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幕間 その5 ギルドで依頼を受ける
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ファーラーン国を出国してからは空を飛び続けた。
ガルレーンさんはファードスさんが、僕はリーシャとセリサ、ビルドは荷物を持っている。ただ、強い飛行モンスターへの注意は怠れない。
カルディさんの話だと、以前に比べて世界的にモンスターが強くなっているのではないか、という話だった。もしかすると、世界的に魔素濃度が高まっているのかもしれない。
今まで、僕はテントを張った時、ファードスさんと剣を交えていたが、今後はガルレーンさんと剣を交えることになった。もちろん、ファードスさんも参加していく。
皆で空を飛んでから、一週間ほど経って次の街に到着した。
ギルドに入って皆で情報収集している。
これまではカルディさんに任せていたが、ガルレーンさんからそれではダメだと言われた。全員できちんと情報収集しないといざと言う時に判断を誤る可能性があると指摘された。リーシャ達も戦わないが話だけは聞くことになった。
ギルドの受付に行って、この街と周辺地域について教えてもらうことになった。
情報料は必要らしい。情報料が要るなら、なおの事、これまで僕達も話を聞いておくべきだったと思う。
そういう意味で冒険を舐めていたという事が実感された。
ギルドの受付の男の説明を受けることになった。なんだか人相の悪い男の人だと思う。
「ギルドで出せる情報については、この紙に記してあります。あなた方でご確認をお願いします」
ん、説明してくれるんじゃないの? 金を払っているのに不愛想だな。
カルディさんが苦笑いをして、紙を受け取っている。多分、これほど不愛想なギルドの受付係も珍しいのだろう。
そして、僕達がその場から立ち去ろうとした時だった。急に、その不愛想なギルド受付男から呼び止められた。
「ああ、そうだ。ちょっと待ってもらえませんか?」
「なんでしょうか?」
カルディさんが、返事をする。
「実は、ここ最近ギルドに依頼された仕事で困っている事が一つあるんですよ。報酬はそこそこ大きいので、依頼を受けてもらえないでしょうか?」
皆で顔を合わせた。まぁ、話だけは聞いてもいいもしれない。男はその様子を窺ってから続ける。
「実は、この先に畑があるのですが、その畑にモンスターが出て困っているのです。あなた方で、このモンスターを退治してもらえないでしょうか? 畑の収穫が出来ずに困っています」
「それは強いモンスターなのでしょうか?」
「いえ、そうではないのですが、ただ、数が多いのです。また、集団で行動するタイプのモンスターになります。出来れば、今後この周辺の農地に近づかないように全部を殲滅して頂きたいのです」
カルディさんが僕を見てきた。
「いいんじゃないですか。別にそれほど難しい依頼でもなさそうですし、農家の方が困っているなら僕達でモンスターを退治してきた方がいいと思いますが」
カルディさんはそれを聞いて、ギルドの受付係に返事をした。
「分かりました。じゃあ、私達でそのモンスターを退治してきます。いつ頃行けばいいでしょうか?」
「明日でお願いします。今日は既に暗くなる時刻ですので」
あれ? と思った。
まだ午後四時くらいだと思う。日没は午後七時くらいだと思うが、そんなに遠い畑なのだろうか? まぁ、依頼内容からすると、モンスターの数が多いから、確かに明日の方がいいか。僕達がそれほど強いパーティには見えないしねぇ。
「あと、今回の依頼ですが、報酬が高い代わりに条件があります。それは農地や周辺の木々や大地を傷つけるのは禁止です。農作物に影響があるケースがあり得るからです。もし、これに違反した場合はそれなりの違約金を払って頂く可能性があります。報酬が多いのはそれが理由です」
なるほどねぇ。だから、あまり他のパーティが手を出さない案件なのかもしれない。
ギルド内を見渡すと、それなりに沢山の冒険者がいるようだが、それでもこの報酬金額の高い依頼が残っている理由は、そのためだろう。
**********
翌日になって、ギルドに指定されたルートを通って畑へ向かうことになった。
ギルドからは再三、木々や大地を傷つけないでくれ、と言われた。
生態系の問題があるので、モンスターを吹っ飛ばして周囲の地形を変化させたり、木々を破壊するのは困るのだろう。森を開いて畑を作っているケースだと、木々が防風林の役割を果たすこともあるからだろう。
討伐メンバーに関しては結局七人全員で行くことになった。今後は七人で行動する必要があるし、ガルレーンさんと行動を共にしての実戦は今回が初めてだ。リーシャ達にもいざと言う時に、僕達がどういう陣形を取るか見せておきたいのがある。
ギルドの地図に従って、道を歩いて行くが悪路だ。
道幅は狭いし、周辺の木々が伸びてこちらへ向かっている。
歩くときに、木々を手で払いながら歩かねば、顔に当たってしまうくらいだ。
皆で歩いて、一時間以上経った時だった。
急に開けた場所に到着した。しかし、畑に到着したのかと思ったが、そうではない。
直径は百メートルくらいの円形の場所だった。地面は整地されているようで、直径二十センチメートルくらいの石が敷き詰められている。
足場はやや悪いような感じがする。キャンプ場としてテントを張るには適していないだろう。
カルディさんに訊いてみた。
「ここは何に使う場所ですか? 畑には見えませんが」
「なんだろうね。ただ、地図を見た限りではこんな場所は記されていないね。それにもう既に畑に到着していてもいいはずなんだよね。畑の位置は地図上ではこの先に見えるが、ただ、どうも私の感覚だと既に到着していなければおかしいように感じる」
「どういうことですか?」
「私には羽翼種の血も入っている。歩く歩幅や恒星の角度からかなり正確に距離を測定することができる。それからすると、この地図は少しおかしい気がする。ギルドは間違った地図を渡したのだろうか?」
そう言ってカルディさんは困惑したような表情をしている。
カルディさんがそう言い終えた瞬間だった
僕達のいた円形の場所の周辺から大量のモンスターが出てきた。
***********
僕達はギルドの依頼を受けて、畑にいるモンスターの退治に向かっていたが、畑に辿り着く前にモンスター達に襲われていた。ギルドからは何のモンスターかよく分かっていないと告げられていたが、目の前に現れたモンスターはヒヒのような感じだ。
僕達全員が戦闘態勢をとった。
リーシャ、セリサ、ビルド、がすぐに三人で近づき固まった。
そして、三人を中心として僕達四人の戦闘メンバーがそれぞれ90度の角度で待機する。周囲から攻められてきても三人を護ることが出来る陣形だ。
ヒヒの数はかなり多い、多分、百匹以上はいるだろう。それらが僕達の周囲を囲んでいる。
一匹のヒヒの大きさは二メートルくらいだ。しかし、これらのヒヒは防具を纏っていた。まるで冒険者が着るような鎧を着ている。ヒヒは知能が高い。もしかすると、魔素でモンスター化して知恵を高めたのかもしれない。
それらが、魔法を使って襲ってきた。
氷魔法と火魔法だ。これをカルディさんとファードスさんが逆属性の魔法で対抗して相殺し始めた。
正直、ギルドの依頼で周囲を壊すな、という条件がなければ、ここで広範囲にヒヒを魔法で倒してしまえばいい。しかし、ギルドの条件からすると、それをしてはダメだ。
どうりで他の冒険者が手を出さない案件なわけだ。
僕もウィンドスラッシュを小まめに放っていく。ただ、後ろの木を破壊してはいけないので、軽めのウィンドスラッシュになるので、当たってもダメージが殆どない感じだ。
ガルレーンさんも同じようにスラッシュを放ち、加えて魔法で石礫を飛ばしているが、それほど強く攻撃していない、というか出来ない。
三十分ほどヒヒと僕達で魔法を打ちあう時間が続いた。
すると、森の陰から二人の獣族が現れた。
一人の獣族はかなり大きい。全長が三メートル以上ある。そして、二メートル近い大きな剣を一本持っていた。獣族の風貌としてはヒヒのボスという感じだ。もう一人もヒヒの種族だろう。大きさは二メートルくらいあって、同じように剣を一本持っている。
ボスだと思われる個体が話し掛けてきた。
「なんだ。苦戦しているんだな。今回のは割と面倒か」
そう言って、僕達を睨んでくる。そして続けた。
「おい、お前達、荷物だけ置いていけ、そうすれば命だけは助けてやる」
そう言った瞬間に、ガルレーンさんがこのボスに飛び込んだ。
しかし、ボスはその攻撃を剣で受け止めた。ボスの足元の地面がへこんでいく。
そして、次の瞬間、横に居た手下がガルレーンさんに斬りかかって来た。ガルレーンさんは後退して、攻撃を躱した。
今の挙動を見た限りでは、ボスは多分かなり強い。ただ、おそらく獣族の手下は、その骨格から推定すると、それほど強くない。
が、何せボスが厄介そうだ。
ガルレーンさんの一撃はそれなりに力を込めていた。それを受けきっている。ガルレーンさんも強く魔法を使えばすぐに決着をつけられる相手ではあるはずだが、今回はギルドの依頼で周囲を壊してはいけない。
ガルレーンさんとボスが戦い始めて、同時にガルレーンさんは手下の相手もしている。
一応、この手の事態も事前に想定はしてあった。もし、敵に囲まれてボスが出てきたら、ガルレーンさんが不意打ちの一撃をかます、というのは戦略に入れておいた。
しかし、今回のボスとその手下を相手に、広範囲魔法を使わずに長時間の戦いはマズいだろう。
僕はガルレーンさんがボスの相手を始めたので、ガルレーンさんの分も含めて、リーシャ達三人を守らなければいけない。ヒヒの一部が武器を持って、こちらへ攻撃を仕掛けてきたので、それらを蹴散らしていく。
ガルレーンさんの援護に行きたいが、リーシャ達を守らなければいけない。森も破壊してはいけない。すぐに援護に行けない。
ガルレーンさんが二人と戦っているせいで、僕達の陣形がやや崩れ始めた。
この段階で、僕はギルドの依頼は無視することにした。
もう何が起こっているか大体分かったからだった。
強めのウィンドスラッシュを群れに向かって三発程連打した。
すると、二体に当たって、一体には当たらず、後ろの木が切断されてしまった。
が、これを見て敵達が怯んだ隙に、横一文字を発動させることにする。
今回は三秒ほど溜める時間を作って敵に向かって打った。それでもかなりの攻撃力だ。十五体ほどのヒヒが一瞬で横に切り裂かれてしまった。同時に後ろにあった木々も大量に切ってしまった。
ここで、戦局が変わり始める。
相手もまさか一瞬で二十体近くやられるとは思っていなかったのだろう。
この隙を突いて、カルディさん達が魔法を使ってヒヒの群れを殲滅していく。ただ、カルディさん達は木を壊さないようにしている。僕はそれを確認すると、直ぐにガルレーンさんの方へ向かった。
ガルレーンさんがボスの剣と手下の剣を、自分の二本の剣で受け止めている。
その状況下で、僕が横からボスへ斬りかかった。
が、ボスはすぐにその攻撃を避ける。
しかし、ここでファードスさんが氷魔法を使って、ボスの足を凍らせた。
ボスの左足の膝から下が凍って地面と繋がっている。
けれども、ボスの判断も早かった。一瞬で、迷わず自分の凍らされた足の膝を切り落とした。そして叫んだ。
「撤退だ。俺を掴んで走れ」
が、ガルレーンさんは既にボスの懐に飛び込んでいた。
そして、二本の剣を思いっきり振り下ろした。
――ドゴン――
物凄い衝撃音と共に、ボスが木っ端みじんになっていた。
流石、本家本元の天翔土天だ。
慌てて、もう一人の手下が逃げようとする。そして、ガルレーンさんが追撃しようとした瞬間だった。僕が叫んだ。
「ガルレーンさん、待って下さい」
そう言うとガルレーンさんは剣を止めた。手下はすぐにその場から逃げていった。
残っていた三十体ほどのヒヒたちも逃げていく。
ガルレーンさんが振り返って僕の方を見る。
「兄ちゃん、どういうことだ? あれを見逃すつもりか? それにどうして木を傷つけた? ギルドに違約金を払わなければいけないぞ」
僕は首を横に振ってから答えた。
「いいえ違います。あれは一度〝逃がすべき〟です。それにギルドの依頼も無視して構いません」
ガルレーンさんは不思議な顔をしている。
「意味が分からないぞ。どういうことだ?」
僕はここで、自分の推測を話すことにする。
「今回の依頼の件ですが、僕の考えでは、ギルドによって仕組まれた〝罠〟です。あの手下についてですが、一度逃がして、これから追いかけた方がいいでしょう」
そう言うと、皆が驚いた顔をしている。
そして、僕は皆に自分の考えを話していく――。
ガルレーンさんはファードスさんが、僕はリーシャとセリサ、ビルドは荷物を持っている。ただ、強い飛行モンスターへの注意は怠れない。
カルディさんの話だと、以前に比べて世界的にモンスターが強くなっているのではないか、という話だった。もしかすると、世界的に魔素濃度が高まっているのかもしれない。
今まで、僕はテントを張った時、ファードスさんと剣を交えていたが、今後はガルレーンさんと剣を交えることになった。もちろん、ファードスさんも参加していく。
皆で空を飛んでから、一週間ほど経って次の街に到着した。
ギルドに入って皆で情報収集している。
これまではカルディさんに任せていたが、ガルレーンさんからそれではダメだと言われた。全員できちんと情報収集しないといざと言う時に判断を誤る可能性があると指摘された。リーシャ達も戦わないが話だけは聞くことになった。
ギルドの受付に行って、この街と周辺地域について教えてもらうことになった。
情報料は必要らしい。情報料が要るなら、なおの事、これまで僕達も話を聞いておくべきだったと思う。
そういう意味で冒険を舐めていたという事が実感された。
ギルドの受付の男の説明を受けることになった。なんだか人相の悪い男の人だと思う。
「ギルドで出せる情報については、この紙に記してあります。あなた方でご確認をお願いします」
ん、説明してくれるんじゃないの? 金を払っているのに不愛想だな。
カルディさんが苦笑いをして、紙を受け取っている。多分、これほど不愛想なギルドの受付係も珍しいのだろう。
そして、僕達がその場から立ち去ろうとした時だった。急に、その不愛想なギルド受付男から呼び止められた。
「ああ、そうだ。ちょっと待ってもらえませんか?」
「なんでしょうか?」
カルディさんが、返事をする。
「実は、ここ最近ギルドに依頼された仕事で困っている事が一つあるんですよ。報酬はそこそこ大きいので、依頼を受けてもらえないでしょうか?」
皆で顔を合わせた。まぁ、話だけは聞いてもいいもしれない。男はその様子を窺ってから続ける。
「実は、この先に畑があるのですが、その畑にモンスターが出て困っているのです。あなた方で、このモンスターを退治してもらえないでしょうか? 畑の収穫が出来ずに困っています」
「それは強いモンスターなのでしょうか?」
「いえ、そうではないのですが、ただ、数が多いのです。また、集団で行動するタイプのモンスターになります。出来れば、今後この周辺の農地に近づかないように全部を殲滅して頂きたいのです」
カルディさんが僕を見てきた。
「いいんじゃないですか。別にそれほど難しい依頼でもなさそうですし、農家の方が困っているなら僕達でモンスターを退治してきた方がいいと思いますが」
カルディさんはそれを聞いて、ギルドの受付係に返事をした。
「分かりました。じゃあ、私達でそのモンスターを退治してきます。いつ頃行けばいいでしょうか?」
「明日でお願いします。今日は既に暗くなる時刻ですので」
あれ? と思った。
まだ午後四時くらいだと思う。日没は午後七時くらいだと思うが、そんなに遠い畑なのだろうか? まぁ、依頼内容からすると、モンスターの数が多いから、確かに明日の方がいいか。僕達がそれほど強いパーティには見えないしねぇ。
「あと、今回の依頼ですが、報酬が高い代わりに条件があります。それは農地や周辺の木々や大地を傷つけるのは禁止です。農作物に影響があるケースがあり得るからです。もし、これに違反した場合はそれなりの違約金を払って頂く可能性があります。報酬が多いのはそれが理由です」
なるほどねぇ。だから、あまり他のパーティが手を出さない案件なのかもしれない。
ギルド内を見渡すと、それなりに沢山の冒険者がいるようだが、それでもこの報酬金額の高い依頼が残っている理由は、そのためだろう。
**********
翌日になって、ギルドに指定されたルートを通って畑へ向かうことになった。
ギルドからは再三、木々や大地を傷つけないでくれ、と言われた。
生態系の問題があるので、モンスターを吹っ飛ばして周囲の地形を変化させたり、木々を破壊するのは困るのだろう。森を開いて畑を作っているケースだと、木々が防風林の役割を果たすこともあるからだろう。
討伐メンバーに関しては結局七人全員で行くことになった。今後は七人で行動する必要があるし、ガルレーンさんと行動を共にしての実戦は今回が初めてだ。リーシャ達にもいざと言う時に、僕達がどういう陣形を取るか見せておきたいのがある。
ギルドの地図に従って、道を歩いて行くが悪路だ。
道幅は狭いし、周辺の木々が伸びてこちらへ向かっている。
歩くときに、木々を手で払いながら歩かねば、顔に当たってしまうくらいだ。
皆で歩いて、一時間以上経った時だった。
急に開けた場所に到着した。しかし、畑に到着したのかと思ったが、そうではない。
直径は百メートルくらいの円形の場所だった。地面は整地されているようで、直径二十センチメートルくらいの石が敷き詰められている。
足場はやや悪いような感じがする。キャンプ場としてテントを張るには適していないだろう。
カルディさんに訊いてみた。
「ここは何に使う場所ですか? 畑には見えませんが」
「なんだろうね。ただ、地図を見た限りではこんな場所は記されていないね。それにもう既に畑に到着していてもいいはずなんだよね。畑の位置は地図上ではこの先に見えるが、ただ、どうも私の感覚だと既に到着していなければおかしいように感じる」
「どういうことですか?」
「私には羽翼種の血も入っている。歩く歩幅や恒星の角度からかなり正確に距離を測定することができる。それからすると、この地図は少しおかしい気がする。ギルドは間違った地図を渡したのだろうか?」
そう言ってカルディさんは困惑したような表情をしている。
カルディさんがそう言い終えた瞬間だった
僕達のいた円形の場所の周辺から大量のモンスターが出てきた。
***********
僕達はギルドの依頼を受けて、畑にいるモンスターの退治に向かっていたが、畑に辿り着く前にモンスター達に襲われていた。ギルドからは何のモンスターかよく分かっていないと告げられていたが、目の前に現れたモンスターはヒヒのような感じだ。
僕達全員が戦闘態勢をとった。
リーシャ、セリサ、ビルド、がすぐに三人で近づき固まった。
そして、三人を中心として僕達四人の戦闘メンバーがそれぞれ90度の角度で待機する。周囲から攻められてきても三人を護ることが出来る陣形だ。
ヒヒの数はかなり多い、多分、百匹以上はいるだろう。それらが僕達の周囲を囲んでいる。
一匹のヒヒの大きさは二メートルくらいだ。しかし、これらのヒヒは防具を纏っていた。まるで冒険者が着るような鎧を着ている。ヒヒは知能が高い。もしかすると、魔素でモンスター化して知恵を高めたのかもしれない。
それらが、魔法を使って襲ってきた。
氷魔法と火魔法だ。これをカルディさんとファードスさんが逆属性の魔法で対抗して相殺し始めた。
正直、ギルドの依頼で周囲を壊すな、という条件がなければ、ここで広範囲にヒヒを魔法で倒してしまえばいい。しかし、ギルドの条件からすると、それをしてはダメだ。
どうりで他の冒険者が手を出さない案件なわけだ。
僕もウィンドスラッシュを小まめに放っていく。ただ、後ろの木を破壊してはいけないので、軽めのウィンドスラッシュになるので、当たってもダメージが殆どない感じだ。
ガルレーンさんも同じようにスラッシュを放ち、加えて魔法で石礫を飛ばしているが、それほど強く攻撃していない、というか出来ない。
三十分ほどヒヒと僕達で魔法を打ちあう時間が続いた。
すると、森の陰から二人の獣族が現れた。
一人の獣族はかなり大きい。全長が三メートル以上ある。そして、二メートル近い大きな剣を一本持っていた。獣族の風貌としてはヒヒのボスという感じだ。もう一人もヒヒの種族だろう。大きさは二メートルくらいあって、同じように剣を一本持っている。
ボスだと思われる個体が話し掛けてきた。
「なんだ。苦戦しているんだな。今回のは割と面倒か」
そう言って、僕達を睨んでくる。そして続けた。
「おい、お前達、荷物だけ置いていけ、そうすれば命だけは助けてやる」
そう言った瞬間に、ガルレーンさんがこのボスに飛び込んだ。
しかし、ボスはその攻撃を剣で受け止めた。ボスの足元の地面がへこんでいく。
そして、次の瞬間、横に居た手下がガルレーンさんに斬りかかって来た。ガルレーンさんは後退して、攻撃を躱した。
今の挙動を見た限りでは、ボスは多分かなり強い。ただ、おそらく獣族の手下は、その骨格から推定すると、それほど強くない。
が、何せボスが厄介そうだ。
ガルレーンさんの一撃はそれなりに力を込めていた。それを受けきっている。ガルレーンさんも強く魔法を使えばすぐに決着をつけられる相手ではあるはずだが、今回はギルドの依頼で周囲を壊してはいけない。
ガルレーンさんとボスが戦い始めて、同時にガルレーンさんは手下の相手もしている。
一応、この手の事態も事前に想定はしてあった。もし、敵に囲まれてボスが出てきたら、ガルレーンさんが不意打ちの一撃をかます、というのは戦略に入れておいた。
しかし、今回のボスとその手下を相手に、広範囲魔法を使わずに長時間の戦いはマズいだろう。
僕はガルレーンさんがボスの相手を始めたので、ガルレーンさんの分も含めて、リーシャ達三人を守らなければいけない。ヒヒの一部が武器を持って、こちらへ攻撃を仕掛けてきたので、それらを蹴散らしていく。
ガルレーンさんの援護に行きたいが、リーシャ達を守らなければいけない。森も破壊してはいけない。すぐに援護に行けない。
ガルレーンさんが二人と戦っているせいで、僕達の陣形がやや崩れ始めた。
この段階で、僕はギルドの依頼は無視することにした。
もう何が起こっているか大体分かったからだった。
強めのウィンドスラッシュを群れに向かって三発程連打した。
すると、二体に当たって、一体には当たらず、後ろの木が切断されてしまった。
が、これを見て敵達が怯んだ隙に、横一文字を発動させることにする。
今回は三秒ほど溜める時間を作って敵に向かって打った。それでもかなりの攻撃力だ。十五体ほどのヒヒが一瞬で横に切り裂かれてしまった。同時に後ろにあった木々も大量に切ってしまった。
ここで、戦局が変わり始める。
相手もまさか一瞬で二十体近くやられるとは思っていなかったのだろう。
この隙を突いて、カルディさん達が魔法を使ってヒヒの群れを殲滅していく。ただ、カルディさん達は木を壊さないようにしている。僕はそれを確認すると、直ぐにガルレーンさんの方へ向かった。
ガルレーンさんがボスの剣と手下の剣を、自分の二本の剣で受け止めている。
その状況下で、僕が横からボスへ斬りかかった。
が、ボスはすぐにその攻撃を避ける。
しかし、ここでファードスさんが氷魔法を使って、ボスの足を凍らせた。
ボスの左足の膝から下が凍って地面と繋がっている。
けれども、ボスの判断も早かった。一瞬で、迷わず自分の凍らされた足の膝を切り落とした。そして叫んだ。
「撤退だ。俺を掴んで走れ」
が、ガルレーンさんは既にボスの懐に飛び込んでいた。
そして、二本の剣を思いっきり振り下ろした。
――ドゴン――
物凄い衝撃音と共に、ボスが木っ端みじんになっていた。
流石、本家本元の天翔土天だ。
慌てて、もう一人の手下が逃げようとする。そして、ガルレーンさんが追撃しようとした瞬間だった。僕が叫んだ。
「ガルレーンさん、待って下さい」
そう言うとガルレーンさんは剣を止めた。手下はすぐにその場から逃げていった。
残っていた三十体ほどのヒヒたちも逃げていく。
ガルレーンさんが振り返って僕の方を見る。
「兄ちゃん、どういうことだ? あれを見逃すつもりか? それにどうして木を傷つけた? ギルドに違約金を払わなければいけないぞ」
僕は首を横に振ってから答えた。
「いいえ違います。あれは一度〝逃がすべき〟です。それにギルドの依頼も無視して構いません」
ガルレーンさんは不思議な顔をしている。
「意味が分からないぞ。どういうことだ?」
僕はここで、自分の推測を話すことにする。
「今回の依頼の件ですが、僕の考えでは、ギルドによって仕組まれた〝罠〟です。あの手下についてですが、一度逃がして、これから追いかけた方がいいでしょう」
そう言うと、皆が驚いた顔をしている。
そして、僕は皆に自分の考えを話していく――。
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