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間話 二通の手紙
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「ダニエル様。お手紙が届いています」
「ああ、有難う」
使用人から封筒を受け取る。
そこに書かれた「ダニエル様へ」という文字だけで、ダニエルには差出人が分かった。
二年ほど前まで家庭教師をしていたリリーだ。
手紙の封を切る前に玄関を入ってすぐ左手にある部屋の扉を開ける。
そこで母が穏やかな顔で寝ている事に安心しながら、ダニエルはリビングの椅子に腰掛け、封筒を開いた。
手紙の冒頭では、簡単な挨拶の言葉の後に、母を気遣う分が真っ先に綴られている。
母が病気だと知ったのは、二年ほど前、丁度リリーの家庭教師としての雇用期間が切れるタイミングだった。
その時、ダニエルはリリーを含めたブラウン一家からは契約延長の話をされている最中で、ダニエルもその気になっていた。
ミネスでの日々は楽しかったし、リリーには教える事だけではなく教えられる事も多く、自分の成長を感じていたからだ。単純にリリーと話すのが楽しかったというのもある。
だが、そんな時に母の病を知り、契約延長は白紙になった。
ダニエルは落ち着いたら必ず手紙を出すと約束し、ミネスを離れ、母のいるホルタンへと急いだ。
幸い、母はなんとか持ち直し、今も容体は安定している。
母の容態が安定した時に、ダニエルはリリーに手紙を出した。そしてそれ以降、半年に一度程度のペースで手紙のやり取りは継続されているのだ。
母への気遣いの後は、簡単な近況報告だ。
十歳になった事、ソフィアが可愛い事、B級霊能者になった事、学校での事……、
など、内容は多岐に渡ったが、特にダニエルの目を引いたのは最後のトピックだった。
『先天性自己完結霊能者のレイモンド・テイラーという少年を知っていますか? 今、ミネス軍で一緒に働いています』
レイモンド・テイラー。
その名前は今もはっきりと覚えている。というより、半年前まで彼はホルタンに居たのだ。
手紙には、
『とても冷静で判断が素早い。とても八歳とは思えない落ち着きだ』
と、リリーは称賛の言葉を綴っている。
ダニエルはそれを読んで、複雑な気持ちになった。
レイモンドは聡明な子だったが、あのリリーが驚くほどの落ち着いた子ではなかった。
――半年前、あの事件が起きるまでは。
……やめよう。
首を振り、存在を主張してくる記憶を頭の片隅に追い払い、先を読む。
「へえ……」
そこには、レイモンドとソフィアが学校に通い始めたと書かれていた。
『レイモンドが人タラシで困っています』
と、溜息を吐いた人間の顔つきで綴られている。
「それは君もだろう」
ダニエルは苦笑しながらツッコミを入れた。
まあ、リリーは案外他人からの好意に鈍いから、気付いていないのだろう。
最後にダニエルの体調を気遣う旨の言葉と、ジャックとエマからの言葉で手紙は終わっていた。
いつかまたミネスに行きたいものだ。
そう思いながら手紙を閉じると、使用人が再び手紙を持ってきた。
これもまた宛名の時点で誰のものか分かった。
リリーの手紙と同時に着くとは、なんという偶然だ。
ただ、こちらはリリーのものと違って楽しみなものではない。
手紙を開くと、ダニエルは口を真一文字に閉じながら、それでも一言一句見逃さないように注意深く手紙に目を通した。
手紙を読み終えて、ダニエルはゆっくりと手紙を閉じ、腕を組んだ。
使用人が声を掛けるのを躊躇うほど難しい顔をしながら。
四年ほど前に知り合った、ダニエルの数少ない同志からの手紙。
その内容は、にわかに真実だとは信じたくないものだった。
が、彼の事は信頼している。恐らく本当なのだろう。
「霊術を使う憑依人間か……」
何か良くない事が進んでいるような、そんな予感がする。
見かねた使用人が声を掛けるまで、ダニエルは延々と収束しない思考を繰り返していた。
「ああ、有難う」
使用人から封筒を受け取る。
そこに書かれた「ダニエル様へ」という文字だけで、ダニエルには差出人が分かった。
二年ほど前まで家庭教師をしていたリリーだ。
手紙の封を切る前に玄関を入ってすぐ左手にある部屋の扉を開ける。
そこで母が穏やかな顔で寝ている事に安心しながら、ダニエルはリビングの椅子に腰掛け、封筒を開いた。
手紙の冒頭では、簡単な挨拶の言葉の後に、母を気遣う分が真っ先に綴られている。
母が病気だと知ったのは、二年ほど前、丁度リリーの家庭教師としての雇用期間が切れるタイミングだった。
その時、ダニエルはリリーを含めたブラウン一家からは契約延長の話をされている最中で、ダニエルもその気になっていた。
ミネスでの日々は楽しかったし、リリーには教える事だけではなく教えられる事も多く、自分の成長を感じていたからだ。単純にリリーと話すのが楽しかったというのもある。
だが、そんな時に母の病を知り、契約延長は白紙になった。
ダニエルは落ち着いたら必ず手紙を出すと約束し、ミネスを離れ、母のいるホルタンへと急いだ。
幸い、母はなんとか持ち直し、今も容体は安定している。
母の容態が安定した時に、ダニエルはリリーに手紙を出した。そしてそれ以降、半年に一度程度のペースで手紙のやり取りは継続されているのだ。
母への気遣いの後は、簡単な近況報告だ。
十歳になった事、ソフィアが可愛い事、B級霊能者になった事、学校での事……、
など、内容は多岐に渡ったが、特にダニエルの目を引いたのは最後のトピックだった。
『先天性自己完結霊能者のレイモンド・テイラーという少年を知っていますか? 今、ミネス軍で一緒に働いています』
レイモンド・テイラー。
その名前は今もはっきりと覚えている。というより、半年前まで彼はホルタンに居たのだ。
手紙には、
『とても冷静で判断が素早い。とても八歳とは思えない落ち着きだ』
と、リリーは称賛の言葉を綴っている。
ダニエルはそれを読んで、複雑な気持ちになった。
レイモンドは聡明な子だったが、あのリリーが驚くほどの落ち着いた子ではなかった。
――半年前、あの事件が起きるまでは。
……やめよう。
首を振り、存在を主張してくる記憶を頭の片隅に追い払い、先を読む。
「へえ……」
そこには、レイモンドとソフィアが学校に通い始めたと書かれていた。
『レイモンドが人タラシで困っています』
と、溜息を吐いた人間の顔つきで綴られている。
「それは君もだろう」
ダニエルは苦笑しながらツッコミを入れた。
まあ、リリーは案外他人からの好意に鈍いから、気付いていないのだろう。
最後にダニエルの体調を気遣う旨の言葉と、ジャックとエマからの言葉で手紙は終わっていた。
いつかまたミネスに行きたいものだ。
そう思いながら手紙を閉じると、使用人が再び手紙を持ってきた。
これもまた宛名の時点で誰のものか分かった。
リリーの手紙と同時に着くとは、なんという偶然だ。
ただ、こちらはリリーのものと違って楽しみなものではない。
手紙を開くと、ダニエルは口を真一文字に閉じながら、それでも一言一句見逃さないように注意深く手紙に目を通した。
手紙を読み終えて、ダニエルはゆっくりと手紙を閉じ、腕を組んだ。
使用人が声を掛けるのを躊躇うほど難しい顔をしながら。
四年ほど前に知り合った、ダニエルの数少ない同志からの手紙。
その内容は、にわかに真実だとは信じたくないものだった。
が、彼の事は信頼している。恐らく本当なのだろう。
「霊術を使う憑依人間か……」
何か良くない事が進んでいるような、そんな予感がする。
見かねた使用人が声を掛けるまで、ダニエルは延々と収束しない思考を繰り返していた。
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