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第一章
第77話 ファーストキス
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ノアはスキンシップが好きだ。
キスとかはまだしも、部屋で二人きりになればハグくらいはしてくるだろうとシャーロットは踏んでいたし、期待もしていた。
しかし、ノアは部屋に入ってきたシャーロットを見て何やらハッとした表情になった後、すぐに彼女の事を視界から外すように背中を向けた。
それは特に何も意味を持たない、自然な行動だったのかもしれない。
しかし、シャーロットは自分が拒絶されたような、猛烈な寂しさを感じた。
気がつけば、背後からノアに抱きついていた。
「シャル……?」
ノアの首元に顔を埋める。
鼻いっぱいに吸い込めば、シャンプーの良い香りがした。
「ど、どうしたの? シャル」
ノアが戸惑いの声を上げた。
シャーロットはハッとなって元の体勢に戻った。
そして、俯きがちに言う。
「たった二日会ってないだけなのに、すごく寂しくて……すみません。重い、ですよね」
「っ……世間一般から見たら、そうかもね」
(あぁ、やっぱりノア君も重いと思っていたんですね)
今の言葉は彼なりのオブラートに包んだ伝え方で、彼も本心では——
「でも」
ぐいっとノアが近づいてきた。
耳元に囁いてくる。
「ごめん。多分、僕の方が重い」
「へっ……?」
——ちゅっ。
「っ——!」
リップ音と、頬に柔らかい感触。
頬にキスされた。
それだけでもシャーロットには大きなダメージだったが、ノアの攻撃はそれで終わらなかった。
足元に敷かれたノアの布団に押し倒される。
「あっ、んあ……あぁっ……!」
髪、おでこ、首筋、耳。
唇以外の至る所にキスを落とされ、シャーロットはその甘美な感覚と羞恥に、嬌声をあげる事しかできなかった。
キスの嵐が降り止んだ時、シャーロットは息も絶え絶えになっていた。
「ごめん。やりすぎちゃった」
ノアが優しく頭を撫でてくれる。
仰向けに寝転がっているシャーロットは、息を整えながら尋ねた。
「どうしたんですか……? 急にこんな……」
「シャルが可愛すぎたから……ごめん、抑えが効かなかった」
「別に謝って欲しいわけではありませんよ。い、嫌ではなかったですし……でも、それならなぜ、私が部屋に入った時に目を背けたのですか?」
「あー、いや、えっと、それは……」
ノアが視線を彷徨わせている。
どっから見ても誤魔化そうとしているな。
「ノア君?」
上半身を起こし、ジト目で睨んでやれば、彼は観念したように白状した。
「その、風呂上がりのシャルが、すごい魅力的だったから」
「っ……!」
恥ずかしかった。でも、それ以上に嬉しかった。
……なんだ、ノア君も同じだったのですね。
想いが自分の一方通行ではなかったのだと知れた喜びのまま、シャーロットはノアに抱きついた。
あぐらをかいているノアの斜め後ろからくっついたため、視線は自然とノアのお腹や足元に向けられた。
だから当然、盛り上がったそこもシャーロットの視界に入った。
「あっ……」
(……ノア君、興奮しているんですね……)
「ごめん。襲おうとかそういうつもりはないんだけど、抑えられなくて……」
「全然大丈夫です。私も彼女になった以上は、な、慣れていきますから」
「うん、ありがとう。僕も頑張るよ」
ノアが恥ずかしそうに笑った。
少し小さくなった気もするけど、彼の男の子の証は、まだまだその存在を主張している。
「その……」
「ん?」
優しい笑みを向けてくるノアに、シャーロットは意を決して言った。
「が、我慢できなかったらし、シてもいいですからね……?」
恐れがないとは言わないが、カミラが言ったように、十五歳なら早すぎる事もないのだ。
実際、同年代のそういう噂も、エリア経由でちらほら耳に入ってくる。
ノアはごくりと息を呑んだ。
しかし、すぐに彼は破顔し、シャーロットの頭を撫でた。
「焦らないで大丈夫だよ。シャルが本当にしたいって思えるまで、いくらでも待つからさ」
その口調は、包み込むようで、慈しむようで。
大切にされている実感が湧いて、シャーロットは口元が緩むのを抑えられなかった。
ポスッと、ノアの肩に頭を乗せる。
肩口からその端正な顔を見上げて、尋ねてみる。
「でも、あまり我慢させてしまっても悪いですし……その、お辛くはないのですか?」
「安心して、辛くないと言ったら嘘になるから」
「はい……って、結局辛いのではないですかっ」
シャーロットのツッコミに、ノアが声を上げて笑った。
「まあね。けど、いくらでも待てるのも本当だよ。そりゃいずれはしたいけど、シャルに嫌な思いはしてほしくないからさ」
……あぁ、もう。
本当に、この人はどこまで私を喜ばせれば気が済むのでしょうか。
「ノア君。ありがとうござ——」
「ああ、でも」
不意に、ノアがシャーロットの顎に手を当てた。
その親指がスッと唇をなぞる。
「こっちの方は、もう待てないかも」
「っ~!」
ノアが何を意味しているのかはわかった。
唇へのキスを、彼は要求してきているのだ。
正直、頬にされるだけでもまだかなり恥ずかしい。
先程のキスの嵐は、本当に恥ずか死ぬかと思った。
ノアの事だ。おそらくシャーロットが待って欲しいと言えば、待ってくれるだろう。
でも、それではダメな気がした。
(いくら経験の差があるとはいえ、いつまでもおんぶに抱っこは嫌ですから)
それに、唇同士で触れ合いたいのはシャーロットも同じだ。
自分の事になると我慢しがちなノアが、せっかく自分の欲求を伝えてくれたのだ。
自分も、覚悟を決めよう。
「い、いいですよ、ノア君」
ノアが黙ってシャーロットの目を見てくる。
シャーロットはそのカラメル色の瞳から、視線を逸らさなかった。
ノアの両手が肩に置かれる。
徐々に接近してくる彼の瞳は、獣のようにギラギラしていた。
(普段は可愛いのに、こういう時に男らしいのは反則でしょう……!)
内心でノアに文句を垂れる事で緊張を逃しながら、シャーロットは目を閉じ、顎を持ち上げた。
それは、長いようで一瞬だった。
ただ唇と唇が触れるだけの、拙いキス。
それなのに、得られる満足感は器に収まりきらないほどだった。
体の力が抜ける。
シャーロットはノアの胸に倒れ込んだ。
「できたね、シャル」
「はい、できました……!」
まるでヨシヨシするように、ノアが頭を撫でてくれる。
ファーストキスを好きな人に捧げられた。
その事が、たまらなく嬉しかった。
沈黙が落ちるが、全くもって居心地の悪さは感じない。
むしろ、満ち足りた心地よさすら覚える。
そのままノアに頭を撫でられていると、眠気が襲ってきた。
「ふはぁ……」
あくびが漏れてしまう。
「眠そうだね」
「はい、ちょっと疲れました……」
主に、精神的に。
「ごめんね、無理させちゃって」
「いえ……私もしたかったですから。嬉しかったです」
「っ……ありがとう、シャル」
「こちらこそです……」
なんとか返答はしているが、瞼が重い。
ノアの手でベッドに寝かされ、毛布をかけられる。
「おやすみ、シャル」
「おやすみなさい……」
襲ってきた睡魔に逆らわず、シャーロットは意識を手放した。
その口元は緩み切っており、とても幸せそうな表情だった。
◇ ◇ ◇
「やっと、できた……」
寝ているシャルの横で、僕は自分の唇をなぞった。
少々強引だった気がしないでもないが、シャルはとても満足そうな、そして幸せそうな笑みを浮かべて眠っていた。
彼女も望んでいて、一生懸命応えてくれた。
その事が何よりも嬉しかった。
「お疲れ様。ありがとう、シャル」
シャルの頬に触れる。
彼女の白い手が僕の指を摘んだ。
寝息に乱れはない。どうやら無意識のようだ。
「ん……ノア君、好きぃ……」
「っ——!」
本当にもう、この子は……。
「僕、我慢できるかな……」
正直、先程シャルに「シてもいいですからね……?」と言われた時はかなり危なかった。
他の星の事はあまり知らないが、少なくともスーア星では、十五歳というのは男女が夜を共にするのに早すぎるという事はない。
早い人では高校生のうちに子を孕む人もちらほらいるくらいだ。
もちろん避妊はちゃんとするつもりだし、当初の計画では少なくとも結婚が可能になる十六歳にお互いがなるまでは、手を出さないつもりだった。
あと一年弱だ。
でも、無理かもしれない。
「……いや、大丈夫。恋心は性欲になんて負けない。手伝ってね、相棒」
僕は自分の右手に話しかけた。
無論、返事はない。
急に我に返る。
「……何やってんだろ、僕」
何これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど。
それから僕は、しばらくの間、全身を襲ってくるむず痒い羞恥心との壮絶な戦いを繰り広げた。
キスとかはまだしも、部屋で二人きりになればハグくらいはしてくるだろうとシャーロットは踏んでいたし、期待もしていた。
しかし、ノアは部屋に入ってきたシャーロットを見て何やらハッとした表情になった後、すぐに彼女の事を視界から外すように背中を向けた。
それは特に何も意味を持たない、自然な行動だったのかもしれない。
しかし、シャーロットは自分が拒絶されたような、猛烈な寂しさを感じた。
気がつけば、背後からノアに抱きついていた。
「シャル……?」
ノアの首元に顔を埋める。
鼻いっぱいに吸い込めば、シャンプーの良い香りがした。
「ど、どうしたの? シャル」
ノアが戸惑いの声を上げた。
シャーロットはハッとなって元の体勢に戻った。
そして、俯きがちに言う。
「たった二日会ってないだけなのに、すごく寂しくて……すみません。重い、ですよね」
「っ……世間一般から見たら、そうかもね」
(あぁ、やっぱりノア君も重いと思っていたんですね)
今の言葉は彼なりのオブラートに包んだ伝え方で、彼も本心では——
「でも」
ぐいっとノアが近づいてきた。
耳元に囁いてくる。
「ごめん。多分、僕の方が重い」
「へっ……?」
——ちゅっ。
「っ——!」
リップ音と、頬に柔らかい感触。
頬にキスされた。
それだけでもシャーロットには大きなダメージだったが、ノアの攻撃はそれで終わらなかった。
足元に敷かれたノアの布団に押し倒される。
「あっ、んあ……あぁっ……!」
髪、おでこ、首筋、耳。
唇以外の至る所にキスを落とされ、シャーロットはその甘美な感覚と羞恥に、嬌声をあげる事しかできなかった。
キスの嵐が降り止んだ時、シャーロットは息も絶え絶えになっていた。
「ごめん。やりすぎちゃった」
ノアが優しく頭を撫でてくれる。
仰向けに寝転がっているシャーロットは、息を整えながら尋ねた。
「どうしたんですか……? 急にこんな……」
「シャルが可愛すぎたから……ごめん、抑えが効かなかった」
「別に謝って欲しいわけではありませんよ。い、嫌ではなかったですし……でも、それならなぜ、私が部屋に入った時に目を背けたのですか?」
「あー、いや、えっと、それは……」
ノアが視線を彷徨わせている。
どっから見ても誤魔化そうとしているな。
「ノア君?」
上半身を起こし、ジト目で睨んでやれば、彼は観念したように白状した。
「その、風呂上がりのシャルが、すごい魅力的だったから」
「っ……!」
恥ずかしかった。でも、それ以上に嬉しかった。
……なんだ、ノア君も同じだったのですね。
想いが自分の一方通行ではなかったのだと知れた喜びのまま、シャーロットはノアに抱きついた。
あぐらをかいているノアの斜め後ろからくっついたため、視線は自然とノアのお腹や足元に向けられた。
だから当然、盛り上がったそこもシャーロットの視界に入った。
「あっ……」
(……ノア君、興奮しているんですね……)
「ごめん。襲おうとかそういうつもりはないんだけど、抑えられなくて……」
「全然大丈夫です。私も彼女になった以上は、な、慣れていきますから」
「うん、ありがとう。僕も頑張るよ」
ノアが恥ずかしそうに笑った。
少し小さくなった気もするけど、彼の男の子の証は、まだまだその存在を主張している。
「その……」
「ん?」
優しい笑みを向けてくるノアに、シャーロットは意を決して言った。
「が、我慢できなかったらし、シてもいいですからね……?」
恐れがないとは言わないが、カミラが言ったように、十五歳なら早すぎる事もないのだ。
実際、同年代のそういう噂も、エリア経由でちらほら耳に入ってくる。
ノアはごくりと息を呑んだ。
しかし、すぐに彼は破顔し、シャーロットの頭を撫でた。
「焦らないで大丈夫だよ。シャルが本当にしたいって思えるまで、いくらでも待つからさ」
その口調は、包み込むようで、慈しむようで。
大切にされている実感が湧いて、シャーロットは口元が緩むのを抑えられなかった。
ポスッと、ノアの肩に頭を乗せる。
肩口からその端正な顔を見上げて、尋ねてみる。
「でも、あまり我慢させてしまっても悪いですし……その、お辛くはないのですか?」
「安心して、辛くないと言ったら嘘になるから」
「はい……って、結局辛いのではないですかっ」
シャーロットのツッコミに、ノアが声を上げて笑った。
「まあね。けど、いくらでも待てるのも本当だよ。そりゃいずれはしたいけど、シャルに嫌な思いはしてほしくないからさ」
……あぁ、もう。
本当に、この人はどこまで私を喜ばせれば気が済むのでしょうか。
「ノア君。ありがとうござ——」
「ああ、でも」
不意に、ノアがシャーロットの顎に手を当てた。
その親指がスッと唇をなぞる。
「こっちの方は、もう待てないかも」
「っ~!」
ノアが何を意味しているのかはわかった。
唇へのキスを、彼は要求してきているのだ。
正直、頬にされるだけでもまだかなり恥ずかしい。
先程のキスの嵐は、本当に恥ずか死ぬかと思った。
ノアの事だ。おそらくシャーロットが待って欲しいと言えば、待ってくれるだろう。
でも、それではダメな気がした。
(いくら経験の差があるとはいえ、いつまでもおんぶに抱っこは嫌ですから)
それに、唇同士で触れ合いたいのはシャーロットも同じだ。
自分の事になると我慢しがちなノアが、せっかく自分の欲求を伝えてくれたのだ。
自分も、覚悟を決めよう。
「い、いいですよ、ノア君」
ノアが黙ってシャーロットの目を見てくる。
シャーロットはそのカラメル色の瞳から、視線を逸らさなかった。
ノアの両手が肩に置かれる。
徐々に接近してくる彼の瞳は、獣のようにギラギラしていた。
(普段は可愛いのに、こういう時に男らしいのは反則でしょう……!)
内心でノアに文句を垂れる事で緊張を逃しながら、シャーロットは目を閉じ、顎を持ち上げた。
それは、長いようで一瞬だった。
ただ唇と唇が触れるだけの、拙いキス。
それなのに、得られる満足感は器に収まりきらないほどだった。
体の力が抜ける。
シャーロットはノアの胸に倒れ込んだ。
「できたね、シャル」
「はい、できました……!」
まるでヨシヨシするように、ノアが頭を撫でてくれる。
ファーストキスを好きな人に捧げられた。
その事が、たまらなく嬉しかった。
沈黙が落ちるが、全くもって居心地の悪さは感じない。
むしろ、満ち足りた心地よさすら覚える。
そのままノアに頭を撫でられていると、眠気が襲ってきた。
「ふはぁ……」
あくびが漏れてしまう。
「眠そうだね」
「はい、ちょっと疲れました……」
主に、精神的に。
「ごめんね、無理させちゃって」
「いえ……私もしたかったですから。嬉しかったです」
「っ……ありがとう、シャル」
「こちらこそです……」
なんとか返答はしているが、瞼が重い。
ノアの手でベッドに寝かされ、毛布をかけられる。
「おやすみ、シャル」
「おやすみなさい……」
襲ってきた睡魔に逆らわず、シャーロットは意識を手放した。
その口元は緩み切っており、とても幸せそうな表情だった。
◇ ◇ ◇
「やっと、できた……」
寝ているシャルの横で、僕は自分の唇をなぞった。
少々強引だった気がしないでもないが、シャルはとても満足そうな、そして幸せそうな笑みを浮かべて眠っていた。
彼女も望んでいて、一生懸命応えてくれた。
その事が何よりも嬉しかった。
「お疲れ様。ありがとう、シャル」
シャルの頬に触れる。
彼女の白い手が僕の指を摘んだ。
寝息に乱れはない。どうやら無意識のようだ。
「ん……ノア君、好きぃ……」
「っ——!」
本当にもう、この子は……。
「僕、我慢できるかな……」
正直、先程シャルに「シてもいいですからね……?」と言われた時はかなり危なかった。
他の星の事はあまり知らないが、少なくともスーア星では、十五歳というのは男女が夜を共にするのに早すぎるという事はない。
早い人では高校生のうちに子を孕む人もちらほらいるくらいだ。
もちろん避妊はちゃんとするつもりだし、当初の計画では少なくとも結婚が可能になる十六歳にお互いがなるまでは、手を出さないつもりだった。
あと一年弱だ。
でも、無理かもしれない。
「……いや、大丈夫。恋心は性欲になんて負けない。手伝ってね、相棒」
僕は自分の右手に話しかけた。
無論、返事はない。
急に我に返る。
「……何やってんだろ、僕」
何これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど。
それから僕は、しばらくの間、全身を襲ってくるむず痒い羞恥心との壮絶な戦いを繰り広げた。
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