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第44話 修羅場
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僕はホテルの部屋へ戻って、適当にタブレットを弄っていた。
すると、誰かが扉を叩く音がした。
誰だろうと思って、扉を開けると、リーシャだった。
彼女を見る。
顔が赤い。火照っている。多分、アルコールを飲んだせいだろう。
「ちょっとお話があるのですが? いいですか?」
「ああ、いいよ。どうぞ」
思わず、心臓がドキドキしてしまう。
てか、この体、心臓あるんだな。改めて思い出す。
リーシャは部屋に入ってくると、部屋をキョロキョロと見渡した。
部屋の構造は同じはずだけど。
リーシャは窓へ近づいて、カーテンを閉めた。
「その窓はマジックミラーだから、外からは見えないよ。夜景が綺麗だから開けておいた方がいいんじゃない?」
「マジックミラーですか?」
リーシャが首を傾げるので、説明してあげた。
「ああ、そういう物もあるんですね。やっぱり人族の文明は進んでいますね」
「うん。まぁ、そうだね。ただ、この世界の魔法は僕たちの世界には無かったからその点では、こっちの方が面白いね」
リーシャは真剣な顔をして、こちらを見ている。
「マサキさんは、もし、人族の国へ行って自分の体に戻れるとしたら……、いえ、元の世界へ帰れるとしたらどうするつもりですか?」
その質問はいつかされると思っていた。ただ、その質問を最初にしてくるのはビルドだと思っていたが。
「いや、まだ考えてないね。正直、元の世界へ帰れるかどうか分からないし、あまり先のことは考えてないよ。もし、帰りたいと思って期待を膨らませて、それで帰れなかったらショックが大きいだろうからね」
リーシャは近くの椅子に腰掛けた。僕はベッドに寝っ転がって、タブレットを弄りながら、適当にリーシャの会話の相手をしている。正面から、彼女と向き合うのは、恥ずかしい気がした。
「この世界に残りたくはありませんか?」
「うーん。正直、元の世界でもこっちの世界でも、もうどっちでもいいんだよね。別にどっちもそれなりに面白そうだ」
ここ最近はこの世界がイージーで、やりたい放題できそうな気がしているから、だったらこっちの世界の方が良い気もしていた。ただ、元の世界の両親や友人には会いたいとは思うけど。
リーシャは何かを考えている。
こちらから話しかけた。
「まぁ、正直、この世界で普通の人族に戻って、普通の生活をすることになるなら、元の世界へ帰りたいかも。ただ、こっちの世界で今みたいに力があって、ある程度自由にできるならこっちの世界の方がいい感じかな」
ダメ人間に思われるかもしれないが、本心を伝えてみる。
「じゃあ、もしマサキさんが人族の国へ行って、もし、完全な人族になってしまったら、私のところへ来ませんか?」
「え? それどういうこと?」
「……ですから、その、私があなたを養うというか……」
いやいや、それダメでしょ。流石にそんな馬鹿なことする気にはならない。
「それはダメだね。流石に僕としてもそこまで堕落した生活をする気にはならないよ」
リーシャは悲しそうな表情をした。
「私のことは好きじゃないですか?」
僕はここで、起き上がった。タブレットを置いて、ベッドには座ったまま床に足を付けた。
「いや、好きとかそういう話じゃないんだよ。僕は、自分なりに何かを成し遂げたいと思っている。それが自分の得意分野や好きな事なら一番好ましい。今、自分に何の才能があるか分からないけど、もし、何かの才能があるならそれを磨きたいんだよ。他人に養ってもらってゴロゴロするのは御免だよ。リーシャにとっては、僕は命の恩人なのかもしれないけど、そこまで気に掛けてもらわなくてもいいよ」
そう言った、次の瞬間だった。
リーシャが僕に抱きついてきた。
驚いた。
何だこれ?
股間が熱い。いや、言い間違えた。胸が熱い。
だが、来た! ついに来た!!
これがホントのハートフルなイベントだ!!
僕はこういうのを待っていたんだよ!!
訳の分からない蛇に、トカゲに、羊とか、バカか!! そんなもんは後回しで良いんだよ!!
変な生き物に命を狙われるとか納得がいかなかったんだよ!!
じゃあ、さっそくリーシャちゃんを戴きますか、とばかりに彼女に手を掛けようとした瞬間だった。
リーシャは何故か僕のポケットに手を突っ込んだ。そして、スッと僕から離れた。
そして、僕が彼女の手元を見ると、そこには昼間僕に連絡先を教えてくれた人の紙切れを握っていた。
リーシャはいきなりその紙を魔法で燃やした。
「ちょーーーーっと、何すんのぉぉぉーーーーーーー!?」
「これは今後、要らないですものですので、焼却することにしました」
そう言って彼女は笑った。〝顔〟は可愛い。
「あと、明日から毎日マサキさんには日報を書いてもらいます。行動を把握させてもらいます。時間は分単位で構いません。秒単位でなくてもいいです」
あ、これ、やべぇ。多分、この子、病んでる……。
「とりあえず、そちらに座ってください。日報の書き方をお教えいたしますので」
「……」
「返事は?」
「はい……」
酔いが醒めていく。いや、酔えてないのに、冷めていくだけだ……。
************
翌日になった。皆で朝ご飯を取ることになった。
カルディさん達も一緒に来るそうだ。多分、みんなで今後の行動について話し合いたいのだろう。
ビジネスホテルなので、朝食はない。
外へ繰り出すことにした。入る店はファミレスにした。
皆で座る。羽翼種の三人はいろいろ注文したが、残りの三人は飲み物だけだった。
リーシャはもちろん僕の隣に座っている……。
カルディさんが話し始めた。
「マサキ君のアドバイスに従って、一晩、魔道板を弄ってみたが、あれは面白い。羽翼種の地域にもぜひ持ち帰りたい」
「あれは、ちょっと難しいかもしれないですね。通信網が必要なんですよ。僕もあのタブレットを一通り使ってはみたんですが、人族の国のリアルタイムの情報はありませんでしたね」
「どうすればあれを羽翼種の島で使えるようにできる?」
「うーん。ちょっと僕にはその辺の知識が無いので分かりません。ただ、おそらく、何かの魔道具で波を作って、それを飛ばしているのだと思います。原理だけで云えば、多分、羽翼種の島とこの国に中継地点を作って、波を遠距離まで飛ばせば使えると思いますが」
説明してみたけど、カルディさんは分からなそうだ。そりゃそうだ。
カルディさんは話題を変えた。
「昨日、あれから色々と魔道板で調べて見たが、現在確かに人族の国に魔族が侵入しているようだ。その魔族はかなり強いらしい。また、人族だけでなくて様々な種族に対して融和的なようだ。たしかにベゼルという者の言う通りだ」
「ああ、そうなんですか」
やはりベゼルは嘘を付いていなかった。カルディさんが僕の表情を確認してから続ける。
「それで、私としては現在、やはりもう一度人族の国を目指すべきだと思い始めている。人族にいるその魔族は、世界的な経済網を敷こうとしているみたいだ。僕たちから直接会って、羽翼種の経済活動のメリットを嘆願した方がいいかもしれない」
そういうことか。それなら確かに僕達、全員が人族の国を目指すべきかもしれない。
「分かりました。じゃあ、全員で人族の国を目指すことにしましょう。リーシャも医療技術について学びたいらしいですし、僕としても人族の国へ行きたいです。ビルドとセリサもそれでいいか?」
二人もここで頷く。
「じゃあ、出発はどうします? すぐに出ますか?」
「いや、しばらくこの国に留まって勉強してからにしよう。私たちが知らないことが多すぎる。君たちもしばらく気分転換してきたらどうだい? ずっと気を張り詰めていたはずだ。しかし、この国なら、治安はいい。人攫いはいないようだ。自由に動いても問題ないだろう」
そうか。ならそれぞれ動いてみるか。
そうして、その場はお開きになり、それぞれ自由行動になっていった。
僕はリーシャと街に繰り出すことになった。
*************
まぁ、なんだ。
傍目から見ると、多分、僕たちはカップルに見えるのだろう。
リーシャは僕の腕に彼女の腕を回している。
表情は嬉しそうだ。
それだけを見ていると、とても微笑ましい。
が、なんだろう。この胸騒ぎは。
どうも嫌な予感がする。
昨日ホテルで、リーシャから日報の書き方を教わった。いや、教え込まれた。
基本的にはリーシャと一緒にいない時に、僕が何をしていたかを報告しなければいけない。
それに、今日街中を歩くに際していくつかの注意事項が伝達された。
簡単に書くと
1 若い女性を舐めるように見てはいけない
2 可愛いと思った女性に見境なく話しかけてはいけない。
3 スタイルのいい女性従業員のいる店に入ってはいけない
4 肌の露出が多い女性が写った写真を見てはいけない
etc
まぁ、そんな感じの内容だった。上二つは常識じゃねぇの、と思う。少なくとも僕はこういう奴が嫌いだ。
で、ここからが、問題だが、どうも彼女の表現からすると、僕に問題行動があった場合はペナルティがあるということだった。
ペナルティの内容は教えてもらっていない。
でも、リーシャは僕のことが好きなわけだから、そんなに変なペナルティをするわけはないんだよね。もしかすると〝私だけを見て〟みたいな感じで僕に迫って来るかもしれない。なら、問題はないわ。
どうせならペナルティ喰らっちゃおうかな。
そんなことを考えながら、二人で歩いて行く。
この街は治安がいいという事だ。
街並みを見ると、今までの獣族の地域とは全然違う。
これを見ているとやはり人々の生活というのは、治安の上に成り立っていることを感じる。リーシャと色々な店を一緒に見ていく。
彼女は楽しそうだ。僕も楽しい。
なんだかんだで、この世界に来てから、一番一緒にいる女の子だし、顔は可愛いしスタイルもいい。ちょっと病んでいるのかもしれないけど、別に問題があるわけじゃないことが分かった。
もう、他の女の子は見ないことにしようと思った。
見る必要がないからね。
……。
しかし、街中を一緒に歩いていると、やっぱり、どうしても若い女性に目が行ってしまう。
僕だって年頃の男の子だ。しょうがないだろう。ならばと、リーシャには分からないレベルで、高速で眼球を動かすことにした。視力も上がっているのでこれはいい。片っ端から女の子をチェックしていく。リーシャといえど流石にこの動きにはついてこれまい。
魔族の体に感謝だ。
治安の良さを反映してか、交番がある。中の様子を覗いてみたが、地球上の交番と同じようだ。制服は違うが。
ふーん、と思いながら交番前を通り過ぎようとした瞬間だった。
リーシャがボソっと呟いた。
「二十五人ですね」
「え? 何の話?」
リーシャはいきなりその場で泣き始めた。
周りの人も交番の人も皆こちらを見ている。
何これ?
リーシャは結構マジで泣いているように見える。
ヤバイ、かなりヤバイ。
僕がヤバイ。
交番にいた警察官が近づいてくる。
え、冗談だろ。
……。
この後、交番で僕はこってり絞られた……。
マジか……、ありえんだろ。
魔族の上位種の眼球運動だぞ。
なんで、リーシャにそれが確認できるんだよ……。
もう、今後はリーシャだけを見ようと決心したのだった。
**********
リーシャは交番前で嘘泣きをした後、マサキと一緒にホテルへ帰っていった。
リーシャは一人、部屋で考える。
これまでのマサキのことを思い出していた。
マサキはスケベだ。間違いない。
以前、セリサに勉強を教えていた時も、彼女の胸元ばかりを舐め回すように見ていた。
本人はバレていないつもりかもしれないが、鼻の下が伸びていた。この都市に来て、最初に話を聞いた女性にしてもそうだ。マサキは、色々理由を付けていたが信用できない。
どう見ても目がいやらしかった。
ところが、私と一緒にいる時はそのような表情を一切しない。
これは私に興味が無い可能性もあった。
それならそれで仕方がないとも思っていた。
それに、もしかすると、本当に私のことだけは大切に思っていてくれるのかもしれないと思った。
だから、マサキの部屋に行って試しに抱きついてみた。するといきなり笑いながら自分に手を出そうとした。
普通、相手に確認してからだろう。
それに、あの場面で笑うのはおかしい。
あれは良くない。多分、誰でもいいに違いない。
私がマサキを調教しなければいけない。義務感に目覚めた。
マサキはきっと私をおかしい人だと思っているだろう。だが、これはマサキのためだ。
そう思って、今日マサキが行動した全ての様子をノートに細かく記していった。
すると、誰かが扉を叩く音がした。
誰だろうと思って、扉を開けると、リーシャだった。
彼女を見る。
顔が赤い。火照っている。多分、アルコールを飲んだせいだろう。
「ちょっとお話があるのですが? いいですか?」
「ああ、いいよ。どうぞ」
思わず、心臓がドキドキしてしまう。
てか、この体、心臓あるんだな。改めて思い出す。
リーシャは部屋に入ってくると、部屋をキョロキョロと見渡した。
部屋の構造は同じはずだけど。
リーシャは窓へ近づいて、カーテンを閉めた。
「その窓はマジックミラーだから、外からは見えないよ。夜景が綺麗だから開けておいた方がいいんじゃない?」
「マジックミラーですか?」
リーシャが首を傾げるので、説明してあげた。
「ああ、そういう物もあるんですね。やっぱり人族の文明は進んでいますね」
「うん。まぁ、そうだね。ただ、この世界の魔法は僕たちの世界には無かったからその点では、こっちの方が面白いね」
リーシャは真剣な顔をして、こちらを見ている。
「マサキさんは、もし、人族の国へ行って自分の体に戻れるとしたら……、いえ、元の世界へ帰れるとしたらどうするつもりですか?」
その質問はいつかされると思っていた。ただ、その質問を最初にしてくるのはビルドだと思っていたが。
「いや、まだ考えてないね。正直、元の世界へ帰れるかどうか分からないし、あまり先のことは考えてないよ。もし、帰りたいと思って期待を膨らませて、それで帰れなかったらショックが大きいだろうからね」
リーシャは近くの椅子に腰掛けた。僕はベッドに寝っ転がって、タブレットを弄りながら、適当にリーシャの会話の相手をしている。正面から、彼女と向き合うのは、恥ずかしい気がした。
「この世界に残りたくはありませんか?」
「うーん。正直、元の世界でもこっちの世界でも、もうどっちでもいいんだよね。別にどっちもそれなりに面白そうだ」
ここ最近はこの世界がイージーで、やりたい放題できそうな気がしているから、だったらこっちの世界の方が良い気もしていた。ただ、元の世界の両親や友人には会いたいとは思うけど。
リーシャは何かを考えている。
こちらから話しかけた。
「まぁ、正直、この世界で普通の人族に戻って、普通の生活をすることになるなら、元の世界へ帰りたいかも。ただ、こっちの世界で今みたいに力があって、ある程度自由にできるならこっちの世界の方がいい感じかな」
ダメ人間に思われるかもしれないが、本心を伝えてみる。
「じゃあ、もしマサキさんが人族の国へ行って、もし、完全な人族になってしまったら、私のところへ来ませんか?」
「え? それどういうこと?」
「……ですから、その、私があなたを養うというか……」
いやいや、それダメでしょ。流石にそんな馬鹿なことする気にはならない。
「それはダメだね。流石に僕としてもそこまで堕落した生活をする気にはならないよ」
リーシャは悲しそうな表情をした。
「私のことは好きじゃないですか?」
僕はここで、起き上がった。タブレットを置いて、ベッドには座ったまま床に足を付けた。
「いや、好きとかそういう話じゃないんだよ。僕は、自分なりに何かを成し遂げたいと思っている。それが自分の得意分野や好きな事なら一番好ましい。今、自分に何の才能があるか分からないけど、もし、何かの才能があるならそれを磨きたいんだよ。他人に養ってもらってゴロゴロするのは御免だよ。リーシャにとっては、僕は命の恩人なのかもしれないけど、そこまで気に掛けてもらわなくてもいいよ」
そう言った、次の瞬間だった。
リーシャが僕に抱きついてきた。
驚いた。
何だこれ?
股間が熱い。いや、言い間違えた。胸が熱い。
だが、来た! ついに来た!!
これがホントのハートフルなイベントだ!!
僕はこういうのを待っていたんだよ!!
訳の分からない蛇に、トカゲに、羊とか、バカか!! そんなもんは後回しで良いんだよ!!
変な生き物に命を狙われるとか納得がいかなかったんだよ!!
じゃあ、さっそくリーシャちゃんを戴きますか、とばかりに彼女に手を掛けようとした瞬間だった。
リーシャは何故か僕のポケットに手を突っ込んだ。そして、スッと僕から離れた。
そして、僕が彼女の手元を見ると、そこには昼間僕に連絡先を教えてくれた人の紙切れを握っていた。
リーシャはいきなりその紙を魔法で燃やした。
「ちょーーーーっと、何すんのぉぉぉーーーーーーー!?」
「これは今後、要らないですものですので、焼却することにしました」
そう言って彼女は笑った。〝顔〟は可愛い。
「あと、明日から毎日マサキさんには日報を書いてもらいます。行動を把握させてもらいます。時間は分単位で構いません。秒単位でなくてもいいです」
あ、これ、やべぇ。多分、この子、病んでる……。
「とりあえず、そちらに座ってください。日報の書き方をお教えいたしますので」
「……」
「返事は?」
「はい……」
酔いが醒めていく。いや、酔えてないのに、冷めていくだけだ……。
************
翌日になった。皆で朝ご飯を取ることになった。
カルディさん達も一緒に来るそうだ。多分、みんなで今後の行動について話し合いたいのだろう。
ビジネスホテルなので、朝食はない。
外へ繰り出すことにした。入る店はファミレスにした。
皆で座る。羽翼種の三人はいろいろ注文したが、残りの三人は飲み物だけだった。
リーシャはもちろん僕の隣に座っている……。
カルディさんが話し始めた。
「マサキ君のアドバイスに従って、一晩、魔道板を弄ってみたが、あれは面白い。羽翼種の地域にもぜひ持ち帰りたい」
「あれは、ちょっと難しいかもしれないですね。通信網が必要なんですよ。僕もあのタブレットを一通り使ってはみたんですが、人族の国のリアルタイムの情報はありませんでしたね」
「どうすればあれを羽翼種の島で使えるようにできる?」
「うーん。ちょっと僕にはその辺の知識が無いので分かりません。ただ、おそらく、何かの魔道具で波を作って、それを飛ばしているのだと思います。原理だけで云えば、多分、羽翼種の島とこの国に中継地点を作って、波を遠距離まで飛ばせば使えると思いますが」
説明してみたけど、カルディさんは分からなそうだ。そりゃそうだ。
カルディさんは話題を変えた。
「昨日、あれから色々と魔道板で調べて見たが、現在確かに人族の国に魔族が侵入しているようだ。その魔族はかなり強いらしい。また、人族だけでなくて様々な種族に対して融和的なようだ。たしかにベゼルという者の言う通りだ」
「ああ、そうなんですか」
やはりベゼルは嘘を付いていなかった。カルディさんが僕の表情を確認してから続ける。
「それで、私としては現在、やはりもう一度人族の国を目指すべきだと思い始めている。人族にいるその魔族は、世界的な経済網を敷こうとしているみたいだ。僕たちから直接会って、羽翼種の経済活動のメリットを嘆願した方がいいかもしれない」
そういうことか。それなら確かに僕達、全員が人族の国を目指すべきかもしれない。
「分かりました。じゃあ、全員で人族の国を目指すことにしましょう。リーシャも医療技術について学びたいらしいですし、僕としても人族の国へ行きたいです。ビルドとセリサもそれでいいか?」
二人もここで頷く。
「じゃあ、出発はどうします? すぐに出ますか?」
「いや、しばらくこの国に留まって勉強してからにしよう。私たちが知らないことが多すぎる。君たちもしばらく気分転換してきたらどうだい? ずっと気を張り詰めていたはずだ。しかし、この国なら、治安はいい。人攫いはいないようだ。自由に動いても問題ないだろう」
そうか。ならそれぞれ動いてみるか。
そうして、その場はお開きになり、それぞれ自由行動になっていった。
僕はリーシャと街に繰り出すことになった。
*************
まぁ、なんだ。
傍目から見ると、多分、僕たちはカップルに見えるのだろう。
リーシャは僕の腕に彼女の腕を回している。
表情は嬉しそうだ。
それだけを見ていると、とても微笑ましい。
が、なんだろう。この胸騒ぎは。
どうも嫌な予感がする。
昨日ホテルで、リーシャから日報の書き方を教わった。いや、教え込まれた。
基本的にはリーシャと一緒にいない時に、僕が何をしていたかを報告しなければいけない。
それに、今日街中を歩くに際していくつかの注意事項が伝達された。
簡単に書くと
1 若い女性を舐めるように見てはいけない
2 可愛いと思った女性に見境なく話しかけてはいけない。
3 スタイルのいい女性従業員のいる店に入ってはいけない
4 肌の露出が多い女性が写った写真を見てはいけない
etc
まぁ、そんな感じの内容だった。上二つは常識じゃねぇの、と思う。少なくとも僕はこういう奴が嫌いだ。
で、ここからが、問題だが、どうも彼女の表現からすると、僕に問題行動があった場合はペナルティがあるということだった。
ペナルティの内容は教えてもらっていない。
でも、リーシャは僕のことが好きなわけだから、そんなに変なペナルティをするわけはないんだよね。もしかすると〝私だけを見て〟みたいな感じで僕に迫って来るかもしれない。なら、問題はないわ。
どうせならペナルティ喰らっちゃおうかな。
そんなことを考えながら、二人で歩いて行く。
この街は治安がいいという事だ。
街並みを見ると、今までの獣族の地域とは全然違う。
これを見ているとやはり人々の生活というのは、治安の上に成り立っていることを感じる。リーシャと色々な店を一緒に見ていく。
彼女は楽しそうだ。僕も楽しい。
なんだかんだで、この世界に来てから、一番一緒にいる女の子だし、顔は可愛いしスタイルもいい。ちょっと病んでいるのかもしれないけど、別に問題があるわけじゃないことが分かった。
もう、他の女の子は見ないことにしようと思った。
見る必要がないからね。
……。
しかし、街中を一緒に歩いていると、やっぱり、どうしても若い女性に目が行ってしまう。
僕だって年頃の男の子だ。しょうがないだろう。ならばと、リーシャには分からないレベルで、高速で眼球を動かすことにした。視力も上がっているのでこれはいい。片っ端から女の子をチェックしていく。リーシャといえど流石にこの動きにはついてこれまい。
魔族の体に感謝だ。
治安の良さを反映してか、交番がある。中の様子を覗いてみたが、地球上の交番と同じようだ。制服は違うが。
ふーん、と思いながら交番前を通り過ぎようとした瞬間だった。
リーシャがボソっと呟いた。
「二十五人ですね」
「え? 何の話?」
リーシャはいきなりその場で泣き始めた。
周りの人も交番の人も皆こちらを見ている。
何これ?
リーシャは結構マジで泣いているように見える。
ヤバイ、かなりヤバイ。
僕がヤバイ。
交番にいた警察官が近づいてくる。
え、冗談だろ。
……。
この後、交番で僕はこってり絞られた……。
マジか……、ありえんだろ。
魔族の上位種の眼球運動だぞ。
なんで、リーシャにそれが確認できるんだよ……。
もう、今後はリーシャだけを見ようと決心したのだった。
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リーシャは交番前で嘘泣きをした後、マサキと一緒にホテルへ帰っていった。
リーシャは一人、部屋で考える。
これまでのマサキのことを思い出していた。
マサキはスケベだ。間違いない。
以前、セリサに勉強を教えていた時も、彼女の胸元ばかりを舐め回すように見ていた。
本人はバレていないつもりかもしれないが、鼻の下が伸びていた。この都市に来て、最初に話を聞いた女性にしてもそうだ。マサキは、色々理由を付けていたが信用できない。
どう見ても目がいやらしかった。
ところが、私と一緒にいる時はそのような表情を一切しない。
これは私に興味が無い可能性もあった。
それならそれで仕方がないとも思っていた。
それに、もしかすると、本当に私のことだけは大切に思っていてくれるのかもしれないと思った。
だから、マサキの部屋に行って試しに抱きついてみた。するといきなり笑いながら自分に手を出そうとした。
普通、相手に確認してからだろう。
それに、あの場面で笑うのはおかしい。
あれは良くない。多分、誰でもいいに違いない。
私がマサキを調教しなければいけない。義務感に目覚めた。
マサキはきっと私をおかしい人だと思っているだろう。だが、これはマサキのためだ。
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