上 下
44 / 85

第43話 人族の代表達の対策

しおりを挟む
 キエティ、カズマサ、ガルドマドの人族の前で、キウエーン街で生じた事態の報告がされている。

 説明している人物は、なるべく内容を端的に短時間で伝えているようだ。
 キエティ、カズマサ、ガルドマドはグリフォンが出頭命令を出しに来た時の状況を報告されいた。
 説明している人物は、なるべく内容を端的に短時間で伝えようとしている。
 人族の下に、グリフォンから出頭命令書が届いたわけで、それについて人族の代表三人は集まって対策を練ることになった。

 カズマサが喋り出す。

「これはかなり危険な状況かもしれない」

「そうか? あの魔族がグリフォンを撃退するじゃろう?」

「いや、私はまさかこれほどの軍を送り込むとは思っていませんでした。グリフォンはよく言えば、誇り高い、悪く言えば尊大です。たかが人族に大勢の軍を送り込むなど、彼らのプライドからするとあり得ないと思っていました。グリフォンの歴史に汚点として残るからです。
 また、グリフォン国は、過去の大戦で周辺国から恨みを買っています。そのため、本国の警備を緩めることはできないと思っていました。しかし、グリフォンは一時的に、警備を解いてでも人族を侵攻することを優先した。おそらく、種のメンツが掛かってしまったからでしょう」

 キエティは黙っていた。自分が今回の出頭命令書を送られる原因の一つになってしまった以上、この場で自分が先に話すのは憚られた。

「キエティさんはどう考えますか?」

 カズマサが聞いてくる。

「私は、このグリフォンの出頭命令に従って、私がグリフォン国の裁判所で弁明すべきだと思います。今回の出頭命令は脅しになっていますが、すぐにグリフォンは攻めてくるつもりはないようです。今ならグリフォン国の裁判所で弁明すれば、人族は見逃してもらえる可能性があります」

「いや、それはないでしょう」

「何故ですか?」

 キエティがそう質問した瞬間だった、カズマサが一瞬〝あっ〟という顔をした。
 しかし、次の瞬間にはいつもの顔に戻っていた。

「ああ、確かにそうですね。たしかにグリフォン国にあなたとあの魔族が向かい、弁明してくるのがいいでしょう」

 カズマサがそう淡々としゃべった。
 キエティは少し不思議に思ったが、続けることにする。

「問題はあの魔族が同行するとは思えない点にあります。なんとか連れていければいいのですが」

「おまえさんとあの魔族は夫婦ではないのか?」

 ガルドマドが不思議そうな顔をしてキエティに尋ねた。

「再三になりますが、誤解です。何故、あのようにマスコミが急に私たちが結婚したかのように報道したのか分かりませんが、完全に誤報です。そして、その情報を傍受したグリフォンは、人族が魔族と結託して、グリフォン国に対して反旗を翻したと判断した。
 私とあの魔族に婚姻関係がないことを証明できれば、人族は無罪になるかもしれません」

「あの魔族は闘ってくれないのじゃろうか?」

「分かりません。私はここしばらく、あの魔族をずっと監視していましたが、あの魔族が戦うような魔力の使い方をするところを私は一度も見たことがありません。かなり高い魔力コントロールはできるようですが、グリフォンを相手にどれだけ戦えるのかはよく分かりません。
 それに、私はあの魔族と一緒にいて感じたことですが、自らがグリフォンに襲われれば、自衛のために戦うでしょうが、あの魔族が人のために戦うとは思えません。自分の領地と最初に言ったようですが、本当に人を守るつもりがあるのか分かりません」

 その言葉を聞いて残りの二人の顔が曇る。
 キエティは言う。

「もうこの段階です。時間がありません。私はあの魔族を何とかして、グリフォンの国へ一緒に行くように説得してみます。あの魔族にとっては、現在、生きるか死ぬかの状況にあるということを理解していないはずなので、今ならうまくグリフォンの前へ連れ出すことが出来るかもしれません。
 時間が惜しいです。私はこれから、すぐにあの魔族の説得に当たります」

 そう言ってキエティは立ち上がると、その会議部屋から出て行った。

 キエティ以外の二人の男がその場に取り残される。

********************

 カズマサは〝失敗した〟と思った。

 あの魔族にキエティをあてがえて、既成事実にしてしまえば喜んで人の国を守ると思ったが、完全に間違いだった。下手にマスコミを使って、結婚という既成事実を〝作った〟ことが裏目に出た。
 あの魔族がグリフォン数十体程度になら勝てる可能性もあると思っていたが、まさかグリフォン軍の半分を人族の国へ向けるとは思わなかった。

 グリフォンが二十体もいれば人族の街を相当壊すことはできる。にもかかわらずこれほどの脅しをかけるということは、グリフォン国は相当怒っていることになる。あの魔族が強いことを考慮しても、たかが人族に軍を半分ほど向けるなど、奴らのプライドからするとは思わなかったが、現実にはそうなってしまった。

 出頭命令の時間が1日という時間の短さがこれを示している。1日ならば他国はこの時間を突いて、軍や暗殺者を派遣することはない。人族を滅ぼすのはもちろん1日掛からない。短期間なら、本国の警備は緩めてもかまわないと判断したのか。

 それに、もしエルフ女とあの魔族が出頭しないのであれば、その場で、軍半分の戦力で人族を滅ぼすつもりだろう。単に街を破壊するだけではなく、1人も逃がさず、人族自体を完全に絶滅させるつもりか……。弱い者に対して過剰な戦力を投入しようとしている理由の一つはおそらく、他国へのみせしめだ。

 エルフ女は出頭する気があるようだが、今の会議での、あの女のニュアンスからすると、あの魔族が出頭することはないだろう。

 運よく、あの魔族の説得に成功してグリフォン国へ連れていくことが出来ても意味はない。

 なぜなら、あの女と魔族に〝関係がないことを証明はできない〟からだ。男女の関係を否定するのには、相当合理的な証拠がなければ、当事者だけの証言では意味が無い。

 まさに〝悪魔の証明〟の典型だ……。

 グリフォンは相当怒っている。対外的、国内的な意味でも何かしらの報復措置を示す必要もあるだろう……。

 これは……もう人族はダメだな……。

 ――すぐにでもこの都市から逃げるしかない――

 実力のある冒険者に現状を説明して、この国から自分と家族を守ってもらいながら脱出を手伝ってもらうしかない。

 亡命した後、受け入れをしてくれる国があるかどうかわからないが、ここにいては殺されるのは明白だ。

 すぐにそう結論付けると、会議室から急いで出て、階段に向かって走り出していた。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...