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第一章
第48話 囮にされたノア
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「キャッ……!」
エブリン先生の結界にヒビが入り、悲鳴があちこちから上がった。
「心配するな!」
エブリン先生はすぐに結界を修復した。
しかし、別の場所にすぐに新たなヒビが入る。
塵も積もれば山となる、という言葉がある。
ダーナス単体ではエブリン先生の足元にも及ばないが、圧倒的な数の力は、先生の防御力をも上回り始めていた。
ヒビが入っては、すぐにエブリン先生が塞ぐ。
ダーナスに疲労の色は見られない。
このままイタチごっこを続けていては、先生の消耗のペースが早まるだけだ。
それは、彼女自身も理解していたのだろう。
「Cランク以上の人は攻撃準備、その他の人は周囲の観察と警戒! 気づいた事があったらなんでも言って!」
「了解です」
シャルが繋いでいた僕の手を離し、両手を前に突き出した。
魔法発動の準備に入ったのだ。
「りょ、了解!」
「わかりましたっ」
他の生徒も次々と魔法の準備、または周囲の観察を始めた。
「ノア君。私から離れないでください」
「うん」
僕は魔法発動の邪魔にならない程度にシャルに寄り添いつつ、周囲に目をやった。
ジェームズやアローラ、それに最近はめっきりおとなしかったレヴィやイザベラも、しっかりと準備している。
自分たちの命も懸かっているのだから、当然か。
それから少しして、エブリン先生がケラべルスから見えないように、背中に隠した手で右を指差した。
——右側にダーナスを誘導する、という合図だ。
「皆!」
掛け声と同時に、エブリン先生が結界を縮小させた。
右側の空いたスペースからダーナスが流れ込む。
そこに、無数の魔法が飛来した。
シャル、ジェームズ、アローラのAランクトリオを中心とした集中砲火に耐えられるダーナスはいなかった。
受け持つ敵の量が減った事でエブリン先生の負担も軽減され、結界にヒビが入る事はなくなった。
生徒も、一匹たりとも撃ち漏らしていない。
皆、すごいな。
「やるなぁ。やっぱりその三人は別格だね」
呑気に感心しているケラべルスの事はもちろん気にかかるが、今のところ自分から仕掛けてくる気配はない。
己が出るまでもないと踏んでいるのか、この場に最強魔法師がいない可能性を考慮して温存しているのだろう。
これならば、増援が来るまで持ち堪えられるのではないか——。
そんな淡い期待は、すぐに打ち砕かれた。
「だ、ダーナスだ! 西側の廊下からダーナスが向かってきたぞ!」
一人の男子の報告に、クラスは騒然となった。
(まさか……他クラスの撃ち漏らし⁉︎)
最悪だ。
せっかく、落ち着きを取り戻していたというのに。
「はっ⁉︎ 何で廊下から⁉︎」
「他のクラスが逃げ出したんだろ!」
「ふざけんなよ!」
「反対は来てないぞ!」
「こんなの耐え切れるわけがねえ、逃げろ!」
一人、また一人と戦線を離脱しようとする。
「皆! 慌てるなっ、一丸となって対処しろ!」
「皆さん、魔法を放ってください! それで防げるはずです!」
エブリン先生とシャルが大声を張り上げるが、特にその存在を目の当たりにして恐怖に駆られたのか、出入り口に集まっていた者たちは、こぞってダーナスが向かってきていない方の出口へ殺到した。
不安や恐怖は連鎖する。
教室の中央に固まっていた者たちからも、逃走する者が現れ始めた。
だめだ。もはやこのクラスには、ダーナスの侵攻に対抗するだけの力も秩序もない。
「くそっ、撤退だ!」
エブリン先生の声で、何とかその場に踏みとどまっていた者たちが、一斉に教室の出入り口に殺到した。
「きゃっ!」
無秩序に動けば、当然事故が発生する。
悲鳴に目を向ければ、アローラが転倒していた。
彼女の取り巻きも、そうでなかった者も、全員が素知らぬ顔をして逃げていく。
いや、本当に気づいていないのかもしれない。
アローラは足を挫いたらしく、立ちあがろうとして顔を歪めている。
廊下からダーナスが姿を現した。
地面に倒れ込んでいるアローラを見て、ニタリと笑ったように見えた。
やばい。このままじゃ殺される。
「アローラ! 何でもいいから魔法を放つんだ!」
僕は叫んでいた。
いくらひどい振られ方をしていても、元カノだ。
死なれるのは嫌だった。
「あっ、あっ……!」
アローラは目を見開いて固まってしまっていた。
恐怖で体がすくんでしまっているのだろう。
ダーナスが大きな口を開けた。
「アローラ、魔力弾を撃て!」
そう叫んだ時、不意に囁き声が聞こえた。
「そんなに言うなら、お前自身が助けてこい」
「えっ? ——くっ……!」
呼吸が苦しくなり、浮遊感を覚える。
胸ぐらを掴まれて持ち上げられたのだ。
ジェームズだった。
その口元は醜く歪んでいた。
——ゾワッ。
全身を悪寒が駆け巡る。
「な、何を……!」
「アローラを助けたいんだろ?」
ジェームズはニヤリと笑うと、僕を持ち上げた腕を振りかぶり、まるで野球のピッチャーのように投げ飛ばした。
途方もない風圧。
(えっ、嘘でしょ……⁉︎)
自分の身に起こった事が、信じられなかった。
「ノア君⁉︎」
シャルの悲痛な叫び声。
体勢を整える暇もなく、僕はダーナスに背中から突っ込んだ。
「いっ……!」
背中に鋭い痛み。呼吸ができなくなる。
着地の際に地面についた右手首にも痛みが走った。折れたかもしれない。
「くっ……!」
あまりの痛みに涙が溢れる。
ぼやける視界の隅で、アローラを抱えて逃げていくジェームズが見えた。
(あいつ、僕を囮にしやがった!)
「まっ……!」
待って——。
そう、言えなかった。
「——アァァア⁉︎」
足を襲った激痛に、僕は絶叫した。
ダーナスに踏みつけられたのだ。
痛い、痛い! やばいやばいやばいやばい……!
ダーナスと、目が合った。
アローラを捕食しようとしていた個体だ。
その口が大きく開かれた。
——食われる!
僕は咄嗟に目を瞑った。
「——ノア君!」
シャルの声と爆発音。
目を開けると、僕を食べようとしていたダーナスは壁にめり込んでいた。
シャルが助けてくれたのだろう。
「あっ……⁉︎」
ありがとうと言いかけて、体のあちこちに痛みが走り、顔を歪めてしまう。
「ノア君っ、大丈夫ですか⁉︎」
シャルが僕の周囲のダーナスを蹴散らしつつ、治癒魔法をかけてくれる。
擦り傷などはそれで治ったが、背中と手、それに足には依然として痛みが残ったままだ。
即席の治癒魔法では、軽傷しか治せないのだ。
僕の周りに結界が張られた。
シャルが守ってくれたのだと、すぐにわかった。
(シャルに負担はかけられない。早く立たないと——)
「いっ……⁉︎」
無理やり体を起こそうとして、気を失いそうなほどの痛みが体を駆け巡った。
地面に這いつくばってしまう。
「くそっ……!」
「ノア君っ、頑張って捕まってください!」
周囲の敵を一掃したシャルが、背中を向けてしゃがむ。
僕は無事な方の手で、なんとかしがみついた。
すでに、あらかたのクラスメートは教室から逃げ出していた。
アッシャーが、エブリン先生を抱えて教室を出ようとしている。
「離せ、アッシャー! まだノアとシャーロットが——」
「もう魔力が切れたでしょう! 逃げるしかありません!」
エブリン先生をたしなめたアッシャーは、一度泣きそうな表情でこちらを振り返ってから、意を決したように教室を飛び出した。
教室にいるのはシャルと僕、そして大量のダーナスのみとなった。
——ドン、ドン!
頭突きをくらたびに、僕らを包むシャルの結界にヒビが入っていく。
(やばいやばい、このままじゃ二人とも死ぬ!)
「シャルっ、このままじゃどっちもやられるだけだ! せめて君だけでも——」
「大丈夫ですよ」
敵に囲まれているとは思えないほど、シャルの声は落ち着いていた。
「だ、大丈夫って——」
「すみません、ノア君。私は一つ、あなたに嘘を吐きました」
「えっ?」
すぐそばにあるシャルの横顔を見る。
穏やかな笑みを浮かべ、彼女は口を開いた。
「——【統一】」
「……へっ?」
その瞬間だけ、僕は痛みを忘れた。
シャルの髪が紫色に染まった。
魔力濃度が異様に高まっている。
「こいつらを蹴散らして撤退します。ノア君は捕まっていてください」
シャルの周囲に生成された無数の魔力弾が、次々とダーナスを貫通していく。
威力がそれまでの比じゃない。
間違いなく、シャルは【統一】を使っているんだ。
だとしたらまずい。
【統一】は百パーセントのポテンシャルを発揮できる分、反動も大きく、負担をかけすぎれば命に関わる。
「シャルっ、もうそれくらいにしないと——」
「え~、それはないでしょ」
いつの間にか、ケラべルスが教室内に入ってきていた。
ゆったりとした足取りで近づいてくる。
同時に、生き残りのダーナスは離れていった。
「力を温存していたのではなかったのですか?」
シャルがケラベルスを見据えたまま、僕を地面に下ろす。
「っ……!」
痛みで思わずあげそうになった絶叫を、何とか堪える。
周囲に結界が張られた。
言うまでもなく、シャルが張ってくれたのだろう。
「うん、温存兼様子見のつもりだったんだけどね。君が面白い事をするから、興味が出てきたんだよ」
「今の状態の私より強い人などたくさんいますよ。そちらを待たれてはいかがですか?」
「なら、君と戦いながら待つ事にしよう」
ケラベルスはシャルと戦う気満々のようだった。
「ノア君。絶対にそこを動かないでください」
そう言い残して、シャルがケラベルスに飛びかかった。
エブリン先生の結界にヒビが入り、悲鳴があちこちから上がった。
「心配するな!」
エブリン先生はすぐに結界を修復した。
しかし、別の場所にすぐに新たなヒビが入る。
塵も積もれば山となる、という言葉がある。
ダーナス単体ではエブリン先生の足元にも及ばないが、圧倒的な数の力は、先生の防御力をも上回り始めていた。
ヒビが入っては、すぐにエブリン先生が塞ぐ。
ダーナスに疲労の色は見られない。
このままイタチごっこを続けていては、先生の消耗のペースが早まるだけだ。
それは、彼女自身も理解していたのだろう。
「Cランク以上の人は攻撃準備、その他の人は周囲の観察と警戒! 気づいた事があったらなんでも言って!」
「了解です」
シャルが繋いでいた僕の手を離し、両手を前に突き出した。
魔法発動の準備に入ったのだ。
「りょ、了解!」
「わかりましたっ」
他の生徒も次々と魔法の準備、または周囲の観察を始めた。
「ノア君。私から離れないでください」
「うん」
僕は魔法発動の邪魔にならない程度にシャルに寄り添いつつ、周囲に目をやった。
ジェームズやアローラ、それに最近はめっきりおとなしかったレヴィやイザベラも、しっかりと準備している。
自分たちの命も懸かっているのだから、当然か。
それから少しして、エブリン先生がケラべルスから見えないように、背中に隠した手で右を指差した。
——右側にダーナスを誘導する、という合図だ。
「皆!」
掛け声と同時に、エブリン先生が結界を縮小させた。
右側の空いたスペースからダーナスが流れ込む。
そこに、無数の魔法が飛来した。
シャル、ジェームズ、アローラのAランクトリオを中心とした集中砲火に耐えられるダーナスはいなかった。
受け持つ敵の量が減った事でエブリン先生の負担も軽減され、結界にヒビが入る事はなくなった。
生徒も、一匹たりとも撃ち漏らしていない。
皆、すごいな。
「やるなぁ。やっぱりその三人は別格だね」
呑気に感心しているケラべルスの事はもちろん気にかかるが、今のところ自分から仕掛けてくる気配はない。
己が出るまでもないと踏んでいるのか、この場に最強魔法師がいない可能性を考慮して温存しているのだろう。
これならば、増援が来るまで持ち堪えられるのではないか——。
そんな淡い期待は、すぐに打ち砕かれた。
「だ、ダーナスだ! 西側の廊下からダーナスが向かってきたぞ!」
一人の男子の報告に、クラスは騒然となった。
(まさか……他クラスの撃ち漏らし⁉︎)
最悪だ。
せっかく、落ち着きを取り戻していたというのに。
「はっ⁉︎ 何で廊下から⁉︎」
「他のクラスが逃げ出したんだろ!」
「ふざけんなよ!」
「反対は来てないぞ!」
「こんなの耐え切れるわけがねえ、逃げろ!」
一人、また一人と戦線を離脱しようとする。
「皆! 慌てるなっ、一丸となって対処しろ!」
「皆さん、魔法を放ってください! それで防げるはずです!」
エブリン先生とシャルが大声を張り上げるが、特にその存在を目の当たりにして恐怖に駆られたのか、出入り口に集まっていた者たちは、こぞってダーナスが向かってきていない方の出口へ殺到した。
不安や恐怖は連鎖する。
教室の中央に固まっていた者たちからも、逃走する者が現れ始めた。
だめだ。もはやこのクラスには、ダーナスの侵攻に対抗するだけの力も秩序もない。
「くそっ、撤退だ!」
エブリン先生の声で、何とかその場に踏みとどまっていた者たちが、一斉に教室の出入り口に殺到した。
「きゃっ!」
無秩序に動けば、当然事故が発生する。
悲鳴に目を向ければ、アローラが転倒していた。
彼女の取り巻きも、そうでなかった者も、全員が素知らぬ顔をして逃げていく。
いや、本当に気づいていないのかもしれない。
アローラは足を挫いたらしく、立ちあがろうとして顔を歪めている。
廊下からダーナスが姿を現した。
地面に倒れ込んでいるアローラを見て、ニタリと笑ったように見えた。
やばい。このままじゃ殺される。
「アローラ! 何でもいいから魔法を放つんだ!」
僕は叫んでいた。
いくらひどい振られ方をしていても、元カノだ。
死なれるのは嫌だった。
「あっ、あっ……!」
アローラは目を見開いて固まってしまっていた。
恐怖で体がすくんでしまっているのだろう。
ダーナスが大きな口を開けた。
「アローラ、魔力弾を撃て!」
そう叫んだ時、不意に囁き声が聞こえた。
「そんなに言うなら、お前自身が助けてこい」
「えっ? ——くっ……!」
呼吸が苦しくなり、浮遊感を覚える。
胸ぐらを掴まれて持ち上げられたのだ。
ジェームズだった。
その口元は醜く歪んでいた。
——ゾワッ。
全身を悪寒が駆け巡る。
「な、何を……!」
「アローラを助けたいんだろ?」
ジェームズはニヤリと笑うと、僕を持ち上げた腕を振りかぶり、まるで野球のピッチャーのように投げ飛ばした。
途方もない風圧。
(えっ、嘘でしょ……⁉︎)
自分の身に起こった事が、信じられなかった。
「ノア君⁉︎」
シャルの悲痛な叫び声。
体勢を整える暇もなく、僕はダーナスに背中から突っ込んだ。
「いっ……!」
背中に鋭い痛み。呼吸ができなくなる。
着地の際に地面についた右手首にも痛みが走った。折れたかもしれない。
「くっ……!」
あまりの痛みに涙が溢れる。
ぼやける視界の隅で、アローラを抱えて逃げていくジェームズが見えた。
(あいつ、僕を囮にしやがった!)
「まっ……!」
待って——。
そう、言えなかった。
「——アァァア⁉︎」
足を襲った激痛に、僕は絶叫した。
ダーナスに踏みつけられたのだ。
痛い、痛い! やばいやばいやばいやばい……!
ダーナスと、目が合った。
アローラを捕食しようとしていた個体だ。
その口が大きく開かれた。
——食われる!
僕は咄嗟に目を瞑った。
「——ノア君!」
シャルの声と爆発音。
目を開けると、僕を食べようとしていたダーナスは壁にめり込んでいた。
シャルが助けてくれたのだろう。
「あっ……⁉︎」
ありがとうと言いかけて、体のあちこちに痛みが走り、顔を歪めてしまう。
「ノア君っ、大丈夫ですか⁉︎」
シャルが僕の周囲のダーナスを蹴散らしつつ、治癒魔法をかけてくれる。
擦り傷などはそれで治ったが、背中と手、それに足には依然として痛みが残ったままだ。
即席の治癒魔法では、軽傷しか治せないのだ。
僕の周りに結界が張られた。
シャルが守ってくれたのだと、すぐにわかった。
(シャルに負担はかけられない。早く立たないと——)
「いっ……⁉︎」
無理やり体を起こそうとして、気を失いそうなほどの痛みが体を駆け巡った。
地面に這いつくばってしまう。
「くそっ……!」
「ノア君っ、頑張って捕まってください!」
周囲の敵を一掃したシャルが、背中を向けてしゃがむ。
僕は無事な方の手で、なんとかしがみついた。
すでに、あらかたのクラスメートは教室から逃げ出していた。
アッシャーが、エブリン先生を抱えて教室を出ようとしている。
「離せ、アッシャー! まだノアとシャーロットが——」
「もう魔力が切れたでしょう! 逃げるしかありません!」
エブリン先生をたしなめたアッシャーは、一度泣きそうな表情でこちらを振り返ってから、意を決したように教室を飛び出した。
教室にいるのはシャルと僕、そして大量のダーナスのみとなった。
——ドン、ドン!
頭突きをくらたびに、僕らを包むシャルの結界にヒビが入っていく。
(やばいやばい、このままじゃ二人とも死ぬ!)
「シャルっ、このままじゃどっちもやられるだけだ! せめて君だけでも——」
「大丈夫ですよ」
敵に囲まれているとは思えないほど、シャルの声は落ち着いていた。
「だ、大丈夫って——」
「すみません、ノア君。私は一つ、あなたに嘘を吐きました」
「えっ?」
すぐそばにあるシャルの横顔を見る。
穏やかな笑みを浮かべ、彼女は口を開いた。
「——【統一】」
「……へっ?」
その瞬間だけ、僕は痛みを忘れた。
シャルの髪が紫色に染まった。
魔力濃度が異様に高まっている。
「こいつらを蹴散らして撤退します。ノア君は捕まっていてください」
シャルの周囲に生成された無数の魔力弾が、次々とダーナスを貫通していく。
威力がそれまでの比じゃない。
間違いなく、シャルは【統一】を使っているんだ。
だとしたらまずい。
【統一】は百パーセントのポテンシャルを発揮できる分、反動も大きく、負担をかけすぎれば命に関わる。
「シャルっ、もうそれくらいにしないと——」
「え~、それはないでしょ」
いつの間にか、ケラべルスが教室内に入ってきていた。
ゆったりとした足取りで近づいてくる。
同時に、生き残りのダーナスは離れていった。
「力を温存していたのではなかったのですか?」
シャルがケラベルスを見据えたまま、僕を地面に下ろす。
「っ……!」
痛みで思わずあげそうになった絶叫を、何とか堪える。
周囲に結界が張られた。
言うまでもなく、シャルが張ってくれたのだろう。
「うん、温存兼様子見のつもりだったんだけどね。君が面白い事をするから、興味が出てきたんだよ」
「今の状態の私より強い人などたくさんいますよ。そちらを待たれてはいかがですか?」
「なら、君と戦いながら待つ事にしよう」
ケラベルスはシャルと戦う気満々のようだった。
「ノア君。絶対にそこを動かないでください」
そう言い残して、シャルがケラベルスに飛びかかった。
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