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本編
11 女子会
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私は大学二年生になった。征士くんは中等部の三年生になってテニス部の部長に選ばれたらしく、とても忙しそうだ。
私と玲子ちゃんも、二年生から入れる坂上ゼミへ共に合格し、充実した大学生活を送っていた。
五月は私の誕生日。偶然玲子ちゃんも五月生まれなので、弥生さんが誕生日祝いに居酒屋さんに誘ってくれた。二十歳になったので堂々とお酒が飲める。
大学近くの家庭的な居酒屋のテーブル席で、私達は乾杯をした。
「二人とも、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。でも十代が終わっちゃったのは、ちょっと寂しいです」
四月生まれの征士くんとは、また歳が離れてしまった。しかも二十代に突入だ。やっぱり『お母さん』だろうか。しみじみ、運ばれてきたビールに口を付ける。
「わ、苦ーい」
「私も、苦いと思います……」
「ふふ。二人とも若いなあ。もう少ししたら、テニス後のビール最高! とか思うんだけど。次はシャンディガフなんてどう? ビールのジンジャーエール割りだから、甘いと思うよ?」
おつまみを食べつつ、おしゃべりをする。私はビールのおかわりに、勧められたシャンディガフを頼んだ。玲子ちゃんは少し顔を赤くして、お酒はもういいとウーロン茶を頼んでいた。
「ところで二人とも。彼氏はいるの?」
弥生さんの質問に、シャンディガフを噴きそうになった。玲子ちゃんもシーザーサラダを持ったまま、固まっている。
「彼氏っていきなり……。弥生さんはいるんですか?」
「いるよー。もう卒業しちゃったけど、テニスサークルの先輩だったんだ。月乃ちゃんはどうなの?」
私は逡巡した後、答えた。
「えっと。彼氏っていうか……。親の決めた婚約者がいます」
「ええっ?! 婚約者?」
弥生さんと玲子ちゃんは、二人揃って仰天していた。シーザーサラダが、テーブルの上に落ちた。
「婚約者……婚約者がいるの? どんな人? 優しい?」
玲子ちゃんは少しお酒が回っているのか、いつもよりテンションが高い。私はシャンディガフを飲み干した。
弥生さんが気を遣って、次の飲み物を注文してくれる。甘いのがいいと言ったら、カルアミルクを用意してくれた。
「優しいわよー。格好良いし。テニスが上手で、憧れてサークルに入ったのよ」
私も少々、お酒が回っているのかもしれない。余計なことまで口走っている気がする。
「玲子ちゃんは? それだけ可愛いんだから、彼氏の一人や二人いるわよね?」
「か、彼氏なんて……。憧れている人なら、いるけれど」
「えー、誰、誰? 私の知っている人?」
カルアミルクは口当たりが良くて美味しい。小さいグラスなのですぐに飲めてしまいそうだ。玲子ちゃんにも少しあげたら、あっという間になくなってしまった。
弥生さんが自分のワインと共に、カシスオレンジをオーダーしてくれた。
「えっとね。秘密にしてよ……。石田さんに憧れているの」
「え! 石田?」
弥生さんが驚いたような声を出した。石田さんは弥生さんと同じ四年生だ。サークルで一番テニスが上手く、今は部長をしている。
飄々とした感じの人で、あまりしゃべったことはない。顔は精悍なタイプだが、玲子ちゃんはどこに憧れているのだろう。
「どういうところが好きなの?」
「私達初心者の面倒を丁寧に見てくれるところとか。いつも球拾いやっていると、側に来て手伝ってくれたり……。後はやっぱり、テニス上手なところ。格好良いのよね」
「あー、わかる! テニス上手なのはポイント高いわよね!」
カシスオレンジは甘酸っぱくて、いくらでも飲めそうだ。勿論玲子ちゃんにも勧める。
「石田なら、今フリーのはずだから狙っちゃえば? うちら、もう内定もらっているし、余裕あるし。橋渡しするよ?」
「そんな、橋渡しなんて……。ちょっとお話出来たらって思いますけれど」
「わかった。この弥生姉さんに任せておいて!」
弥生さんは頼もしいなあ。カシスオレンジについているオレンジをぱくりと口に含む。
程良くアルコールが回ってきたようだ。非常に気分が良い。
「月乃ちゃんの婚約者って、やっぱり社会人? 卒業したら結婚するの?」
「んーん、年下。結婚はいつになるかわからないわね」
私が何気なく発した言葉に、弥生さんは傾けていたワイングラスを止めた。探るように私を眺め回す。
「……優しくて、格好良くて、テニスの上手い年下? まさかと思うけど、瀬戸くん?」
ずばり核心を突かれてしまった。玲子ちゃんも唖然としている。
「そう言われれば、瀬戸くん条件に当てはまっているね。本当に……?」
私は恥ずかしくなって、誤魔化すようにカシスオレンジを一気飲みした。しかし二人とも、じいっと私を見つめてくる。
「……そうです。瀬戸くんです。あの、恥ずかしいので黙っていてくださいね?」
「ええーっ?! まさかの婚約者が中等部生? すごい年下じゃん!」
「すごいね! でも瀬戸くん格好良いし、お似合いだね。普段は名前呼びなの?」
「うん。征士くん、って……」
きゃー! と弥生さんと玲子ちゃんがはやし立てた。恥ずかしくて、飲まないとやっていられない。私はファジーネーブルを追加した。
私と玲子ちゃんも、二年生から入れる坂上ゼミへ共に合格し、充実した大学生活を送っていた。
五月は私の誕生日。偶然玲子ちゃんも五月生まれなので、弥生さんが誕生日祝いに居酒屋さんに誘ってくれた。二十歳になったので堂々とお酒が飲める。
大学近くの家庭的な居酒屋のテーブル席で、私達は乾杯をした。
「二人とも、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。でも十代が終わっちゃったのは、ちょっと寂しいです」
四月生まれの征士くんとは、また歳が離れてしまった。しかも二十代に突入だ。やっぱり『お母さん』だろうか。しみじみ、運ばれてきたビールに口を付ける。
「わ、苦ーい」
「私も、苦いと思います……」
「ふふ。二人とも若いなあ。もう少ししたら、テニス後のビール最高! とか思うんだけど。次はシャンディガフなんてどう? ビールのジンジャーエール割りだから、甘いと思うよ?」
おつまみを食べつつ、おしゃべりをする。私はビールのおかわりに、勧められたシャンディガフを頼んだ。玲子ちゃんは少し顔を赤くして、お酒はもういいとウーロン茶を頼んでいた。
「ところで二人とも。彼氏はいるの?」
弥生さんの質問に、シャンディガフを噴きそうになった。玲子ちゃんもシーザーサラダを持ったまま、固まっている。
「彼氏っていきなり……。弥生さんはいるんですか?」
「いるよー。もう卒業しちゃったけど、テニスサークルの先輩だったんだ。月乃ちゃんはどうなの?」
私は逡巡した後、答えた。
「えっと。彼氏っていうか……。親の決めた婚約者がいます」
「ええっ?! 婚約者?」
弥生さんと玲子ちゃんは、二人揃って仰天していた。シーザーサラダが、テーブルの上に落ちた。
「婚約者……婚約者がいるの? どんな人? 優しい?」
玲子ちゃんは少しお酒が回っているのか、いつもよりテンションが高い。私はシャンディガフを飲み干した。
弥生さんが気を遣って、次の飲み物を注文してくれる。甘いのがいいと言ったら、カルアミルクを用意してくれた。
「優しいわよー。格好良いし。テニスが上手で、憧れてサークルに入ったのよ」
私も少々、お酒が回っているのかもしれない。余計なことまで口走っている気がする。
「玲子ちゃんは? それだけ可愛いんだから、彼氏の一人や二人いるわよね?」
「か、彼氏なんて……。憧れている人なら、いるけれど」
「えー、誰、誰? 私の知っている人?」
カルアミルクは口当たりが良くて美味しい。小さいグラスなのですぐに飲めてしまいそうだ。玲子ちゃんにも少しあげたら、あっという間になくなってしまった。
弥生さんが自分のワインと共に、カシスオレンジをオーダーしてくれた。
「えっとね。秘密にしてよ……。石田さんに憧れているの」
「え! 石田?」
弥生さんが驚いたような声を出した。石田さんは弥生さんと同じ四年生だ。サークルで一番テニスが上手く、今は部長をしている。
飄々とした感じの人で、あまりしゃべったことはない。顔は精悍なタイプだが、玲子ちゃんはどこに憧れているのだろう。
「どういうところが好きなの?」
「私達初心者の面倒を丁寧に見てくれるところとか。いつも球拾いやっていると、側に来て手伝ってくれたり……。後はやっぱり、テニス上手なところ。格好良いのよね」
「あー、わかる! テニス上手なのはポイント高いわよね!」
カシスオレンジは甘酸っぱくて、いくらでも飲めそうだ。勿論玲子ちゃんにも勧める。
「石田なら、今フリーのはずだから狙っちゃえば? うちら、もう内定もらっているし、余裕あるし。橋渡しするよ?」
「そんな、橋渡しなんて……。ちょっとお話出来たらって思いますけれど」
「わかった。この弥生姉さんに任せておいて!」
弥生さんは頼もしいなあ。カシスオレンジについているオレンジをぱくりと口に含む。
程良くアルコールが回ってきたようだ。非常に気分が良い。
「月乃ちゃんの婚約者って、やっぱり社会人? 卒業したら結婚するの?」
「んーん、年下。結婚はいつになるかわからないわね」
私が何気なく発した言葉に、弥生さんは傾けていたワイングラスを止めた。探るように私を眺め回す。
「……優しくて、格好良くて、テニスの上手い年下? まさかと思うけど、瀬戸くん?」
ずばり核心を突かれてしまった。玲子ちゃんも唖然としている。
「そう言われれば、瀬戸くん条件に当てはまっているね。本当に……?」
私は恥ずかしくなって、誤魔化すようにカシスオレンジを一気飲みした。しかし二人とも、じいっと私を見つめてくる。
「……そうです。瀬戸くんです。あの、恥ずかしいので黙っていてくださいね?」
「ええーっ?! まさかの婚約者が中等部生? すごい年下じゃん!」
「すごいね! でも瀬戸くん格好良いし、お似合いだね。普段は名前呼びなの?」
「うん。征士くん、って……」
きゃー! と弥生さんと玲子ちゃんがはやし立てた。恥ずかしくて、飲まないとやっていられない。私はファジーネーブルを追加した。
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