予知姫と年下婚約者

チャーコ

文字の大きさ
上 下
19 / 124
本編

19 中等部テニス部優勝

しおりを挟む
「あれ? 瀬戸がシングルス1じゃん」

 次の試合も、私は若竹くんと観戦していた。深見くんがシングルス2で、要くんがダブルスで試合していた。

「何、あいつ怪我とかしてたんじゃねえの? って、すげえトップスピンサーブだな。あんなの打ち返したら、手首がどうにかなっちゃうよ」

 征士くんは調子を取り戻していた。というかこんな好調ぶりは見たことがない。強いと噂の相手が、1ゲームはおろか、1ポイントさえ取れていない。若竹くんも目を丸くしている。

「おい、虹川。お前何話してきたんだよ。どうやったら、あの絶不調から絶好調になれるんだ?」

 私は曖昧に笑ってみた。

「さあ……。気分の問題? みたいな?」
「何だ、それ?」

 瞬く間に征士くんは6─0で勝ってしまった。
 深見くんと要くんも有利に試合を進めている。このままでいけば、また美苑が勝てそうだ。
 やがてシングルスもダブルスも全て美苑が勝ち、次の試合へ駒を進めた。

「瀬戸くんもすごいけど、要くんも強いわね」
「そりゃあ、俺の弟だからな。みっちり扱いてるさ」

 要くんが勝てて、若竹くんは嬉しそうだ。確かに要くんも上手だった。
 若竹くんと移動しながら、次々試合を観戦する。征士くんも、深見くんも、要くんも大活躍で、美苑大付属中等部は優勝した。

「うおお~! 三年連続優勝!」
「俺達、すげえ!」
「いや、やっぱすげえのは部長と副部長だろ~」

 歓喜に沸く中、若竹くんは部員の輪の中に入っていった。少し躊躇しながら、私も後に続く。

「要! よくやったな!」
「兄ちゃん! 応援ありがとう」

 要くんが顔を紅潮させて、若竹くんと喜びを分かち合っていた。
 征士くんは探すまでもなく、輪の一番中心にいた。勇気を出して声をかける。

「優勝、おめでとう!」

 征士くんは私を見て破顔した。

「ありがとうございます! 三年越しで直接おめでとうって言ってもらえました」
「そんな、大したことじゃないわよー」
「いえ、僕にとったら、とても大切なことです!」

 今度お祝いしましょうね、と言って私達は別れた。
 これから学校で祝勝会をするのだという。
 深見くんも挨拶に来た。

「『月乃さん』のおかげです!」

 と言われてしまった。深見くんには全て見通されているようで恥ずかしい。
 何はともあれ、優勝おめでとう、ともう一度心の中で叫んだ。

 ♦ ♦ ♦

 夏といえば、我がテニスサークルでも合宿がある。
 合宿といっても、ほんの二泊三日。テニスの練習もするが、温泉に入ったり、美味しい料理をいただいたり、夜になると誰かの部屋で飲んだり。花火や肝試しもする。お遊び感覚の合宿だ。ちなみに去年は未成年だったので、一年生は飲み会を遠慮していた。
 そんなお遊び合宿でも、合宿をまとめる合宿係は必要だ。部長と綿密に場所や予定を相談する。弥生さんが張り切って、合宿係に玲子ちゃんを推薦していた。

「ええー。弥生さんも月乃ちゃんも、一緒にやりましょうよ」

 可愛くお願いされると私も弥生さんも弱い。三人で合宿係をすることになった。


「じゃあ、いつものテニスコート付きの旅館は予約してあるから。観光バスも手配しているし。千葉は例年通り、練習の予定を立ててくれ」
「はーい」

 部長の石田さんと合宿係の三人で、大学内のカフェで合宿について話し合っていた。

「神田は花火の調達と場所確認。去年もやったから場所はわかるだろう。花火の分量は資料を確認してくれ」
「わかりました」
「石田ー。可愛い後輩は、名前呼びしなくちゃいけないんだぞ」

 弥生さんのからかうような声音に、石田さんはぴくりと反応した。

「そういうものなのか?」
「親睦を深める為にも、そういうものなんですう~」

 石田さんは真面目にそうか、と頷いた。

「じゃあ、玲子。頼んだ」

 私と弥生さんは飲んでいたコーヒーを噴きそうになった。

「いきなりの呼び捨て!」
「石田さん、斬新でナイスです!」
「うん? 名前呼びするんだろう?」

 玲子ちゃんは真っ赤になって俯いている。可愛い。

「では、月乃は……」
「石田、月乃ちゃんは、名前呼びの先約が入っているから虹川でー」
「何だ? 難しいな……。じゃあ虹川は……」

 私は肝試しの準備をすることになった。石田さん、面白い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...