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奇妙なアトラクション その1

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 遊園地の一角に、やたら派手な看板がある場所を見つけた。
 ただ、何故かあまり人がいない。

 どうしてだろう?

 そう思いながら、皆で近づいて行く。
 看板にはこう書いてあった。

〝豪華景品クイズ!! 三チームで一緒になってクリアできれば、他では絶対に手に入ることのない珍しい魔道具が手に入るよ!!〟

 看板を見てから、皆で顔を合わせた。

 看板の近くには、建物があって、カラフルな色彩でペイントされている。
 そして、その建物には何かのキャラクターの絵が描いてあった。
 ピエロのような顔だが、そのピエロは体が一つなのに頭が三つある。
 笑っている顔に、泣いている顔、怒っている顔の三つの顔だった。
 
 なんとなく薄気味悪い感じはする。

 なんでこんなキャラクターにしたのだろう?

 ビルドが言い出す。

「このアトラクションの建物の絵は気味が悪いけど、でも豪華景品だってよ。他の客はやらないのかな?」

 そう言って、不思議そうな顔をしていると、セリサが何かに気づいたらしく、指を差しながら喋り出した。

「これ、参加料が高いからだわ。一人に付き10万セクトだって」

「「「えっ?」」」

 思わず皆で驚いてしまった。10万セクトって日本円に換算すると10万円以上だ……。

 ビルドがこっちを見てきた。

「どうする? やるか?」

「どうって……、これダメだったら当然10万セクトがパーだよな?」

「そうね。注意書きに書いてあるわね。参加料はクリアしてもしなくても返却いたしません、だって」

 セリサが看板を見ながら、説明してきた。
 ここで、カルディさんが意外にもこう言ってきた。

「やってみてもいんじゃないか? 私達は金に困っているわけじゃない。全員参加しても70万セクトだ。無くなっても困る金額じゃない」

 まぁ、それはそうだ。そう思って、皆の顔を見るが、反対意見のある人はいないらしい。
 そこで僕も提案してみる。

「じゃあ、全員参加するとして、チーム分けはどうします? 三チームってことは、この七人を三つに分ける必要があります。クイズってことなんで、一つのチームにつきその手の問題が得意な人がいないとダメだと思いますが」

 すると、ガルレーンさんがこう言ってきた。

「兄さんとビルドとカルディの三人を分けて、あとはそれに従うのがいいだろう。俺は、クイズは苦手だ。一緒に内部を回ってみる気はあるが、役には立てないだろう」

 ファードスさんも自身を指差して、頷いている。ファードスさんもクイズは得意でないらしい。
 すると、カルディさんが話し掛けてきた。

「じゃあ、私とファードスが一緒に、ビルド君とセリサさんとガルレーンさんが一チーム、最後はマサキ君とリーシャ君でいいだろう。内部に危険が無いとは思うが、万一を考えて、ビルド君とセリサさんチームにはガルレーンさんが同行した方がいいだろう」

 僕もそう思った。園内で危険はないはずだが、まぁ、一応だ。

「じゃあ、行きますか」

 そう言って、三チームで内部に入っていくことにした。
 内部に入ると三つの扉がある。すると、上から声が聞こえてきた。

「お客様、ご入場ありがとうございます。私は、当アトラクションの案内人ケフカと申します。宜しくお願い致します。
 まず、三つの扉の入口にそれぞれの参加料を投入してください。すると、内部に入ることができるようになります。
 また、内部には進むにつれて、それぞれチームごとにクイズを行ってもらう形式になっています。もし、三チームがそれぞれ最後まで進み、全て問題をクリアすることができれば、豪華景品を差し上げます。
 それでは、お客様のご健闘をお祈りいたします」

 そのアナウンスが終わると、三つの扉が一度だけ軽く光った。
 それぞれの扉には玄関のポストのようなものがある。そこに金を投入するらしい。
 というわけで、僕達はそれぞれお金を投げ入れる。すると、ドアノブが開く音がした。
 それを確認してから、それぞれのチームで内部に入っていく。

 僕はリーシャと一緒に扉の中に入っていた。
 扉の中は天井と壁が、全て鏡で出来ていた。
 真っすぐな通路になっているが、鏡に自分達の姿が永遠と写っている。

 リーシャと一緒に通路を歩きだして、五歩目だった。

 後ろの扉がガチャっと大きい音を立てた。
 扉の方へ戻って、ドアノブをガチャガチャ回してみるが、開かない。
 それを見てリーシャが不安そうな顔になった。
 すると、上から声が聞こえてくる。

「大丈夫ですよ。お客様を傷つけるために閉じ込めたわけではありません。外部からアドバイスされては面白くないので、それを禁止するために入れないようにしているだけです。どうぞ、先へお進みください」

 どうしようかと思ったが、リーシャと手を繋ぐことにした。
 彼女はなんとなく不安そうな表情をしていたからだ。
 二人でずっと歩いて行く。

 リーシャが話し掛けてきた。

「鏡を二枚合わせると、このように同じ姿が連続して写るのは面白いですが、これだけ通路に設置されると何か怖いですね。私達が動いているのか、鏡の中の人物達が動いているのか分からなくなりそうです」

「合わせ鏡ってやつだね。この原理を応用して万華鏡は作るんだけど」

「万華鏡?」

「リーシャ達の世界では別の表現をするのかも、カレイドスコープって分かる?」

「ああ、分かります。私たちの国にもありました」

「子供の頃に見ると、面白いよね。僕達の世界ではたしか二百年くらい前に造られたものだったと思うけど」

 そんな話をしながら、二人で歩いて行くと、通路の先にまた扉が見えてきた。
 警戒してもしょうがないので、迷わず扉を開ける。
 すると、奥に一人のピエロが立っていた。
 笑っている。
 表の看板に描かれていた笑うピエロの顔にそっくりだ。

「初めてお目に掛かります。ケフカと申します」

 そう言って、仰々しく頭を下げた。そして、すぐに頭を上げてこちらを見る。

「最初の問題になります。解くことが出来れば、先に進めますし、解けなければここでお帰り戴きます」

 相手は笑ってはいるのだが、何か不気味な感じがする。

 客商売する気があるのだろうか?

 相手はパチンと指を鳴らした。
 すると、僕達の前に、黄金の天秤が現れた。
 また、次の瞬間、9枚のコインも出現した。

 ピエロが笑いながら喋り出す。

「9枚のコインの内、1枚だけ偽物が混じっています。そして、その偽物コインは他の8枚のコインに比べて重量は軽いです。この天秤を二回だけ使って、偽物のコインを見つけて下さい。制限時間は十分です」

 そう言って、ピエロは笑っている。
 リーシャが考え始めている。僕も考えるが、三十秒ほど考えて答えに行き着いた。
 しばらく待っていると、リーシャも気付いたようだ。

「どうする? 僕が解いてもいいけど、リーシャが分かっているならリーシャが答えてもいいよ」

「じゃあ、私がやります」

 そう言って、リーシャは楽しそうに天秤に向かって行った。
 彼女は最初に、9枚のコインの内、適当に3つのコインを選ぶとそれを天秤の右側に載せた。当然、天秤はコインを載せた方に傾く。また、彼女は残りの6枚の内から3つのコインを適当に選んで天秤の左側にそれを載せる。すると、天秤はしばらく揺れていたが、最終的に右側の天秤が上がった。
 すると、彼女は、今度はその上がった天秤に置いてある3枚のコインを右手に取った。また、左側の天秤に既に置いてあるコインは天秤から外した。そして、彼女の右手にある3つのコインの内、2枚を、それぞれ天秤の左右に載せた。すると、この天秤は釣り合った。
 もう、この段階で答えは出ている。彼女の手元に残っているコインがもちろん偽物だ。

「正解です」

 そう言って、ピエロは笑い続けている。すると、手元にあったコインも天秤も消えて、目の前に黄金の鍵が現れた。

「その鍵を使って先にお進みください」

 そう言い残すと同時に、ピエロも消えてしまった。僕は鍵を拾いながらリーシャに喋りかけた。

「正解だったね。リーシャの鍵だ。次の扉を開けるといい」

 そう言って、リーシャにカギを渡した。
 リーシャは嬉しそうにしている。

「マサキさんも分かりましたか?」

「うん、僕も分かった。僕はこういうクイズは結構好きだったんだよ」

「へぇー、私もこういう問題は考えていると面白いです」

 この手の問題は力任せに解くのも面白いが、一般化するのが難しい場合もある。そういう事を考えるのは、個人的に好きだった。
 リーシャが扉を開けると、これまでと同じようにガラスの通路が続いていく。
 次の部屋の扉の前に行き、リーシャが手に入れた鍵で扉を開ける。
 すると、今度は室内に三つの扉があった。
 そして、また、ピエロが現れる。今度のピエロの顔は泣き顔だ。

「ここまでようこそ、おいで下さいました。私はもう、嬉しくて嬉しくて泣いてしまします」

 元から泣いているくせにそう言って、ピエロがさらに泣き出す。
 三分ほどピエロは泣いてから、こちらを見据えてきた。

「では、問題を解いてもらいましょう」

 そう言って、三つの扉へ掌を向ける。

「この三つの扉のうち、当たりの扉が一つだけあります。どれを選びますか?」

 思わず、リーシャと顔を見合わせてしまった。
 この情報からではどの扉が正解なのかはもちろん分からない。
 しかし、一つの扉を選ぶしかない。

「リーシャ、君が選ぶといいよ。別に間違っても仕方ないだろう」

「……分かりました。じゃあ、私が選びます」

 それからリーシャはピエロを見て、回答する。

「一番右端の扉でお願いします」

 それを見てピエロがさらに大声で泣き出した。そして、しばらく泣くと、次にこう言ってきた。

「では、ここで私がヒントを与えます。私は三つの扉の内、どれが当たりか、もちろん分かっています。そして、ハズレの扉をお教えしましょう。真ん中の扉は外れです」

 そう言うと、真ん中の扉は自然に開いた。
 扉の向こうは何もない。部屋の反対側が見えるだけだ。つまりこの扉は本当に外れだったことになる。そして、ピエロはこう言ってきた。

「あなた方は、もう一度扉を選ぶ権利があります。一番右の扉を選ぶか、それとも一番左の扉を選ぶか、再考してください。当たる確率を上げられれば正解です」

 ピエロはそう言って、また泣き出した。
 リーシャがこちらも見てきた。

「どうしますか? 私は最初の右端の扉を開けた方がいいと思いますが。今、正解の扉を選ぶ確率は二分の一です。しかし……、あのピエロさんは間違いへ誘導しているように見えます」

 リーシャはこう言ってきた。
 しかし、僕はピエロに向かって即答していた。

「一番左端の扉に変更します」

 すると、ピエロは泣き止んだ。

「正解です」

 そう言うと、扉が開く。奥にはガラスの通路が見える。
 また、同時にピエロはその場から消えて、ピエロのいた場所には鍵が残される。
 僕はそれを拾いに行った。
 リーシャが不思議そうな顔をしてこちらを見てきた。

「どうして、左の扉を選んだのですか?」

「あれは、モンティ・ホール問題っていうんだけど、出題者が正解を知っていることで、この問題は正解の確率が変動するんだよ。それを利用した問題だ」

 リーシャは首を傾げている。
 モンティ・ホール問題は、実際に1990年にアメリカのテレビ番組で放送され話題になった問題だ。
 当時、数学者まで一緒になって議論された問題だった。問題自体は極めて簡単で、誰でも理解できるし、場合分けしてみれば分かるのだが、直感がこの問題を分からなくする。
 リーシャの様に変更しない、と答える人が大半だろう。
 リーシャは考え込んでいる。そこでヒントを出すことにした。

「出題者はどの扉が正解かを知っている、また、回答者は二度、扉を選べるというのがこの問題の前提だ。問題を少し変えてみよう。この扉が100個あって、そのうち1つだけが同じように正解だったとしよう。そして、回答者が一度1つの扉を選んだ後、出題者が残りの98個の扉を開けてハズレの扉を示す。そして、最後に残った二つの扉を選び直せるとしたら、リーシャはどうする?」

 リーシャはすぐに答えた。

「それなら、最初の扉の方は選ばないですね。一回目は100分の1の確率で、二回目は2分の1ですので……」

 そう言って、リーシャはあれ?っといった顔をしている。
僕はリーシャを放っておくことにする。まぁ、この手の問題は本人が理解するまで放っておいた方がいい。
 その方が楽しい。

 そう思って、僕は通路を歩いて行く。

 そして、目の前にあった最後の扉を開けた。

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