異世界で刀を抜いて旅をする ~転生すると剣豪になっていたが、自分の中に変な奴がいた~

夏樹高志

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第42話 五人との再会

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 魔力探査をすると、すぐに五人の宿は見つけられた。
 カルディさん達は、次の街の宿に滞在しているようだ。

 僕が部屋を訪れると、全員安堵の表情を浮かべた。
 怖がられているわけではないようだった。

 カルディさんから、まず、盗賊についての説明を受けた。
 盗賊の首領が最後に命乞いをして、置いて行った荷物だが、それはやはりこの付近で行方不明になった者の遺留品ということだった。あの盗賊達が登山者や商人を結界で捕まえて、金品を奪い、死体をどこかへ隠していたのだろう。被害者の正確な数が把握できないが、相当数いる可能性が高いとのことだった。
 盗賊の人数は少ない。だから、人数の少ないパーティが狙われたのだろう。

 ギルドからは盗賊討伐の報酬が出ることになったらしいが、僕はこれを固辞した。その金は被害者への補償金に当ててやって欲しいと伝えた。

 その話を聞いてから、僕は、全員に自分のことを全て話すことにした。
 ベゼルという人格がいること、そして、そいつの指示で人族の国を目指していること。

 最後に現在の自分は暴走する可能性が無いことを伝えた。

 カルディさんだけは、やや、僕の話の信憑性を検証しているように思えたが、残りの四人はほっとしたような表情だった。ここから五人で人族の国へ行くにしても、羽翼種の島へ帰るとしても、それなりの危険が伴う。僕がいた方が助かるのが本音なのだろう。

 リーシャが最初に話しかけてきた。

「じゃあ、マサキさん自体は何も問題ないんですね?」

「うーん、まぁ、人族の国へ行ってその後、僕がどうなるか分からないけど、ただ、リーシャ達は大丈夫だと思うよ。今の人族の国には、魔族の強い人が滞在しているらしいけど、その人は人族に融和的らしい。その人がいるうちは、僕が暴れたとしても、リーシャ達に危害が及ぶことはないはずだ。多分、人族の国は知識レベルも高いし、治安もいいと思う。以前の僕の世界ではそうだった」

「じゃあ、私たちは一緒に人族の国へ行けるんですね?」

 リーシャは嬉しそうに話している。

「僕はこのまま人族の国を目指すつもりだ。ただ、少しその前にやっておきたいことがあるけど」

 カルディさんがこちらを見て質問してくる。

「それは何だね?」

「ベゼルから魔核に魔素を補給しろと言われています。それができていないと、人格が暴走する可能性があると、僕は考えています。ですから、皆さんにはここに待機してもらっていて、その間に、僕は魔素を補給して来ようと思います」

 ビルドが驚いたような顔をした。

「それって、魔族の上位種のいる縄張りに入るってことか?」

「そういうことだね。というか、さっきも以前の上位種の魔族いた場所で魔素を吸ってきたところ」

「え、だって、もうあそこには別の魔族がいるんじゃないのか?」

「いたね。ただ、僕が侵入しても襲ってこなかった。多分、力の差を感じたんだと思う」

 そう言うと、全員が呆気にとられたような顔をした。
 カルディさんの方を見据えた。

「カルディさん、僕はこれから、魔素を吸いに行きます。ただ、カルディさんは慎重な人なので、僕とこの五人が一緒に行動すべきか、考えあぐねているはずです。僕はすぐにここから離れます。カルディさんが五人の意見を纏めてください。一週間後に僕はここへ戻ってきます。その時点で、僕にどうして欲しいか決めておいて下さい」

「――分かった。では一週間後にこの場で落ち合うことにしよう」

 カルディさんはそう言って、いつもの様に笑った。本心ではどう考えているか分からない。全員の顔を見ていく。ファードスさんはいつもの様に無表情だ。ビルドはやや笑っている。セリサも笑っている。逆に、リーシャはさっきと違って、不安そうな顔になっている。
 
 すぐ立ち去ることにした。

 この後、皆はベゼルのことで揉めるだろうと予測できた。

 普通に考えればベゼルは信用できない。
 が、僕はベゼルと過ごした時間が長い。
 僕の考えではベゼルは五人を騙そうとすることはないと判断している。

 可哀想だが、あの五人はベゼルにとって眼中外だ。弱すぎる。
 今の僕に力がある以上、あの五人を使って何か策を練る必要は無い。
 現時点では、あの五人はベゼルにとっては足手纏いだろう。

 ただ、可能なら人族の国を訪れる前にベゼルの言質を取りたいとは思う。
 どこかの都市で人族の情報を手に入れたい。それでベゼルの言葉の真偽を確認できる。
 〝強い魔族〟が人族の国にいるなら、ベゼルが真実を話している可能性が高い。

 まぁ、ベゼルは問題ないと思うけどねぇ。

 そう思って、魔素のある地域を目指した。

********

 カルディが話し始めた。

「みんなの意見を聞きたい。今のマサキ君の話を聞いて、今後どうするか、だ」

 ビルドが意見する。

「俺は、マサキと一緒に人族の国を目指すべきだと思いますね。どうこう以前に、五人で羽翼種で行動するのは、それなりに危険です。話を聞いた限りでは人族の国は安全という事だから、に掛けてみた方がいいでしょう」

 セリサがこれに反論した。

「私は、マサキのことを信用していないわけじゃないけど、そのベゼルってのが本当のことを言っていない可能性があると思うわ」

 誰も喋らない。しばらくして、カルディが続ける。

「私もセリサさんと同じ意見だ。マサキ君自体は信用できても、ベゼルというのが本当のことを言っているかは分からない。
 ただ……、どちらにしても私たちは、人族の国を目指さざるを得ないだろう。そもそも、この旅の目的はそれだ。
 ここにいる全員、途中で死ぬ可能性は覚悟して、あの島を出たはずだ。
 正直、マサキ君が暴走した時点で、リーシャ君、セリサ君、ビルド君のことを考えて、羽翼島に戻るべきかとも思ったが、ここまで来ている。今になって帰るというのもおかしな話だと思い直した。やはり人族の国を目指すべきだろう」

 リーシャが話し始める。

「それは私達五人で、人族の国を目指すという事でしょうか? それともマサキさんを含めてという話でしょうか?」

 カルディはリーシャを見て質問した。

「君はマサキ君と同行すべきだと思うかい?」

「私は……、その、マサキさんと一緒に人族の国を目指したい、かと」

 場の空気が止まる。全員が考えている。
 カルディがビルドの方を見た。それに気づいて、ビルドが喋り出す。

「俺は、正直、どっちにしても戦力になりません。全滅するにしてもマサキに殺されるならそれは仕方ないか、と思います。まぁ、ここまで戦闘面では何の役にも立っていませんし、マサキのおかげで両親には一応、恩返しをしているので悔いはないですね」

 セリサが続ける。

「私は、自分がどうしたいのか、よく分からないわ。皆がやりたいようにしてくれれば、そっちに付いていくつもりかな。私も戦力にはならないですし、私もここまで貢献しているわけでもないので……」

 カルディはファードスを見た。

「お、おれもどっちでもいい。カ、カルディに任せる」

 カルディを除く三人がファードスを見た。初めてファードスが喋っているところを見たからだ。体に似合わず声が小さくて、可愛いい。
 カルディが、一度頷いた。

「よし、じゃあ決まりだ。マサキ君が帰って来る次第で、旅を再開しよう。当面は、この宿で動かないことにしよう。マサキ君が帰ってくれば、君たちの警護に当てられるが、今はそうじゃない。全員宿に籠って、待機という事になる。それでいいね」

 そう言われて、全員が頷いたのだった。

*************

 リーシャ達と宿で別れてから、僕はすぐに魔族の上位種がいる地域を目指した。
 以前と違って、魔力探査の能力が上がっているので、簡単に見つけられる。
 それに、ベゼルには上位魔族を殺せと言われたが、別に殺す必要があるわけじゃない。魔素の補給だけができればいい。適当に、魔族の縄張りに侵入して、魔素を吸っていく。

 すると、こちらへ迎撃に向かってくる魔族と、その場で待機し続ける魔族の二つに分かれた。前者は力に自信がある者で、後者は自信が無い者だろう。ただ、後者も上位種の魔族だ。普通の種族に比べれば相当強い。しかし、今の僕との力の差を考えて、勝負を挑まないのだろう。適当に縄張りに侵入して、魔素を吸いまくった。魔素濃度が下がる辺りで、その場を離れる感じだった。

 追いかけて来る魔族はいたが、移動速度に関してはこちらの方が早い。
 横に寝そべって漫画を読む姿勢や、座禅を組みながら逆さまになって飛んでもみたが、それでも十分に逃げ切れた。
 そして、逃げながら魔素を吸い尽くしていく。

 多分、追いかけてきた魔族は相当怒っているはずだが、まぁ、気にしない。
 遅い方が悪い。

 そんな感じで一週間が過ぎた。まだ魔核は満タンでない感じがするが、もういいだろう。多分、今後、そこまで魔力を使うことはないはずだ。そう思って、リーシャ達の宿へ戻ることにした。

*****************

 五人のいる部屋を訪れた。
 全員、服を着替えていて、すぐに出発できる準備が出来ているようだ。

「カルディさん、どうなりました?」

「全員一致で、君とこのまま人族の国を目指すことになった。今後も宜しく頼む」

 そう言って、カルディさんが頭を下げた。思わずこちらも頭を下げてしまう。

「じゃあ、今度は飛ぶ順序を入れ替えましょう。僕が先頭を飛びます。リーシャとセリサとビルドが真ん中で、カルディさんとファードスさんが、後方って感じがいいでしょう」

「そうだね。今の状況ではマサキ君が先頭を務めた方がいいだろう。私とファードスが殿を務めた方がよさそうだ」

 ビルドがこっちを見て来る。

「魔族を殺してきたのか?」

「いや、一緒に遊んできた」

 そう言って、ビルドの方を見てニヤっと笑ってみせた。
 ビルド達は不思議そうな表情をしている。

「じゃあ、行きますか」

 そう言って、先に出ていくことにした。

***************

 五人でしばらく飛んでいると、ワイバーンの群れに遭遇した。
 十キロメートルくらい先に五十匹ほどいる。かなりの大群だ。
 全員が空中で止まる。
 ビルドがこっちを見てきた。

「どうする?」

「全員で待ってて。すぐに戻ってくるから」

 そう言って、五人に無表情で手を振ってから、ワイバーンの方へ近づいていくことにする。
 適当に加速して、一気にワイバーンたちの距離を詰める。
 ワイバーンを群れの中で一番大きい個体を見つけて、首を掴んだ。力任せに掴み、その状態で自分の魔核から魔力を放出する。すると、残りのワイバーンたちが一斉に逃げ始めた。全部のワイバーンが逃げるのを確認してから、掴んでいるワイバーンを逃がしてやる。掴んでいる最中にいくつかの魔法を使ってきたが、今の体だとダメージは全くない。ワイバーンを殺す意味もないので、無駄な殺生はしない。

 こんな感じで、毎日が過ぎていった。今までとは違って、一日に移動できる距離が大きい。今までは周囲を警戒しなければいけなかったが、今はその必要は無い。カルディさんとファードスさんはもっと早く飛ぶことができるようだが、ただ、残りの三人はそうではない。三人の移動速度に合わせざるを得ない。ビルドの荷物はファードスさんが持っていて、三人は既に手ぶらだが、それでもファードスさんの方は移動に余裕があるようだった。

 そんな感じで時間が過ぎていく。既に三週間ほどそんな感じで飛び続けていたが、目の前に大きな都市が見えてきた。かなり発展しているようだ。

 そして、ここで皆の意見が一致する。

 皆でその都市に下りてみることにしたのだった。
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