32 / 132
第一章
第32話 エリアとテオの勉強会
しおりを挟む
翌日の土曜日。
エリアとテオはカフェで待ち合わせた。
学生も多く、ガヤガヤしている庶民的な雰囲気の店だ。
もちろん、テオの奢りである。
「ねえ、一番高いやつ頼んでいい?」
「俺の不幸じゃなくて自分の幸せを考えて選んだ方がいいぞ」
「えー、でも言うじゃん。テオの不幸は蜜の味って」
「俺に限定すんな」
「テオは私の特別だからね」
「んな特別いらねーつってんだろうが……って、今はこんなくだらねーやりとりしてる場合じゃねえんだっつーの」
テオがいそいそと勉強道具を取り出す。
エリアも頭を切り替えた。
自分から言い出した事だ。責任はしっかりと果たす所存である。
飲み物を注文したあと、二人は早速勉強会を始めた。
「お前、そんなに教えるのうまかったか?」
休憩中、テオが感心したように尋ねてきた。
「元々の才能だよ……って言いたいところだけど、正直ノアの影響はでかいね。あいつ、教えるのめちゃくちゃうまいから、その真似してる」
「あぁ、あいつ筆記一位だったもんな」
「九十八だよ? 変態だよね」
「あんま喋った事ねーから悪く言いたかねえけど、それは変態だわ。シャーロットがあそこまで成績良かったのも、ノアの力か」
「お姉ちゃん自身も頑張ってたけど、それはあると思う」
ノアが丁寧に教えてくれたおかげで、お姉ちゃんの勉強効率が上がっていたのは間違いない。
そもそもお姉ちゃんがいつも以上に頑張っていたのも、ノアにいいところを見せたいという健気な想いと、総合五位以内でもらえると約束していたご褒美ゆえだろう。
「ワンツーのあいつらはデートして、俺はテスト終わったのに勉強か、はあ……日頃の行いってやつだな……」
テオが机に突っ伏した。
「何辛気臭いため息吐いてんのよ。こんな美少女と二人きりなんだから、もっと幸せを噛みしめなさい」
「自分で言ってもギリ嫌味にはならねーくらいの顔なのがムカつくぜ」
「でしょ? 見方によってはこれもデートなんだし。側から見たら私たち、カップルに見えてるかもよ?」
「んぐっ!」
エリアが揶揄うと、テオがむせた。
良かった。吹き出さなくて。
今日の服は、エリアの数多ある私服の中でもそこそこお気に入りなのだ。
「ちょ、何やってんのよ」
「おめえがいきなり変なこと言うからだろうがっ」
「あれれ、顔赤くなってない?」
「むせたからだっつーの……そういやカップルって言えば、ジェームズとアローラは結構やべえらしいな。言い合ってんの見たってやつもいるし」
「それ、私も聞いた。別れちゃえばいいんだ。ノアを振った女と、その女を寝取った男なんて」
「気持ちはわからんでもないが落ち着けよ、顔怖えって」
「美人が怒ると怖いってやつ?」
「いや、普通に」
テオの返事は即答だった。この野郎。
「おかわりしまくろうかな。ついでにパフェとか食べまくろうかな」
「安心しろ。お前は顔と教え方だけはレベルが高い」
「教え方を入れたところが憎らしいけど……そろそろ再開する?」
「あぁ」
茶番は終わりにして、二人は勉強を再開した。
もっとも、エリアのジェームズとアローラに対する怒りは、茶番でも何でもなかったが。
◇ ◇ ◇
「……ア。エリア」
「……えっ?」
名前を呼ばれた気がして顔を上げると、心配そうな表情を浮かべたテオと目が合った。
「あっ、ごめん。何?」
「いや……お前、大丈夫か?」
テオの声色は真剣だった。
本気でエリアの事を案じてくれているのだとわかった。
「全然大丈夫だよ」
エリアは明るく答えた。
「ちょっとボーッとしてただけ。テストが終わった安心感でちょっと疲れが出たのかな」
「ちげーだろ」
「えっ?」
即座に否定されて、エリアは目を瞬かせた。
「お前、テスト期間の途中から少し変だったぞ」
「っ……!」
エリアは息を呑んだ。
普段はデリカシーの欠片もないくせに、何でそういうところだけ妙に鋭いのよ——。
心の中で、呆れとともに毒づいてみる。
「別に何でもないよ。いつも以上に勉強してたから疲れてただけ」
「まあ、お前がそう言うんならいいんだけどよ。お前がうるさくねーと調子出ねえっつうか」
「あんたねぇ」
エリアは苦笑した。
「そこは素直に元気出せって言えないの?」
「うるせーな」
テオがポリポリと頬を掻いた。
「まぁ、なんだ。言いたかねーならいいけど、話くらいは聞いてやっかんな」
「っ——」
エリアは思わず息を詰まらせた。
テオの真心が伝わってきたから。
「……そんなに言うなら、もしかしたら頼ってあげる事もあるかもね。恋愛相談以外で」
「何でそんな偉そうなんだよ。あと悪かったな、童貞で」
「別にそこまでは言ってないよ」
エリアはクスッと笑った。
少しだけ、気持ちが軽くなったのを感じる。
「……ありがとね」
「あっ、なんか言った?」
「何でもないっ。ほら、続きやるよ。八十点取らなきゃでしょ?」
「おうよ」
「ま、八十七点の私が教えてるんだから楽勝だろうけどね」
「うぜえな点数自慢。おめえ、次のテストで絶対抜かしてやっかんな」
「そのためには抜いてばっかじゃダメだからね」
「唐突な下ネタやめろよ」
テオが吹き出した。
エリアとテオはカフェで待ち合わせた。
学生も多く、ガヤガヤしている庶民的な雰囲気の店だ。
もちろん、テオの奢りである。
「ねえ、一番高いやつ頼んでいい?」
「俺の不幸じゃなくて自分の幸せを考えて選んだ方がいいぞ」
「えー、でも言うじゃん。テオの不幸は蜜の味って」
「俺に限定すんな」
「テオは私の特別だからね」
「んな特別いらねーつってんだろうが……って、今はこんなくだらねーやりとりしてる場合じゃねえんだっつーの」
テオがいそいそと勉強道具を取り出す。
エリアも頭を切り替えた。
自分から言い出した事だ。責任はしっかりと果たす所存である。
飲み物を注文したあと、二人は早速勉強会を始めた。
「お前、そんなに教えるのうまかったか?」
休憩中、テオが感心したように尋ねてきた。
「元々の才能だよ……って言いたいところだけど、正直ノアの影響はでかいね。あいつ、教えるのめちゃくちゃうまいから、その真似してる」
「あぁ、あいつ筆記一位だったもんな」
「九十八だよ? 変態だよね」
「あんま喋った事ねーから悪く言いたかねえけど、それは変態だわ。シャーロットがあそこまで成績良かったのも、ノアの力か」
「お姉ちゃん自身も頑張ってたけど、それはあると思う」
ノアが丁寧に教えてくれたおかげで、お姉ちゃんの勉強効率が上がっていたのは間違いない。
そもそもお姉ちゃんがいつも以上に頑張っていたのも、ノアにいいところを見せたいという健気な想いと、総合五位以内でもらえると約束していたご褒美ゆえだろう。
「ワンツーのあいつらはデートして、俺はテスト終わったのに勉強か、はあ……日頃の行いってやつだな……」
テオが机に突っ伏した。
「何辛気臭いため息吐いてんのよ。こんな美少女と二人きりなんだから、もっと幸せを噛みしめなさい」
「自分で言ってもギリ嫌味にはならねーくらいの顔なのがムカつくぜ」
「でしょ? 見方によってはこれもデートなんだし。側から見たら私たち、カップルに見えてるかもよ?」
「んぐっ!」
エリアが揶揄うと、テオがむせた。
良かった。吹き出さなくて。
今日の服は、エリアの数多ある私服の中でもそこそこお気に入りなのだ。
「ちょ、何やってんのよ」
「おめえがいきなり変なこと言うからだろうがっ」
「あれれ、顔赤くなってない?」
「むせたからだっつーの……そういやカップルって言えば、ジェームズとアローラは結構やべえらしいな。言い合ってんの見たってやつもいるし」
「それ、私も聞いた。別れちゃえばいいんだ。ノアを振った女と、その女を寝取った男なんて」
「気持ちはわからんでもないが落ち着けよ、顔怖えって」
「美人が怒ると怖いってやつ?」
「いや、普通に」
テオの返事は即答だった。この野郎。
「おかわりしまくろうかな。ついでにパフェとか食べまくろうかな」
「安心しろ。お前は顔と教え方だけはレベルが高い」
「教え方を入れたところが憎らしいけど……そろそろ再開する?」
「あぁ」
茶番は終わりにして、二人は勉強を再開した。
もっとも、エリアのジェームズとアローラに対する怒りは、茶番でも何でもなかったが。
◇ ◇ ◇
「……ア。エリア」
「……えっ?」
名前を呼ばれた気がして顔を上げると、心配そうな表情を浮かべたテオと目が合った。
「あっ、ごめん。何?」
「いや……お前、大丈夫か?」
テオの声色は真剣だった。
本気でエリアの事を案じてくれているのだとわかった。
「全然大丈夫だよ」
エリアは明るく答えた。
「ちょっとボーッとしてただけ。テストが終わった安心感でちょっと疲れが出たのかな」
「ちげーだろ」
「えっ?」
即座に否定されて、エリアは目を瞬かせた。
「お前、テスト期間の途中から少し変だったぞ」
「っ……!」
エリアは息を呑んだ。
普段はデリカシーの欠片もないくせに、何でそういうところだけ妙に鋭いのよ——。
心の中で、呆れとともに毒づいてみる。
「別に何でもないよ。いつも以上に勉強してたから疲れてただけ」
「まあ、お前がそう言うんならいいんだけどよ。お前がうるさくねーと調子出ねえっつうか」
「あんたねぇ」
エリアは苦笑した。
「そこは素直に元気出せって言えないの?」
「うるせーな」
テオがポリポリと頬を掻いた。
「まぁ、なんだ。言いたかねーならいいけど、話くらいは聞いてやっかんな」
「っ——」
エリアは思わず息を詰まらせた。
テオの真心が伝わってきたから。
「……そんなに言うなら、もしかしたら頼ってあげる事もあるかもね。恋愛相談以外で」
「何でそんな偉そうなんだよ。あと悪かったな、童貞で」
「別にそこまでは言ってないよ」
エリアはクスッと笑った。
少しだけ、気持ちが軽くなったのを感じる。
「……ありがとね」
「あっ、なんか言った?」
「何でもないっ。ほら、続きやるよ。八十点取らなきゃでしょ?」
「おうよ」
「ま、八十七点の私が教えてるんだから楽勝だろうけどね」
「うぜえな点数自慢。おめえ、次のテストで絶対抜かしてやっかんな」
「そのためには抜いてばっかじゃダメだからね」
「唐突な下ネタやめろよ」
テオが吹き出した。
147
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。


悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる