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第二十七.五章
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「生命力探知機が犯罪で使われた⁉」
「しっ。声がでかいぞ」
先輩医師である児島に注意され、羽田は、すみません、と謝った。
「それ、本当なんですか?」
「ああ。異常性が高く、やばいものも扱われてたって話だ。公にはなっていない」
「模倣犯対策ですか?」
「その意味合いもあるんだろうな。で、これが生命力探知機が使われているという証拠写真だ」
口外するなよ、と言いながら、児島が写真の束を渡してくる。
一枚目、二枚目には誰かの腕に時計のようなものがはめられていた。多少ぼやけていてはいるが、それは確かに生命力探知機だった。
「これ複数用意出来るって、犯人は相当な人間だよな」
児島の言葉に頷きながら、羽田は何気なく三枚目の写真に目を通した。
「えっ?」
羽田は自分の目を疑った。瞬きをしてみるが、当然ながら写真は変化しない。それどころか、見れば見るほど疑念が確信に変わっていく。
「こいつら、ピンボケしてても美形って分かるの羨ましいよな」
児島が何か言っているが、羽田の耳にはその内容が全くと言って良いほど入ってこない。
そこに写っている男女の二人は、相川友葉の身元保証人の西川健介と、その仕事仲間だという雪城明美に他ならなかった。
「おい、どうした?」
児島に肩を掴まれ、羽田は自分が写真を凝視していた事に気が付いた。
「その女の子に一目ぼれでもしたか?」
それには答えず、四枚目、五枚目と写真をめくる。そこには予想通り、降谷一真、太田悠馬、本間友梨奈がいた。しかし、いくら写真を見返しても、相川友葉の写真はなかった。
「おい――」
「児島さん」羽田は先輩に詰め寄った。「その事件、どんな事件だったんですか?」
児島は呆気に取られたような顔をしていたが、羽田から何かを感じ取ったのか、一つ溜息を吐くと口を開いてくれた。
「俺も又聞きだし、詳しい事は知らねえよ」
そう前置きして、児島は事件の概要を教えてくれた。
「何でも、被害に遭ったのは若者六人組。現場は長野県だかどこかの廃墟らしいけど、そこでとんでもない薬か何かが使われたらしい。実際に現場の写真も見れたやつの中には、吐いたやつもいたみたいだ。ただ、唯一の救いとしては、その六人が全員ちゃんと帰ってきたって事だな」
「確かに不幸中の幸いですね」
羽田は頷いた。若者の六人組という時点で、彼らである事はほぼ確定した。その時は友梨奈だけだったが、一昨日に友葉のリハビリで会っていたのだ。その時にいつもより疲れているようには見えたが、双方特に言及はしなかった。
「でもお前、どうしたんだ? いつもはそんなに関心持たないだろう」
「いえ」
羽田は短く首を振った。同じ医師であっても軽々しく患者の事を話せるものではないし、そうでなくてもこんな事、言える筈がない。
「お話を聞かせて頂き有難うございました」羽田は頭を下げた。「すみませんが、僕はこれで失礼します」
「お、おう。またな」
失礼な態度を咎めず、逆に心配の眼差しを向けてくれる先輩にもう一度頭を下げ、羽田は自分の研究室に早足で向かった。今はただ、一人の時間が欲しい。
研究室に入ると内側から鍵をかけ、椅子に深く座った。思わず重い溜息が起きる。
あの事件の被害者が、彼ら六人だった。その事実を改めて思うと、腹の底から怒りが沸いてくる。
前々回のリハビリ、友葉は初めて欠席した。どうしても外せない仕事だと言っていたが、あれだけ熱心な子が休んだ事には違和感を覚えた。今思えば、事件の後始末に追われていたに違いない。
机から友葉の資料を取り出す。何度目を通しても、症状が進行しているという事実は揺らがなかった。
あんまりではないか。
羽田は手を握り締めた。爪が掌に食い込むが、そんな事は気にならない。
「人間平等じゃない、なんて言葉じゃ済まされないだろう……」
その言葉は、静まり返った室内で、空気に溶けた。
「しっ。声がでかいぞ」
先輩医師である児島に注意され、羽田は、すみません、と謝った。
「それ、本当なんですか?」
「ああ。異常性が高く、やばいものも扱われてたって話だ。公にはなっていない」
「模倣犯対策ですか?」
「その意味合いもあるんだろうな。で、これが生命力探知機が使われているという証拠写真だ」
口外するなよ、と言いながら、児島が写真の束を渡してくる。
一枚目、二枚目には誰かの腕に時計のようなものがはめられていた。多少ぼやけていてはいるが、それは確かに生命力探知機だった。
「これ複数用意出来るって、犯人は相当な人間だよな」
児島の言葉に頷きながら、羽田は何気なく三枚目の写真に目を通した。
「えっ?」
羽田は自分の目を疑った。瞬きをしてみるが、当然ながら写真は変化しない。それどころか、見れば見るほど疑念が確信に変わっていく。
「こいつら、ピンボケしてても美形って分かるの羨ましいよな」
児島が何か言っているが、羽田の耳にはその内容が全くと言って良いほど入ってこない。
そこに写っている男女の二人は、相川友葉の身元保証人の西川健介と、その仕事仲間だという雪城明美に他ならなかった。
「おい、どうした?」
児島に肩を掴まれ、羽田は自分が写真を凝視していた事に気が付いた。
「その女の子に一目ぼれでもしたか?」
それには答えず、四枚目、五枚目と写真をめくる。そこには予想通り、降谷一真、太田悠馬、本間友梨奈がいた。しかし、いくら写真を見返しても、相川友葉の写真はなかった。
「おい――」
「児島さん」羽田は先輩に詰め寄った。「その事件、どんな事件だったんですか?」
児島は呆気に取られたような顔をしていたが、羽田から何かを感じ取ったのか、一つ溜息を吐くと口を開いてくれた。
「俺も又聞きだし、詳しい事は知らねえよ」
そう前置きして、児島は事件の概要を教えてくれた。
「何でも、被害に遭ったのは若者六人組。現場は長野県だかどこかの廃墟らしいけど、そこでとんでもない薬か何かが使われたらしい。実際に現場の写真も見れたやつの中には、吐いたやつもいたみたいだ。ただ、唯一の救いとしては、その六人が全員ちゃんと帰ってきたって事だな」
「確かに不幸中の幸いですね」
羽田は頷いた。若者の六人組という時点で、彼らである事はほぼ確定した。その時は友梨奈だけだったが、一昨日に友葉のリハビリで会っていたのだ。その時にいつもより疲れているようには見えたが、双方特に言及はしなかった。
「でもお前、どうしたんだ? いつもはそんなに関心持たないだろう」
「いえ」
羽田は短く首を振った。同じ医師であっても軽々しく患者の事を話せるものではないし、そうでなくてもこんな事、言える筈がない。
「お話を聞かせて頂き有難うございました」羽田は頭を下げた。「すみませんが、僕はこれで失礼します」
「お、おう。またな」
失礼な態度を咎めず、逆に心配の眼差しを向けてくれる先輩にもう一度頭を下げ、羽田は自分の研究室に早足で向かった。今はただ、一人の時間が欲しい。
研究室に入ると内側から鍵をかけ、椅子に深く座った。思わず重い溜息が起きる。
あの事件の被害者が、彼ら六人だった。その事実を改めて思うと、腹の底から怒りが沸いてくる。
前々回のリハビリ、友葉は初めて欠席した。どうしても外せない仕事だと言っていたが、あれだけ熱心な子が休んだ事には違和感を覚えた。今思えば、事件の後始末に追われていたに違いない。
机から友葉の資料を取り出す。何度目を通しても、症状が進行しているという事実は揺らがなかった。
あんまりではないか。
羽田は手を握り締めた。爪が掌に食い込むが、そんな事は気にならない。
「人間平等じゃない、なんて言葉じゃ済まされないだろう……」
その言葉は、静まり返った室内で、空気に溶けた。
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