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第52話 ラストダンス その1

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 あの後、あの場では龍種の住処へゼムドが赴くという話になり、龍種はその場でグリフォンに対して龍種の秘宝の一つを使って折れた翼の骨を治してやった。
 そして、龍種はグリフォンにあとでお前たちとの調停を見直す、また、それまでは暴れないでくれとグリフォンを諭し、龍はその住処へ帰って行った。

 六人の魔族のうち何人かは、ゼムドに付いて人の街へ行くと言い出したが、ゼムドはこれを許さなかった。時が来れば、人の街へお前たちも入れる、と言って我慢させていた。
 ただ、この際にキエティは、ゼムドにお姫様抱っこ状態で抱きかかえられていたのだが、一人の女の魔族がものすごく腹立たしそうにキエティを見ていた。
 あと、鎧を被った魔族もキエティに興味があるのか? 何故か近づいてきてキエティをよく観察しているようだった。

 魔族からすると人族は珍しいのだろうか?

 いや、上位の魔族は人に興味が無いはずなんだけどなぁ。
 ゼムドの仲間の一人は弱い者は嫌いとはっきり言っていたし、ゼムドも基本的には弱いものに興味が無いと思う。今回の事で少し変わったようだが。

 一人の魔族は片腕が無くなっていて、それに関してゼムドが謝っていた。
 ゼムドが何かに対して謝るのは初めて見たし、びっくりした。
 ゼムドが謝るところが見れたのはかなり貴重なのでは?

 キエティはゼムドに抱きかかえられて、人の街へ帰ることになった。
 人族の街へ帰ると、驚いたことが二つあった。

 まず一つ目は街に人がいない。いつもなら大通り沿いに人がいるが、今日に限っては人がいなかった。流石にグリフォンが攻めて来るとなって、仕事や学校に行く人はいなかったらしい。また、この世界の人にとって上位種の魔力探査からは逃げられないことは分かり切っているので、大半の人は家にいたようだが、それでも逃げようとした人もいたらしい。

 一部、略奪のようなことも起こっていた。が、それに対して、軍や警察が出動して、犯人達を逮捕しているようだった。こういう時にその人の本性が出るものだと思った。

 次に驚いたことは、何故か皆シーンと静まり返っている点だ。
 終末思想のようなパニックが生じているのかと思って人の国へ帰ったが、意外とそうでもない。
 理由が分からないので、外傷を治療してもらいながら理由を聞いてみた。

 どうやら、キエティが街を離れた後、ゼムドに対して物凄い反感が国民に生じたらしい。そして、メディアも一斉にゼムドを総叩きした。
 グリフォンを挑発して、キエティを妻にし(誤解だが)、挙句にグリフォンの呼び出しにはキエティだけ行かせて、ホテルのスイートルームで生活している。
〝おまえが来なければ〟となるのは当然だ。

 聞いた話によると、ゼムドの部屋にまで押しかけて罵倒した人達がいたらしい。
 その時の様子を聞いたが、ゼムドは全く我関せず、興味もなかったようだ。
 ただ、ゼムドの様子が変わったのはある人物が発した言葉だったそうだ。

〝キエティ様どうか無事帰ってきてください〟

 その言葉を聞いた瞬間、ゼムドが話しかけてきたらしい。
 その言葉とは〝なんだ、まだ殺されていないのか?〟だったそうだ。
 このデリカシーの無い発言で一同はさらにキレたらしいが、ゼムドが一言。
〝詳しく説明せよ〟

 とのことで一人が説明、まだ死んでいないという話をしてグリフォンからの出頭命令についてゼムドに説明したらしい。
 ゼムドはそれを聞くと一言だけ〝そういうことか〟と言ってその場から消えた(高速移動)ようだ。

 あれだけ、キエティがグリフォンからの命令書の話をしたのに、全く話を聞いていなかったということだ。
 ただ、今になってキエティにすると、それも仕方ないと思う。
 本当にゼムドにとってはグリフォンなどどうでもいい存在だったのだ。

 しかし人は何故滅ぶことが無くなったのに、静かにしているのか?

 ゼムドはあの龍や魔族達の魔力放出から、人の地を守りつつ、グリフォン都市近辺での会話を魔法によって、人の世に流し続けたそうだ。
 というか、グリフォンの支配地域全土に、この音声は流されていたようだ。
 そのためこの音声を聞いて、初めてゼムドがグリフォンどころか、龍種から危険視されるほどの者であると人も気付いた。 
 その人物をめちゃくちゃ叩いていたわけだから、自分たちは滅ぼされるのではないかと今度は心配になっているのだった。

 そこで、キエティは国民に対してゼムドはそんなことで国を亡ぼしたりはしないと、国民に正式に自らもう一度放送を使って国民に呼びかけた。
 そしてキエティはその夜、死んだように眠りについた。


 次にキエティが起きた時、丸二日近く経っていた。
 肉体的なダメージは軽度であったが、精神面での疲れがドッと出たのだろう。
 アドレナリンが出ているときはいいが、それが切れてしまうとその反動は大きい。
 こんなに眠ったのは子供の時以来だった。

 少しぼーっとする。
 溜まっている仕事は多いだろうが、する気にならない、というか職務放棄することにした。

 とりあえず、風呂に入って体を温める。
 どうしようかなぁ、と考える。
 三日前にあったことを、色々と思い出してしまう。
 そして考えてしまう。
 すると、少しだけゼムドの行動において腑に落ちない点があることに気づく。
 ゼムドと話をしてみたいと思う。

 それに、まず、お礼を言わなければいけない。

***********************

 キエティは夜になって、ゼムドが宿泊しているホテルを訪れた。
 以前、ゼムドが滞在していたホテルは、ゼムドを罵倒した人達が暴れたせいで、現在は改装中だ。今日ゼムドが泊っているホテルは、高級ホテルではあるが高層ビルではない。10階建てのビルであり、どちらかというと高級マンションを宿泊施設に改造した感じだろうか?

 このホテルはスイートルームが予約で埋まっていた。
 ホテル側はゼムドのためにスイートルームの客を追い出して、部屋を確保しようとしたが、ゼムドが〝普通の部屋でいい〟そう言ったらしくて、現在は5階の一室にいるそうだ。
 服装はいつもの事務用や研究用の服装ではなく、エルフ族特有のドレスを着ていた。

 そしてドアをノックする。
「入れ」
 声を確認してから、中に入っていった。

 ゼムドはこちらを見ていない。
 ここ最近のいつものように魔道板を読みこんでいる。
 椅子に座り、テーブルに足を乗せている。
 今日は、行儀が悪い……。

 ゼムドの近くまで歩いて行って、ゼムドに話しかける。

「この度の事は本当にありがとうございました。この国を救って頂いたことも、この私の命を救って頂いたことも、本当に感謝申し上げます」

 そう言って、キエティはドレスの端を両手で掴んで、片足を少し折って姿勢を下げた。
 この動作は本来、舞踏会で男性と踊る時に、その申し出を女性からする際に行う動作だ。
 キエティには咄嗟だったが、この動作がなんとなくこの場にふさわしいように思えてやってしまった。

 しかし、ゼムドは返事をすぐにはしない――。

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