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第二章
第44話 美少女後輩マネージャーの頭を乱暴に撫でてみた
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「……」
「……」
帰り道、巧と香奈は無言だった。初めてのことだった。
巧は気まずさを感じていたが、難しい表情を浮かべている香奈が必死に感情を処理しようとしているのは見て取れたので、話しかけるのは控えた。
それに、彼自身も感情の整理が必要だった。
「……あんなやつに優しくする必要なんてなかったでしょう」
ようやく香奈が言葉を発したのは、巧の家に到着したあとだった。
当然のように巧の家に上がり込んだ香奈は、彼の手を引いてソファーに腰を下ろした。
巧としても、逆らう理由はない。
自然と、二人で横に並んで座る形になる。
「あいつは結局、私と巧先輩が仲良しなのが気に入らなかっただけじゃないですか」
「そうだね。けど、彼のような考えの人が少なくないのは事実だし、共感はできないけど理解はできるからね。たしかに傍から見れば僕と香奈は釣り合ってないだろうし……いててっ」
脇腹をつねられ、巧は驚いて香奈を見た。
「な、なんで?」
「なんで、はこっちのセリフですっ。さっきもそうでしたけど、なんで先輩はそうやって自分を卑下するんですか!」
「っ……!」
巧は息を呑んだ。香奈が激昂したから、ではない。
その紅玉のような瞳に、雫が溜まり始めていたからだ。
「巧先輩は、ちょっと上手いからって調子乗ってるやつなんかよりよっぽどすごいです! 努力が実を結ばなくても腐らずに頑張って、後輩もいるのに準備や片付けも率先してやって……先輩みたいな人こそ評価されるべきですしっ、そもそも私が先輩といたくて一緒にいるんですから、釣り合ってるかどうかなんていう話が出ること自体おかしいです!」
「……うん、ありがとう」
涙を流しつつ叫ぶ香奈は、これまで溜めてきた想いを吐き出しているようだった。
前からそんなふうに評価してくれてたんだ——。
巧は、胸の内が温かくなるのを感じた。
「あ、あと、そのっ……!」
「ん?」
うつむいていた香奈が、勢いよく顔をあげて巧を見た。
彼女は頬を赤らめ、
「巧先輩だってか、か、格好いいですからっ! 見た目だけでも、釣り合わないなんてことは絶対にないです!」
「っ……!」
巧は息を呑んだ。頬が熱くなるのを感じる。
(そんな顔でそんなことを言われたら、さすがに照れるって……)
赤くなった頬を見られないように、巧は明後日の方向を向いた。
(い、言っちゃった……!)
香奈は香奈で、とても巧を見続けることなどできなかった。
彼女は顔を背けたまま巧の腕をつかみ、自分の頭に持っていった。
「……許可してあげます」
「う、うん」
あんなことを言われた直後で恥ずかしかったが、巧は言われるがままに香奈の髪を撫でつけた。
「……ありがとね、香奈。さっきみたいに言ってくれて、すごく嬉しかったよ」
「……巧先輩の自己評価が低すぎるんです」
不満そうに言いつつ、香奈が巧の肩に頭を乗せた。
「か、香奈?」
巧は動揺した。
「私は今、巧先輩のせいで不機嫌なんです。先輩に拒否権はありません」
「……わかった」
「よろしい。物分かりのいい人は嫌いじゃありません」
巧も、自分の発言が香奈にとって愉快なものでなかったのは自覚していた。
だからこそ肩に頭を乗せるという先輩後輩の関係を逸脱していそうなことも許したわけだが、上から目線の発言には少し腹が立った。
というより、されるがままになっているのが悔しかった、という側面のほうが大きかった。先輩としてのプライドだ。
(少しくらいなら、やり返してもいいよね)
巧は香奈の頭を、前髪が崩れるくらい乱暴に撫でた。
「わっ……!」
香奈は驚いた様子を見せたが、抵抗はしなかった。
「……嫌じゃないの?」
「前に言いませんでした? 乱暴な巧先輩も見てみたいって」
香奈がニヤリと得意げに笑った。
多少前髪が崩れた程度では、彼女の美貌は損なわれていなかった。
「……うん、今日のとこは負けを認めるよ」
巧は大人しく白旗をあげた。手つきも優しいものに戻す。
「ふふ、これで通算戦績は私の十一勝三十敗ですね」
「いや負け越してるんかい」
「違いますよ巧先輩。そこは『いや僕の誕生日やないかい』ってツッコまないと」
「わかるか。たしかに僕十一月三十日生まれだけど」
「わかれっ……です!」
香奈が慌てた様子で敬語をつける。
なんだかおかしくて、巧は口元を抑えてくつくつと笑った。
最初は不満げだった様子の香奈も、やがて一緒に笑い出した。
笑い終わると、香奈が真面目な表情と声色で、
「巧先輩」
「ん?」
「また助けてくれてありがとうございました。あと、すみません。私のせいで迷惑をかけちゃって……」
「全然。迷惑だなんて思ってないよ」
「でも、これからも新島みたいな輩が出てこないとも限らないし……」
「大丈夫。そんなのが原因で香奈と距離を取ることはないから」
「っ……!」
香奈が目を見開いた。
どうやら、巧の読みは当たっていたらしい。
「香奈が悪いわけじゃないのに離れるなんておかしいし、なんか悔しいじゃん。そんなのが原因で僕たちが仲悪くなるなんてさ。だから何も気にしないでいいよ。香奈が元気じゃないと、僕の調子も狂っちゃうからさ」
「……ありがとうございます。でも、いいんですか? そんなこと言っちゃって」
「何が?」
「今まで以上にハイテンションになりますよ、私」
「大丈夫だよ」
巧はサムズアップした。
「うるさかったら追い出すか、窓から放り投げればいいだけだから」
「お姫様抱っこで?」
「お姫様抱っこで」
「じゃあ別にいいです」
香奈がにぱっと笑った。
「あっ、でも、それでいうと一つだけ注意しておくことがあるよ」
「えっ、なんですか?」
香奈が一気に不安そうな表情を浮かべた。
「香奈、晴弘の前で思いっきり僕のこと巧先輩って呼んでたよ」
「えっ? ……あっ、す、すみません!」
香奈が焦りの表情を浮かべ、ペコペコと頭を下げた。
「まあ、今回は事情が事情だけに仕方なかったけど、一応気をつけてね」
「はい、すみません……次言っちゃったら好きなだけ頭撫でていいですよ」
「だからなんで、僕を後輩女子の頭を撫でたがる変態に仕立て上げるのさ。それにそれ、罰にならなくない? 香奈、わりと頭撫でられるの好きでしょ」
「え、えへへ~、バレました?」
「そりゃ、あれだけ気持ちよさそうにしてたらね。大丈夫。罰はちゃんとこっちで考えておくから」
「や、優しくしてくださいね?」
「……ふむ。それもアリか」
むしろ香奈には、一般的な罰よりも精神的にむずむずさせるようなもののほうがダメージが大きそうだ。褒めまくるとか。
「た、巧先輩? 笑顔が怖いんですけど?」
香奈が頬を引きつらせる。
巧はそんなことないよ、と口角を吊り上げた。
「ニィ、って笑うのやめてください!」
香奈が腕を抱き、本気で怖がるそぶりを見せた。
巧は声をあげて笑った。
◇ ◇ ◇
その後も和やかな時間が過ぎ、香奈は蘭が帰ってくるタイミングで巧の家を辞去した。
自室のベッドにダイブをし、彼女は頭を抱えて転げ回った。
(あ、頭撫でられるの好きってバレてたー!)
——そりゃ、あれだけ気持ちよさそうにしてたらね。
巧の言葉が蘇り、さらなる羞恥心に襲われる。
香奈との関係を単なる先輩後輩としか捉えていない彼が確信するほど、だらしない表情をしていたということだ。
「うぅ……今後どんな顔して頭撫でられればいいんだ……」
香奈は顔を覆った。
彼女の選択肢に、撫でられるのをやめるという項目は存在しない。
頬が緩み切ってしまうくらいの幸せを手放すことなど、どうしてできようか。
「で、でもまあ、巧先輩も別に引いてなかったし……」
むしろ微笑ましそうにしていた。
明らかに先輩が後輩に向ける視線だったが、それでもネガティヴなものでなかったのはたしかだ。
(それに、新島みたいなバカに絡まれても離れないって約束してくれたのはマジで嬉しかったな……)
密かに恐れていたことだった。
ああいう輩は総じて思い込みが激しい。いくら香奈が注意したところで、彼らのフィルター越しでは無理やり言わされている可哀想な被害者としか映らないのだ。
バイアスの力はすさまじい。
第三者から見れば明らかに破綻している論理でも、彼らの中では理に適った主張になってしまう。
そしてもっとも厄介なのは、彼らは一様に自分が香奈のために行動していると信じて疑っていないことだ。
だから今回の晴弘のように巧を悪と決めつけ、非常識な行動を平気で行なってしまう。
さすがの巧も、そういうのに絡まれれば嫌気が差して香奈と距離を取ろうとするかもしれない、などと危惧していたが、
(元々の性格もそうだけど、それくらいには大切に想ってくれてるってことなのかなっ。肩に頭乗っけたときもちょっと動揺してくれてたし、なんか今日でちょっと距離が縮まった気がする……!)
晴弘のことは許すつもりはないし、今後仲良くすることなど天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。
それでも、結果論ではあるが、彼が絡んできたからこそ巧との関係をほんの少しでも進展させることができたと考えると、少しだけ溜飲が下がった。
「ま、それもこれも、巧先輩の海よりも広い心のおかげだけどねっ!」
香奈は勢いをつけてベッドから起き上がった。
そして、最悪な一日にもなりかねなかった今日をむしろ最高のものにしてくれた巧に、感謝の言葉を述べた。
「いつも幸せにしてくれてありがとうございます、巧先輩っ」
私も、少しでも先輩を幸せにできるように頑張りますから——。
「……」
帰り道、巧と香奈は無言だった。初めてのことだった。
巧は気まずさを感じていたが、難しい表情を浮かべている香奈が必死に感情を処理しようとしているのは見て取れたので、話しかけるのは控えた。
それに、彼自身も感情の整理が必要だった。
「……あんなやつに優しくする必要なんてなかったでしょう」
ようやく香奈が言葉を発したのは、巧の家に到着したあとだった。
当然のように巧の家に上がり込んだ香奈は、彼の手を引いてソファーに腰を下ろした。
巧としても、逆らう理由はない。
自然と、二人で横に並んで座る形になる。
「あいつは結局、私と巧先輩が仲良しなのが気に入らなかっただけじゃないですか」
「そうだね。けど、彼のような考えの人が少なくないのは事実だし、共感はできないけど理解はできるからね。たしかに傍から見れば僕と香奈は釣り合ってないだろうし……いててっ」
脇腹をつねられ、巧は驚いて香奈を見た。
「な、なんで?」
「なんで、はこっちのセリフですっ。さっきもそうでしたけど、なんで先輩はそうやって自分を卑下するんですか!」
「っ……!」
巧は息を呑んだ。香奈が激昂したから、ではない。
その紅玉のような瞳に、雫が溜まり始めていたからだ。
「巧先輩は、ちょっと上手いからって調子乗ってるやつなんかよりよっぽどすごいです! 努力が実を結ばなくても腐らずに頑張って、後輩もいるのに準備や片付けも率先してやって……先輩みたいな人こそ評価されるべきですしっ、そもそも私が先輩といたくて一緒にいるんですから、釣り合ってるかどうかなんていう話が出ること自体おかしいです!」
「……うん、ありがとう」
涙を流しつつ叫ぶ香奈は、これまで溜めてきた想いを吐き出しているようだった。
前からそんなふうに評価してくれてたんだ——。
巧は、胸の内が温かくなるのを感じた。
「あ、あと、そのっ……!」
「ん?」
うつむいていた香奈が、勢いよく顔をあげて巧を見た。
彼女は頬を赤らめ、
「巧先輩だってか、か、格好いいですからっ! 見た目だけでも、釣り合わないなんてことは絶対にないです!」
「っ……!」
巧は息を呑んだ。頬が熱くなるのを感じる。
(そんな顔でそんなことを言われたら、さすがに照れるって……)
赤くなった頬を見られないように、巧は明後日の方向を向いた。
(い、言っちゃった……!)
香奈は香奈で、とても巧を見続けることなどできなかった。
彼女は顔を背けたまま巧の腕をつかみ、自分の頭に持っていった。
「……許可してあげます」
「う、うん」
あんなことを言われた直後で恥ずかしかったが、巧は言われるがままに香奈の髪を撫でつけた。
「……ありがとね、香奈。さっきみたいに言ってくれて、すごく嬉しかったよ」
「……巧先輩の自己評価が低すぎるんです」
不満そうに言いつつ、香奈が巧の肩に頭を乗せた。
「か、香奈?」
巧は動揺した。
「私は今、巧先輩のせいで不機嫌なんです。先輩に拒否権はありません」
「……わかった」
「よろしい。物分かりのいい人は嫌いじゃありません」
巧も、自分の発言が香奈にとって愉快なものでなかったのは自覚していた。
だからこそ肩に頭を乗せるという先輩後輩の関係を逸脱していそうなことも許したわけだが、上から目線の発言には少し腹が立った。
というより、されるがままになっているのが悔しかった、という側面のほうが大きかった。先輩としてのプライドだ。
(少しくらいなら、やり返してもいいよね)
巧は香奈の頭を、前髪が崩れるくらい乱暴に撫でた。
「わっ……!」
香奈は驚いた様子を見せたが、抵抗はしなかった。
「……嫌じゃないの?」
「前に言いませんでした? 乱暴な巧先輩も見てみたいって」
香奈がニヤリと得意げに笑った。
多少前髪が崩れた程度では、彼女の美貌は損なわれていなかった。
「……うん、今日のとこは負けを認めるよ」
巧は大人しく白旗をあげた。手つきも優しいものに戻す。
「ふふ、これで通算戦績は私の十一勝三十敗ですね」
「いや負け越してるんかい」
「違いますよ巧先輩。そこは『いや僕の誕生日やないかい』ってツッコまないと」
「わかるか。たしかに僕十一月三十日生まれだけど」
「わかれっ……です!」
香奈が慌てた様子で敬語をつける。
なんだかおかしくて、巧は口元を抑えてくつくつと笑った。
最初は不満げだった様子の香奈も、やがて一緒に笑い出した。
笑い終わると、香奈が真面目な表情と声色で、
「巧先輩」
「ん?」
「また助けてくれてありがとうございました。あと、すみません。私のせいで迷惑をかけちゃって……」
「全然。迷惑だなんて思ってないよ」
「でも、これからも新島みたいな輩が出てこないとも限らないし……」
「大丈夫。そんなのが原因で香奈と距離を取ることはないから」
「っ……!」
香奈が目を見開いた。
どうやら、巧の読みは当たっていたらしい。
「香奈が悪いわけじゃないのに離れるなんておかしいし、なんか悔しいじゃん。そんなのが原因で僕たちが仲悪くなるなんてさ。だから何も気にしないでいいよ。香奈が元気じゃないと、僕の調子も狂っちゃうからさ」
「……ありがとうございます。でも、いいんですか? そんなこと言っちゃって」
「何が?」
「今まで以上にハイテンションになりますよ、私」
「大丈夫だよ」
巧はサムズアップした。
「うるさかったら追い出すか、窓から放り投げればいいだけだから」
「お姫様抱っこで?」
「お姫様抱っこで」
「じゃあ別にいいです」
香奈がにぱっと笑った。
「あっ、でも、それでいうと一つだけ注意しておくことがあるよ」
「えっ、なんですか?」
香奈が一気に不安そうな表情を浮かべた。
「香奈、晴弘の前で思いっきり僕のこと巧先輩って呼んでたよ」
「えっ? ……あっ、す、すみません!」
香奈が焦りの表情を浮かべ、ペコペコと頭を下げた。
「まあ、今回は事情が事情だけに仕方なかったけど、一応気をつけてね」
「はい、すみません……次言っちゃったら好きなだけ頭撫でていいですよ」
「だからなんで、僕を後輩女子の頭を撫でたがる変態に仕立て上げるのさ。それにそれ、罰にならなくない? 香奈、わりと頭撫でられるの好きでしょ」
「え、えへへ~、バレました?」
「そりゃ、あれだけ気持ちよさそうにしてたらね。大丈夫。罰はちゃんとこっちで考えておくから」
「や、優しくしてくださいね?」
「……ふむ。それもアリか」
むしろ香奈には、一般的な罰よりも精神的にむずむずさせるようなもののほうがダメージが大きそうだ。褒めまくるとか。
「た、巧先輩? 笑顔が怖いんですけど?」
香奈が頬を引きつらせる。
巧はそんなことないよ、と口角を吊り上げた。
「ニィ、って笑うのやめてください!」
香奈が腕を抱き、本気で怖がるそぶりを見せた。
巧は声をあげて笑った。
◇ ◇ ◇
その後も和やかな時間が過ぎ、香奈は蘭が帰ってくるタイミングで巧の家を辞去した。
自室のベッドにダイブをし、彼女は頭を抱えて転げ回った。
(あ、頭撫でられるの好きってバレてたー!)
——そりゃ、あれだけ気持ちよさそうにしてたらね。
巧の言葉が蘇り、さらなる羞恥心に襲われる。
香奈との関係を単なる先輩後輩としか捉えていない彼が確信するほど、だらしない表情をしていたということだ。
「うぅ……今後どんな顔して頭撫でられればいいんだ……」
香奈は顔を覆った。
彼女の選択肢に、撫でられるのをやめるという項目は存在しない。
頬が緩み切ってしまうくらいの幸せを手放すことなど、どうしてできようか。
「で、でもまあ、巧先輩も別に引いてなかったし……」
むしろ微笑ましそうにしていた。
明らかに先輩が後輩に向ける視線だったが、それでもネガティヴなものでなかったのはたしかだ。
(それに、新島みたいなバカに絡まれても離れないって約束してくれたのはマジで嬉しかったな……)
密かに恐れていたことだった。
ああいう輩は総じて思い込みが激しい。いくら香奈が注意したところで、彼らのフィルター越しでは無理やり言わされている可哀想な被害者としか映らないのだ。
バイアスの力はすさまじい。
第三者から見れば明らかに破綻している論理でも、彼らの中では理に適った主張になってしまう。
そしてもっとも厄介なのは、彼らは一様に自分が香奈のために行動していると信じて疑っていないことだ。
だから今回の晴弘のように巧を悪と決めつけ、非常識な行動を平気で行なってしまう。
さすがの巧も、そういうのに絡まれれば嫌気が差して香奈と距離を取ろうとするかもしれない、などと危惧していたが、
(元々の性格もそうだけど、それくらいには大切に想ってくれてるってことなのかなっ。肩に頭乗っけたときもちょっと動揺してくれてたし、なんか今日でちょっと距離が縮まった気がする……!)
晴弘のことは許すつもりはないし、今後仲良くすることなど天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。
それでも、結果論ではあるが、彼が絡んできたからこそ巧との関係をほんの少しでも進展させることができたと考えると、少しだけ溜飲が下がった。
「ま、それもこれも、巧先輩の海よりも広い心のおかげだけどねっ!」
香奈は勢いをつけてベッドから起き上がった。
そして、最悪な一日にもなりかねなかった今日をむしろ最高のものにしてくれた巧に、感謝の言葉を述べた。
「いつも幸せにしてくれてありがとうございます、巧先輩っ」
私も、少しでも先輩を幸せにできるように頑張りますから——。
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