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本編
23 予知夢は不調?
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本当に最近、予知夢が変だ。
経済関係が当たらないのは別としても、征士くんの夢もちょこちょこ視る。
前に相合傘をしていたボブカットの可愛い女の子とお弁当を食べていたり、仲睦まじそうに一緒に勉強していたり。
夢では、征士くんはボブカットの女の子を、志野谷(しのや)と呼んでいた。
志野谷さん。誰だろう。聞いたことはない。ハズレの夢なのだろうか。
♦ ♦ ♦
四月二日は、征士くんのお誕生日だ。
去年私の誕生祝いに水族館へ連れて行ってもらったので、お礼に腕時計をプレゼントした。
デザインが気に入るかと心配だったが、時計を見てとても喜んでくれたので、胸を撫で下ろした。
折角高等部に入ったのだから毎日つけますね、と言われ、嬉しかった。
征士くんは高等部に入学した。文系と理系で分かれるので、征士くんは経済論が学べる文系を選択した。深見くんも文系選択らしく、またクラスメイトになれたそうだ。
高等部の出入り口は、大学のキャンパスからも見える。中等部生と同じ人数の外部生が入学してくるので、大勢になって賑やかで楽しそうだ。自分の高等部の頃を思い出す。
「楽しそうだね」
私が高等部に目を向けているのを見て、玲子ちゃんも高等部を見た。
楽しそうと言いながらも、玲子ちゃんの表情は浮かない。石田さんが卒業してしまったからだ。私も弥生さんが卒業してしまって寂しい。
「春だからね。出会いも別れもあるわよ」
私達も三年生だ。若竹くんはサークルの副部長になり、新入部員をたくさん集めると意気込んでいた。
上手な新入部員がいっぱい入ってくれば、サークルももっと活気付くだろう。
♦ ♦ ♦
新年度に入ってからしばらく経ち、私はゼミやサークルに精を出していた。特に三年生ではゼミ論文を提出しなければならない。世阿弥の『風姿花伝』が気になるけれど、能楽は難解だ。能楽堂へ何回か足を運んでいるが、予習していっても半分くらいしか理解出来ない。
私は『平家物語』の、平時忠(たいらのときただ)について研究することにした。平清盛の義弟だ。
図書館で平家関係の本を数冊借りて、家へ帰る為に車に乗り込んだ。そこへ征士くんからメールが届いた。
『たまには月乃さんのお弁当が食べたいので、都合が良かったら明日作ってください』
私はふむ、と考えた。明日の講義は四限と五限だ。その前に作って届けるのは一向に構わない。私は了承のメールを送った。
次の日、高等部の二時間目と三時間目の休み時間を見計らい、お弁当を持って足を向けた。
征士くんは一年のA組だと言っていたので、校舎一階の端を目指す。高等部は三年間通学していたので、迷うことはない。
それでも周囲が制服の中、私は私服なので、やや躊躇いながら教室を覗き込んだ。
征士くんはすぐに見つかった。ボブカットの可愛らしい女の子と話している。会話が自然と聞こえてきた。
「さっきの政経の授業、わからないところがあったの。後で瀬戸くん、教えてくれない?」
「お前、この間も同じこと言ってただろ。先生に訊いてこいよ」
「やだよ~、政経の先生わかりにくいんだもん。瀬戸くん、政経得意じゃん」
「……はあ。じゃあ、昼休みな」
何かデジャヴを覚えた。あの女の子、見たことあるような気がする。
「やったー! いつもありがとう。今日は瀬戸くんへお礼にお弁当を作ってきたんだよ。いつも購買か学食でしょ?」
「いや、今日はお弁当が届くはずだから……」
不意にぽん、と私の肩を叩かれた。驚いて振り返ると、深見くんが立っていた。
「虹川先輩じゃないですか。高等部に何の用です? 瀬戸を呼びますか?」
私は何となく、お弁当の入った包みを背後に回した。
「別に呼ばなくていいわ。二人とも、元気にやっているか気になっただけ。……瀬戸くんには、私が来たこと言わないでね」
「え? どうしてです?」
「いいから」
折角あの子が征士くんの為にお弁当を作ってきたならば、余らせるのも申し訳ない。私は大学に帰ってから、寝坊して作れなかったとでもメールしよう。私のお弁当は、若竹くんにでもあげることにしようと思った。
「本当に何でもないから。またね」
私は急ぎ足で、高等部の校舎から出ていった。
経済関係が当たらないのは別としても、征士くんの夢もちょこちょこ視る。
前に相合傘をしていたボブカットの可愛い女の子とお弁当を食べていたり、仲睦まじそうに一緒に勉強していたり。
夢では、征士くんはボブカットの女の子を、志野谷(しのや)と呼んでいた。
志野谷さん。誰だろう。聞いたことはない。ハズレの夢なのだろうか。
♦ ♦ ♦
四月二日は、征士くんのお誕生日だ。
去年私の誕生祝いに水族館へ連れて行ってもらったので、お礼に腕時計をプレゼントした。
デザインが気に入るかと心配だったが、時計を見てとても喜んでくれたので、胸を撫で下ろした。
折角高等部に入ったのだから毎日つけますね、と言われ、嬉しかった。
征士くんは高等部に入学した。文系と理系で分かれるので、征士くんは経済論が学べる文系を選択した。深見くんも文系選択らしく、またクラスメイトになれたそうだ。
高等部の出入り口は、大学のキャンパスからも見える。中等部生と同じ人数の外部生が入学してくるので、大勢になって賑やかで楽しそうだ。自分の高等部の頃を思い出す。
「楽しそうだね」
私が高等部に目を向けているのを見て、玲子ちゃんも高等部を見た。
楽しそうと言いながらも、玲子ちゃんの表情は浮かない。石田さんが卒業してしまったからだ。私も弥生さんが卒業してしまって寂しい。
「春だからね。出会いも別れもあるわよ」
私達も三年生だ。若竹くんはサークルの副部長になり、新入部員をたくさん集めると意気込んでいた。
上手な新入部員がいっぱい入ってくれば、サークルももっと活気付くだろう。
♦ ♦ ♦
新年度に入ってからしばらく経ち、私はゼミやサークルに精を出していた。特に三年生ではゼミ論文を提出しなければならない。世阿弥の『風姿花伝』が気になるけれど、能楽は難解だ。能楽堂へ何回か足を運んでいるが、予習していっても半分くらいしか理解出来ない。
私は『平家物語』の、平時忠(たいらのときただ)について研究することにした。平清盛の義弟だ。
図書館で平家関係の本を数冊借りて、家へ帰る為に車に乗り込んだ。そこへ征士くんからメールが届いた。
『たまには月乃さんのお弁当が食べたいので、都合が良かったら明日作ってください』
私はふむ、と考えた。明日の講義は四限と五限だ。その前に作って届けるのは一向に構わない。私は了承のメールを送った。
次の日、高等部の二時間目と三時間目の休み時間を見計らい、お弁当を持って足を向けた。
征士くんは一年のA組だと言っていたので、校舎一階の端を目指す。高等部は三年間通学していたので、迷うことはない。
それでも周囲が制服の中、私は私服なので、やや躊躇いながら教室を覗き込んだ。
征士くんはすぐに見つかった。ボブカットの可愛らしい女の子と話している。会話が自然と聞こえてきた。
「さっきの政経の授業、わからないところがあったの。後で瀬戸くん、教えてくれない?」
「お前、この間も同じこと言ってただろ。先生に訊いてこいよ」
「やだよ~、政経の先生わかりにくいんだもん。瀬戸くん、政経得意じゃん」
「……はあ。じゃあ、昼休みな」
何かデジャヴを覚えた。あの女の子、見たことあるような気がする。
「やったー! いつもありがとう。今日は瀬戸くんへお礼にお弁当を作ってきたんだよ。いつも購買か学食でしょ?」
「いや、今日はお弁当が届くはずだから……」
不意にぽん、と私の肩を叩かれた。驚いて振り返ると、深見くんが立っていた。
「虹川先輩じゃないですか。高等部に何の用です? 瀬戸を呼びますか?」
私は何となく、お弁当の入った包みを背後に回した。
「別に呼ばなくていいわ。二人とも、元気にやっているか気になっただけ。……瀬戸くんには、私が来たこと言わないでね」
「え? どうしてです?」
「いいから」
折角あの子が征士くんの為にお弁当を作ってきたならば、余らせるのも申し訳ない。私は大学に帰ってから、寝坊して作れなかったとでもメールしよう。私のお弁当は、若竹くんにでもあげることにしようと思った。
「本当に何でもないから。またね」
私は急ぎ足で、高等部の校舎から出ていった。
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