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第十五章
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大きな十字路の二十メートルほど手前で、不意に健介が足を止める。
「どうした?」
「静かに」
唇に手を当てた健介は前方に木刀を構えた。明美も木刀を構え、周囲を警戒する。すると、左斜め前方の住宅が立ち並んでいるところから微かに足音がした。その足音はどんどん大きくなり、やがて十字路から姿を現した。
「……えっ?」
二人は同時に声を洩らした。
「どうしたんですか? ボタンは押してませんけど」
警戒心を露わにしながら健介が尋ねる。
息を切らせて膝に手を付きながら十字路に立っているものの正体。それは、明美達をホテルまで案内した黄仮面だった。
「『ヨナス』の……皆様に……お伝えしたい事が、あって……」黄仮面が意切れを史ながら話す。
健介が、自分が対応すると身振りで示してくる。明美は頷いた。
「伝えたい事とは?」
黄仮面は躊躇うように視線を彷徨わせたが、再びこちらに向けられた視線には覚悟が宿っていた。
「単刀直入に言います。いますぐ南西の門からお逃げ下さい」
「……はっ?」健介が低い声を出す。「どういう事だ? 『ボス』の手下である筈の貴女が、何故奴の『実験』を頓挫させるような事を言う?」
「私は『ボス』の手下ではありませんよ」
「えっ?」
「私は通称『闇の便利屋』と言われている、犯罪などに協力する便利屋です」
「闇の……それで?」健介が先を促す。
「今回の私、我々の任務は皆様への荷物検査とホテルへの案内、ルールの説明、そして特殊ルールにおける物資の提供です。それ以外ではあなた方に近付くな、との命令も受けていました」
明美はどちらかといえば周囲の警戒に重きを置いていたが、何かが近付いてくる気配はない。
「勿論、私も最初はどうなろうと従うつもりでいました。例えそれで死者が出ようとも、契約を破る訳にはいきませんから。しかし、『ボス』が契約を破るというのであれば、話は別です」
「『ボス』が⁉」
健介が驚愕の声を出す。驚いているのは明美も同じだった。
「はい」黄仮面が重々しく頷く。「あの動きの速くなったゾンビも武田一家も、『ボス』からは聞かされていなかった存在です」
本日何度目かも分からない衝撃に、明美は開いた口が塞がらなかった。
「……あんなものを即席で用意出来る筈がない」健介が早口で言う。「貴女達に黙って準備していた、という事か」
「そういう事です。今までいくつもの犯罪に加担してきた私の言葉など重みに欠けるでしょうが、人の命は軽いものではないし、特に皆様には生きていて欲しい、死んでほしくない。皆様を知れば知るほど、その想いは強くなりました。だから私も契約を破る事にしました。ボタンの誤作動という事にしておきますから、今ここで起きている事は『ボス』は知らない筈です」
「それは大丈夫なの……は良いとして、俺らを知ったなら、同時に絶対にリタイアなんてしない事も分かっているだろ?」
「承知しております。しかしその上で私は申しているのです。ゾンビのストックは膨大で、フィールド上の物資は非常に少ない。そして『ボス』には更に奥の手があるようなのです」
「奥の手?」
「はい。その概要は分かりませんが……」黄仮面は口籠ったが、すぐに毅然とした口調に戻る。「とにかく、もっと強力なゾンビや装置が現れても不思議ではありません。それに、皆様は既に消耗していらっしゃるご様子。生き残れる可能性など、ほんの僅かです。徳に雪城様は左腕が重傷で、血色も良くない」
黄仮面がこちらに視線を向けるが、すぐに健介に視線を戻す。健介の肩が揺れたのを、明美は見逃さなかった。
「相川様をお助けしたい、失いたくないという気持ちは承知しています。しかし、それは同時に雪城様や他のメンバーの皆様にも言える筈です。相川様も、自分のために仲間がお亡くなりになるというのは本望ではない筈。皆様全員がここで旅を終えられるには勿体無い方達です。ですから、どうかリタイアなさって――」
「それは無理なんだ」
明美は黄仮面の言葉を遮った。二人の視線がこちらに向く。
「お気遣いには感謝する。俺らをそんな風に評価してくれるのも嬉しい。けど、ごめん。リタイアは出来ない」
「何故です⁉」黄仮面の声が鋭くなる。「『ボス』はいつでも皆様を殺せるのです! ここにいれば、殆どの確率で皆様が死んでしまう! 特に雪城様、貴女は栄養失調や感染症など、他の方よりも亡くなるリスクが高い。今すぐ病院に行くべきです!」
「貴女の考えはとてもよく分かる。けど、馬鹿だと思われるかもしれないけど、俺らがリタイアする事はない。そしてその理由は、貴女が既に言っているんだ」
「私が……?」
「ああ」明美は頷いた。「今ここで俺らがリタイアすれば友葉は確実に死ぬけど、リタイアしなければ殆どの確率で俺らは死ぬ。だったら死が確定していない方を選ぶしかないだろ?」
黄仮面が動きを停止させるが、すぐに明美に詰め寄ってきた。
「でもっ、だったらせめて飲食料だけでも調達して下さい! 青いボタンを押していただければすぐに向かいますから」
「ごめんだけど、それも出来ない」明美は首を振った。
「どうして⁉ 少しなら相川様が亡くなるような事はない筈です!」
「でも、リスクが大きすぎるんだ。知ってる? 友葉の病気」
「病気……?」黄仮面が怪訝そうに呟いた。「いえ。存じておりません」
「それもその『ボス』とやらは伝えてないんだな。友葉はSCD、脊髄小脳変性症なんだよ」
黄仮面の肩が大きく跳ねる。
「その反応だとどんなものかは知っているみたいだな。そう。だから俺らはあいつに対しては一つのリスクも犯したくないんだ。しかも、俺らには友葉が生きている事を確認する手段はないし、契約を反故にするような奴の言葉なんて信じる訳にはいかない。まあ友葉が何もなくてもそんな制度、誰も使う気なかったけど」
明美が言い終わると、数秒の後に黄仮面が重い溜息を吐いた。
「……馬鹿ですか」
その声は、今までの機械を通した声ではなく、彼女の本来の声だった。
「生憎、ウチは馬鹿の集まりだからな」健介が肩を竦める。「お気遣いには本当に感謝するけど、その提案は受け入れられないから、君も早く持ち場に戻った方が良い。『ボス』の事だ。バレたらどんなペナルティがあるか分からない」
「……依頼主のターゲットから心配されたのは初めてです」
黄仮面の声は笑いを含んでいた。
「分かりました。皆様の説得は諦めます。その代わり」黄仮面が指を突き付けてくる。「何としてでも生きて、『実験』を無事に終わらせて下さい」
「任せろ」
明美は胸を叩いてみせたが、ふと思った事を口にした。
「じゃあその代わり、俺らが『実験』を終わらせたら、その仮面の下の素顔を見せてよ」
黄仮面の肩が揺れるが、彼女はすぐに頷いた。
「分かりました! 約束ですよ」
「ああ!」明美は頷いた。
「また会おうぜ」
健介の言葉に頷くと、黄仮面は来た道を早足で歩いて行った。
「……何か、凄い複雑な気分」
去っていく黄仮面の背中を見ながら健介が呟く。明美の中でも、黄仮面に対する印象が変わったのは確かだった。しかし、今は彼女の事を考えている時ではない。
明美は右斜め前方の、十字路に面した家を指差した。
「取りあえずそこの家から探索する?」
健介が頷き、二人は目的の家に向かって歩き始めた。
「心理的には信じたいな、彼女の事」明美は呟いた。
「ああ」健介が頷く。「彼女の言葉は胸に響いてきた。あれが演技なら、相当な役者だぞ」
「でも元々役者の才能がねえなら、こんな仕事は出来てなくない?」
「それもそうか」
「でも、これがもし演技だったら、『ボス』は何のためにそんな事をしたんだ?」
「そう。それなんだよ」健介が言った。「彼女を信じたい理由の一つに、それもある。これがもし嘘なら確かに多少の精神的ダメージはあるけど、それにしても中途半端だ。これまでの手口に比べてぬるすぎる」
「じゃあ、取りあえずは信じる方針で行く? まあ、どっちでもそんな変わんないかもしんないけど」
「そうだな。今は彼女が無事に見つからずに帰れることを――」
健介が、はたと口を閉じた。
「健介? どうした?」
「……待て。おかしい」
「何が?」
「黄仮面はボタンの誤作動にすると言っていたよな?」
「ん? ああ」明美は戸惑いながらも頷いた。「それが?」
「その嘘が通用するのは、自分の行動が逐一監視されていない時だけだ。でも、思い返してみろ。今までのゾンビの出現などは全て、俺らの居場所を常に把握していなければ不可能に近い」
「それって……!」
明美にも、健介の言いたい事がなんとなく読めてきた。
「ああ」健介が切羽詰まった顔で頷く。「おそらく『ボス』は何らかの形で俺らを監視している。それがドローンなのかカメラなのかは分からないけどな。けど、その事をもし彼女が知らされていなかったら――」
「俺らとの会話を見られていた、もしくは聞かれていた」
「そう。そしたら『ボス』は何らかの制裁を下すかもしれない」
「行こう」
明美は健介の手を取った。
「でも、それすらも罠の可能性だってあるぞ」
「分かってるさ。でも、俺は彼女を信じたい」明美は口元を緩めた。「もしこれで罠だったら、健介にも叙々苑奢らせるだけだしな」
「……分かったよ」
健介は苦笑しながら頷いた。
「これは見過ごすわけにはいかないな」黒仮面は指を鳴らすと、自分の目の前にあるパネルを操作した。「取り敢えず三くらいで良いかな。あっ、彼も折角なら試してみるか」
「お前、まさか……!」男が目を見開く。
「そう、そのまさかだよ」黒仮面は親指を立てた。「こうなる事は容易に想像出来たからね」
「悪魔め……!」
男に睨みつけられるが、黒仮面はどこ吹く風だ。
「さあ、行ってらっしゃい」
「どうした?」
「静かに」
唇に手を当てた健介は前方に木刀を構えた。明美も木刀を構え、周囲を警戒する。すると、左斜め前方の住宅が立ち並んでいるところから微かに足音がした。その足音はどんどん大きくなり、やがて十字路から姿を現した。
「……えっ?」
二人は同時に声を洩らした。
「どうしたんですか? ボタンは押してませんけど」
警戒心を露わにしながら健介が尋ねる。
息を切らせて膝に手を付きながら十字路に立っているものの正体。それは、明美達をホテルまで案内した黄仮面だった。
「『ヨナス』の……皆様に……お伝えしたい事が、あって……」黄仮面が意切れを史ながら話す。
健介が、自分が対応すると身振りで示してくる。明美は頷いた。
「伝えたい事とは?」
黄仮面は躊躇うように視線を彷徨わせたが、再びこちらに向けられた視線には覚悟が宿っていた。
「単刀直入に言います。いますぐ南西の門からお逃げ下さい」
「……はっ?」健介が低い声を出す。「どういう事だ? 『ボス』の手下である筈の貴女が、何故奴の『実験』を頓挫させるような事を言う?」
「私は『ボス』の手下ではありませんよ」
「えっ?」
「私は通称『闇の便利屋』と言われている、犯罪などに協力する便利屋です」
「闇の……それで?」健介が先を促す。
「今回の私、我々の任務は皆様への荷物検査とホテルへの案内、ルールの説明、そして特殊ルールにおける物資の提供です。それ以外ではあなた方に近付くな、との命令も受けていました」
明美はどちらかといえば周囲の警戒に重きを置いていたが、何かが近付いてくる気配はない。
「勿論、私も最初はどうなろうと従うつもりでいました。例えそれで死者が出ようとも、契約を破る訳にはいきませんから。しかし、『ボス』が契約を破るというのであれば、話は別です」
「『ボス』が⁉」
健介が驚愕の声を出す。驚いているのは明美も同じだった。
「はい」黄仮面が重々しく頷く。「あの動きの速くなったゾンビも武田一家も、『ボス』からは聞かされていなかった存在です」
本日何度目かも分からない衝撃に、明美は開いた口が塞がらなかった。
「……あんなものを即席で用意出来る筈がない」健介が早口で言う。「貴女達に黙って準備していた、という事か」
「そういう事です。今までいくつもの犯罪に加担してきた私の言葉など重みに欠けるでしょうが、人の命は軽いものではないし、特に皆様には生きていて欲しい、死んでほしくない。皆様を知れば知るほど、その想いは強くなりました。だから私も契約を破る事にしました。ボタンの誤作動という事にしておきますから、今ここで起きている事は『ボス』は知らない筈です」
「それは大丈夫なの……は良いとして、俺らを知ったなら、同時に絶対にリタイアなんてしない事も分かっているだろ?」
「承知しております。しかしその上で私は申しているのです。ゾンビのストックは膨大で、フィールド上の物資は非常に少ない。そして『ボス』には更に奥の手があるようなのです」
「奥の手?」
「はい。その概要は分かりませんが……」黄仮面は口籠ったが、すぐに毅然とした口調に戻る。「とにかく、もっと強力なゾンビや装置が現れても不思議ではありません。それに、皆様は既に消耗していらっしゃるご様子。生き残れる可能性など、ほんの僅かです。徳に雪城様は左腕が重傷で、血色も良くない」
黄仮面がこちらに視線を向けるが、すぐに健介に視線を戻す。健介の肩が揺れたのを、明美は見逃さなかった。
「相川様をお助けしたい、失いたくないという気持ちは承知しています。しかし、それは同時に雪城様や他のメンバーの皆様にも言える筈です。相川様も、自分のために仲間がお亡くなりになるというのは本望ではない筈。皆様全員がここで旅を終えられるには勿体無い方達です。ですから、どうかリタイアなさって――」
「それは無理なんだ」
明美は黄仮面の言葉を遮った。二人の視線がこちらに向く。
「お気遣いには感謝する。俺らをそんな風に評価してくれるのも嬉しい。けど、ごめん。リタイアは出来ない」
「何故です⁉」黄仮面の声が鋭くなる。「『ボス』はいつでも皆様を殺せるのです! ここにいれば、殆どの確率で皆様が死んでしまう! 特に雪城様、貴女は栄養失調や感染症など、他の方よりも亡くなるリスクが高い。今すぐ病院に行くべきです!」
「貴女の考えはとてもよく分かる。けど、馬鹿だと思われるかもしれないけど、俺らがリタイアする事はない。そしてその理由は、貴女が既に言っているんだ」
「私が……?」
「ああ」明美は頷いた。「今ここで俺らがリタイアすれば友葉は確実に死ぬけど、リタイアしなければ殆どの確率で俺らは死ぬ。だったら死が確定していない方を選ぶしかないだろ?」
黄仮面が動きを停止させるが、すぐに明美に詰め寄ってきた。
「でもっ、だったらせめて飲食料だけでも調達して下さい! 青いボタンを押していただければすぐに向かいますから」
「ごめんだけど、それも出来ない」明美は首を振った。
「どうして⁉ 少しなら相川様が亡くなるような事はない筈です!」
「でも、リスクが大きすぎるんだ。知ってる? 友葉の病気」
「病気……?」黄仮面が怪訝そうに呟いた。「いえ。存じておりません」
「それもその『ボス』とやらは伝えてないんだな。友葉はSCD、脊髄小脳変性症なんだよ」
黄仮面の肩が大きく跳ねる。
「その反応だとどんなものかは知っているみたいだな。そう。だから俺らはあいつに対しては一つのリスクも犯したくないんだ。しかも、俺らには友葉が生きている事を確認する手段はないし、契約を反故にするような奴の言葉なんて信じる訳にはいかない。まあ友葉が何もなくてもそんな制度、誰も使う気なかったけど」
明美が言い終わると、数秒の後に黄仮面が重い溜息を吐いた。
「……馬鹿ですか」
その声は、今までの機械を通した声ではなく、彼女の本来の声だった。
「生憎、ウチは馬鹿の集まりだからな」健介が肩を竦める。「お気遣いには本当に感謝するけど、その提案は受け入れられないから、君も早く持ち場に戻った方が良い。『ボス』の事だ。バレたらどんなペナルティがあるか分からない」
「……依頼主のターゲットから心配されたのは初めてです」
黄仮面の声は笑いを含んでいた。
「分かりました。皆様の説得は諦めます。その代わり」黄仮面が指を突き付けてくる。「何としてでも生きて、『実験』を無事に終わらせて下さい」
「任せろ」
明美は胸を叩いてみせたが、ふと思った事を口にした。
「じゃあその代わり、俺らが『実験』を終わらせたら、その仮面の下の素顔を見せてよ」
黄仮面の肩が揺れるが、彼女はすぐに頷いた。
「分かりました! 約束ですよ」
「ああ!」明美は頷いた。
「また会おうぜ」
健介の言葉に頷くと、黄仮面は来た道を早足で歩いて行った。
「……何か、凄い複雑な気分」
去っていく黄仮面の背中を見ながら健介が呟く。明美の中でも、黄仮面に対する印象が変わったのは確かだった。しかし、今は彼女の事を考えている時ではない。
明美は右斜め前方の、十字路に面した家を指差した。
「取りあえずそこの家から探索する?」
健介が頷き、二人は目的の家に向かって歩き始めた。
「心理的には信じたいな、彼女の事」明美は呟いた。
「ああ」健介が頷く。「彼女の言葉は胸に響いてきた。あれが演技なら、相当な役者だぞ」
「でも元々役者の才能がねえなら、こんな仕事は出来てなくない?」
「それもそうか」
「でも、これがもし演技だったら、『ボス』は何のためにそんな事をしたんだ?」
「そう。それなんだよ」健介が言った。「彼女を信じたい理由の一つに、それもある。これがもし嘘なら確かに多少の精神的ダメージはあるけど、それにしても中途半端だ。これまでの手口に比べてぬるすぎる」
「じゃあ、取りあえずは信じる方針で行く? まあ、どっちでもそんな変わんないかもしんないけど」
「そうだな。今は彼女が無事に見つからずに帰れることを――」
健介が、はたと口を閉じた。
「健介? どうした?」
「……待て。おかしい」
「何が?」
「黄仮面はボタンの誤作動にすると言っていたよな?」
「ん? ああ」明美は戸惑いながらも頷いた。「それが?」
「その嘘が通用するのは、自分の行動が逐一監視されていない時だけだ。でも、思い返してみろ。今までのゾンビの出現などは全て、俺らの居場所を常に把握していなければ不可能に近い」
「それって……!」
明美にも、健介の言いたい事がなんとなく読めてきた。
「ああ」健介が切羽詰まった顔で頷く。「おそらく『ボス』は何らかの形で俺らを監視している。それがドローンなのかカメラなのかは分からないけどな。けど、その事をもし彼女が知らされていなかったら――」
「俺らとの会話を見られていた、もしくは聞かれていた」
「そう。そしたら『ボス』は何らかの制裁を下すかもしれない」
「行こう」
明美は健介の手を取った。
「でも、それすらも罠の可能性だってあるぞ」
「分かってるさ。でも、俺は彼女を信じたい」明美は口元を緩めた。「もしこれで罠だったら、健介にも叙々苑奢らせるだけだしな」
「……分かったよ」
健介は苦笑しながら頷いた。
「これは見過ごすわけにはいかないな」黒仮面は指を鳴らすと、自分の目の前にあるパネルを操作した。「取り敢えず三くらいで良いかな。あっ、彼も折角なら試してみるか」
「お前、まさか……!」男が目を見開く。
「そう、そのまさかだよ」黒仮面は親指を立てた。「こうなる事は容易に想像出来たからね」
「悪魔め……!」
男に睨みつけられるが、黒仮面はどこ吹く風だ。
「さあ、行ってらっしゃい」
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