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第三章
第三十五話 愛理の想い
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——ノックの音がする。
「はーい」
「僕だけど、今大丈夫?」
扉の外から空也の声が聞こえた。
「うん、大丈夫だよ」
愛理は扉を大きく開けた。
「やあ」
空也は軽く手を挙げただけで、部屋に入ろうとしない。
どうやら要件は大したことではないらしい、と愛理は判断した。
「部屋はどう?」
「良い感じだよ。綺麗だし」
「それは良かった。夕食の相談に来たんだけど、部屋で食べる?」
「うん……そっちのほうが良いかな」
「オッケー。じゃあ草薙さんに——」
「あ、あのさっ」
愛理は踵を返そうとする空也に、思い切って提案してみた。
「せっかくなら、一緒に食べない?」
「良いね」
空也は即答した。
それだけでも愛理は嬉しかったが、
「じゃあさ、僕の部屋で一緒に食べない?」
「うん、そうするっ」
予想だにしていなかった空也からのお誘いに、愛理は思わずはしゃいでしまった。
「それじゃ、また後で。僕はとりあえずお風呂にでも入ってくるよ」
「あっ、う、うん。また後でね」
クスリと笑った空也に赤面しつつ、愛理は扉を閉めた。
ただ一緒に食事をするだけだというのに子供のような反応してしまったことは、愛理の頬を茹で上がらせるには十分だった。
しかし、同時に仕方ないことだとも思う。
最悪な形で会えなくなってしまった空也とこんなにも早く再会できるとは、愛理は思っていなかった。
再会した経緯はまたも最悪に近いが、愛理の中でそれは別問題だった。
だから、空也の部屋で彼と一緒に夕食を食べられるという事実に舞い上がってしまったのも、無理のない話ではあったのだ——。
誰に対してかわからない言い訳を考えた後、愛理も汗を流しに風呂に入った。
◇ ◇ ◇
「はいよ、了解した」
二人分の夕食を自分の部屋に持って来てほしい、という空也の頼みを、陽太郎は快諾してくれた。
「どれくらいで持っていけば良い?」
「一時間後で大丈夫ですか? 多分、お風呂だと思うので」
「わかった」
「じゃ、お願いします」
「あっ、空也」
踵を返した空也の背に、陽太郎から声がかかる。
「ウチの宿は壁あんまり厚くねえからな」
「彼女とはそういう関係じゃありませんよ」
「必ずしもそういう関係にある必要はねえんだぜ?」
「子供に何言っているんですか」
空也は苦笑した。
「それ、間違っても愛理に言わないでくださいよ」
「わかっているさ。俺はそんなキモ親父じゃねえよ」
「知っています」
空也は今度こそその場を後にした。
自然と微笑みが浮かぶ。
陽太郎のイジリが空也を元気付けるための冗談だということくらい、空也にもわかっていた。
もっとも、内容が内容だけに感謝する気はほとんどなくなっていたが。
ここを選んで正解だったな、と空也は改めて思った。
二人分となると少し値段は張るが、玲良からの感謝料という名の口止め料をもらった空也には大したダメージではない……はずだ。
◇ ◇ ◇
「ふう……」
「美味しかったねー」
お腹をさする空也と愛理の目の前には、空の食器が並んでいた。
「あんまり表には出てこないけど、この料理は草薙さんの奥さんが作っているんだ」
「そうなんだ。すごい上手だね。お店とか出せそう」
「ね。まあ、目立つのが好きじゃないっぽいから」
「じゃあ仕方ないね」
空也と愛理は【流星】にいたころと同じように、軽快なリズムで会話を続けていた。
しかしそれは、陽太郎が食器を下げに来るときまでだった。
「ごゆっくり」
陽太郎の手によって扉が閉められると、一転して部屋には沈黙が訪れた。
「愛理」
先に口を開いたのは空也だった。
「僕がいなくなってから、【流星】に何があった?」
◇ ◇ ◇
愛理の話は空也の想像を超えるものだった。
茂の偽恋人作戦、依頼の失敗、パーティ半壊……、
とても二週間ほどで起こりうる内容ではなかった。
「茂があんな風になったの、私のせいだよね……私が拒絶したから、茂は……」
「それは違うよ」
空也は首を振った。
「愛理は何も悪いことはしていないよ。それに、僕のことで怒ってくれたんでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「なら、僕から言えるのは感謝だけだよ。ありがとう」
「……うん」
愛理は微笑むが、どこかぎこちない。そう簡単に割り切れるものではないだろう。
しかし、空也には慰める以外は道がなかった。
まさか、「茂が異界を作った直接の原因は、愛理が拒絶したせいじゃなくて、精神干渉魔法をかけられていたからだよ」と告げるわけにもいかない。そんなことをすれば、愛理の心労はますます大きくなるだろう。
「今度は……」
愛理が躊躇いがちに口を開いた。
「ん?」
「今度は、空也の話を聞きたいな。空也にとっては辛いことかもしれないけど……あの後、空也はどんなふうに過ごしていたのか、とか。国防軍の人とも知り合いだったみたいだし」
「ああ、全然良いよ」
あんまり楽しくはないと思うけど、と前置きをして、空也は【流星】を離れてからのことを順番に話した。
瀬川家の呪術使用については機密指定であるため、そこに関してはぼかすしかなかったが。
「……良く生きていられたね」
それが、詰めていた息を吐き出した愛理の一声だった。
「言われてみればそうだね。特に【ファング・ハント】とローブ男との戦いは、沙希さんの臨機応変な対応がなかったら確実に死んでいたね」
空也は苦笑した。
こう言っては沙希に失礼かもしれないが、初見であの相手に勝てたのは奇跡だと空也は思っていた。
「空也はその沙希っていう人、相当信頼しているんだね」
「そうだね。ずいぶんお世話になったし」
「じゃあ、その沙希さんにお礼言わないと」
「愛理は僕のお母さんなの?」
愛理が小さく吹き出した。
「子供ならもうちょっと可愛げがほしいなあ。まあ、部屋の掃除とかしてあげてたから、その辺はお母さんしてたかもね……ねえ、空也」
「はい」
次に来る言葉を理解し、空也は覚悟した。
「九条家のお家にお邪魔したって言っていたけど、どれくらい散らかしたの?」
「散らかしたことは確定なんだ……」
「空也が一週間以上も滞在していたんだから当然だよ。それで、どうなの?」
「片付けに半日かかった、とだけ言っておくよ」
「……誰かに手伝ってもらったでしょ? その沙希さんとかに」
本当にこういうところは鋭いよね、と空也は苦笑せざるを得なかった。
「やっぱり子供のことはよくわかっているね、ママ」
「誤魔化されないよっ……まったく、どうせ魔法の研究とかしていたんでしょ?」
「まあね」
「その集中力、掃除にも使ってよ」
「掃除は楽しくないからね」
「その楽しくない作業を人にやらせないの」
「本当にお母さんみたいだね」
「う、うるさいっ」
愛理が気恥ずかしそうに目を逸らした。
少しして、二人同時に笑い出す。
笑いが収まって静寂が戻ってくると、愛理がポツリと言った。
「でも、良かった。空也が生きていてくれて。そういう心ない噂も飛び交っていたから……」
「心配かけてごめん。でも大丈夫。僕はここにいるよ」
「うん……」
不意に、愛理が空也に身体を預けた。
「お願い、少しだけこのままでいさせて……」
「うん」
一分ほど、二人は動かなかった。
空也が愛理を見ると、かすかな寝息が漏れていた。
長い間、一人で不安だったのだろう。
「歩実もよくこんな感じで寝ていたな……」
義理の妹を思い出しながら、空也は愛理をベッドまで運んだ。
それから、音を出さないように部屋に備えられていたもう一枚の布団を出し、床に敷いて横になる。
穏やかな気分のまま、空也はすぐに眠りの世界に落ちた。
久しぶりに、空也は夢を見た。
それは【流星】が結成されたころの夢。そこでは、高志、茂、ほのか、愛理、そして空也。メンバー全員が、曇りのない笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
「まさか人生で三回もここに来るとは……」
愛理と陽太郎の宿に泊まった翌日、空也は王都で一番装飾が豪華な建物、王宮を見上げていた。
凛の話では、今日は玲良が一日中滞在しているということだったので、前に交わした約束——と言っても要件も知らないまま呼び出されただけだが——を果たしにやってきたのだ。
門番に要件を伝えると、応接室のような場所に通された。
(今日の夢、良い夢だった気がするんだけど、何だったかなー……)
取り留めのない考え事をしながら待つこと十分、サラサラの銀髪を腰まで伸ばした少女、第二王女夜桜玲良が姿を現した。背後にはその執事兼護衛である夕闇杏奈も控えている。
「お待たせしました」
「ご無沙汰しております」
空也は立ち上がって頭を下げた。
「三日ほど前にお会いしていますけどね」
「そうですね。こんなに短期間に王女に二度もお目にかかれるなんて光栄です」
「まあ、空也さんはお上手ですね」
玲良が上品に笑った。
しかし、その表情はすぐに真剣なものになる。空也も気を引きしめた。
「空也さん、昨日は災難でしたね」
「はい。まさか異界に入ることになるとは思いませんでした。純平さんたちのお力添えがなければ危なかったです」
「ご無事で何よりです」
「ほのかと茂は大丈夫そうですか?」
空也はあえてアバウトに聞いた。
「ええ、精神状態は安定していますし、捜査にも協力的です」
玲良の答えもぼかされたものだ。
空也は茂にかけられた精神干渉魔法について言及しようかとも考えたが、己の不利になるだけなので、悪戯心には蓋をした。
「そうですか。それなら良かったです」
「ええ。他に何かご質問はございますか?」
「大丈夫です」
空也は首を横に振った。
「それでは、本題に参りましょうか」
「はい、お願いします」
玲良の力強い視線が空也を正面から射抜く。
「単刀直入に申し上げます。瀬川空也さん。国防軍第三隊特別作戦係『ウルフ』に入っていただけませんか?」
「はーい」
「僕だけど、今大丈夫?」
扉の外から空也の声が聞こえた。
「うん、大丈夫だよ」
愛理は扉を大きく開けた。
「やあ」
空也は軽く手を挙げただけで、部屋に入ろうとしない。
どうやら要件は大したことではないらしい、と愛理は判断した。
「部屋はどう?」
「良い感じだよ。綺麗だし」
「それは良かった。夕食の相談に来たんだけど、部屋で食べる?」
「うん……そっちのほうが良いかな」
「オッケー。じゃあ草薙さんに——」
「あ、あのさっ」
愛理は踵を返そうとする空也に、思い切って提案してみた。
「せっかくなら、一緒に食べない?」
「良いね」
空也は即答した。
それだけでも愛理は嬉しかったが、
「じゃあさ、僕の部屋で一緒に食べない?」
「うん、そうするっ」
予想だにしていなかった空也からのお誘いに、愛理は思わずはしゃいでしまった。
「それじゃ、また後で。僕はとりあえずお風呂にでも入ってくるよ」
「あっ、う、うん。また後でね」
クスリと笑った空也に赤面しつつ、愛理は扉を閉めた。
ただ一緒に食事をするだけだというのに子供のような反応してしまったことは、愛理の頬を茹で上がらせるには十分だった。
しかし、同時に仕方ないことだとも思う。
最悪な形で会えなくなってしまった空也とこんなにも早く再会できるとは、愛理は思っていなかった。
再会した経緯はまたも最悪に近いが、愛理の中でそれは別問題だった。
だから、空也の部屋で彼と一緒に夕食を食べられるという事実に舞い上がってしまったのも、無理のない話ではあったのだ——。
誰に対してかわからない言い訳を考えた後、愛理も汗を流しに風呂に入った。
◇ ◇ ◇
「はいよ、了解した」
二人分の夕食を自分の部屋に持って来てほしい、という空也の頼みを、陽太郎は快諾してくれた。
「どれくらいで持っていけば良い?」
「一時間後で大丈夫ですか? 多分、お風呂だと思うので」
「わかった」
「じゃ、お願いします」
「あっ、空也」
踵を返した空也の背に、陽太郎から声がかかる。
「ウチの宿は壁あんまり厚くねえからな」
「彼女とはそういう関係じゃありませんよ」
「必ずしもそういう関係にある必要はねえんだぜ?」
「子供に何言っているんですか」
空也は苦笑した。
「それ、間違っても愛理に言わないでくださいよ」
「わかっているさ。俺はそんなキモ親父じゃねえよ」
「知っています」
空也は今度こそその場を後にした。
自然と微笑みが浮かぶ。
陽太郎のイジリが空也を元気付けるための冗談だということくらい、空也にもわかっていた。
もっとも、内容が内容だけに感謝する気はほとんどなくなっていたが。
ここを選んで正解だったな、と空也は改めて思った。
二人分となると少し値段は張るが、玲良からの感謝料という名の口止め料をもらった空也には大したダメージではない……はずだ。
◇ ◇ ◇
「ふう……」
「美味しかったねー」
お腹をさする空也と愛理の目の前には、空の食器が並んでいた。
「あんまり表には出てこないけど、この料理は草薙さんの奥さんが作っているんだ」
「そうなんだ。すごい上手だね。お店とか出せそう」
「ね。まあ、目立つのが好きじゃないっぽいから」
「じゃあ仕方ないね」
空也と愛理は【流星】にいたころと同じように、軽快なリズムで会話を続けていた。
しかしそれは、陽太郎が食器を下げに来るときまでだった。
「ごゆっくり」
陽太郎の手によって扉が閉められると、一転して部屋には沈黙が訪れた。
「愛理」
先に口を開いたのは空也だった。
「僕がいなくなってから、【流星】に何があった?」
◇ ◇ ◇
愛理の話は空也の想像を超えるものだった。
茂の偽恋人作戦、依頼の失敗、パーティ半壊……、
とても二週間ほどで起こりうる内容ではなかった。
「茂があんな風になったの、私のせいだよね……私が拒絶したから、茂は……」
「それは違うよ」
空也は首を振った。
「愛理は何も悪いことはしていないよ。それに、僕のことで怒ってくれたんでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「なら、僕から言えるのは感謝だけだよ。ありがとう」
「……うん」
愛理は微笑むが、どこかぎこちない。そう簡単に割り切れるものではないだろう。
しかし、空也には慰める以外は道がなかった。
まさか、「茂が異界を作った直接の原因は、愛理が拒絶したせいじゃなくて、精神干渉魔法をかけられていたからだよ」と告げるわけにもいかない。そんなことをすれば、愛理の心労はますます大きくなるだろう。
「今度は……」
愛理が躊躇いがちに口を開いた。
「ん?」
「今度は、空也の話を聞きたいな。空也にとっては辛いことかもしれないけど……あの後、空也はどんなふうに過ごしていたのか、とか。国防軍の人とも知り合いだったみたいだし」
「ああ、全然良いよ」
あんまり楽しくはないと思うけど、と前置きをして、空也は【流星】を離れてからのことを順番に話した。
瀬川家の呪術使用については機密指定であるため、そこに関してはぼかすしかなかったが。
「……良く生きていられたね」
それが、詰めていた息を吐き出した愛理の一声だった。
「言われてみればそうだね。特に【ファング・ハント】とローブ男との戦いは、沙希さんの臨機応変な対応がなかったら確実に死んでいたね」
空也は苦笑した。
こう言っては沙希に失礼かもしれないが、初見であの相手に勝てたのは奇跡だと空也は思っていた。
「空也はその沙希っていう人、相当信頼しているんだね」
「そうだね。ずいぶんお世話になったし」
「じゃあ、その沙希さんにお礼言わないと」
「愛理は僕のお母さんなの?」
愛理が小さく吹き出した。
「子供ならもうちょっと可愛げがほしいなあ。まあ、部屋の掃除とかしてあげてたから、その辺はお母さんしてたかもね……ねえ、空也」
「はい」
次に来る言葉を理解し、空也は覚悟した。
「九条家のお家にお邪魔したって言っていたけど、どれくらい散らかしたの?」
「散らかしたことは確定なんだ……」
「空也が一週間以上も滞在していたんだから当然だよ。それで、どうなの?」
「片付けに半日かかった、とだけ言っておくよ」
「……誰かに手伝ってもらったでしょ? その沙希さんとかに」
本当にこういうところは鋭いよね、と空也は苦笑せざるを得なかった。
「やっぱり子供のことはよくわかっているね、ママ」
「誤魔化されないよっ……まったく、どうせ魔法の研究とかしていたんでしょ?」
「まあね」
「その集中力、掃除にも使ってよ」
「掃除は楽しくないからね」
「その楽しくない作業を人にやらせないの」
「本当にお母さんみたいだね」
「う、うるさいっ」
愛理が気恥ずかしそうに目を逸らした。
少しして、二人同時に笑い出す。
笑いが収まって静寂が戻ってくると、愛理がポツリと言った。
「でも、良かった。空也が生きていてくれて。そういう心ない噂も飛び交っていたから……」
「心配かけてごめん。でも大丈夫。僕はここにいるよ」
「うん……」
不意に、愛理が空也に身体を預けた。
「お願い、少しだけこのままでいさせて……」
「うん」
一分ほど、二人は動かなかった。
空也が愛理を見ると、かすかな寝息が漏れていた。
長い間、一人で不安だったのだろう。
「歩実もよくこんな感じで寝ていたな……」
義理の妹を思い出しながら、空也は愛理をベッドまで運んだ。
それから、音を出さないように部屋に備えられていたもう一枚の布団を出し、床に敷いて横になる。
穏やかな気分のまま、空也はすぐに眠りの世界に落ちた。
久しぶりに、空也は夢を見た。
それは【流星】が結成されたころの夢。そこでは、高志、茂、ほのか、愛理、そして空也。メンバー全員が、曇りのない笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
「まさか人生で三回もここに来るとは……」
愛理と陽太郎の宿に泊まった翌日、空也は王都で一番装飾が豪華な建物、王宮を見上げていた。
凛の話では、今日は玲良が一日中滞在しているということだったので、前に交わした約束——と言っても要件も知らないまま呼び出されただけだが——を果たしにやってきたのだ。
門番に要件を伝えると、応接室のような場所に通された。
(今日の夢、良い夢だった気がするんだけど、何だったかなー……)
取り留めのない考え事をしながら待つこと十分、サラサラの銀髪を腰まで伸ばした少女、第二王女夜桜玲良が姿を現した。背後にはその執事兼護衛である夕闇杏奈も控えている。
「お待たせしました」
「ご無沙汰しております」
空也は立ち上がって頭を下げた。
「三日ほど前にお会いしていますけどね」
「そうですね。こんなに短期間に王女に二度もお目にかかれるなんて光栄です」
「まあ、空也さんはお上手ですね」
玲良が上品に笑った。
しかし、その表情はすぐに真剣なものになる。空也も気を引きしめた。
「空也さん、昨日は災難でしたね」
「はい。まさか異界に入ることになるとは思いませんでした。純平さんたちのお力添えがなければ危なかったです」
「ご無事で何よりです」
「ほのかと茂は大丈夫そうですか?」
空也はあえてアバウトに聞いた。
「ええ、精神状態は安定していますし、捜査にも協力的です」
玲良の答えもぼかされたものだ。
空也は茂にかけられた精神干渉魔法について言及しようかとも考えたが、己の不利になるだけなので、悪戯心には蓋をした。
「そうですか。それなら良かったです」
「ええ。他に何かご質問はございますか?」
「大丈夫です」
空也は首を横に振った。
「それでは、本題に参りましょうか」
「はい、お願いします」
玲良の力強い視線が空也を正面から射抜く。
「単刀直入に申し上げます。瀬川空也さん。国防軍第三隊特別作戦係『ウルフ』に入っていただけませんか?」
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