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第一章

第89話 四人でショッピング

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 両親の前でギャン泣きしてしまった事を恥ずかしがるシャルは大層可愛らしかったが、それはさておき。

 日曜日で両親も休み、僕とシャルも予定はなかったので、せっかくならどこか出かけようかという話になった。
 買い物にでも行こうと、四人で車に乗り込む。

「そういえば、二人は高校の進路はどうするつもりなんだい? 二人ともAランクだから、コースは自由に選択できるだろう?」

 運転席からお義父さんが尋ねてきた。

 魔法師養成学校は中高一貫で、中学校のうちは全員が同じ授業を受けるが、高校になるといくつかのコースに分かれる。
 代表的なのは戦闘コース、職人コース、芸術コース、アスリートコースとかかな。

 実力主義な魔法師社会らしく、Bランク以上は自由にコースを選択できるけど、Cランク以下の生徒は学校が中学校の頃の成績などを元に、適性の高そうなコースに振り分けられる。

「うーん、僕は戦闘コース一択かなぁ。一番得意だし」
「私もそのつもりです」
「あら、戦闘コースっていうと、例年生徒数が一番多いんじゃなかったかしら?」
「そうだね」

 高校になると、いくつかの魔法師養成中学校の生徒がまとめて一つの高校に進学する。
 そのため、一つのコースだけで中学校一つ分かそれ以上の生徒が集まる事もあるし、校舎もコースごとに別の敷地に設置されている。
 毎年希望者の少ないコースは、複数の校舎が一つの敷地内にあったりもするけど。

 それからも高校について話したりしていると、ショッピングモールに到着した。

 ちなみに、報奨金の入ったアタッシュケースは、結界を幾重にもして僕の部屋に置いてある。
 それこそ相応の魔力を吸収した【魔吸光線ドレイン・レイ】レベルの攻撃でなければ、まず破られる事はないくらいには強度を上げておいた。

 明日、エリアがシャルの家に来るらしいので、その時に両親の都合を聞いてから話を通す、とシャルは言っていた。
 彼女の父親——オリバーは、シャルの教育を放棄する代わりに干渉も利用もしないという方針を示した。
 人道的な側面は置いておくとして、オリバーは母親のギアンナより立場が上らしいので、今回の話もきっと承認されるだろう。

 その後に両親とシャルの間で契約書を作り、まとめて銀行に預けてしまう算段だ。
 預金限度額があるそうなので、いくつかの銀行に分けるらしいけど、そこら辺は両親に任せるしかない。

 シャルに手を引かれるようにして、ショッピングモールに入る。
 半歩前からこちらを振り返るシャルの瞳は輝いていて、早く早く、と急かしているようだ。
 まるでおもちゃ売り場に親を引っ張っていく子供みたいで、大変可愛らしい。

 と同時に、胸が締め付けられる。
 少なくとも僕にとっては当たり前だった親との買い物を、シャルはほとんど経験していない。
 今いるのは彼女の本当の親じゃないけど、少しでも楽しい思い出になってくれればいいなぁと思いながら、僕はシャルの手をぎゅっと握りしめた。

 花の咲いたような笑みとともにぎゅっと握り返されて、両親がいるというのに悶絶しかけた。
 すれ違った少年も、ちょうどその笑顔を見てしまったのか、頬を染めている。
 僕の彼女、恐るべし。



◇   ◇   ◇



「シャーロットちゃん、これなんてどう?」
「うわぁ、素敵ですね。黒が基調で、少し大人っぽく見えそうです」

 これはわかっていた事ではあるが、買い物に積極的なのはもっぱら女性陣で、僕とお義父さんは後からついていく事が主だった。

 今も、お義母さんとシャルが楽しそうに服を選んでいるのを、二人で店の入り口付近から眺めている。

「楽しそうだね、二人とも」
「うん……よかった」

 シャルが心底楽しそうな笑みを浮かべていて、とても安心した。

「母娘みたいだね」
「いずれは本物にするつもりなんだろう?」
「まあね」

 まだ具体的な想像はできていないけど、いずれは絶対に結婚したい。

「基本的にはノアに任せるけど、困ったら遠慮なく頼っていいからね。私もカミラも、いつでも二人の味方だから」
「……うん、ありがとう」

 先程のシャルの号泣を受けての言葉だろうな。
 お義父さんの事だ。もう大体、シャルの家庭環境について察しはついているんだろう。

「ノアもマーベリックさんもいらっしゃーい」

 手招きされてお義母さんとシャルの元に向かうと、二人はそれぞれ二着の服を持っていた。
 お義母さんが笑顔で、急かすようにシャルの脇腹をつつく。

 シャルはおずおずと僕に歩み寄ってきて、持っていた二着の服を掲げた。

「の、ノア君。これとこれ、どちらの方が良いですか?」

 どっちもマウンテンパーカーだった。
 片方は黒色の落ち着いた雰囲気、もう片方は淡いエメラルドグリーンの快活さを感じさせるものだ。

「えー、どっちでもめっちゃ似合うと思うけど。僕はシャルの決めたものならなんでもいいよ」
「そ、そうではなくてっ、あの、その……の、ノア君の、好みを聞きたくて……」

 恥ずかしそうに瞳を一度伏せてから、羞恥と期待の混じった瞳で見上げてくる。
 僕の好みに合わせてくれようとしてくれてるとか、可愛すぎるでしょ……じゃなくて、服を選ばないとか。

「うーん……」

 建前でもなんでもなく、どちらでもシャルには抜群に似合うと思う。
 ただ、あまり黒は持っているイメージがなかったし、少し大人っぽいシャルを見てみたい気持ちもあった。

「……僕的には、黒の方かな」
「わかりましたっ」

 パッと瞳を輝かせ、シャルはきびすを返した。
 僕の選んでいない方のパーカーを元の場所に戻しているようだ。

「いじらしいわねぇ」
「お義母さん、ここって大声で叫んでいいんだっけ?」
「二回までなら許可するわ」
「一回もダメだよ」

 僕のフリでボケたお義母さんに、お義父さんがすかさずツッコミを入れた。

「ふふ、世知辛い世の中ねぇ。それよりもマーベリックさん、私のも選んでくれる?」
「そうだね。私はこっちの方が好きかな。絶対どっちも似合うけどね」
「わかったわ!」

 満面の笑みを浮かべ、お義母さんはお義父さんが選ばなかった方を元の場所に返しに行った。
 シャルの事をいじらしいって言ってた割には、全く同じ事をしてるなぁ。

 ま、両親の仲が良いのは、恥ずかしくはあっても悪い事じゃないからいいけどさ。

「それじゃ、お会計しましょうか」
「また随分と買ったね」

 色々な衣服が入っているお義母さんのカゴを見て、お義父さんが苦笑した。

「セール品に良いものがたくさんあったのよ。シャーロットちゃんはもう少し見る?」
「いえ、私も買ってしまいます」

 そういうシャルのカゴには、僕が選んだパーカーのみが入っている。
 なんか嬉しいなぁ。

「それじゃあ、レジに行きましょう」
「はい」
「私も行くよ」

 三人がレジに向かう。

「僕ちょっとトイレ行ってくるね」
「はーい」

 店を出たところで集合という事だけ決めて、僕はトイレに向かった。

 あのパーカーを着たシャル、可愛いんだろうなぁなんて想像をしながら小用を足して戻ってくると——、
 先に会計を終えたらしいシャルが、店の外で三人の男に囲まれていた。

 明らかに迷惑そうな表情のシャルに対して、男たちは低俗な笑みを浮かべてにじり寄っている。

「……チッ」

 思わず舌打ちを漏らしてから、急いで彼女の元に向かった。
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