98 / 132
第一章
第98話 新しい友達
しおりを挟む
エリアに手招きをされたため、飲み物を持ってその元に向かう。
彼女の向かって正面に座っているオレンジで短髪の少年には、見覚えがあった。
「テオ君、だっけ?」
「おう。ちゃんと話すのは初めてだな。テオでいいぜ」
「オッケー、テオ。こっちもノアでいいよ」
「わかった。よろしくな、ノア」
テオが白い歯を見せてニカッと笑った。
エリアから「デリカシーはないけど陽気でいいやつ」とは聞いていた。
デリカシーの有無はまだわからないけど、陽気である事は間違いないっぽいな。
「じゃあ親睦を深めるためにも、ノアはテオの隣に座ろっか」
「うん。って、僕も混じっていいの? 邪魔じゃない?」
「まさかまさか。私とテオはそんなんじゃないから」
「そうだよ。誰がこんな暴力女なんかと——」
「テオ? 私、帰ってもいいんだけど?」
「すみませんでした」
……うん、テオのデリカシーがない事と、二人が仲良しな事はわかった。
そして、少なくとも現在はエリアの方が立場が上である事も。
机には参考書とノートが広げられている。
エリアが勉強を教えているっぽいな。
「エリアって手を出すんだね。意外」
「何、こいつノアの前だと大人しいの?」
「いや全くそんな事はないけど」
「否定はやっ!」
エリアが心外だ、と言わんばりの憮然とした表情を浮かべた。
「ただ、エリアが手を出すというよりは、だいたい余計な事を言ってシャルに叩かれているかな」
「逆にシャーロットの方が暴力的なのか」
「私限定でね」
エリアがなぜか得意げな顔を向けてくる。
「何でドヤってるのさ」
「ふふん。特等席は譲らないからね。ノアは指でも咥えてるといいよ」
「羨ましくないよ別に。叩かれる事で特別感は味わいたくないし」
「くぅ~」
何かを噛みしめた後、エリアは持っていたペンをテオに向けた。
「テオ、この余裕が大事なんだよ。わかる? これがモテる男の秘訣なの」
「少なくとも今は関係ねえだろ」
テオが苦笑した。
どうやら彼女はいないらしい。
ま、彼女がいたらエリアと二人でカフェにはいないか。エリアがその彼女でない限りは。
……付き合ってはないんだろうけど、何となくすでに熟年夫婦の雰囲気をかもし出してるんだよね、この二人。
「ノア、何か失礼なこと考えてない?」
「まさか。ところで二人は勉強してるの?」
エリアにジト目を向けられたため、慌てて話題を変えた。
「そ。前に勉強教えた事があってさ。そしたら今度は宿題を手伝ってくださいって泣いて頼まれちゃったんだ」
「泣いてねえよ」
「仕方ないから、前回の筆記試験八十七点で七位のエリア様が教えてあげてるってわけ」
「九十八点で一位のやつの前でそれ言ってもダセえだけだろ」
テオが僕を見ながら苦笑した。
「あれ、よく僕の点数知ってるね」
「あのテストで九十八取ったやつがいたら、さすがに記憶に残るわ」
「たまたまだよ」
「たまたまでほぼ百取られてたまるかよ。エリアも、お前の教え方は上手いって褒めちぎってたからな」
「そうなの?」
「先生より全然わかりやすいよ、ノアは」
「それは褒めすぎでしょ」
さすがにお世辞だとはわかってるけど、そこまで言われると照れるな。
「いやいやマジだって。あっ、せっかくならテオも教えてもらったら?」
「えっ、それは悪いだろ」
テオが遠慮するそぶりを見せた。
こういう気遣いができる人だと、逆にしてあげたくなるよね。
「暇だし全然いいよ。テオさえ良ければ、だけど」
「マジっ?」
テオがカブトムシを見つけた少年のように目を輝かせた。
「そういう事なら教えてくれると助かる」
「テオ、何か奢ってあげなよ」
「おう、奢る奢る」
「えっ、いいよそんなの」
僕は両手を胸の前で振って、不要である事をアピールした。
「遠慮しなくていいぜ。あんま高いのは無理だけどな」
「ううん、自分で買うって。むしろ、暇を潰せてありがたいのはこっちだから」
「そうか。サンキュー」
テオがエリアをペンで指差した。
「わかるか、エリア。この懐の広さと余裕がモテるやつとモテないやつの違いだ」
「辛いけど否めない」
「なんかやめてよ、その感じ。僕より二人の方がモテてるでしょ。テオは格好いいし、エリアは可愛いんだから」
テオは精悍な顔立ちをしているし、エリアもシャルとほぼ同じ顔なので、当然とびきりの美少女だ。
そんな美男美女コンビだから、僕としては普通に自分の意見を言っただけなんだけど、二人はなぜか気恥ずかしげに視線を逸らした。
「……そういうのをサラッと言えるからモテてるのよ」
「間違いねえ」
エリアの呆れを含んだ言葉に、テオが深く頷いた。
シャル以外の女の子から、好意を感じた事はないんだけどなぁ。
「……って、んな事いいから勉強だ勉強。頼むぜノア先生」
「任せてよ。どれからやる?」
「まずは——」
「マジで教えるのうめえな……」
休憩中、テオが感心したように呟いた。
「そう?」
「あぁ。わかりやすいし、何より理解の深さが異次元だわ」
「それがわかるって事は、テオもちゃんと理解してるって証拠だけどね。そもそも、テオだって大体はできているじゃん」
「大体できてるくらいじゃ上位は狙えねーからな」
「まあね」
教えていてテオの地頭が悪くない事はわかったし、無難に宿題をこなすくらいの学力はすでにある。
ただ、次の定期テストで高得点を取る必要があるらしく、こうして勉強に励んでいるみたい。
「エリアたちはこれ受けてたのか。羨ましいぜ」
「これだけじゃないよ? お昼とかおやつも作ってくれたし、肩揉みもしてくれた」
「おい、ノア。お前何か弱み握られてねえよな?」
割と本気で心配してくれている様子のテオに、思わず苦笑が漏れる。
「大丈夫だよ。僕がやりたくてやってるだけだから」
「はえー……」
「料理もそうだし、人の肩揉むの割と好きなんだよね。テオもやってあげようか?」
「おお、ノアさえいいなら頼むわ」
「オッケー」
テオの肩を指圧すると、少し固かった。
「ちょい凝ってるね」
「まあ、割と長い時間やってたからな。あー、気持ちいい……」
「おじさんじゃん」
「テオじさんだね」
「「……えっ?」」
僕とテオは、エリアに冷たい目を向けた。
「ノア……今のはないよな」
「うん、ないね。エリアはマジで反省した方がいいと思う」
「そんなウケ狙って言ってないしっ」
エリアが小声で叫ぶという高度な技を披露してみせた。
頬がうっすらと赤らんでいる。くだらない事を言った自覚はあるみたいだ。
やっぱりエリアはイジリがいがあるなぁ。いい反応してくれるから。
前にもシャルと、同じように揶揄った記憶がある。
「ウケ狙いじゃねーとしても今のは見過ごせねーよ」
「テオネエとかならまだわかるけどさ」
「確かにな……って、ちげーよ!」
テオがノリツッコミをした。
「人を勝手にオネエにすんなよ、ノア。天とスッポンくらいは違うだろ」
「わお、三百六十度違うじゃん」
「一緒じゃねーか」
「おおっ」
完璧なツッコミだ。
僕とテオはハイタッチを交わした。
「あんたら、短い間に仲良くなったね」
「おう。意外だわ。ノアってもっと堅物かと思ってたからな」
「いやぁ、堅物だったらエリアの相手はできないよ」
「違えねーな」
「ねえ、それどういう意味?」
エリアがジト目で睨んでくる。
「ごめんごめん。冗談だよ」
「肩揉んだら許してあげる」
「はいはい。じゃ、テオはここまでね」
「おう、サンキュー。だいぶ楽になったわ」
「それは何より」
エリアの後ろに立って、首筋に手を置く。
シャルとは少しだけ種類の違う甘い匂いが漂ってきた。
「あー、これよこれ……」
「お前こそおばさんじゃねーか」
気持ちよさそうに目を閉じるエリアに、テオがツッコんだ。
「何よ、こんな美少女に向かって……」
「ツッコミに覇気がねえエリアってのは新鮮だな。あと、自分で美少女とか言うんじゃねえ」
「だってそうじゃん……」
「ギリ嫌味じゃねえのがムカつくわ」
おお、テオが言外にエリアが美少女な事を認めた。
本人の前でっていうのは、ちょっと意外だな。
「エリアは相変わらず凝ってるね」
「仕方ないでしょ……こっちは肩からメロンを二つぶら下げてるようなもんなんだから……」
「おい、恥じらいを持て」
「あら、テオはそんなものを私に求めてるの? お母さんのお腹の中からやり直したら?」
「いきなり鋭くなったな。てか、言い過ぎだろ」
言葉の割にテオの眼差しは柔らかい。
二人の間では、これくらいの言葉の応酬は普通なんだろうな。
「言い過ぎじゃないよ……」
「あっ、また緩くなった」
「ノア、あと一分……」
「はいはい」
仕方ないなぁ。
「ノアは面倒見がいいな……つーか、ノアがエリアの肩揉んでシャーロットは嫌がらねえのか?」
「これくらいなら大丈夫だよ。友達としてのスキンシップの範囲内だから」
「そういうもんか」
「テオって割と純情だよね……」
「うっせ」
エリアの緩いイジリに、テオが唇を尖らせてそっぽを向いた。
「お二人さん、めっちゃ仲良いね」
「仲良くないよ」
「仲良くねーわ」
エリアとテオが見事にハモった。
「ほら、仲良いじゃん」
僕が指摘してやれば、二人は互いにそっぽを向いた。
どちらも頬が桜色に染まっている。
今日から彼らの見守り隊になろう、と僕は心に決めた。
気を取り直して勉強を再開していると、シャルがやってきた。表情は暗くはなかった。
日が暮れるところだったので、四人で少しだけ話してから解散した。
とは言っても、僕とシャルとエリアはシャルの家で夕飯を食べるので、テオだけ別れた形だが。
父親のオリバーは、シャルの報奨金を僕の両親が預かる事はあっさり認めてくれたらしいが、書類の作成に時間がかかるため、数日以内にシャルの家に届ける手筈になったらしい。
「長々と預かってもらってすみません」
「いいよいいよ。良かったね、認めてもらえて」
「はい……正直、拍子抜けしました。それにしても、まさかあのカフェにエリアがいたとは驚きました」
シャルがやや強引に話題を変えた。
エリアがほんのり気まずそうにしていたからだろう。
「ね。見知った水色が見えたからびっくりしたよ。下向いてたから、一瞬シャルかと思ったもん」
「頼まれた立場だし、若干テオに足を伸ばさせようと思ったらあそこになったんだ。私もまさかノアに遭遇するとは思わなかったけど。でも、結果的に良かったんじゃない? ノアとテオも仲良くなれたし」
「うん。面白いね、彼」
「デリカシーはないけどね」
「でも、性格はいいんでしょ?」
「まあね。そうじゃなきゃ勉強なんて教えないよ」
エリアが遠回しに肯定した。
「エリアは素直じゃありませんね。まあ、そういうところが可愛いのですが」
シャルが暖かい目でエリアを見る。
エリアがそっぽを向いた。水色の髪から覗く耳は、夕陽とは色合いの異なる赤に染まっていた。
——ほら、可愛いでしょう?
——確かに。
僕とシャルは目線だけで会話をし、笑みを交わした。
その後はシャルの家で三人で遅めの夕食をとり、僕は一日ぶりに実家に帰った。
彼女の向かって正面に座っているオレンジで短髪の少年には、見覚えがあった。
「テオ君、だっけ?」
「おう。ちゃんと話すのは初めてだな。テオでいいぜ」
「オッケー、テオ。こっちもノアでいいよ」
「わかった。よろしくな、ノア」
テオが白い歯を見せてニカッと笑った。
エリアから「デリカシーはないけど陽気でいいやつ」とは聞いていた。
デリカシーの有無はまだわからないけど、陽気である事は間違いないっぽいな。
「じゃあ親睦を深めるためにも、ノアはテオの隣に座ろっか」
「うん。って、僕も混じっていいの? 邪魔じゃない?」
「まさかまさか。私とテオはそんなんじゃないから」
「そうだよ。誰がこんな暴力女なんかと——」
「テオ? 私、帰ってもいいんだけど?」
「すみませんでした」
……うん、テオのデリカシーがない事と、二人が仲良しな事はわかった。
そして、少なくとも現在はエリアの方が立場が上である事も。
机には参考書とノートが広げられている。
エリアが勉強を教えているっぽいな。
「エリアって手を出すんだね。意外」
「何、こいつノアの前だと大人しいの?」
「いや全くそんな事はないけど」
「否定はやっ!」
エリアが心外だ、と言わんばりの憮然とした表情を浮かべた。
「ただ、エリアが手を出すというよりは、だいたい余計な事を言ってシャルに叩かれているかな」
「逆にシャーロットの方が暴力的なのか」
「私限定でね」
エリアがなぜか得意げな顔を向けてくる。
「何でドヤってるのさ」
「ふふん。特等席は譲らないからね。ノアは指でも咥えてるといいよ」
「羨ましくないよ別に。叩かれる事で特別感は味わいたくないし」
「くぅ~」
何かを噛みしめた後、エリアは持っていたペンをテオに向けた。
「テオ、この余裕が大事なんだよ。わかる? これがモテる男の秘訣なの」
「少なくとも今は関係ねえだろ」
テオが苦笑した。
どうやら彼女はいないらしい。
ま、彼女がいたらエリアと二人でカフェにはいないか。エリアがその彼女でない限りは。
……付き合ってはないんだろうけど、何となくすでに熟年夫婦の雰囲気をかもし出してるんだよね、この二人。
「ノア、何か失礼なこと考えてない?」
「まさか。ところで二人は勉強してるの?」
エリアにジト目を向けられたため、慌てて話題を変えた。
「そ。前に勉強教えた事があってさ。そしたら今度は宿題を手伝ってくださいって泣いて頼まれちゃったんだ」
「泣いてねえよ」
「仕方ないから、前回の筆記試験八十七点で七位のエリア様が教えてあげてるってわけ」
「九十八点で一位のやつの前でそれ言ってもダセえだけだろ」
テオが僕を見ながら苦笑した。
「あれ、よく僕の点数知ってるね」
「あのテストで九十八取ったやつがいたら、さすがに記憶に残るわ」
「たまたまだよ」
「たまたまでほぼ百取られてたまるかよ。エリアも、お前の教え方は上手いって褒めちぎってたからな」
「そうなの?」
「先生より全然わかりやすいよ、ノアは」
「それは褒めすぎでしょ」
さすがにお世辞だとはわかってるけど、そこまで言われると照れるな。
「いやいやマジだって。あっ、せっかくならテオも教えてもらったら?」
「えっ、それは悪いだろ」
テオが遠慮するそぶりを見せた。
こういう気遣いができる人だと、逆にしてあげたくなるよね。
「暇だし全然いいよ。テオさえ良ければ、だけど」
「マジっ?」
テオがカブトムシを見つけた少年のように目を輝かせた。
「そういう事なら教えてくれると助かる」
「テオ、何か奢ってあげなよ」
「おう、奢る奢る」
「えっ、いいよそんなの」
僕は両手を胸の前で振って、不要である事をアピールした。
「遠慮しなくていいぜ。あんま高いのは無理だけどな」
「ううん、自分で買うって。むしろ、暇を潰せてありがたいのはこっちだから」
「そうか。サンキュー」
テオがエリアをペンで指差した。
「わかるか、エリア。この懐の広さと余裕がモテるやつとモテないやつの違いだ」
「辛いけど否めない」
「なんかやめてよ、その感じ。僕より二人の方がモテてるでしょ。テオは格好いいし、エリアは可愛いんだから」
テオは精悍な顔立ちをしているし、エリアもシャルとほぼ同じ顔なので、当然とびきりの美少女だ。
そんな美男美女コンビだから、僕としては普通に自分の意見を言っただけなんだけど、二人はなぜか気恥ずかしげに視線を逸らした。
「……そういうのをサラッと言えるからモテてるのよ」
「間違いねえ」
エリアの呆れを含んだ言葉に、テオが深く頷いた。
シャル以外の女の子から、好意を感じた事はないんだけどなぁ。
「……って、んな事いいから勉強だ勉強。頼むぜノア先生」
「任せてよ。どれからやる?」
「まずは——」
「マジで教えるのうめえな……」
休憩中、テオが感心したように呟いた。
「そう?」
「あぁ。わかりやすいし、何より理解の深さが異次元だわ」
「それがわかるって事は、テオもちゃんと理解してるって証拠だけどね。そもそも、テオだって大体はできているじゃん」
「大体できてるくらいじゃ上位は狙えねーからな」
「まあね」
教えていてテオの地頭が悪くない事はわかったし、無難に宿題をこなすくらいの学力はすでにある。
ただ、次の定期テストで高得点を取る必要があるらしく、こうして勉強に励んでいるみたい。
「エリアたちはこれ受けてたのか。羨ましいぜ」
「これだけじゃないよ? お昼とかおやつも作ってくれたし、肩揉みもしてくれた」
「おい、ノア。お前何か弱み握られてねえよな?」
割と本気で心配してくれている様子のテオに、思わず苦笑が漏れる。
「大丈夫だよ。僕がやりたくてやってるだけだから」
「はえー……」
「料理もそうだし、人の肩揉むの割と好きなんだよね。テオもやってあげようか?」
「おお、ノアさえいいなら頼むわ」
「オッケー」
テオの肩を指圧すると、少し固かった。
「ちょい凝ってるね」
「まあ、割と長い時間やってたからな。あー、気持ちいい……」
「おじさんじゃん」
「テオじさんだね」
「「……えっ?」」
僕とテオは、エリアに冷たい目を向けた。
「ノア……今のはないよな」
「うん、ないね。エリアはマジで反省した方がいいと思う」
「そんなウケ狙って言ってないしっ」
エリアが小声で叫ぶという高度な技を披露してみせた。
頬がうっすらと赤らんでいる。くだらない事を言った自覚はあるみたいだ。
やっぱりエリアはイジリがいがあるなぁ。いい反応してくれるから。
前にもシャルと、同じように揶揄った記憶がある。
「ウケ狙いじゃねーとしても今のは見過ごせねーよ」
「テオネエとかならまだわかるけどさ」
「確かにな……って、ちげーよ!」
テオがノリツッコミをした。
「人を勝手にオネエにすんなよ、ノア。天とスッポンくらいは違うだろ」
「わお、三百六十度違うじゃん」
「一緒じゃねーか」
「おおっ」
完璧なツッコミだ。
僕とテオはハイタッチを交わした。
「あんたら、短い間に仲良くなったね」
「おう。意外だわ。ノアってもっと堅物かと思ってたからな」
「いやぁ、堅物だったらエリアの相手はできないよ」
「違えねーな」
「ねえ、それどういう意味?」
エリアがジト目で睨んでくる。
「ごめんごめん。冗談だよ」
「肩揉んだら許してあげる」
「はいはい。じゃ、テオはここまでね」
「おう、サンキュー。だいぶ楽になったわ」
「それは何より」
エリアの後ろに立って、首筋に手を置く。
シャルとは少しだけ種類の違う甘い匂いが漂ってきた。
「あー、これよこれ……」
「お前こそおばさんじゃねーか」
気持ちよさそうに目を閉じるエリアに、テオがツッコんだ。
「何よ、こんな美少女に向かって……」
「ツッコミに覇気がねえエリアってのは新鮮だな。あと、自分で美少女とか言うんじゃねえ」
「だってそうじゃん……」
「ギリ嫌味じゃねえのがムカつくわ」
おお、テオが言外にエリアが美少女な事を認めた。
本人の前でっていうのは、ちょっと意外だな。
「エリアは相変わらず凝ってるね」
「仕方ないでしょ……こっちは肩からメロンを二つぶら下げてるようなもんなんだから……」
「おい、恥じらいを持て」
「あら、テオはそんなものを私に求めてるの? お母さんのお腹の中からやり直したら?」
「いきなり鋭くなったな。てか、言い過ぎだろ」
言葉の割にテオの眼差しは柔らかい。
二人の間では、これくらいの言葉の応酬は普通なんだろうな。
「言い過ぎじゃないよ……」
「あっ、また緩くなった」
「ノア、あと一分……」
「はいはい」
仕方ないなぁ。
「ノアは面倒見がいいな……つーか、ノアがエリアの肩揉んでシャーロットは嫌がらねえのか?」
「これくらいなら大丈夫だよ。友達としてのスキンシップの範囲内だから」
「そういうもんか」
「テオって割と純情だよね……」
「うっせ」
エリアの緩いイジリに、テオが唇を尖らせてそっぽを向いた。
「お二人さん、めっちゃ仲良いね」
「仲良くないよ」
「仲良くねーわ」
エリアとテオが見事にハモった。
「ほら、仲良いじゃん」
僕が指摘してやれば、二人は互いにそっぽを向いた。
どちらも頬が桜色に染まっている。
今日から彼らの見守り隊になろう、と僕は心に決めた。
気を取り直して勉強を再開していると、シャルがやってきた。表情は暗くはなかった。
日が暮れるところだったので、四人で少しだけ話してから解散した。
とは言っても、僕とシャルとエリアはシャルの家で夕飯を食べるので、テオだけ別れた形だが。
父親のオリバーは、シャルの報奨金を僕の両親が預かる事はあっさり認めてくれたらしいが、書類の作成に時間がかかるため、数日以内にシャルの家に届ける手筈になったらしい。
「長々と預かってもらってすみません」
「いいよいいよ。良かったね、認めてもらえて」
「はい……正直、拍子抜けしました。それにしても、まさかあのカフェにエリアがいたとは驚きました」
シャルがやや強引に話題を変えた。
エリアがほんのり気まずそうにしていたからだろう。
「ね。見知った水色が見えたからびっくりしたよ。下向いてたから、一瞬シャルかと思ったもん」
「頼まれた立場だし、若干テオに足を伸ばさせようと思ったらあそこになったんだ。私もまさかノアに遭遇するとは思わなかったけど。でも、結果的に良かったんじゃない? ノアとテオも仲良くなれたし」
「うん。面白いね、彼」
「デリカシーはないけどね」
「でも、性格はいいんでしょ?」
「まあね。そうじゃなきゃ勉強なんて教えないよ」
エリアが遠回しに肯定した。
「エリアは素直じゃありませんね。まあ、そういうところが可愛いのですが」
シャルが暖かい目でエリアを見る。
エリアがそっぽを向いた。水色の髪から覗く耳は、夕陽とは色合いの異なる赤に染まっていた。
——ほら、可愛いでしょう?
——確かに。
僕とシャルは目線だけで会話をし、笑みを交わした。
その後はシャルの家で三人で遅めの夕食をとり、僕は一日ぶりに実家に帰った。
71
お気に入りに追加
369
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる