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第18話 人族の三人の代表者たち その1 

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 人族の三人の代表は、ゼムドとの接見が終了した後、ゼムドを都市部で一番の高級ホテルへ案内するよう、部下に指示を出した。

 そして、次にメディアを通して現状を国民に伝えることとなった。
 普段、このような発表の場では、三人のうち、人のカズマサが代表して国民に説明をすることが多いが、何故か今回に限ってはカズマサが〝キエティが説明する方がいい〟と言い出したのでキエティがあの魔族について国民へ説明することになった。

 キエティは大勢のメディアのフラッシュに焚かれながら説明することになった。
 キエティはマイクを持って、説明していく。

「この映像をご覧になっている国民の皆様、また、この度お集まり頂いたマスコミの方々、エルフ種代表キエティから今回の一連の騒動について、ご説明させていただきます。メディアにはかん口令を出していたのですが、五日ほど前に一人の魔族が、私たち人の国へ侵入しました。当初、この魔族には用事が済み次第、帰って頂くつもりでした。しかし、今日の昼に首都では大騒ぎになったように、議会建物へこの魔族は侵入しました。そして私たちに要求をしてきました。これが一連の流れになります」

 そう言った瞬間、物凄いフラッシュがキエティに向かって焚かれた。キエティは眩しくて思わず目を閉じてしまった。が、目を開けて話を続ける。

「魔族が私たちに要求してきたことは、〝自分に人々の生活を観察させろ〟ということになります。現在までに、この魔族が人族の街に侵入して以来、この魔族が誰かを傷つけたことはありません。皆さん、ご心配されているでしょうが、その点についてだけは問題ありません。私も今日この魔族に実際に会いましたが、そのようなことをする人物ではないと理解しました」

 キエティはここで嘘を付いた。
 あの魔族が人を傷つけない保証はないが、ただ、それを言うとパニックになってしまう。あの魔族は、今日、嘘さえつかなければ街を壊さないと言っていた。だったら、それに向かって、人を束ねるのが自分の役割だと思ったからだ。そう思って続ける。

「つきましては国民の方々は、今からもパニックになることはなく、いつも通りの生活をして下さい。また、あの魔族が何か見学に来ても、怯えず自分たちの生活を見せてやってください。そして、あの魔族を怒らせないように言動には気を付けてください。あの魔族が人を傷つけることはないと思いますが、攻撃すれば、自分を守ろうと、他者を攻撃することはあり得ます。それは人でも同じです。傷つけられようとすれば反撃することはあり得ます。
 決して、あの魔族を怒らせないような行動を取ってください。また、メディアに関してはあの魔族につきまとう、あるいは、近づいて報道をすることを禁じます。もし、それに違反したメディアは、極刑に処せられる場合もあることを肝に銘じてください」

 キエティはまた嘘を付く。グリフォンを倒したあの魔族が、ただの人に傷つけられるわけないが、あえて魔族を刺激しないように国民へ注意喚起する。
 グリフォンをあの魔族が倒したという話については今後も伏せておくつもりだ。一部のメディアが既にかぎつけていて、おそらくそのうちその手の話が出回るのは予想できたが、今は、あの魔族が満足して帰っていくまでの時間が稼げればいい。何も皆を混乱させることはない。ここでも嘘を付いたことになるが仕方ない。

 加えて、マスコミについては強く釘を刺して置いた。マスコミが過剰にゼムドを追跡すれば、人の生活を見学する際に邪魔になる。それだけは避けたかった。

「以上になります。それではメディアの方々からの質問を受け付けます」

 そう言った瞬間にまたフラッシュが焚かれ、そして、そのあと一時間ほどキエティはマスコミへの応対に時間を取られることになった。
 キエティはマスコミの対応を終えてから、各部署に色々と連絡しなければいけなかった。時間は既に深夜になっていたが、キエティはまだ寝るわけにはいかなかった。

 メディアはしつこかったが、その対応については部下に任せて、ゼムドをどうするか考える。
 とりあえず、ゼムドには新しい情報の入った魔道板を与えておいた。上位種の魔族は寝ないと言っていたから、おそらく今もホテルのスイートルームで魔道板を見続けているのだろう。

 実際に会って話した感じだと、ゼムドは魔族の下位種のように知能が低いわけではないと思った。
 キウェーン街に着いてからのあの魔族の行動については逐一報告を受けていたが、これまでの行動にしても、今日会って会話をした感じでも、嘘で騙し通せる相手ではないと思った。当初は、何かしらうまいことを言って、そのまま帰ってもらおうと考えていたが、今日の会話からすると下手な小細工をすると何をするか分からない。

 とにかく、当面は人の街を見学させてやるしかないと思った。

 とすると、誰かがゼムドに付き添ってその要求に応えてやる必要があるだろう。ただ、今日の議会での対応を見ていると、カズマサはこの魔族に対してあまり近寄りたくない感じだった。まぁ、当然だと思う。
 自分だって、あの魔族に近づくのは怖いとは思う。
 それに、自分は人族の代表の一人だ。
 私の軽率な行動がもしかすると人の国全体に大きな損失を与えてしまう可能性だってある。
 政治家としては政治生命という意味で、致命的なリスクを取りたくない面はある。

 正直、この手の交渉術の専門家を探してゼムドの対応に当たらせるのが判断としては妥当だろう。
 ただ――私は、個人としてあの魔族に会ってみたいとも思う。
 私はエルフ種の代表であると同時に、大学の教授もしている。研究者としての探求心からあの魔族に会ってみたいという欲求があるのは事実だ。

 ……。

 ――自分はあの魔族に会ってみよう――

 キエティはそう決意すると、翌日ゼムドに会うための準備をしていくのだった。

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