へ向かって何てこと言うんだ……!」
♦ ♦ ♦
「月乃さん、月乃さん」
「なあに、征士くん?」
「僕、月乃さんのことが大好きです」
「あら奇遇ね。私も、征士くんのこと大好きよ」
私の希望通りの、外食企業やレストランを探してきてくれて紹介してくれたり、経営見地から面接のアドバイスをしてくれたりした。
ただ、資料を渡してくれるときに手を触ったり、筆記試験の勉強をしているときに身体をくっつけて問題を一緒に見てきたり……、スキンシップが多かった。その度私は赤面してしまった。
ともあれ征士くんのおかげで早々に正社員の内定をもらった。家から近い、比較的大きな洋食レストランだ。調理も担当するがホールウェイトレスもやるらしい。
征士くんの尽力によるところが大きかったので、内定をもらってすぐメールで報告した。すると征士くんは、内定祝いに私の家へ来るとメールを返してきた。
私が了承すると、しばらくして征士くんは家に来た。私の部屋に来てもらう。彼は制服姿で、お祝いなのか、大きい薔薇の花束を持ってきていた。
「内定、おめでとうございます」
「ありがとう。全部、征士くんのおかげよ」
内定先も彼が探して来てくれたところだ。私は花束を受け取ろうとした。
しかし征士くんは花束を渡してこなかった。どうしたのだろうと思っていると、彼は姿勢を正した。
「虹川月乃さん」
改まって、フルネームで呼びかけられた。
「はい」
私も何事かと、改まって返事をする。征士くんは薔薇の花束を差し出してきた。
「僕と、結婚を前提に付き合ってください」
「!」
私は驚きに身を固めた。
「ずっと、ずっと、好きでした。これからも、月乃さんだけが好きです。どうか、付き合ってください」
征士くんは真摯にそう言って、じっと私を見つめた。私は震える手で、花束を受け取った。
「……はい」
私が小声で答えると、征士くんはその大きく綺麗な瞳を見張った。そして次の瞬間、私に抱きついてきた。
「やったー! 僕、頑張りました。今から僕は、月乃さんの恋人です!」
「こ、こら。そんなに抱きつかないで」
「だって僕、恋人ですもん。抱きついたっていいはずです」
唇を尖らせて、征士くんは言った。確かに彼は恋人だ。私の粘り負けだ。
「まあ、恋人にはなったけれど……」
「こうしてはいられません。きちんと虹川会長にご挨拶しなければ。僕が結婚前提の恋人になりましたって。他の婚約者は探さないでくださいって」
征士くんは薔薇の花束をテーブルに置いて、私を引き摺って父の書斎へ行った。
「そうか。瀬戸くんが……いや、もう征士くんだな。月乃の結婚前提の恋人になったか。また婚約する日も近いな」
「はい。そうなりましたので、月乃さんの他の婚約者は探さないでください」
「そうだな。元々『資質』は征士くんが一番だからな。他を探す理由がない」
父も私と征士くんが相思相愛になったことが嬉しそうだ。大体からして『資質』が一番素晴らしい征士くんだ。反対される謂れがない。
「二人が好き合っているならば、それ以上言うことはない。征士くん、私の後継者として、今まで以上に経営学を学んでくれ」
「わかりました。必ず僕が月乃さんを幸せにします。経営学も、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます」
♦ ♦ ♦
征士くんは、クラスの皆にも私と恋人になったことを言ったらしい。テニスサークルにも来て、わざわざ報告した。
「瀬戸くんの好きな人って、月乃だったの!?」
他のサークルメンバーも驚いたが、玲子ちゃん以外の同期生が一番驚いていた。
「確かに虹川の仲良しの友達のよしみで、サークルへ入れてくれって言っていたもんなあ」
若竹くんは目を真ん丸にしていた。
「確かに、あの石田さんと瀬戸くんとの試合を、間近で月乃は観ていたよね」
「あれを観ていたら、好きになっちゃうよね」
「でも、相手が高等部生かあ~。月乃、やるね!」
玲子ちゃんはころころ可愛らしく笑った。
「良かったね、瀬戸くん。瀬戸くんの粘り勝ちだね。私はずっと応援していたよ」
「はい。神田先輩にはずっとお世話になりました。これからも、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。月乃ちゃんの友達としてお願いします。彼女を大事にしてあげてね」
今日も征士くんは若竹くんと試合をしていた。1ポイントも取らせずに勝った。
「お前、虹川にいいところ見せようって、張り切りすぎ……」
「若竹先輩、もっと強くなってくださいよ。これでは、月乃さんへテニスでアピール出来ません」
「瀬戸、お前、先輩へ向かって何てこと言うんだ……!」
♦ ♦ ♦
「月乃さん、月乃さん」
「なあに、征士くん?」
「僕、月乃さんのことが大好きです」
「あら奇遇ね。私も、征士くんのこと大好きよ」
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