「あんたみたいな雑魚が彼氏で恥ずかしい」と振られましたが、才色兼備な彼女ができて魔法師としても覚醒したので生活は順調です〜ヨリ?戻せないよ〜

桜 偉村

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第一章

第80話 WMUからの呼び出し②

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「私はともかく、ウィリアム事務総長やリチャード首相がいらっしゃるのには驚いただろう?」
「「はい」」

 素直に頷けば、デイヴィット総監は得意げな顔をした。
 彼は自らが名を出した二人に視線を投げた。

 総監と頷き合ってから、ウィリアム事務総長とリチャード首相は、僕とシャルに視線を向けてきた。
 口を開いたのはウィリアム事務総長だ。

「ノア君、シャーロット嬢。今日、私とリチャード首相がこの場にいるのはノア君の実力をこの目で見たいから、というだけではない。情勢的に君たちがサター星の刺客を倒した事は公表できないが、それでもラティーノ国の、ひいてはスーア星の危機を守ったのだ。その報酬を授与するために我々はここにいる」

 ウィリアム事務総長とデイヴィット総監、リチャード首相、そして首相の背後に立っていた男性二人がこちらに歩いてくる。
 二人の男性——おそらくはリチャード首相の側近だろう——は、それぞれアタッシュケースを抱えていた。
 ……えっ、まさか。

 男性がアタッシュケースを開けて、中を見せてくる。

「っ……!

 見た事もない量の札束がぎっしりと詰まっていた。

「こんな形で申し訳ないが、報奨金を贈らせてもらうよ」

 リチャード首相の言葉を受けて、二人の男性が僕とシャルにそれぞれアタッシュケースを差し出してくる。

「刺客を倒してくれた事に感謝する。足止めをしてノア君の覚醒も助けたシャーロット嬢には二千万円、実際に倒したノア君には一億円だ」
「い、一億円⁉︎」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
 ちょ、ちょっと待って。
 二千万円でもやばいのに、い、一億円って、ラティーノ国の平均の生涯収入の約半分じゃん!

「「い、いえ、そんなもの、受け取れませんよっ!」」

 僕とシャルは異口同音に言った。

「いや、君たちの功績は計り知れない。本来ならこれでも足りないくらいなのだ。私とウィリアム事務総長、リチャード首相の顔を立てると思って、受け取って欲しい」

 その言い方はずるいって。
 受け取らないっていう選択肢、なくなっちゃったじゃん。

 結局、僕とシャルは渋々報奨金の受け取りを受諾した。
 ……驚くだろうな、お義母さん、お義父さん。
 というか、いきなり一億円なんてもらってもどうしようかな。

 今渡されても扱いに困るだろうという事で、報奨金は本部を出る時に受け取る事になった。
 すでに精神疲労がすごいんだけど、これで終わりじゃないんだよね。

「さて——」

 デイヴィット総監が仕切り直すようにそう言った。
 場の雰囲気が一気に引き締まった。ピリついた……という感じだ。

「それではいよいよ、ノア君の実力を見せてもらうとしようか。君がサター星の刺客、ケラベルスなる者を倒した事は疑っていない。シャーロット嬢を始めとした多くの者が証言しているし、ルーカスとアヴァも君がケラベルスを倒した魔法を、遠目ではあるが見ているからな」

 デイヴィット総監の言葉に、ルーカスさんとその正面に座る女性が頷いた。
 彼女がアヴァさんなのだろう。勝ち気そうな女性だ。

「ただ、我々も話だけを聞いてそれでおしまいというわけにはいかない。サター星の刺客を倒せるほどのものなら、実力は確かめておかなければならない。その事情は理解してくれているか?」
「はい」

 理解しているし、不満もない。

「ありがとう。ルーカスも弟子入りを認めているほどだから、地味なテストをやっても仕方がない。君には、これから実際に対人戦を行ってもらおうと思う。要は模擬戦だね——ロバート」
「はい」

 切れ目の神経質そうな男が立ち上がった。

「彼はラティーノの国家魔法師、ロバートだ。ノア君の師匠には及ばないが、先のサター星襲撃の際にも活躍した実力者だ。彼との戦いで、君の実力を見せてくれ。あぁ、ルーカスから話は聞いている。できる限りの全力でやってくれれば良いから」
「それでよろしいのですか?」

 やばっ、思わず尋ねちゃった。
 デイヴィット総監は大きく頷いた。

「構わないよ。そもそも味方とはいえ、模擬戦で奥の手を隠しておくのは珍しい事ではないし、ここには各国の代表クラスの腕利きの魔法師が揃っている。片鱗へんりんだけ見せてくれれば十分だ」
「わかりました」

 正直ホッとした。
 ルーカスさんを信頼していなかったわけではないけど、やっぱり総監直々の承認は安心感があるね。



 模擬戦のフィールドは、白い壁に囲まれた物が何もない空間だった。
 その中央に僕とロバートさんがいて、他の人たちは壁際で僕たちを見守っている。
 ……見守っているというには、少々視線が鋭すぎるが。

「よろしくお願いします」

 僕は試合前の礼儀としてロバートさんに握手を求めたが、差し伸べた手は握り返されない。
 どうしたのだろう。
 表情をうかがうと、ロバートさんは憎々しげに僕の事を睨みつけていた。

「……ガキが。ちょっと手柄を上げたからって調子に乗るなよ」

 ロバートさんの声は神経質な見た目にそぐわず、成人男性にしては高かった。

「お前が刺客を倒せたのは、覚醒後にハイになっていたからこそのビギナーズラックだ。それに、二人がかりでもあるし、相手も僕らが戦っていたものよりも弱かったのだろう。たまたま勝てただけで、僕らに並んだと思わない事だ」

 僕にしか聞こえないくらいの小声で一息に言ってのけ、ロバートさんは皮肉げに口元を歪めた。
 初対面なのにすごい嫌われている。
 どうやら無名の僕がいい感じに扱われているのが、気に食わないらしい。

 こういう人は往々にして話が通じない。
 変に刺激してもいい事はないし、黙っておこう。

「ふん、言い返せもしないか。そうだろうな。なぜなら全て図星だからだ。ここで僕にボロ負けして、惨めに逃げ帰るんだな。安心しろ、死なない程度に手加減はしてやる」

 いや、それはそうでしょう。
 思わず心の中でツッコミを入れてしまう。

 デイヴィット総監からも殺傷性の高い魔法は使わないように言われているし、そもそもこれは模擬戦。
 死人が出たら本末転倒だ。

 言いたい事を言って満足したのか、ロバートさんは僕から距離をとって戦闘態勢に入った。

「はあ……」

 気疲れを感じて、思わずため息が漏れてしまう。
 最初から簡単な事だとは思っていなかったけど、思った以上に悪いクジを引いちゃったみたいだ。

 シャルから、心配そうな視線が送られてくる。
 大丈夫だと安心させるように、笑みを作ってみせた。

 ……シャルの前で、嫌味なやつに負けたくはないな。
 メラメラと闘争心が湧き上がってくる。

 彼女の前で格好をつけるという意味では、相手がロバートさんで良かったのかもしれない。
 もしも相手が優しい人だったら、ここまでやる気にはならなかっただろう。

「双方準備はいいな? ——それでは始め!」

 デイヴィット総監の合図で、僕とロバートさんは同時に魔法を放った。
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