上 下
129 / 132
第一章

第129話 WMUで施設を破壊した

しおりを挟む
「……でも、私があいつらにできることなんてない。魔法の実力も頭もあいつらのほうが同等かそれ以上なんだから。ノアなんてはるか雲の上でしょ」
「では、もし魔法でノア様と肩を並べるほどの実力を身につけられるとしたらいかがでしょう?」
「何、人体実験でもさせようってわけ?」

 アローラは冗談のつもりだった。
 しかし、イーサンはニコリともせずに、

「左様でございます」
「……本気?」

 遮音の結界が張られているにも関わらず、アローラは声を潜めてしまった。

「私がノアと同等の実力をつけられるって言ったら、相当ヤバい予感するけど」
「いかにも。魔法体はご存じでございますか?」
「魔法師が乗り込んで操縦するタイプの魔道具でしょ」
「えぇ。我々が開発しているのは〇号と呼ばれるもの。表に出回っているものとは別物の、使いこなせば最上位の一級魔法師にも匹敵する性能です。最も、これまで〇号を操縦して生存者はおりません」
「……それ、どこのイカれた集団が関わってんのよ」
「テイラー家を中心とした大貴族とラティーノ国上層部でございます」
「……なるほど。私が見ていた景色は貴族界の浅瀬にすぎなかったわけね」

 アローラは皮肉げに笑った。

「あんたらが中心になっているってことは、もしも私が使いこなせた場合は、その使用にある程度自由が効くってわけだ。シャーロットやエリアの護衛に使えるし、それが巡り巡ってノアのためにもなるってところ?」
「左様。時期によっては、彼がテイラー家に婿入りしている可能性もありますしな」
「それ、私に言うんだ」

 アローラは苦笑した。

「私も様々な世界を渡り歩いてきました。相手の精神状態はだいたいわかります」
「こんな小娘の心なんてお見通しってわけだ」
「まあ、そうでございますな」
「なんかムカつくな……にしても、そんな実験に関わってていいの? さすがにバレたらやばくない?」
「綺麗事では貴族はやっていけませぬ。貴女もおわかりでしょう」
「まあね」

 浅瀬とはいえ、アローラも次期当主として貴族の真似事くらいはしていたのだ。

「けどさ、それで言うとあんたのところの次期当主は大丈夫なの? ちょっと優しすぎるんじゃない?」
「大丈夫でしょう。当主がそうなら、周囲に厳しい意見を持つ者を置けば良い。当主と家臣の主張が違ってこそ、その家は繁栄しますからな」
「二元代表制みたいなもんね」
「左様。それに、エリア様も貴族の次期当主としての顔は、普段のあの方とは別です。心配せずともテイラー家が衰退する事はしばらくはないでしょう」
「……ふん」

 アローラはそっぽを向いて鼻を鳴らした。

「……わかった。その話、受けるよ」

 このまま死んで悪霊になるのも嫌だしね——。
 そう言って、アローラはわずかに口元を緩めた。



◇   ◇   ◇



「行ってきます」
「はい、お気をつけて」
「シャルもこの後ルーカスさんと修行だよね? いつもの時間に迎えに行けばいい?」
「はい、お願いします」
「うん」

 僕は行ってきますのキスをした後、シャルのお尻を一撫でしてから家を出た。
 扉が閉まる直前、「もう、ノア君は」という呆れたような、それでいて少し嬉しそうな声が聞こえた。
 一瞬取って返そうか迷った。

 魔法師養成高校第一中学校の学年末までの休校が正式に決まったため、僕のやる事は主に六つに絞られていた。
 シャルとイチャイチャする事、学校の宿題、両親との時間、エリアやアッシャー、サム、テオ、ハーバーと言った友人との遊び、WMUダブリュー・エム・ユーでの修行、そしてシャルとのイチャイチャだ。

 現在はWMUに向かっている。修行の頻度は学校があった時よりも増やしていた。
 シャルはルーカスさんと、エリアはグレースさんとそれぞれ頑張っているし、ケラベルスが示唆していた彼らよりも上の存在が仕掛けてくる可能性もある以上、強くなっておくに越した事はないからね。

 シャルが誕生日プレゼントとしてくれたマフラーを首に巻き付けつつ、門をくぐる。
 すっかり顔馴染みになった門番に頭を下げると、彼は陽気に手を上げた。最初の怖そうな印象と違い、彼は気さくな人物だった。
 特別補佐官の僕に手を上げて挨拶をするのはどうなのかとも思うが、変にかしこまられてもやりにくいので、僕としてはありがたかった。

 施設に入ると、迷わず資料室に向かった。今日は少し試したい事があるんだ。
 扉のところで大柄な男の人とすれ違う。正隊員のエリジャさんだった。

「お疲れ様です」
「……チッ」

 舌打ちだけか。相変わらず歓迎されてないなぁ。
 守衛さんはよくしてくれているけど、特に戦闘員の人たちにはあんまり快く思われてないんだよな。

 まあ、名前も知らなかった子供がいきなり特別待遇を受けているんだから気に入らないんだろうけど。
 ロバートさんみたいに直接挑んでこない限りは僕としてもやりようがない。
 まあ、何かする必要もないだろうしね。多分、少なくとも今はやるだけ無駄だろうから、気にしないでおくのが一番だ。

「えっと……あったあった」

 学校でアローラと実験させられた異なる二つの魔力を融合して大きなエネルギー生み出す方法は、【合成ごうせい】という技としても確立されていた。
 あれ、自分で使えたら少ない魔力同士の掛け算で膨大なエネルギーを生み出せる事になるから、めっちゃ便利だと思うんだよね。

 しかし、期待に反して一人で【合成】を発動させるやり方はどの資料にも載っていなかった。
 全て複数人で発動させる事が前提になっていた。

「うーん……ま、やってみるか」

 記述がないからと言ってできない事にはならない。
 僕は射撃場に向かった。

 実験の時の感覚を思い出してみる。アローラ側の魔力もなんとなく記憶していた。
 右手に自分の、左手にアローラの気配をまねた魔力をそれぞれ練り上げる。
 それらを合わせる事で実際に射出はできたけど、何かが違うという感覚があった。威力もそこそこだった。

 先生も安全性重視って言ってたし、学校の実験ではあえて少しずらしているのかもしれないな。
 少しずつ魔力を変質させていくと、ビビッとくるものがあった。

 あっ、やばいかも。
 ふとそう思った時には射出していた。

 ドガーン……!
 的どころか的が設置されていた機械、そしてその奥の壁まで粉々になっていた。

「やっば……」
「おい、どうした⁉︎」

 轟音に驚いてわらわらと人が駆け寄ってきた。
 その人たちに向かって、僕は勢いよく頭を下げた。

「すみませんでした!」



 十分後、僕はWMUのトップであるデイヴィット総監と対面していた。

「魔力の変質なんてそうそう容易くできるものではないはずだが……今はそれはいい。君の力は絶大だ。ゆめゆめ気をつけるように」
「はい」

 僕は真面目な表情で顎を引いた。本当に反省していた。

「よし、戻っていいよ」
「えっ」

 思わず変な声が出た。

「あ、あの、的とか壁の修理は?」
「こちらで受け持つから君は気にしなくていい」
「……どのくらいですか?」
「ざっと百万といったところかな」
「……僕に出させてください。報奨金もあるし」
「問題ない。一回目だからな」

 ベンジャミン総監が笑いながら手をひらひらさせた。

「ですが、ここで僕が出しておいた方が僕の立場もよくなるような気がして。結構睨まれてますし」

 WMUには正式に入隊したし、ルーカスさんやアヴァさんとはよくさせてもらってる。
 それに、ロバートさんとの模擬戦も出回ってる影響もあって今のところ絡まれてはいないけど、エリジャさんのように歓迎してない人が多いのも事実だった。挨拶を無視される事も何回もあるし。

「……確かにそうだな。だがノア君。これだけは覚えておけよ。一万円を持っている時の百円と一億円を持っている時の百万円。どちらも所持金の百分の一だが、その価値は同じではない」
「っ……はい」

 僕はドキッとした。
 確かに彼の言う通り、一億あるからと百万を軽く見ていた。

 身に余る大金って恐ろしいな。
 宝くじ当たった人の多くが破産するっていう話もこれまではバカだと思ってたけど、今ならわかる気がする。気をつけよう。

 結局、修理代は払ったけど。



 それから数日後、僕は初めてWMUの任務に参加してみる事にした。
 時間があったからというのも理由の一つだが、やはり歓迎されていない環境に居続けるというのは居心地のいいものじゃない。
 任務に参加して成果を上げれば、全員ではないにしろ何割の人かは認めて受け入れてもらえる……気がする。自信はないし、むしろ恨みを買う可能性もあるけど。

 約束の時間よりもだいぶ早く集合場所に向かう。
 一番乗りで行こうと思っていたが、すでに一人の大男がいた。

(げっ)

 僕は思わず顔をしかめそうになった。
 その人——エリジャさんは思い切り顔をしかめた。
 彼は憎しみすらもこもった瞳で僕を睨みつけながら近づいてきて、腹立たしげに言い放った。

「多少実力があるだけの実戦経験もほとんどねえ雑魚は帰れ。WMUウチはガキのチャンバラの延長線上でやってねんだよ」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...