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本編
32 仲良くしましょう
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私は家へ帰ってから、父に征士くんと友達になったことを報告した。自分の気持ちがわかるまで、友達から始めたいと言った。
「充分じゃないか、それで。しばらく婚約者は探さないからな、月乃の好きなようにするといい」
父も納得してくれて、改めて征士くんとは友達として、認めてもらった。
♦ ♦ ♦
月曜に、玲子ちゃんにことのあらましを話した。
「そう……。色々誤解があったのね。でも誤解が解けて、良かったね。それにしても、婚約者からお友達なんて、何かすごいね」
「自分の気持ちがわかるまでは、お友達なの。昔から婚約者と結婚するって思っていたから、私恋愛感情に疎いみたいなのよ。玲子ちゃんと石田さんとのこと、憧れるわ」
「そんな、月乃ちゃんなら、すぐわかると思う……。瀬戸くん、熱心だし」
「あはは。そうかしら」
そんなことを話しながら講義を終え、玲子ちゃんとサークルへ向かった。基本、サークルは、月曜、水曜、金曜の活動だ。
着替えてコートへ行くと、何故か征士くんと若竹くんが話していた。若竹くんは私達に気が付くと、手招きした。
「今、瀬戸が来てな。高等部では部活に入ってないから、虹川の仲良しの友達のよしみで、出来たらサークルに混ぜて欲しいって言うんだよ。俺としちゃ、瀬戸とテニス出来るなら大歓迎なんだけど」
「はい。僕随分テニスから遠ざかっているので、運動不足解消の為に、参加させていただけないかと。前にもまた来てもいいってお誘いしてもらっていましたし、若竹先輩とも是非試合したいですし」
征士くんはそう言って、屈託なく笑った。若竹くんは、征士くんから試合したいと申し込まれ、目を輝かせた。
「瀬戸~! お前と試合出来るなら、いくらだって副部長権限で入れてやる! 部長や部員達には俺から説明するし、道具持ってきているなら、早速俺と試合しようぜ」
「道具やウェアは持ってきています。若竹先輩、僕鈍っているのでお手柔らかにお願いしますね。虹川先輩も、神田先輩もよろしくお願いします」
若竹くんは部長や部員達に説明する為に、飛んでいった。
私と玲子ちゃんは顔を見合わせた。若竹くんを懐柔するとは……、侮れない。
「こ、こちらこそ、よろしくね、瀬戸くん。月乃ちゃんの仲良しのお友達になったんだってね」
「そうなんですよ。僕放課後空いていますし、是非仲良しの虹川先輩とテニス出来れば嬉しい、と思いまして」
「そうなんだ。私達あんまり上手じゃないから教えてね。ねえ、月乃ちゃん」
玲子ちゃんに脇を小突かれた。痛い。
「そ、そうね。まさかサークルに参加するなんて、思ってもみなかったわ。よろしくお願いするわね」
「はい。こちらこそ是非よろしくお願いします。仲良くしてくださいね、虹川先輩」
征士くんは着替えに行ってしまった。ウェアに着替えて戻ってくると、張り切って若竹くんが皆に紹介した。
「さっき話した高等部一年の瀬戸だ。三年の虹川の仲良い友達として、サークルへ参加したいそうだ。テニスがすごく上手だから、皆是非仲間に入れてやってくれ」
下級生は唐突に現れた美少年に目が釘付けだ。三、四年生は、征士くんのことを知っているので、笑顔で迎え入れた。
「勿論、仲間になってくれるなら嬉しい。是非、試合してくれ。一、二年生も年下とは思わず、テニスを瀬戸から教えてもらってくれ」
部長の言葉に、皆は拍手して、征士くんを歓迎した。
その後宣言通り、征士くんと若竹くんは試合した。テニスから遠ざかっていたと言う割に相変わらず上手で、また若竹くんは1ゲームも取れずに試合は終わった。
久しぶりにテニスを楽しんでいる征士くんは、やっぱり格好良かった。下級生達も見惚れていて、試合が終わった後、次々指導をお願いしていた。
♦ ♦ ♦
翌日家へ帰ると、父に書斎へ呼ばれた。ノックして入ると父と征士くんがいた。
「瀬戸くんがな、もう婚約者ではないけど、経営学が興味深かったから、私の時間の許す限り勉強させて欲しいと言ってきたんだ。彼は前から着眼点も良いし、質問も的確で飲み込みも早い。私も優秀な人材を育てることは楽しいし、将来瀬戸くんに役員候補として、グループの会社に入ってもらうのもいいと考えた。何より月乃の友人だしな」
「はい。僕は大学で経営学部に入りたいと思っています。その予習として、虹川会長に是非経営学を教わりたいと、そう考えています」
私は少し、くらっとした。まさか、父にまで取り入るとは……。
「僕、月、水、金曜は来られませんけれど、それ以外は、なるべく虹川会長とご一緒したいです。間近で経営や経済のことを教えてください」
「きみは頭の回転も速いし、教え甲斐があるからな。いつでも家へ来るといい。先々は虹川グループの会社へ入って、是非経営者を目指して欲しい」
「ありがとうございます。お言葉に甘えてお邪魔させていただきたいです。虹川先輩、僕先輩の家へ来ますけれど、時間の合った折には、お友達として仲良くしてくださいね」
征士くんは私へにっこり笑いかけた。
「……うん。お勉強、頑張ってね。まあ、時間が合うことでもあれば、お友達としておしゃべりでもしましょう……」
私は若干弱々しく返事をした。こうまで私と関わりを持ちたいという執念は、素直にすごいと思う。
「はい! 経営学頑張って勉強します。将来、経営学は絶対役立つと思いますから」
それから征士くんは、月、水、金曜はサークルに顔を出すようになり、それ以外は我が家へ来て勉強を教わっていた。父の都合がつかない時は、私の部屋でおしゃべりしたり、宿題や課題をともにしたりするようになった。
「充分じゃないか、それで。しばらく婚約者は探さないからな、月乃の好きなようにするといい」
父も納得してくれて、改めて征士くんとは友達として、認めてもらった。
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月曜に、玲子ちゃんにことのあらましを話した。
「そう……。色々誤解があったのね。でも誤解が解けて、良かったね。それにしても、婚約者からお友達なんて、何かすごいね」
「自分の気持ちがわかるまでは、お友達なの。昔から婚約者と結婚するって思っていたから、私恋愛感情に疎いみたいなのよ。玲子ちゃんと石田さんとのこと、憧れるわ」
「そんな、月乃ちゃんなら、すぐわかると思う……。瀬戸くん、熱心だし」
「あはは。そうかしら」
そんなことを話しながら講義を終え、玲子ちゃんとサークルへ向かった。基本、サークルは、月曜、水曜、金曜の活動だ。
着替えてコートへ行くと、何故か征士くんと若竹くんが話していた。若竹くんは私達に気が付くと、手招きした。
「今、瀬戸が来てな。高等部では部活に入ってないから、虹川の仲良しの友達のよしみで、出来たらサークルに混ぜて欲しいって言うんだよ。俺としちゃ、瀬戸とテニス出来るなら大歓迎なんだけど」
「はい。僕随分テニスから遠ざかっているので、運動不足解消の為に、参加させていただけないかと。前にもまた来てもいいってお誘いしてもらっていましたし、若竹先輩とも是非試合したいですし」
征士くんはそう言って、屈託なく笑った。若竹くんは、征士くんから試合したいと申し込まれ、目を輝かせた。
「瀬戸~! お前と試合出来るなら、いくらだって副部長権限で入れてやる! 部長や部員達には俺から説明するし、道具持ってきているなら、早速俺と試合しようぜ」
「道具やウェアは持ってきています。若竹先輩、僕鈍っているのでお手柔らかにお願いしますね。虹川先輩も、神田先輩もよろしくお願いします」
若竹くんは部長や部員達に説明する為に、飛んでいった。
私と玲子ちゃんは顔を見合わせた。若竹くんを懐柔するとは……、侮れない。
「こ、こちらこそ、よろしくね、瀬戸くん。月乃ちゃんの仲良しのお友達になったんだってね」
「そうなんですよ。僕放課後空いていますし、是非仲良しの虹川先輩とテニス出来れば嬉しい、と思いまして」
「そうなんだ。私達あんまり上手じゃないから教えてね。ねえ、月乃ちゃん」
玲子ちゃんに脇を小突かれた。痛い。
「そ、そうね。まさかサークルに参加するなんて、思ってもみなかったわ。よろしくお願いするわね」
「はい。こちらこそ是非よろしくお願いします。仲良くしてくださいね、虹川先輩」
征士くんは着替えに行ってしまった。ウェアに着替えて戻ってくると、張り切って若竹くんが皆に紹介した。
「さっき話した高等部一年の瀬戸だ。三年の虹川の仲良い友達として、サークルへ参加したいそうだ。テニスがすごく上手だから、皆是非仲間に入れてやってくれ」
下級生は唐突に現れた美少年に目が釘付けだ。三、四年生は、征士くんのことを知っているので、笑顔で迎え入れた。
「勿論、仲間になってくれるなら嬉しい。是非、試合してくれ。一、二年生も年下とは思わず、テニスを瀬戸から教えてもらってくれ」
部長の言葉に、皆は拍手して、征士くんを歓迎した。
その後宣言通り、征士くんと若竹くんは試合した。テニスから遠ざかっていたと言う割に相変わらず上手で、また若竹くんは1ゲームも取れずに試合は終わった。
久しぶりにテニスを楽しんでいる征士くんは、やっぱり格好良かった。下級生達も見惚れていて、試合が終わった後、次々指導をお願いしていた。
♦ ♦ ♦
翌日家へ帰ると、父に書斎へ呼ばれた。ノックして入ると父と征士くんがいた。
「瀬戸くんがな、もう婚約者ではないけど、経営学が興味深かったから、私の時間の許す限り勉強させて欲しいと言ってきたんだ。彼は前から着眼点も良いし、質問も的確で飲み込みも早い。私も優秀な人材を育てることは楽しいし、将来瀬戸くんに役員候補として、グループの会社に入ってもらうのもいいと考えた。何より月乃の友人だしな」
「はい。僕は大学で経営学部に入りたいと思っています。その予習として、虹川会長に是非経営学を教わりたいと、そう考えています」
私は少し、くらっとした。まさか、父にまで取り入るとは……。
「僕、月、水、金曜は来られませんけれど、それ以外は、なるべく虹川会長とご一緒したいです。間近で経営や経済のことを教えてください」
「きみは頭の回転も速いし、教え甲斐があるからな。いつでも家へ来るといい。先々は虹川グループの会社へ入って、是非経営者を目指して欲しい」
「ありがとうございます。お言葉に甘えてお邪魔させていただきたいです。虹川先輩、僕先輩の家へ来ますけれど、時間の合った折には、お友達として仲良くしてくださいね」
征士くんは私へにっこり笑いかけた。
「……うん。お勉強、頑張ってね。まあ、時間が合うことでもあれば、お友達としておしゃべりでもしましょう……」
私は若干弱々しく返事をした。こうまで私と関わりを持ちたいという執念は、素直にすごいと思う。
「はい! 経営学頑張って勉強します。将来、経営学は絶対役立つと思いますから」
それから征士くんは、月、水、金曜はサークルに顔を出すようになり、それ以外は我が家へ来て勉強を教わっていた。父の都合がつかない時は、私の部屋でおしゃべりしたり、宿題や課題をともにしたりするようになった。
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