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第一章
第16話 シャーロットの策
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さすがに下駄箱に到達する頃には手を離していたが、僕とシャルが教室に姿を見せると、クラスメートの視線が一気にこちらに集中した。
驚き、疑念、好奇、憎悪……人によって込められた感情は様々だった。
居心地の悪さを感じつつ、シャルとともに腰を下ろす。
レヴィの姿は見当たらない。
謹慎処分でも受けたのか、もっと重い罰が下ったのか、シャルが怖くて出てこられないのか。
いずれにせよ、この場にいないのはありがたい。
着席しても相変わらず注目されているが、表立って何かしらのアクションを起こす者はいなかった。
どんよりとした沈黙が続く中、乾いたチャイムの音が鳴り響いた。
動きがあったのは二時間目の後、シャルが教室を出た直後の事だった。
ジェームズの子分であるレヴィのさらに子分の男子数名が、僕の周りを取り囲んだ。
肩書だけを見ると弱そうだし、シャルがいなくなるまで動かなかった時点で小物である事は間違いないけど、全員僕より魔法の実力は上だ。
憎々しげに僕を睨んでいる。
さすがに手は出してこないだろうが、怖いものは怖い。
「おい、ノア。てめえ、どういう事だっ? シャーロットと手を繋いでたってのは事実か?」
「——はい、事実ですよ」
その声は、僕を囲む輪の外から聞こえた。
シャルだった。
「なっ⁉︎ しゃ、シャーロット⁉︎」
男子たちが上ずった声を出した。
ついさっき教室を出たはずのシャルが自分たちの目の前にいるという事実に、狼狽を隠せていない。
「どうしてここにっ?」
「どうしても何も、ここは私の席ですから。それに私とノア君に関するお話なのでしたら、私も同席した方がよろしいでしょう?」
口元こそ弧を描いているものの、目が全く笑っていない。
全て読んでいたのだろう。
自分がいなくなればノアに詰め寄る者が現れる事を見越して、教室を出たフリをしてすぐに戻ってきたのだ。
「それで、聞きたい事は何でしょう? 可能な限りお答えしますよ」
「あ、あぁ」
シャルの圧を受けて、男子たちはすっかり萎縮してしまっていた。
「その、手を繋いでいたって事は、シャーロットはこいつと付き合っているのか?」
「はい」
シャーロットの簡潔な返答に、質問した男子はたじろいだ。
代わりに別の男子が声を上げる。
「な、何かそいつに弱みでも握られてんのか?」
「はっ?」
シャルが眉をひそめた。
何を言っているんだこいつは、と顔に書いてある。
「なぜ私とノア君がお付き合いをしている事から、そんなところに話が飛ぶのですか」
「だ、だっておかしいだろ!」
「何がですか?」
「Aランクで家柄も容姿も良いシャーロットと、ロクに魔法も使えない何の取り柄もないこいつが——」
「何の取り柄もない?」
シャルの声は地の底から響くような、それまでよりも数段低いものだった。
空気が張り詰めた。
言葉を詰まらせた男子に向かって、シャルは小馬鹿にするように笑い、
「ノア君の人柄を知ろうともしないくせに、よくそんな事が言えますね」
シャルが立ち上がった。
男子たちがすっかり怯えた顔で後ずさる。
シャルはそんな奴らには目もくれず、教壇の前に立った。
「皆さんも気になっているようなので、良い機会ですし、私から少しお話をさせていただきます」
シャルが静かな口調で話し始めた。
声はおろか、物音すら立てる者もいない。
「先程も申し上げた通り、私とノア君はお付き合いをしています。それは弱みを握られたからでも何でもなく、純粋に彼の事を好ましく思ったからです。しかしそれは所詮、私の一個人の意見です。皆さんがノア君の事をどう思おうが、それは皆さんの自由です。ですが、今後もし、彼らのように私の前でノア君を悪く言ったり、手を出すような事でもあったのなら——」
シャルが僕を取り囲んでいた男子たちを一瞥して続ける。
「——私はその人を決して許しません。これが私のスタンスです」
そう締めくくり、シャルはにこりと笑った。
その視線の先をたどると、真っ青な表情のイザベラがいた。
「……なるほどね」
二つの懸念を同時に解消するとはこういう事か。
また一つ、恩が増えちゃったな。
◇ ◇ ◇
何、あいつ……⁉︎
シャーロットに微笑みかけられたイザベラは、体が震え出しそうになるの必死にこらえていた。
怖い。だめだ。あの女に逆らってはいけない。
ジェームズにすら感じた事のない、生物としての本能的な恐怖を感じた。
レヴィはやらかして謹慎処分を受けていると、朝先生が言っていた。
そこにもシャーロットが関わっているのだろう。
そして、先程の笑み。
シャーロットはイザベラが裏でレヴィを操っていた——少なくとも無関係ではない——事を知っていて、忠告してきたのだ。
イザベラは、今後二度とノアに手を加えないと心に誓った。
驚き、疑念、好奇、憎悪……人によって込められた感情は様々だった。
居心地の悪さを感じつつ、シャルとともに腰を下ろす。
レヴィの姿は見当たらない。
謹慎処分でも受けたのか、もっと重い罰が下ったのか、シャルが怖くて出てこられないのか。
いずれにせよ、この場にいないのはありがたい。
着席しても相変わらず注目されているが、表立って何かしらのアクションを起こす者はいなかった。
どんよりとした沈黙が続く中、乾いたチャイムの音が鳴り響いた。
動きがあったのは二時間目の後、シャルが教室を出た直後の事だった。
ジェームズの子分であるレヴィのさらに子分の男子数名が、僕の周りを取り囲んだ。
肩書だけを見ると弱そうだし、シャルがいなくなるまで動かなかった時点で小物である事は間違いないけど、全員僕より魔法の実力は上だ。
憎々しげに僕を睨んでいる。
さすがに手は出してこないだろうが、怖いものは怖い。
「おい、ノア。てめえ、どういう事だっ? シャーロットと手を繋いでたってのは事実か?」
「——はい、事実ですよ」
その声は、僕を囲む輪の外から聞こえた。
シャルだった。
「なっ⁉︎ しゃ、シャーロット⁉︎」
男子たちが上ずった声を出した。
ついさっき教室を出たはずのシャルが自分たちの目の前にいるという事実に、狼狽を隠せていない。
「どうしてここにっ?」
「どうしても何も、ここは私の席ですから。それに私とノア君に関するお話なのでしたら、私も同席した方がよろしいでしょう?」
口元こそ弧を描いているものの、目が全く笑っていない。
全て読んでいたのだろう。
自分がいなくなればノアに詰め寄る者が現れる事を見越して、教室を出たフリをしてすぐに戻ってきたのだ。
「それで、聞きたい事は何でしょう? 可能な限りお答えしますよ」
「あ、あぁ」
シャルの圧を受けて、男子たちはすっかり萎縮してしまっていた。
「その、手を繋いでいたって事は、シャーロットはこいつと付き合っているのか?」
「はい」
シャーロットの簡潔な返答に、質問した男子はたじろいだ。
代わりに別の男子が声を上げる。
「な、何かそいつに弱みでも握られてんのか?」
「はっ?」
シャルが眉をひそめた。
何を言っているんだこいつは、と顔に書いてある。
「なぜ私とノア君がお付き合いをしている事から、そんなところに話が飛ぶのですか」
「だ、だっておかしいだろ!」
「何がですか?」
「Aランクで家柄も容姿も良いシャーロットと、ロクに魔法も使えない何の取り柄もないこいつが——」
「何の取り柄もない?」
シャルの声は地の底から響くような、それまでよりも数段低いものだった。
空気が張り詰めた。
言葉を詰まらせた男子に向かって、シャルは小馬鹿にするように笑い、
「ノア君の人柄を知ろうともしないくせに、よくそんな事が言えますね」
シャルが立ち上がった。
男子たちがすっかり怯えた顔で後ずさる。
シャルはそんな奴らには目もくれず、教壇の前に立った。
「皆さんも気になっているようなので、良い機会ですし、私から少しお話をさせていただきます」
シャルが静かな口調で話し始めた。
声はおろか、物音すら立てる者もいない。
「先程も申し上げた通り、私とノア君はお付き合いをしています。それは弱みを握られたからでも何でもなく、純粋に彼の事を好ましく思ったからです。しかしそれは所詮、私の一個人の意見です。皆さんがノア君の事をどう思おうが、それは皆さんの自由です。ですが、今後もし、彼らのように私の前でノア君を悪く言ったり、手を出すような事でもあったのなら——」
シャルが僕を取り囲んでいた男子たちを一瞥して続ける。
「——私はその人を決して許しません。これが私のスタンスです」
そう締めくくり、シャルはにこりと笑った。
その視線の先をたどると、真っ青な表情のイザベラがいた。
「……なるほどね」
二つの懸念を同時に解消するとはこういう事か。
また一つ、恩が増えちゃったな。
◇ ◇ ◇
何、あいつ……⁉︎
シャーロットに微笑みかけられたイザベラは、体が震え出しそうになるの必死にこらえていた。
怖い。だめだ。あの女に逆らってはいけない。
ジェームズにすら感じた事のない、生物としての本能的な恐怖を感じた。
レヴィはやらかして謹慎処分を受けていると、朝先生が言っていた。
そこにもシャーロットが関わっているのだろう。
そして、先程の笑み。
シャーロットはイザベラが裏でレヴィを操っていた——少なくとも無関係ではない——事を知っていて、忠告してきたのだ。
イザベラは、今後二度とノアに手を加えないと心に誓った。
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