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第一章
第5話 シャーロットの励まし
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「ノアって本当に頭いいんだね」
書類の整理をしていると、ふとエリアがそんなことを言った。
「どうしたの? 急に」
「いや、初めて見る資料だらけのはずなのに、まとめ方とかがすごい的確だからさ」
「そう? 迷惑かけてないなら何よりだけど」
「迷惑じゃないよ、大助かり。ねえ、お姉ちゃん……お姉ちゃん?」
エリアの声が少し低くなった。
会長はいつの間にか手を止め、一つの資料に見入っていた。
「お・ね・え・ちゃ・ん?」
「あっ、いえ、エリア。私は別にサボっていたわけではありませんよ」
一言一言区切るように言ったエリアの言葉で、自分が妹になじられていることに気付いたようだ。
逆にいえば、最初の二回の呼びかけには気付いていなかったということ。
「会長。本でもないのに何をそんなに熱中していたの?」
「人を本以外興味のない女に仕立て上げないでください」
「……えっ、違うの?」
「なっ……!」
会長がガーンという効果音でも聞こえてきそうな、ショックの表情を浮かべた。
エリアが吹き出した。
「……私、魔法学にも結構興味あるんですよ。でなければ、テストで上位に食い込むくらい勉強しません」
「たしかに」
「納得されるとそれはそれでムカつきますが」
「難しいな」
苦笑しつつ会長に近づく。
見やすいように資料の角度を調整してくれた。
「……なるほど」
「えっ、もう理解できたの?」
いつの間にか、反対側からエリアが覗き込んでいた。
「なんとなくは」
「……私は全然理解できなかったのに」
会長が悔しげに呟いた。
「私も全然わかんない。これ、どういうこと?」
「僕もざっくりとしかわからないけど——」
そう前置きして、本当にざっくりと説明した。
「説明を聞いても半分くらいしか理解できないですね……」
「私なんか八割わかんないよ。二人とも凄すぎ」
眉を寄せる会長と、お手上げポーズで笑うエリア。
性格の違いがよく現れているな。
「でもノアってマジで天才じゃん。学者さんとか目指せば?」
「学者は無理だよ」
「えっ、何で?」
「魔法が使えない、ロクに実験も検証もできない落ちこぼれが学者になったって、誰も信じてくれないよ——あっ」
しまった。
僕の中で抱えていた劣等感と、自分に対する怒り。それらをぶつけてしまった。
エリアは純粋に褒めてくれただけなのに。
「ご、ごめ——」
「ノアさんは落ちこぼれなんかじゃありませんっ」
いつの間にか握りしめていた拳が温かくなる。
会長の白い手が、僕のそれを包み込んでいた。
「会長……?」
「確かに今の社会において、魔法の才能やランクは重要なファクターです。でも、それが全てじゃない。どの時代においても、一番大切で一番重要なのは努力し続けることです。どんな才能があっても努力を続けられなければ大成はできないし、努力し続ければ何かしらの結果はついてきます。ノアさん、私たちが仲良くなったきっかけを覚えていますか?」
「もちろん。会長から話しかけてきてくれたんだよね」
当時、すでにアローラとは付き合っていたが、彼女以外に話しかけてきてくれた唯一の女の子が会長だった。
当時は、何か裏があるんじゃないか、レヴィやイザベラが仕掛けてきたハニートラップの類じゃないかと疑ったものだ。
「私があなたに話しかけたのは、ただ読書仲間が欲しかっからではありません。腐らずに努力できる人柄も含めて、仲良くなりたいと思ったから声をお掛けしたのです」
僕の拳を握る会長の手に、一段と力がこもった。
「ノアさんは頭がよく、真面目で誠実で努力家です。何事にも全力で頑張れる人です。絶対に落ちこぼれなんかではありません。たとえノアさんでも、私の尊敬するノアさんを貶すことは許しませんから……って、ええ⁉︎」
会長が驚いたように目を見開いた。
どうしたのだろう。
「な、何で泣いていらっしゃるのですか⁉︎」
「……えっ?」
僕は目に手をやった。
少しひんやりとした、液体の感触。
「あ、あれっ? な、何でだろう?」
「こっちが聞いているんです! な、何か傷つけるようなことを言ってしまいましたかっ?」
会長が珍しくわたわたしている。
「い、いや、それはないよ。凄く嬉しかったっ、けどっ……」
僕は鼻を啜った。
おかしい。悲しくないのに、全然涙が止まってくれない。
会長にもエリアにも迷惑をかけてしまう。早く止まれよ。
止めようとすればするほど、天邪鬼な涙は溢れ出してきた。
「ご、ごめん。すぐ収まるからっ……えっ?」
頭上に影が差した。
そう思った時には、顔に柔らかい感触があった。
「泣いていいんですよ」
頭上から、会長の優しい声が降ってくる。
僕……抱きしめられている。
「涙は悲しい時だけに出るものではありませんし、我慢しなければいけないものでもありません。泣きたい時は好きなだけ泣けば良いのです。大丈夫。全部受け止めますから」
背中を優しく叩かれる。
ポンポンと、ゆっくりなリズムで、まるで赤子をあやすように。
恥ずかしい状況であるはずなのに、なぜか凄く安心した。
僕は会長の胸に顔を埋め、幼子のように泣きじゃくった。
書類の整理をしていると、ふとエリアがそんなことを言った。
「どうしたの? 急に」
「いや、初めて見る資料だらけのはずなのに、まとめ方とかがすごい的確だからさ」
「そう? 迷惑かけてないなら何よりだけど」
「迷惑じゃないよ、大助かり。ねえ、お姉ちゃん……お姉ちゃん?」
エリアの声が少し低くなった。
会長はいつの間にか手を止め、一つの資料に見入っていた。
「お・ね・え・ちゃ・ん?」
「あっ、いえ、エリア。私は別にサボっていたわけではありませんよ」
一言一言区切るように言ったエリアの言葉で、自分が妹になじられていることに気付いたようだ。
逆にいえば、最初の二回の呼びかけには気付いていなかったということ。
「会長。本でもないのに何をそんなに熱中していたの?」
「人を本以外興味のない女に仕立て上げないでください」
「……えっ、違うの?」
「なっ……!」
会長がガーンという効果音でも聞こえてきそうな、ショックの表情を浮かべた。
エリアが吹き出した。
「……私、魔法学にも結構興味あるんですよ。でなければ、テストで上位に食い込むくらい勉強しません」
「たしかに」
「納得されるとそれはそれでムカつきますが」
「難しいな」
苦笑しつつ会長に近づく。
見やすいように資料の角度を調整してくれた。
「……なるほど」
「えっ、もう理解できたの?」
いつの間にか、反対側からエリアが覗き込んでいた。
「なんとなくは」
「……私は全然理解できなかったのに」
会長が悔しげに呟いた。
「私も全然わかんない。これ、どういうこと?」
「僕もざっくりとしかわからないけど——」
そう前置きして、本当にざっくりと説明した。
「説明を聞いても半分くらいしか理解できないですね……」
「私なんか八割わかんないよ。二人とも凄すぎ」
眉を寄せる会長と、お手上げポーズで笑うエリア。
性格の違いがよく現れているな。
「でもノアってマジで天才じゃん。学者さんとか目指せば?」
「学者は無理だよ」
「えっ、何で?」
「魔法が使えない、ロクに実験も検証もできない落ちこぼれが学者になったって、誰も信じてくれないよ——あっ」
しまった。
僕の中で抱えていた劣等感と、自分に対する怒り。それらをぶつけてしまった。
エリアは純粋に褒めてくれただけなのに。
「ご、ごめ——」
「ノアさんは落ちこぼれなんかじゃありませんっ」
いつの間にか握りしめていた拳が温かくなる。
会長の白い手が、僕のそれを包み込んでいた。
「会長……?」
「確かに今の社会において、魔法の才能やランクは重要なファクターです。でも、それが全てじゃない。どの時代においても、一番大切で一番重要なのは努力し続けることです。どんな才能があっても努力を続けられなければ大成はできないし、努力し続ければ何かしらの結果はついてきます。ノアさん、私たちが仲良くなったきっかけを覚えていますか?」
「もちろん。会長から話しかけてきてくれたんだよね」
当時、すでにアローラとは付き合っていたが、彼女以外に話しかけてきてくれた唯一の女の子が会長だった。
当時は、何か裏があるんじゃないか、レヴィやイザベラが仕掛けてきたハニートラップの類じゃないかと疑ったものだ。
「私があなたに話しかけたのは、ただ読書仲間が欲しかっからではありません。腐らずに努力できる人柄も含めて、仲良くなりたいと思ったから声をお掛けしたのです」
僕の拳を握る会長の手に、一段と力がこもった。
「ノアさんは頭がよく、真面目で誠実で努力家です。何事にも全力で頑張れる人です。絶対に落ちこぼれなんかではありません。たとえノアさんでも、私の尊敬するノアさんを貶すことは許しませんから……って、ええ⁉︎」
会長が驚いたように目を見開いた。
どうしたのだろう。
「な、何で泣いていらっしゃるのですか⁉︎」
「……えっ?」
僕は目に手をやった。
少しひんやりとした、液体の感触。
「あ、あれっ? な、何でだろう?」
「こっちが聞いているんです! な、何か傷つけるようなことを言ってしまいましたかっ?」
会長が珍しくわたわたしている。
「い、いや、それはないよ。凄く嬉しかったっ、けどっ……」
僕は鼻を啜った。
おかしい。悲しくないのに、全然涙が止まってくれない。
会長にもエリアにも迷惑をかけてしまう。早く止まれよ。
止めようとすればするほど、天邪鬼な涙は溢れ出してきた。
「ご、ごめん。すぐ収まるからっ……えっ?」
頭上に影が差した。
そう思った時には、顔に柔らかい感触があった。
「泣いていいんですよ」
頭上から、会長の優しい声が降ってくる。
僕……抱きしめられている。
「涙は悲しい時だけに出るものではありませんし、我慢しなければいけないものでもありません。泣きたい時は好きなだけ泣けば良いのです。大丈夫。全部受け止めますから」
背中を優しく叩かれる。
ポンポンと、ゆっくりなリズムで、まるで赤子をあやすように。
恥ずかしい状況であるはずなのに、なぜか凄く安心した。
僕は会長の胸に顔を埋め、幼子のように泣きじゃくった。
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