先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

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第七章

第182話 フォトスポット

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「このあとはどうする? 友達との約束までもう少し時間あるけど」

 クレープのゴミを袋に詰めつつ、たくみ香奈かなに問いかけた。

「ちょっと行きたいところがあるんですけど、いいですか?」
「もちろん。どこ?」
「写真部です」
「写真部?」

 香奈らしくないな、と巧は首を傾げた。
 一つだけ彼女が食いつきそうなものがあることを思い出した。

「あっ、もしかしてフォトスポット?」
「イエス!」

 香奈がパチンと指を鳴らした。

「せっかくなので写真撮りたいなーって。思い出にも残りますし、どうですか?」
「いいじゃん。行こっか」
「はい!」

 香奈は嬉しそうに破顔して巧の腕に飛びついた。
 一度ぎゅっと抱きしめたあと、体は離して手を軽く添えた。

「これくらいならいいですよね?」
「いいんじゃないかな。カップルなら普通だろうし」

 スポーツ選手の夫と付き従う妻のようなフォーメーションで写真部に向かった。
 フォトスポットは教室の一番奥に設置されていた。
 展示されている写真をなんとなく見て回りつつ向かう。

 どうやら写真部の部員がカメラマンをやってくれるようだ。三年生の矢田やた翔子しょうこという女子生徒だった。

「じゃあポーズ決めてねー」
「イエーイ!」

 香奈が一歩前に出て腰に手を当てながらピースをした。巧は背後からその肩に手を添えつつ、空いている手は同じようにピースをした。
 あからさまにカップルっぽいポーズがイタいのはわかっていたため、少しおふざけ要素を取り入れたのだ。他にもいくつかのポーズを考えていた。

 最後に一枚だけ、これぞ恋人という写真を撮った。
 香奈は巧の腰に、巧は香奈の肩に手を回してピッタリと体を寄せあったものだ。

「はい、オッケー」

 翔子が指で丸を作った。
 現像してもらう写真を選んでから、写真部を退出した。

「なんか恥ずかしかったですね」
「そうだね。でも、香奈との思い出が作れてよかったよ」
「嬉しいこと言ってくれますねぇ」

 香奈としては本当は抱きついて唇にかじりつきたかったが、校内なので手を握るだけにとどめた。
 巧も握り返す。もちろん恋人繋ぎだ。

「これだけでも十分だよね」
「ですね」

 二人はくすぐったそうに笑い合い、肩を寄せながらその場を後にした。

「……あいつら、手を繋いでるだけだからセーフとか思ってるだろ」
「あぁ。何気ないやりとりが高火力すぎるって絶対自覚してねえ」
「なんなら笑い合ってるだけでもアウトだよね」
「それな」

 二人の甘々なやり取りに遭遇してしまった者たちは、羞恥に頬を染めるかゲンナリとした表情を浮かべた。
 ——写真部の部室内でも、同じ現象が起こっていた。

「なんなのあの二人……」
「マジでなんなんだよ……」

 カメラマンの翔子も周囲の群衆も、二人が最後の一枚以外はポップな雰囲気を出そうとしていたことはわかっていた。
 だからこそ疑問だった。どうしてあいつらはふざけていてもこんなに甘ったるいのかと。

 そんな経験をしていたからだろう。
 巧と香奈が出ていってから程なくして入ってきた知り合いの二人を見て、翔子は顔をしかめそうになってしまった。

(またサッカー部カップルかい……!)

 三葉みわ玲子れいこだ。
 玲子の提案だった。三葉はガチガチに緊張していた。

秀人しゅうと。せっかく写真を撮るんだから笑ってくれよ」
「わ、わかっている」

 三葉はメガネをかちゃかちゃさせた。
 大丈夫だろうか、と玲子は苦笑いを浮かべた。

(まあ、それはそれでいい思い出になるな)

 気を取り直してフォトスポットに向かう。
 玲子はカメラマンに向かって手を上げた。

「やあ翔子。何やら疲れた顔をしているな。どうした?」
「あんたたちの後輩のせいで胃もたれしてるだけだよ」

 後輩のカップルといえばまさるとあかりもそうだし、誠治せいじ冬美ふゆみだって写真くらいは撮りにきてもおかしくない。
 だが、翔子のゲンナリとした表情を見れば心当たりは一組しかなかった。

如月きさらぎ君と香奈ちゃんか?」
「正解。別にそんなあからさまにイチャイチャしてるようなポーズじゃないのにさ、なんであんなに甘ったるくなるわけ?」
「それがあの二人だ。諦めたほうがいい」
「先輩でしょ。なんとかしてよ」
「無理だな。あれはチートだから」

 玲子は諦めとともに首を振った。隣で三葉も同意するようにうなずいている。
 翔子はやれやれとため息を吐いた。

「まあいいけど。で、あんたらもカップル用の撮りに来たんでしょ?」
「そんな嫌そうな顔をするな。私たちはそこまで砂糖ばら撒き体質じゃない」
「あの二人が異常なだけで、あんたらも大概だけどね」
「そうか? まあ常識の範囲内にするよ」
「頼むよ。よし、じゃあ並んでー」

 隣同士で並んで立つ。
 三葉は相変わらず固くなっていたが、先程笑ったことで少し緊張がほぐれたのだろうか。
 ぎこちないながらも笑みを浮かべていた。

 玲子はスッと肩を寄せた。触れ合った肩から動揺が伝わってきた。

(可愛い反応をするな、秀人は)

 玲子も玲子で緊張はしていたが、三葉が自分よりも初々しい反応をするので心に余裕があった——肩に手が置かれるまでは。

「っ……⁉︎」

(か、肩を抱かれている……!)

 玲子は真っ赤になってしまった。
 シャッター音がした。カメラの向こうで翔子がニヤニヤ笑っていた。

「玲子、三葉以上に真っ赤だぞー」
「う、うるさいっ!」

 玲子の頬にさらに熱が集まった。
 三葉が心配そうな表情で覗き込んでくる。

「玲子。嫌じゃなかったか?」
「ま、まさか! ちょっとびっくりしただけだよ」

 玲子は嘘ではないことを証明するために、三葉の腰に手を回した。

「そうか。よかった」

 三葉はホッとしたようにうなずいた。
 ——彼の中では、肩を抱いている恥ずかしさよりも玲子に嫌がられなかった安心のほうが勝っていた。
 結果として、普段よりも大胆な行動に出ることができた。

 三葉は玲子の肩に置いている手に力を込め、グッと自分のほうに抱き寄せた。

「っ……!」

(こ、こんな大胆に……!)

 玲子は続けざまに仕掛けられた奇襲に全く対応できなかった。
 しかし、恥ずかしくはあっても嫌ではなかった。むしろ嬉しかった。ゾクゾクとした快感のようなものが全身を駆け巡った。

(私も負けてられないなっ……)

 玲子は思い切って三葉の胸に顔を寄せた。
 その時点で、彼らはどちらも完熟りんごすらも白旗をあげてしまうほど赤くなっていた。
 翔子が呆れを隠さずにつぶやいた。

「……やっぱり、あんたらも大概だよ」
「「っ~!」」

 お互いのことしか見えていなかった玲子と三葉は、他人に見られていたことを思い出して羞恥に悶えた。

 ——翔子は胸焼けさせられたせめてもの仕返しとして、悶絶している二人の写真を連写した。



 写真部を逃げるように出た後、玲子と三葉は一旦解散した。
 恥ずかしい思いをして気まずくなったからではない。元からお互い友達と回る約束をしていたのだ。

 文化祭の後片付けが終わった後、連れ立って駅に向かった。
 お互いに部活はない。玲子と同じくらいのタイミングで、三葉もサッカー部を辞めていた。

 玲子の最寄り駅でどちらも降りた。
 三葉の最寄りはもう少し先だが、一緒に帰るときは家まで送って行くのが常になっていた。
 玲子としては申し訳なさもあったが、三葉からすれば一緒にいられる時間が増えて玲子の安全も確保できるため、いいことずくめだった。

「玲子——」

 家に着く直前、三葉は緊張気味に彼女の名を呼んだ。

「どうした?」
「手を出してくれ」
「こうか?」

 玲子が水の受け皿を作るように、両手を差し出した。
 三葉が手渡したのはリボンだった。玲子の髪の毛や瞳と同色の、深海を連想させる青色だった。

「これを……私に?」
「あ、あぁ。見た瞬間に玲子が思い浮かんで、気がついたら手に取っていた。気に入らなければ捨ててくれて構わないが——」
「そんなことはしないっ」

 玲子は母親が赤子にそうするようにリボンを胸に抱きしめた。

「可愛いし、何より秀人がプレゼントしてくれたものだ。捨てるわけないだろう」
「そ、そうか」
「そうだよ」

 強い口調で言い切った後、玲子は一転して気恥ずかしそうにやや視線を伏せながら、

「その、つけてみてもいいか?」
「あ、あぁ、もちろん」

 玲子は頭にリボンをつけた。はにかみながら、上目遣いで三葉を見た。

「どう、かな?」
「……かわいい」

 三葉は思わずそうつぶやいていた。
 彼が自分が何を言ったのか自覚をしたのと、玲子が何を言われたのか理解したのは同時だった。

 時刻は夕食どきでさすがに夏空も暗くなっていたが、それでも相手の顔が真っ赤であることはわかった。

「秀人、顔が真っ赤だぞ?」
「れ、玲子だってそうじゃないか」

 墓穴を掘りあった後、どちらからともなく肩を揺らして笑い出した。
 玲子はゆっくりと歩み寄った。三葉の手を取り、両手で握った。

「素敵なプレゼントをありがとう、秀人」
「と、とんでもない」

 三葉はメガネが吹っ飛びそうなほどブンブン首を振った。
 それから、先ほど以上に赤面しつつも玲子から視線を逸らさず、

「その……玲子」
「なんだ?」
「だ、抱きしめてもいいか?」

 玲子は目を見開いた後、花が咲いたように笑った。

「あぁ、もちろん」

 ためらいがちに広げられた腕に飛び込んだ。三葉はおずおずと、しかし力強く彼女を抱きしめた。
 それからしばらくの間、二人は抱き合っていた。
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