自殺しようとしているクラスメートを止めたら、「じゃあ私を抱けるんですか?」と迫られた

桜 偉村

文字の大きさ
上 下
12 / 29

第12話 彼女からの相談

しおりを挟む
 かえでの家に到着しても、もちろん宿題など行うわけがなかった。
 軽いスキンシップの後に立て続けに一回戦、二回戦と行い、俺は疲労感を感じてベッドでゴロゴロしていた。

 しかし、鬼畜な恋人には休憩という概念がないらしい。

悠真ゆうま君、今日は私が満足するまで付き合ってもらうって言いましたよね?」
「ま、待って、もう少し休ませてくれ」
「まったく。男のくせにだらしないですよ?」
「楓が逞しすぎるんだよ……」
「人をビッチみたいに言わないでください」
「えっ」

 思わず声が漏れてしまった。
 楓がジトっとした視線を向けてくる。

「なんですか?」
「いや、これまでの楓の数々の行動を振り返ると……なかなかだなと思って」

 野外でブラを見せてきたりイチモツを握ってきたり誘ってきたりしたのは、いじめが原因だから何を言うつもりもない。
 しかし、これまでのエッチの多くは楓から誘ってきたものであり、今日は図書室で痴女ってきた。
 ビッチかビッチじゃないかの二択で問われたら、間違いなく前者だろう。

「それは、だって、その……」

 楓が急に赤面してしおらしくなり、消え入りそうな声で、

「ゆ、悠真君が好きだから、そうしたくなっちゃうだけですもん」
「——楓っ」
「わっ⁉︎」

 俺は気づいたときには楓を押し倒していた。
 さっきまで感じていた疲労感は嘘のように消し飛び、彼女と愛し合いたいという思いだけが俺の中を支配していた。

 ——結局その後、いつの間にか楓に主導権を奪われた俺は、焦らされ続けた後に満を持してハットトリックを達成した。
 幸福感と疲労感の絶頂を迎えてベッドに仰向けになっていた。まるでセックスの温冷浴だ。

 ……あれ、自分でも何言っているのかわかんなくなってきた。

「そういえば悠真君——」

 お互いに寝転がったままハグやキスなどの軽いスキンシップを繰り返していると、楓がふと硬い表情になった。

「ちょっとご相談があるんですけど……」
「どうした?」
「私、部活に入りたいと思うんです」
「おっ、いいじゃん。何部?」

 俺がポジティヴな反応を見せたからだろうか。楓の顔から強張りが取れた。

「卓球部です。元々体を動かすのは嫌いじゃないですし、陽奈ひなちゃんも入っているので……いいですか?」

 陽奈とは、以前から楓に気さくに話しかけてくれていた彼女の一番の親友である東雲しののめ陽奈ひなのことだろう。
 みんなから好かれる裏表のない明るい性格だが、ラノベ好きという一面も持ち合わせていて、それで意気投合したようだ。

 俺はおずおずと尋ねてくる楓の頭を撫でて、

「もちろん。めっちゃいいことだと思うし、応援するぞ。試合とかあったら観に行ってもいいか?」
「それは嬉しいですけど……私、今まで体育の授業以外ではやっていないので、大会とか出れないと思いますよ?」
「全然いいよ。試合に出てても出てなくても、楓が頑張ってる姿が見られればそれで十分だからな」
「す、すぐそういう恥ずかしいことを言う……!」

 楓が顔を赤らめてポカポカと胸を叩いてくる。
 俺は何も言い返さず、無言でその頭を撫で続けた。

 不満そうに膨れさせていた楓の頬がだんだんと緩んでいく。
 思わず笑みを漏らせば、彼女は二の腕に額を押し付けてぐりぐりしてきた。

「……悠真君のばか。女タラシ」
「楓限定でな」
「っ~!」

 再び茹で上がった楓を横向きに抱きかかえ、あぐらをかいた足の間に座らせて背後から抱きしめた。
 首筋に顔を埋めれば、ほんのり汗の混じった甘酸っぱい匂いが鼻をかすめた。

「ゆ、悠真君っ?」
「楓、好きだ」
「……!」

 耳元でささやけば、彼女はわかりやすくビクッと震えた。
 俺としてもこんなのは恥ずかしかったが、それ以上に溢れ出る想いを伝えたかった。

「楓は?」
「わ、わかってるくせにっ」
「楓の口から聞きたいんだ」
「うぅっ……す、好きに決まってるじゃないですか!」
「そっか、ありがとな」

 髪の毛にキスを落とすと、楓は限界とばかりに俺の元から飛び出した。

「うぅ……!」

 枕に顔を埋めてうなり声を上げている。
 加虐心はまだまだ燃え盛っていたが、さすがにこれ以上はやめておくべきだろうな。

 ——こうして、楓の卓球部入部が決まった。



◇   ◇   ◇



「陽奈ちゃん、早く行きましょう」
「わかったわかった」

 楓は早く早く、と陽奈を急かした。
 苦笑する彼女とともに教室を出る。廊下で悠真とばったり遭遇した。

「あっ、悠真君」
「おう。今から部活か?」
「はい」
「そうか。頑張れよ、東雲さんも」
「頑張りますっ」

 楓はグッと拳を握りしめた。

「くっ……! 一条いちじょう、あんたは幸せ者よ」
「知ってる」

 悠真が穏やかな表情を浮かべた。

(あぅ……!)

 慈愛の瞳で見つめられ、楓は真っ赤になってしまった。

「おーおー、お熱いねぇ。ただでさえ夏本番が近づいてきてるんだから少しは控えてよ」
「う、うるさいですっ! 悠真君、また後でっ」
「お、おう」

 楓はズンズン大股で歩き出した。
 背後から「いやぁ、青春だねぇ」というのどかな声が追いかけてきた。

 隣に並んだ陽奈からプイッと顔を背けてみせるが、本気で怒っているわけではない。
 むしろ、友達とこういうやり取りをできているというのがすごく嬉しかった。

 恥ずかしくて陽菜には面と向かってお礼を言えていないが、楓が毎日を楽しく過ごしていられるのは彼女と悠真のおかげだ。

「そう言えばさ、なんだかんだでテスト二週間前切ったけど勉強してる?」
「うーん、してないことはないんですが……」

 楓は言葉を濁した。
 部活を始めた影響で、悠真と過ごす時間は少し減ってしまった。

 一緒に登下校する頻度は変わっていない。
 今日のように一緒に帰る日は、帰宅部の彼も卓球部が終わるまで教室や図書室で勉強したり友人である八雲やくも早乙女さおとめと過ごしたりして待っててくれている。

 ただ、どうしても部活後は時間的にも体力的にも厳しいものがあった。
 しっかりと二人きりの時間が取れるのは、部活がオフのときか休日に限られた。

 悠真と付き合って自覚したことだが、楓は性欲が強い。
 もちろん彼とただ一緒に過ごす時間も大好きだが、一定時間一緒にいてスキンシップを取ったりしていると、どうしてもそういう気分になってしまう。

 楓が満足するためには、相応の回数と時間が求められる。
 そのせいで、本来なら勉強に費やすべき時間をイチャイチャに使ってしまっているのが現状だ。
 とはいえ一緒に勉強するのも楽しいので、これまでのレベルを維持はできていると思うが。

 頬を染めて黙りこくる楓を見て、陽奈は「ははーん」と意味ありげに笑った。

「たしかに最近、楓おっぱいおっきくなってるもんね」
「どういうことですか?」
「あれ、知らない? 好きな人に揉まれると大きくなるっていう逸話」
「そ、そんな話が?」

 楓は悠真にもっと揉んでもらおうか、と本気で考えた。
 たしかに陽奈の言う通り、少しずつ膨らんできてはいるものの、まだスポブラでも全然——、

(……あれ?)

 楓は違和感を覚えた。

「というか、なんで陽奈ちゃんが私のおっぱい事情知ってるんですか」
「そりゃ、一緒に着替えてるんだからわかるよ。観察日記つけてるし」
「えっ」
「冗談だよ」

 陽奈が「ういやつめ~」と頭を撫でてくる。
 楓は日頃の悔しさも込めてビンタをしておいた。陽菜の制服がはち切れんばかりの果実を。

「いったぁ⁉︎」
「おおっ……」

 自分の体からは感じたことのないずっしりした重量を感じて、楓は思わず感動の声を漏らしてしまった。
 余計に悔しさが増した。

「普通に痛いんですけど⁉︎」
「それだけのものを持っているのですから当然の報いです」
「理不尽っ!」

 陽奈が涙目になって憤慨した。
 楓はブフッと吹き出した。



 途中入部なこともあって最初は不安でいっぱいだったが、部活は楽しかった。
 単純に卓球が面白いし、先輩も同級生も後輩も暖かく迎え入れてくれた。

 しかし、何一つ不満がないわけではなかった。

「——楓」

 練習後、帰り支度をしていると名前を呼ばれた。楓は眉をひそめてしまった。
 軽薄そうな笑いを浮かべて近づいてきたのは、同じ二年生で男子卓球部エースの宮村みやむら光一こういちだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...