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本編
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父は場を改めるように咳払いをした。
「仮に本当に瀬戸くんが月乃のことを好きなのだとして……本人に直接訊いてみないとわからないが。きみ達は、私達にどうして欲しいのかな?」
「それは勿論、もう一度婚約して欲しいです。虹川先輩に嫌われて、瀬戸くんは、今すごく荒れています。学校も問題視しています」
深見くんの話に、父は首を傾げた。
「荒れている? 学校が問題視?」
「はい。瀬戸くん、授業に出ても机に教科書もノートも出さず、ずっと携帯と腕時計を睨み付けています。携帯に何かメールが届いたり……そうじゃなくても何かの時間が来ると、授業中でも黙って教室を出ていきます。穏やかだったのに、今は四六時中ぴりぴりしていて、怖くて誰も話しかけられません」
深見くんの後に、山井さんが話した。
「私……職員室で先生の手伝いをしているときに見ました。瀬戸くんが担任に呼び出されて、授業態度を注意されていました。大学に通っているそうだが、いい加減にしろって言われていて……。その後ご両親も来ていたけど何も言わなくて……。大学通いって、虹川先輩のところですよね? どうか瀬戸くんのこと嫌わないで話してあげてください」
私と父は困ってしまった。
「話せって言われても……」
「そうだな。もう弁護士を通じて、婚約を正式に破棄してしまっているし、慰謝料も相応の額を渡した。簡単にもう一度婚約という訳にはいかない。何よりきみ達の話だけでは、瀬戸くんも瀬戸くんのご両親もどう考えているかわからないしな」
「そんな! 瀬戸くんの気持ちなんて決まっています!」
父の説明に対して、深見くんが大声を上げた。そう言われてもなあ……と、私と父は視線を交わす。
「……きみ達が瀬戸くんを心配しているのは、よくわかった。しかし私は父として月乃の気持ちも尊重したい。月乃は、瀬戸くんのことをどう思っているんだ? 好きか、嫌いか?」
私は腕を組んで頭を傾げながら、考えてみた。
「よく……わかりません。今までは、ただ婚約者として好ましいとは思っていましたが……。ただ、本当に誤解があるならば、話はしたいと思います」
「そうか。それならば、婚約というのを一切抜きにして、話してくるのがいいだろう。月乃の気持ち次第で、婚約者はまた条件の合う人を探してきてもいい」
私は父とそう話を結論付けた。一応私と征士くんが話し合うという形になったので、深見くん達は帰ることとなった。
「虹川先輩。本当にあいつは先輩のことが好きなんです。それをわかってやって、是非話をいい方向に進めてください」
帰り際、念を押すように深見くんに言われてしまった。
「……善処するわ」
志野谷さんは深く私に頭を下げた。
「嘘ついて本当にすみませんでした。またあの優しい瀬戸くんに戻してください。虹川さんだけにしか、お願い出来ません」
「私も嘘の写真とか撮ってしまって、申し訳ありませんでした。瀬戸くんをよろしくお願いします。このままじゃ瀬戸くん、停学とか留年とかなってしまいます」
山井さんも頭を下げる。これだけ謝られたら、許さざるを得ない。
「わかったわ。彼の生活態度と授業態度が改善するように、なるべく説得してみるから」
彼らは何度も頭を下げて帰っていった。
私は部屋へ戻って、久しぶりに携帯の電源を入れてみた。
ものすごい数の着信履歴とメールが届いていた。
着信履歴は圧倒的に征士くんからだった。
メールを日付の古い順から丁寧に読んでみる。大学に行かなかった時は、征士くんから、どうして婚約解消したのか、と疑問のメールが多かった。自分のどこが悪かったのか、他に好きな人が出来たのか、条件に合わなくなったのかと様々綴られていた。
玲子ちゃんや若竹くん達からも、心配したメールが届いていた。何で突然講義やサークルへ来なくなったのか、具合が悪いならばお見舞いに行こうか、などと書かれていた。心配してもらえて胸が熱くなった。
大学へ行き出すようになってからは、征士くんから本当に好きですとか、誤解ですとか、話し合ってください、など日付や時間を問わずに届いていた。
玲子ちゃんからも、もう一度よく話し合って、と書かれていた。
……よく、話し合おう。そう思って、出来たら明日お話しませんか、と征士くんにメールを送ってみた。
メールはすぐに返ってきた。いつでも、何時でも、どこでも構わないから話し合いたいとのことだった。
私は少し考えて、時々行く会員制のレストランにしようと決めた。あそこならば、個室だからゆっくりお話出来るし、リーズナブルなメニューもある。
レストランの予約を取ってから、征士くんに待ち合わせ時間とレストランの場所を説明して、レストランでは私の名前を言うようにとメールで伝えた。
その夜、私は婚約者ではない、これからの征士くんとの関係性を考えてから眠りについた。
「仮に本当に瀬戸くんが月乃のことを好きなのだとして……本人に直接訊いてみないとわからないが。きみ達は、私達にどうして欲しいのかな?」
「それは勿論、もう一度婚約して欲しいです。虹川先輩に嫌われて、瀬戸くんは、今すごく荒れています。学校も問題視しています」
深見くんの話に、父は首を傾げた。
「荒れている? 学校が問題視?」
「はい。瀬戸くん、授業に出ても机に教科書もノートも出さず、ずっと携帯と腕時計を睨み付けています。携帯に何かメールが届いたり……そうじゃなくても何かの時間が来ると、授業中でも黙って教室を出ていきます。穏やかだったのに、今は四六時中ぴりぴりしていて、怖くて誰も話しかけられません」
深見くんの後に、山井さんが話した。
「私……職員室で先生の手伝いをしているときに見ました。瀬戸くんが担任に呼び出されて、授業態度を注意されていました。大学に通っているそうだが、いい加減にしろって言われていて……。その後ご両親も来ていたけど何も言わなくて……。大学通いって、虹川先輩のところですよね? どうか瀬戸くんのこと嫌わないで話してあげてください」
私と父は困ってしまった。
「話せって言われても……」
「そうだな。もう弁護士を通じて、婚約を正式に破棄してしまっているし、慰謝料も相応の額を渡した。簡単にもう一度婚約という訳にはいかない。何よりきみ達の話だけでは、瀬戸くんも瀬戸くんのご両親もどう考えているかわからないしな」
「そんな! 瀬戸くんの気持ちなんて決まっています!」
父の説明に対して、深見くんが大声を上げた。そう言われてもなあ……と、私と父は視線を交わす。
「……きみ達が瀬戸くんを心配しているのは、よくわかった。しかし私は父として月乃の気持ちも尊重したい。月乃は、瀬戸くんのことをどう思っているんだ? 好きか、嫌いか?」
私は腕を組んで頭を傾げながら、考えてみた。
「よく……わかりません。今までは、ただ婚約者として好ましいとは思っていましたが……。ただ、本当に誤解があるならば、話はしたいと思います」
「そうか。それならば、婚約というのを一切抜きにして、話してくるのがいいだろう。月乃の気持ち次第で、婚約者はまた条件の合う人を探してきてもいい」
私は父とそう話を結論付けた。一応私と征士くんが話し合うという形になったので、深見くん達は帰ることとなった。
「虹川先輩。本当にあいつは先輩のことが好きなんです。それをわかってやって、是非話をいい方向に進めてください」
帰り際、念を押すように深見くんに言われてしまった。
「……善処するわ」
志野谷さんは深く私に頭を下げた。
「嘘ついて本当にすみませんでした。またあの優しい瀬戸くんに戻してください。虹川さんだけにしか、お願い出来ません」
「私も嘘の写真とか撮ってしまって、申し訳ありませんでした。瀬戸くんをよろしくお願いします。このままじゃ瀬戸くん、停学とか留年とかなってしまいます」
山井さんも頭を下げる。これだけ謝られたら、許さざるを得ない。
「わかったわ。彼の生活態度と授業態度が改善するように、なるべく説得してみるから」
彼らは何度も頭を下げて帰っていった。
私は部屋へ戻って、久しぶりに携帯の電源を入れてみた。
ものすごい数の着信履歴とメールが届いていた。
着信履歴は圧倒的に征士くんからだった。
メールを日付の古い順から丁寧に読んでみる。大学に行かなかった時は、征士くんから、どうして婚約解消したのか、と疑問のメールが多かった。自分のどこが悪かったのか、他に好きな人が出来たのか、条件に合わなくなったのかと様々綴られていた。
玲子ちゃんや若竹くん達からも、心配したメールが届いていた。何で突然講義やサークルへ来なくなったのか、具合が悪いならばお見舞いに行こうか、などと書かれていた。心配してもらえて胸が熱くなった。
大学へ行き出すようになってからは、征士くんから本当に好きですとか、誤解ですとか、話し合ってください、など日付や時間を問わずに届いていた。
玲子ちゃんからも、もう一度よく話し合って、と書かれていた。
……よく、話し合おう。そう思って、出来たら明日お話しませんか、と征士くんにメールを送ってみた。
メールはすぐに返ってきた。いつでも、何時でも、どこでも構わないから話し合いたいとのことだった。
私は少し考えて、時々行く会員制のレストランにしようと決めた。あそこならば、個室だからゆっくりお話出来るし、リーズナブルなメニューもある。
レストランの予約を取ってから、征士くんに待ち合わせ時間とレストランの場所を説明して、レストランでは私の名前を言うようにとメールで伝えた。
その夜、私は婚約者ではない、これからの征士くんとの関係性を考えてから眠りについた。
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