盗賊王の奇譚

金網滿

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第一章 少年期

第一話 「服装」

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 喧騒とした屋台通りでは、様々な人々が行き交っていた。人間族、獣人族、森妖精族、岩妖精族、見渡す限り人で埋め尽くされている。

 路地裏から出てきた小汚い少年を気にする者は居ない。
 人の流れが早くて気にならないという理由もあるが、その多くは、裏の世界の住人たちを気にしてはならないという暗黙の了解や、気に留める程の存在では無いという差別意識を持つが故の行動だった。

 その意識や感情の機微を敏く感じ取った少年は、先ずはこの体をどうにかしようと考えた。

 人の流れに沿って歩いて行く。
 ついでに、横を歩く人間族の男のポケットから財布を掏った。牛革で作られている中々上等な財布で、中には大銅貨三枚と小銅貨五枚が入っていた。

 掏った男に見つからないよう素早くその場を離れ、すれ違いざまに三人から財布を掏った。
 少年の手持ちは、合わせて銀貨二枚と大銅貨六枚と小銅貨八枚になった。

 しかし、少年はこの硬貨の価値をあまり理解できていない。
 壮年の男からある程度の知識は得ていたが、詳しい事までは分からない。

 取り敢えず空腹を訴える胃を満たすべく、美味しい匂いを漂わせる屋台へ向かった。

「おい、そこの肉は幾らだ」
「はいはい、この肉は──」

 そこで初めて屋台の主人が少年の姿を認めた。そして直ぐに顔を顰めた。

「冷やかしなら帰れ」
「そうじゃない。そこの肉を買いに来た」
「嘘をつくんじゃない。お前のその服装を見りゃ誰でも分かるさ、から来たってな。金持ってないだろ?」
「金ならある。ほら」

 少年は小銅貨一枚を取り出した。

「うちの串肉は一本小銅貨二枚からだ」
「そうか」

 少年はもう一枚小銅貨を取り出すと、主人に手渡した。

「ちっ、盗んだ金じゃねぇだろうな?」
「失礼だな。自分で稼いだんだよ」

 愛想の悪い主人から串肉を受け取ると、少年はその場を後にした。

(やはり、どうにもこの格好が駄目らしい)

 屋台の主人からそれを学習した少年は、練り歩いて適当な服屋を見つけようと考えた。
 しかし、その服屋で服を売って貰えなかったら本末転倒だと考え直した少年は、自分と同じ背格好の人間を見つけて服を奪い取る事にした。

 少年は比較的背が低い。その理由は、貧民街でまともな食事を取れてこなかった事が大きく関係している。
 栄養のある食べ物等存在せず、せいぜいが表の世界の人間が捨てた食い残し程度である。
 故に、少年の背丈は低いままで止まってしまっている。
 加えて、食事量も極端に少ないので体重も軽く、この過酷な環境で生きていくには極めて向かない、低身長低体重という体格になってしまった。

(居たな。あいつで良いか)

 自分と似たような背格好の人間を見つけると、少年は素早く行動に移した。

 標的は呑気に細道の前を歩いている。
 少年は音も無く近づくと、周囲を一度警戒してから横の細道へと引き摺り込んだ。
  周囲の人間は背丈の低い二人の少年が消えた事に一切気がついていない。

「んー! ん゙ー!」
「返り血がつくと面倒だな。先に脱がせるか」

 少年の独り言を聞いて、もう一人の少年は、一層抵抗を強めた。
 しかし、それも直ぐに収まる。
 もう一人の少年の首元には、光を反射して煌めくダガーが添えられていた。

 少年は首尾良く服を脱がせると、自分も服を脱いだ。
 先に仕立ての良い服を着込んだ少年は、もう一人の少年へ、先程まで自分が着ていた襤褸の服を着せた。

 そして、慣れた手つきで首元のダガーを滑らせた。

 もう一人少年は、首元から大量の血を流しながら沈黙した。

(完璧だな。返り血も無し)

 少年は少し機嫌を良くすると、新たなに手に握られた小さな財布を見ながらその場を去った。

 後には、場違いにも表の世界へと踏み入ってしまった愚かなの死体だけが残されていた。
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