10 / 11
第一章 少年期
第九話 「少女」
しおりを挟む
ロベルは城内を歩き回る。
廊下に敷かれた朱色のカーペットは、廊下と共にどこまでも続いているようにさえ感じる。
定期的に長椅子や肖像画、タペストリーが設置され、長い廊下はどこであっても華やかさを失わないように設計されている。
横を見れば、連続して扉が設置されているのが分かる。この城館には幾つもの部屋があるのだろう。
硝子張りの窓の外では、広大な庭先の一部に設置された訓練場で、騎士や常備軍が各々訓練を行っている。
そのどれも恐ろしい程に練度が高く、実際に戦う事になれば、洗練された技術を前に今のロベルでは数秒ともたないだろう。
流石は武力と経済力共に優秀と名高い辺境伯家といったところだろうか。
そんな事を考えながら、ロベルは適当に手に取った金品を懐に忍ばせて何食わぬ顔で歩いていた。
あまりに堂々とした態度に、すれ違う下女や下男たちは疑問を持たないどころか頭を下げていた。
そして、そろそろ城館を出ようかと思い始めていた時、その少女は現れた。
肩まで伸ばした艶のある金髪、つり上がった眉と蒼玉の瞳、血色の良い唇。
まるで、先程までロベルを犯していた女の生き写しのようなその少女は、凛とした声でロベルを呼び止めた。
「ここで何をしていらっしゃるのですか?」
「⋯⋯散歩だ。もう帰るがな」
「ここは辺境伯家の城館です。あなたのような卑しい身分の人間が居て良い場所ではございません。それと、私に対してその態度、もしかして揶っているのですか?」
「そうか。何せ学が無いからな。伯爵夫人には許可されたんだが」
「⋯⋯っ!」
伯爵夫人と言う単語が出た瞬間、少女はつりあげていた眉と瞳を更につりあげ、怒りを顕にした。
「平民風情が図に乗るんじゃねえ。良くもお母様から許可を頂いた等という嘘をついたな!」
少女は余所行き口調を辞め、ロベルを責め立てる。
「嘘では無い」
「そうか、どうやら話が通じないらしいな。⋯⋯よし、たった今筋書きを思いついた。──私はここで侵入者を見つけた。侵入者は私の姿を認めると襲いかかってきたので、仕方無く身を守った。⋯⋯どうだ?」
「悪くは無いな」
少女は不敵に笑うと、怒りに染めていた表情が鳴りを潜め、真剣な眼差しをロベルへ向けた。
ドレスのスカートを両手で持ち上げると、健康的な両足を包むニーソックスの側面に付けられていた短剣を二本手に取り、駆け出した。
対するロベルは獲物を持たない。愛用のダガーは門衛に没収されているからだ。
一先ずバックステップをとり少女との間隔をなるべく開ける。──が、少女の駆け足はかなり早く、想定よりも短い間隔しか開けられない。
ロベルは仕方無く徒手空拳のようなもので応戦する。
誰に教わった訳でもないその技術は、壮年の男が死んでから只管に裏の世界で生きようと抗い続けて得た我流のものだ。
少女は一気にロベルとの距離を詰めると、右手に持った短剣で袈裟斬りを試みる。
ロベルは後ろに半歩下がる事でこれを回避する。
少女は勢いをそのままに左手の短剣で刺突を狙う。
ロベルは体の軸を左に反らして回避すると同時に左拳でがら空きになった少女の腹部、肝臓のある位置を殴打する。
少女は衝撃をもろに受け、内蔵を握り潰されたと錯覚するような痛みを感じ、同時に喉奥から熱を持ったものがせり上がってくるような感覚を抱き、胃液を吐き出す。
続けざまにロベルは右手で少女の首を掴むと、そのまま後ろに押し倒した。
後頭部と背中に強い衝撃を感じると共に、少女の意識は飛んだ。
───と、同時に、老執事の謝罪の声が聞こえ、ロベルも意識を飛ばした。
廊下に敷かれた朱色のカーペットは、廊下と共にどこまでも続いているようにさえ感じる。
定期的に長椅子や肖像画、タペストリーが設置され、長い廊下はどこであっても華やかさを失わないように設計されている。
横を見れば、連続して扉が設置されているのが分かる。この城館には幾つもの部屋があるのだろう。
硝子張りの窓の外では、広大な庭先の一部に設置された訓練場で、騎士や常備軍が各々訓練を行っている。
そのどれも恐ろしい程に練度が高く、実際に戦う事になれば、洗練された技術を前に今のロベルでは数秒ともたないだろう。
流石は武力と経済力共に優秀と名高い辺境伯家といったところだろうか。
そんな事を考えながら、ロベルは適当に手に取った金品を懐に忍ばせて何食わぬ顔で歩いていた。
あまりに堂々とした態度に、すれ違う下女や下男たちは疑問を持たないどころか頭を下げていた。
そして、そろそろ城館を出ようかと思い始めていた時、その少女は現れた。
肩まで伸ばした艶のある金髪、つり上がった眉と蒼玉の瞳、血色の良い唇。
まるで、先程までロベルを犯していた女の生き写しのようなその少女は、凛とした声でロベルを呼び止めた。
「ここで何をしていらっしゃるのですか?」
「⋯⋯散歩だ。もう帰るがな」
「ここは辺境伯家の城館です。あなたのような卑しい身分の人間が居て良い場所ではございません。それと、私に対してその態度、もしかして揶っているのですか?」
「そうか。何せ学が無いからな。伯爵夫人には許可されたんだが」
「⋯⋯っ!」
伯爵夫人と言う単語が出た瞬間、少女はつりあげていた眉と瞳を更につりあげ、怒りを顕にした。
「平民風情が図に乗るんじゃねえ。良くもお母様から許可を頂いた等という嘘をついたな!」
少女は余所行き口調を辞め、ロベルを責め立てる。
「嘘では無い」
「そうか、どうやら話が通じないらしいな。⋯⋯よし、たった今筋書きを思いついた。──私はここで侵入者を見つけた。侵入者は私の姿を認めると襲いかかってきたので、仕方無く身を守った。⋯⋯どうだ?」
「悪くは無いな」
少女は不敵に笑うと、怒りに染めていた表情が鳴りを潜め、真剣な眼差しをロベルへ向けた。
ドレスのスカートを両手で持ち上げると、健康的な両足を包むニーソックスの側面に付けられていた短剣を二本手に取り、駆け出した。
対するロベルは獲物を持たない。愛用のダガーは門衛に没収されているからだ。
一先ずバックステップをとり少女との間隔をなるべく開ける。──が、少女の駆け足はかなり早く、想定よりも短い間隔しか開けられない。
ロベルは仕方無く徒手空拳のようなもので応戦する。
誰に教わった訳でもないその技術は、壮年の男が死んでから只管に裏の世界で生きようと抗い続けて得た我流のものだ。
少女は一気にロベルとの距離を詰めると、右手に持った短剣で袈裟斬りを試みる。
ロベルは後ろに半歩下がる事でこれを回避する。
少女は勢いをそのままに左手の短剣で刺突を狙う。
ロベルは体の軸を左に反らして回避すると同時に左拳でがら空きになった少女の腹部、肝臓のある位置を殴打する。
少女は衝撃をもろに受け、内蔵を握り潰されたと錯覚するような痛みを感じ、同時に喉奥から熱を持ったものがせり上がってくるような感覚を抱き、胃液を吐き出す。
続けざまにロベルは右手で少女の首を掴むと、そのまま後ろに押し倒した。
後頭部と背中に強い衝撃を感じると共に、少女の意識は飛んだ。
───と、同時に、老執事の謝罪の声が聞こえ、ロベルも意識を飛ばした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜
アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。
だが、そんな彼は…?
Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み…
パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。
その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。
テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。
いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。
そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや?
ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。
そんなテルパの受け持つ生徒達だが…?
サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。
態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。
テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか?
【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】
今回もHOTランキングは、最高6位でした。
皆様、有り難う御座います。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる